アラガミになった訳だが……どうしよう
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原作が始まった訳だが……どうしよう
42話
んん、ここは……森か?
ってことはとりあえず成功したってことか。……最後のあの痛みが少々不安だが、今はそうも言ってられんな。
この森は……初めてイザナミ、いやこの段階じゃウロヴォロスだったか。にしても妙な場所だな……緑は豊かだし、日差しも暖かい。だが、ここにはあらゆる生き物がいない。
となると、いるのは多分あそこだ。川の流れる音を頼りに上流へと歩みを進めると、程なくして見覚えのある泉に辿り着いた。
そこには初めて人の姿で会った時に着ていたオレンジを基調としたワンピースを着た、イザナミが泉に足をつけて空を見上げていた。俺が泉に近付くとイザナミは心底驚いたという表情で俺を見た。
「なんでマキナがここにいるの?」
「左腕にあったお前の眼を基点に、今まで俺が食ってきたお前のオラクル細胞を集めて左腕を限りなくお前の体の構成に近付けた。そこから強引に意識をお前の中の潜り込ませたただけだ……といっても勝算の低い賭けでしかなかったんだがな」
「あ、この後ユウ君がリンドウ相手にやった事と同じってことだね……そっか私の作った料理って全部私のオラクル細胞が入ってたんだった、ちょっと失敗だったなー」
「それにお前のオラクル細胞自体が俺を模してるんだから、きっかけさえあればこうやって意識を繋ぐのは偏食場パルスの使えない俺でもそう難しくはない」
……本来は思考を読む程度ベストだったんだが、少々やりすぎたらしくイザナミの意識に潜り込む形になってしまった。言うなればゴッドイーターの感応現象の一段上のようなものだろうな。
正直、帰れるかはよく分からんが……その辺りは今考える事じゃない。
「で?お前、一体どういうつもりなんだ?」
「えー……マキナもここにいるんだからもう分かってるでしょ?」
「理解はしているが、お前の口からちゃんと聞きたい」
俺の答えにイザナミはため息をつく。そして、渋々と言った表情で俺を見つめて口を開き始めた。
「私はねマキナに人として生きて欲しかったの。例え私みたいアラガミが人のような理性を手に入れても、結局はアラガミはアラガミでしかない。
けどマキナは違う、体こそアラガミだけどあなたは間違いなく人間なの。だからマキナには私は化け物だって思って生きて欲しかったの。
それにさ、なんだかんだ理屈を付けてもさ、私は単にマキナを独り占めしたかっただけなんだよ。そりゃマキナが悲しむのは見たくないっていうのは本当だけどさ、最近は自分でもちょっと無茶苦茶だったなって思うようになったんだ。
もし、人間を全部消して私達が生き残ってもきっとマキナは私を殺すよ。まぁそれはいいよ、マキナに殺されるなら別にいいしさ。
けど、その後マキナはずっと一人になるでしょ?それはとてもとても辛いことなんだよね。
だったら結局私のやろうとしたことって何の意味もないし、それを考えた私はマキナの傍にいちゃいけない。だから私はマキナに頭のおかしな化け物として殺されようとしたんだよ」
はー……どうにもこいつは支部長から自己犠牲ってのを学んだつもりらしいが、大分間違った形で理解しやがったな。そりゃ憎まれ役を引き受けるのはいいが……こいつの思考の中には俺の感情というものが計算に入っていないらしい。
「あのな……イザナミ」
「何かな?」
瞳に涙を浮かべながらこっちを見るイザナミは痛々しいことこの上ない。捨てられた子犬のような目、とでも言うべきだろう目だ。
「そもそも俺はお前を化け物だとは思えないし、そんな風に考えるつもりもない。お前を殺すなんて絶対にできない」
「じゃあ、私はどうすればいいの!?人間も殺しちゃいけない、マキナが傷付くのもダメ、私が死ぬのもダメ!!一体どうすればいいいって言うの!?」
「だかさ……お前はただ俺の傍にいてくれればいいんだよ。命を捨てるならその位の負担くらい背負ってくれよ。誰だって生きてりゃ悲しい事や辛いことはある、それはどうしようもない。
けどさ、その時に誰かが傍にいれば立ち直れるんだよ」
「……それだけでいいの?」
「それだけでいいんだよ。どれだけ辛くても誰かが傍にいるってのはそれだけでいい程の意味があるんだよ」
「……そっか簡単なんだね。本当に人間って難しいのか簡単なのかよく分からないや」
「人間はそういう存在なんだよ。人間の俺だってよく分かってないんだからな」
本当に人間ってよく分からん生き物なんだよ。
イザナミはクスクスと笑いながら泉から足を上げると、ゆっくりと俺に近づいてからかうような表情で俺を見た。なんだろう……こいつがこういう表情をする時はロクでもない事が起こると俺の経験が叫んでいる。
「ねぇ、マキナ……マキナは私にずっと傍にいて欲しいんだよね?」
「改めて聞くと随分と恥ずかしい言葉だが……そうだ」
頼むから何度も言わせないでくれ……本当に恥ずかしいんだ。
「だったらさ、もう少しちゃんとした言葉にして欲しいな?」
「……言わなきゃダメか?」
「当然、こういうのは男の人から言うものじゃないの?それに私の名前からして、私から言うのは縁起も良くないでしょ?」
……確かにそうだが。あーでもな……言わなきゃダメだよな。ここは覚悟を決めるしかないか。
「ただ最初に言っておくが、俺に洒落た言葉なんてないからな」
「うん、いいよ」
「俺は死ぬまで貴女の手の傍にいる。だから貴女も、死ぬまで俺の傍にいて欲しいんだ、結婚して下さい」
……俺はそう言って頭を下げた。本心から頼み込んでいるというのもあるが、とてもじゃないが今の顔は見せられたものじゃないって事は自覚しているのでこれで許して欲しい。
「はい、こんな私ですがよろしくお願いします」
イザナギは静かに、そして穏やかな口調でそう答えた。
なんとか自分の顔を元の表情戻して、頭を上げようとした瞬間イザナミ頭を抑えられた。ピクリとも頭が上がらない……
「この手はなんだ?」
「ごめん、今の私、とんでもなく緩んだ顔してる自信があるからちょっと待って」
……ああ、俺と同じか。
そう思えるとしばらくはこの体勢も悪くはないか。
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