戦国異伝
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第百七十五話 信長着陣その十三
「尾張の蛟龍がそれを読んでいると思いませんか」
「織田信長がですか」
「はい、彼がです」
酒を飲むのを止めて宇佐美の目を見て問う謙信だった。
「その様に」
「それは」
そう問われるとだった、宇佐美もだ。
信長が既に読んでいることは充分に考えられた、それで己の主に対してあらためてこう言ったのであった。
「考えられまする」
「充分にですね」
「左様です」
宇佐美も答えた。
「そして読んでいれば」
「はい、その時はです」
「備えていますな」
「夜討ちは相手が油断していてこそです」
その時にというのだ。
「仕掛けられるのです」
「若しそうでなけば」
「返り討ちに遭います」
謙信は言い切った。
「ですから」
「今はですか」
「それはしません」
夜討ちはというのだ。
「朝になってです」
「それからですか」
「攻めます」
あくまでだ、今はというのである。
「そうします」
「わかりました、それでは」
「はい、休むのです」
謙信は宇佐美に告げた。
「貴方も。宜しいですね」
「さすれば」
「私もです」
飲みつつだ、謙信は己のことも話した。
「今少し飲めば」
「それからですか」
「休みます」
そうすると言うのだった。
「そうします」
「わかりました、それでは」
「明日です」
とにかくだ、攻めるのはというのだ。
「朝、日の出と共にです」
「攻めますか」
「わたくしもです」
上杉のこれまでの戦通りだった、このことは。
「攻めて」
「そしてですか」
「織田信長に勝ち」
「あの御仁の心を正しますか」
「そうします」
こう言うのだった、今も。
「わかりましたか」
「はい、では」
宇佐美も応えてだった。
上杉軍は夜襲は仕掛けずだった、そのままで。
この日は休んだ、そのうえで明日の織田家との戦に備えるのだった。
第百七十五話 完
2014・3・18
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