バウンド注意
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
第二章
「いいわね」
「何だってんだよ。ったく」
望はまたたまりかねた口調で返す。
「そもそも御前いつも俺のクラスに来るし」
「それが嫌なの?」
「朝も学校に誘いに来るし。ずっとだろうがよ」
「だから。おばさんに頼まれてるのよ」
「だからな。親父もお袋も御前が自分から言ってきてるって言ってるぞ」
望はこのことは知っていた。
「何でそんなよ」
「心配だからよ」
何故か顔を赤くさせて言う春香だった。
「それでなのよ」
「心配って俺はもうな」
「もう。何よ」
「十七なんだぞ」
こう春香に言う。
「別に心配されることなんてな」
「ないっていうの?」
「そうだよ。何かっていうと俺のところに来るけれどな」
そしてだ。春香にこうも言った。
「何でなんだよ」
「だから。心配だからよ」
顔を赤らめさせてまだ言う春香だった。
「本当にね」
「だからいらないっての、そんな心配」
「そんな訳にはいかないのよ」
こんなやり取りばかりだ。しかし望もそうは言っても彼女に来るなとは絶対に言わない。何だかんだで一緒にいるのである。そんな二人だ。
そしてだ。周りはそれを見てさらに話す。
「この前の舞台息ぴったりだったわよね」
「ああ、トリスタンとイゾルデ」
「二人で主役やってたわね」
ワーグナーのオペラをそのまま舞台で演じたのだ。歌は歌わないがだ。
「あれはよかったわよね」
「タンホイザーだって」
またしてもワーグナーだった。
「ローエングリンもだったし」
「いつも恋人同士の役でね」
「息もぴったりだしね」
こんな二人だった。周りもそのことも見ているのだ。
「何だかんだ言って青柳君春香が来ても嫌な顔しないし」
「だったらきっかけさえあったら?」
「話が動く?」
「そうなる?」
「やっぱり」
「じゃあどうしようかしら」
周りはこんなことを考えだした。
「そのきっかけをどうするか」
「それだけれどね」
「ちょっと強引に行く?」
一人が言った。小柄で茶色の癖毛の女の子だ。その髪の毛の左右に赤いリボンをしている。大きな目がやたらと動く。そんな娘だ。
「ここはね」
「あれっ、繪里子」
「何か考えがあるの?」
「あるから言うのよ」
その少女黄川繪里子は楽しげな笑顔で言うのであった。
「だから。強引によ」
「強引にねえ」
「無理にするってこと?」
「何かを仕掛けることを」
「そうよ。あの二人、特に春香ってさ」
繪里子は春香に重点を置いて話す。
「相手ばかり見て隙だらけじゃない」
「隙だらけだから?」
「それで強引になの」
「仕掛けるの」
「そうよ。まあ見ててよ」
繪里子はにこにことしながら皆に話していく。
ページ上へ戻る