戦国異伝
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第百七十五話 信長着陣その十
「悪いがな」
「そう言うと思っていました」
「では、じゃな」
「明日です」
このこともだ、謙信から言ってきたことだった。
「明日また戦い」
「そしてじゃな」
「決着がついたその時に」
まさにだ、その時にというのだ。
「私が貴方を己の家臣とします」
「わかった、ではわしもな」
「貴方もですね」
「貴殿を破った時は」
その時はというのだ、信長も。
「わしの家臣になってもらおう」
「わかりました」
謙信も応える、そしてだった。
両者は話を終えた、そうして。
互いに別れた、これが二人の挨拶だった。
そしてだ、信長は本陣に戻るとだ、すぐにだった。
主だった将帥を集めてだ、こう言った。
「ではじゃ」
「はい、明日ですな」
「明日に」
「上杉と雌雄を決する」
まさにだ、そうするというのだ。
「よいな」
「はい、わかりました」
「それでは」
「そしてじゃ」
信長はさらに言った。
「この度の戦ではじゃ」
「はい、この戦では」
「どうされますか」
「わしに考えがある」
こう言うのだった、家臣達に。
「皆にはそれをやってもらう」
「それで上杉にですか」
「勝たれますか」
「いや、今は勝つのは難しい」
それはというのだ。
「やはり相手が強い」
「だからですか」
「勝つことはですか」
「難しい。しかしじゃ」
それでもだというのだ。
「負けぬことは出来るからのう、しかし次はじゃ」
「次?」
「次とか」
「次は勝つ」
次の戦ではだ、そうするというのだ。
「その為にもじゃ」
「今はですか」
「負けぬことですか」
「負けず命があれば次がある」
だからこそ、というのだ。
「ここは凌ぐのじゃ」
「負けぬこと」
「それが大事ですか」
「この度の戦では」
「そうすることが」
「今は加賀の全土を手に入れることじゃ」
それが目的だというのだ、今の戦の。
「手取川の向こう側を当家が完全に握ることじゃ」
「上杉との戦を凌ぎ」
「そのうえで」
「その通りじゃ、凌ぐ」
今はというのだ。
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