ファイナルファンタジーⅠ
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18話 『氷結の女王』
「 ────ここが、氷の洞窟……?」
自称・愛の冒険家シドからの依頼を元に赴いた4人は、入った途端押し戻されそうな勢いで見通しの利かない入口から吹き荒ぶ吹雪を前に立ち往生する。
「シドさんの云ってた通り、中の様子がまるで分からないね……」
「そっ、それに……まだ中にも入ってないのに、とっても寒いでスよぅっ」
内部に入るのを躊躇うシファとビル。
「だからって立ち止まっててもしょーがねェだろ。コレが氷結女王の仕業ってンなら、さっさと黙らせに行くぜ」
「 待て 」
先立って踏み入ろうとしたランクに、無感情なひと言で制止を掛けるマゥスン。
「あンだよ、オマエも怖じ気づいたってのかッ?」
「 ………三人共、下がっていろ 」
「どーする気だってンだ……?」
「とにかく、マゥスンに任せてみよう?」
「ふえぇ、マゥスンさんは寒いの平気なんでスかねっ……」
「 ────── 」
独り吹雪の吹き荒んで来る入口を前に佇み、ふと旋律を奏でるような手振りで片手を翳すと、そこから勢いよく炎が巻き起こって氷の洞窟入口からの吹雪を押し戻すと共に、消失させてしまう。
「す、すごい……いきなり治まっちゃった」
「中は、どうなっちゃったんでスかぁっ?」
「ただの黒魔法っつーより、火の欠片持つ奴の力だってのか……?」
先程と異なり、静まり返った洞窟内部に驚き目を見張るシファ、ビル、ランク。
「 ………… 」
「あ、待ってマゥスン……!」
「置いてかないで下さいでスよぉ」
黙ったまま先を行く赤魔道士の後に続く3人。
────吹雪は治まりはしたものの、内部が氷付けなのは変わらず所々氷柱が連なり、蒼白く煌めく景色は美しくも寒冷に満ちている。
「ふあぁ゙っ、凍えそうでスぅ~……」
「ンな厚着してるクセしてよく云うぜ」
黒魔道士の特徴的なとんがり帽子を被り、藍色のローブに身を包んでいながら寒がるビルを貶すランク。
「そ、そういうランクさんはボクらより軽装なのに、何で平気そうなんでスかぁっ?」
見るからに寒そうなシーフの黄緑の軽装にビルは身震いする。
「こンなんで音上げてりゃ世話ねェぜ。……それよかあのオッサンが云ってやがった何でも浮かしちまうっつー伝説の[浮遊石]って代物だけどよ、オレらが先に見っけ出すコトも出来る訳だよな?」
「駄目だよランク、そんな事したらシドさんが可哀そうじゃない。ここを探索するの楽しみにしてるみたいなんだから」
シファが窘め、氷に覆われた静寂な洞窟内を注意深く進む4人。
「ふわぁ……氷柱が連なってとても綺麗でスけど、この先進めそうにないでスよっ?」
「行き止まり……? 隙間から見るとこの先まだ続いてるみたいだけど、他の道探そっか」
上下から連なる太く鋭利な氷柱を前に引き返そうとするビルとシファだが、ランクは強引に通ろうとする。
「ビル、おめェの黒魔法で溶かすなりすりゃいーじゃねェか」
敢えてマゥスンに頼まないつもりらしい。
「ハイ? それもそうでスね……。じゃあ、ここはやっぱり炎系黒魔法で────えいっ!」
………しかし、連なる氷柱は溶解しない。
「は、はれ? もう一度……!」
「 ────── 」
ビルが再び黒魔法を放とうとした時マゥスンが前に出、腰に携えた剣を引き抜くと同時に炎を纏い眼前に連なる氷柱へ真横一閃に斬り付けると、溶解していくと共に前方の道が開ける。
「ふわぁ、さすがマゥスンさんでスっ。ボクには無理だったのに一発で……!」
「元々魔力が強いのか、火のクリスタルの欠片を持ってるからなのか────どっちにしてもすごいよね」
ビルとシファは素直に感心するが、ランクはちょっとした疑問を投げかける。
「なぁ……、オマエ火の欠片持ってっから寒いのは平気なのか? それとも、その逆だったりすンのかよ」
白銀の長髪流れる赤マントの背を向けたまま先を行くマゥスンは、何も答えようとしない。
