美しき異形達
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第二十話 錬金術その十五
それぞれ足を前に踏み出してだ、こう言うのだった。
「じゃあはじめるか」
「これからね」
「うむ、ではな」
「これよりはじめる」
怪人達も二人に応える、そうして。
薊はムースの怪人と対した、向日葵は猪の怪人と。二人共すぐにそれぞれの武器を手に出し構える。怪人達もまた。
身構える、最初に動いたのはというと。
猪の怪人だった、怪人は猪らしく凄まじい速さと勢いで向日葵に突進する。怪人のその動きを見てだった。
向日葵は跳んだ、その跳躍で怪人の攻撃をかわし。
上から弓矢を放つ、だがその弓矢は。
怪人の突進に追いつかず当たらない、それで着地してから言うのだった。
「ううん、これはね」
「残念だったな」
「動く相手に当てるのが本当の弓だけれど」
「俺は速い」
だからだというのだ。
「そうそう当たることはない」
「そうみたいね」
「しかもだ」
怪人は着地した向日葵と正対しながら言うのだった。
「俺の毛と皮はだ}
「そのまま鎧だっていうのね」
「その通りだ、下手に射てもだ」
「効果がないわね」
「その俺をどうして倒すのか」
「まあ倒す方法はね」
それは、とだ。向日葵は怪人を見据えながら微笑んで言った。
「ない筈がないしね」
「無敵の存在なぞいないということか」
「そんなの絶対にいないから」
例えどれだけ強くとも、というのだ。
「あんたにも勝つわよ」
「その弱点を衝いてか」
「その通りよ、けれど」
笑みのままだ、だが。
その目の光は鋭い、そうしてだった。
怪人の突進を再び跳んでかわして弓矢を放つがそれもだった、やはり当たらない。上からの弓矢は到底だった。
薊もだ、ムースの怪人と闘っていた。その闘いはというと。
接近戦だった、薊は七節棍で闘う、しかし。
怪人もその拳で闘う、その一撃一撃がだった。
速い、しかも重い。それでだった。
薊を正面から攻める、薊はその拳を棒で防ぎながら言った。
「やるねえ、というかね」
「というか。どうした」
「あんた鹿だろ」
「如何にも」
その通りだとだ、怪人も認める。
「見ての通りだ」
「その割に好戦的でしかも強いね」
「当然だ、我は鹿でもだ」
「日本の鹿じゃないからかい?」
「ムースはな」
日本ではヘラジカという、この鹿はというのだ。
「そちらの鹿と一緒とは思わないことだ」
「何が違うんだよ」
「大きい、しかも北の雪原で生きている」
日本の鹿と違い、というのだ。
「狼と争い喰らわないまでもだ」
「生きないといけないからか」
「そうだ、だからこそだ」
「これだけ強いんだね」
「肉は喰わない」
鹿だ、だからこれは確かになかった。
しかしだ、それでもだというのだ。
「闘うのだ、それだけだ」
「そうしてあたしを倒すっていうんだね」
「そういうことだ」
「成程ねえ、あんたのことはわかったよ」
攻防は続く、怪人は両手から拳を繰り出し薊は棒で受けている。薊も攻撃を繰り出すがそれでもだった、怪人の方が攻めていた。
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