支え合うもの
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第二章
「それでなんだ」
「そうだったんですね」
「同じだね」
今度は純粋に穏やかな笑みでだ、俊蔵は言った。
「僕達は」
「そうですね、確かに」
「僕は目が悪くて」
「私は耳が悪くて」
「だからね、お互いにね」
「はい、頑張っていくべきですね」
「そうしていこう、お互いにね」
「それじゃあ」
悠理は微笑みだ、そしてだった。
二人は仕事のうえでお互いに助け合う様になった。そうした中で次第に関係を緻密なものにさせていっていた。その二人を見てだった。
二人が務めているクリニックの院長である檜笠実吉がだ、二人を院長室に呼んでこんなことを言ったのだった。
「最近君達はよく一緒にいるね」
「はい、何かと」
「助けてもらってます」
温厚な感じの笑顔で窓辺に立っている実吉にだ、二人は答えた。
「僕が目が悪いので」
「私は耳が悪いので」
「よく、困った時は」
「フォローしてもらっています」
「つまり二人共だね」
「はい、そうです」
「そうしてもらっています」
二人で実吉に話す。
「いつも」
「何かと」
「そうか、それならな」
二人の言葉を聞いてだ、そのうえでだった。
実吉は考える顔になって二人を見てこう言った。
「私の考えだが」
「院長さんの」
「といいますと」
「君達は結婚したらどうだ」
こう言うのだった。
「お互いに助け合うのならな」
「私達がですか」
「二人で」
「ああ、あくまで私の提案だからな」
実吉はこの前置きも話に置いた。
「嫌ならいいがな」
「二人で、ですか」
「結婚して」
「一緒に暮らしていけと」
「そう仰るのですか」
「そう、どうだろうか」
彼はあらためて二人に言った。
「一度じっくりと考えてくれ」
「そうですか、私達で」
「二人で」
「お互いに助け合えるのなら悪くないと思う」
実吉は二人にこんなことも言った。
「それなら」
「目のことでなく」
「耳のことでも」
「確かにそのことはあるよ」
院長として二人を雇用している、その際に彼等の身体のことを把握しているのだ。彼がこのことを知らない筈がない。
だからだ、彼もそのことは否定せずにはっきり言った。
「君達の目のことも耳のことも」
「それもですか」
「やっぱりあるんですか」
「うん、あるよ」
まさにその通りだというのだ。
「否定出来ない、けれど」
「助け合うことがですか」
「出来るからですか」
「私も」
俊蔵も悠理もだが、実吉もなのだ。彼は自分の足を見て言った。
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