(聞こえねーフリしてンのか、単に喋る気ねェのか……。無理、してねェよな )
「わ……?! ごめん、マゥスン。どうしたの、急に立ち止まったりして?」
すぐ後ろを歩いていたシファは軽く赤マントの背にぶつかってしまい、氷の洞窟内の天井の高い開けた場所を前にふと歩みを止めたのを不審に感じた刹那。
「 来る 」
「 え……? 」
突如猛烈な吹雪が至近距離から4人へと襲い、思わず両腕を前に顔を伏せるものの、激しい風雪が両脇を横切っていくのは感じて自分に直接触れていない事に気付いたシファが顔を上げると、
マゥスンの背から両脇に逸れてゆく吹雪を目にし、何かの魔力で前方からの猛吹雪を遮ってくれているのだと分かり、ビルとランクもそれに気付いた時には風雪が次第に治まっていく。
『 ────人間にしてはやるじゃないか。アタシの根城に何の用だ? ……興味本位ってワケでもなさそうだな』
不意に冷淡な女の低い声がしたかと思えば、少し距離を取った4人の目の前で渦巻いた吹雪から忽然と、冷気を纏ってそよぐ髪と蒼白く露出した肢体妖艶な姿が現れる。
「出やがったみてーだな、氷結女ッ」
『見る目のない奴だな、お前……。アタシの姿を見ても、そこのチビガキのようにならないのか?』
美麗な顔立ちでありながら冷血な表情で上から目線な言葉に、シーフのランクは一瞬何の事か理解出来ないが、"チビガキ"と呼ばれたらしいビルの方を見ると黒魔道士特有の黄色く丸い双眼をいつも以上に爛々とさせ、氷結の女王を前にすっかり見惚れている。
「はわぁ………クールビューティーさん、素敵でスぅ~っ」
『まぁいい、用件は何だ? 答えようと答えまいと、氷付けにして追い返してやるけどな』
「待って下さい……! わたし達は、この洞窟で吹雪を起こしてるあなたを鎮めに来たというか……どうしても、この洞窟を調べたいという人から依頼を受けて来ました。
それでわたし達は、あなたを鎮めた上で"加護"を受けさせて貰って、熱地獄だっていうグルグ火山に向かおうと思って──── 」
白い格好の娘に正直に申し出られた所で、機嫌を損ねている氷結の女王は鋭い眼差しで4人の人間を睨み据える。
『このアタシを鎮めて加護を受け、あのグルグ火山へ行きたいだって……? たかが知れた人間が、調子いい事抜かしてんじゃないよ。……依頼ってのは何度か出入りして来たあの"ひょろオヤジ"からだろ。
懲りないもんだな、アタシは別に[浮遊石]なんて代物を守ってるつもりはないが、この場所がお気に入りなんだ。氷付けで追い返すなんて生易しい事やってらんないな────二度と日の目を拝めないようにしてやる』
云い切るなり両手を翳して幾つもの鋭利な氷塊を放ち、シファは咄嗟に氷属性を軽減させる白魔法<バコルド>を唱え、降り注ぐ氷塊から皆のダメージを抑える。
「ビル! 見惚れてねーでおめェも黒魔法で反撃しやがれッ」
「ふへっ? な、何だか申し訳ない気がしまスけど………<ファイラ>!」
ランクに急き立てられたビルは火属性の黒魔法を放つが、目前で強力な冷気に相殺される。
『そんなヤワな火で、アタシを溶かせると思ってんのか?』
「 ────どこ見てンだよッ!」
気を取られている隙に素早く背後をとってジャンプしたランクは二刀のダガーで鋭い斬撃を喰らわす。
『……痛いじゃないのさ、アタシの自慢の身体をちょっとでも傷付けるなんて、いい度胸だ。お前から氷付けにしてやるよ!』
「うおッ……!?」
至近距離から吐き出された強烈な冷気に、ランクの全身は瞬時に蒼白く透き通る氷の中に閉じ込められ落下していき、そのまま分厚い氷に覆われた地面に落ちればランク諸共砕け散ってしまうと思われた刹那、今度は炎に包まれたと見る間に氷付けから解放されたランクは見事に両足で着地し、そこへシファが急いで駆け寄っていく。
「大丈夫……!? すぐ回復するから!」
「あ? あぁ……(氷付けにされたと思ってりゃ火に巻かれたっつってもあンま何ともねェな、オレ??)」
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