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支え合うもの

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第一章

                   支え合うもの
 前橋俊蔵は生まれつき目が悪い、見えないという訳ではないが。
 かなりの弱視で日々の生活にも支障をきたす位だ、盲学校ではなく普通の学校に通っていたがそれでもだった。
 あまり見えない、それでだった。
 親にもだ、暗い顔でこう言われていた。
「御前は普通の仕事は出来ないな」
「目が悪いからね」
 だからだとだ、こう彼に言うのだった。
「その目ではな」
「ちょっと無理ね」
「だからな、ここはな」
「特別な仕事に就きなさい」
 そしてだ、その仕事はというと。
「按摩さんになれ」
「目が悪い人の仕事にね」
「そうなれ、いいな」
「そうして生きるのよ」
「そうだね、実際僕もそう思うよ」
 俊蔵は温厚な人柄だ、顔立ちも丸く穏やかなものである。怒ることは殆どない。それで両親にそう言われてもだ。
 怒ることなくだ、こう答えたのである。
「この目じゃね」
「ああ、そうなれ」
「いいわね」
「わかったよ、じゃあ高校を卒業したらね」
「学費は用意しているからな」
「頑張るのよ」
 親は我が子をそちらの道に進ませた、こうしてだった。
 彼は按摩になった、その仕事で生きる様になった。
 その中でだ、彼はある日仕事仲間である女性と知り合った。彼女の名前を高宮悠理という。悠理もまた穏やかな優しい顔をしている、伸ばした髪は綺麗で整った顔だ。
 だが、だ。彼女はというと。  
 俊蔵が声をかけてもだった、中々だった。
 反応がない、それでだった。
 近くで大きな声で呼んだ、それでやっとだった。
「はい?」
 顔を向ける、ここで俊蔵もわかったのだった。
「君、ひょっとして」
「はい、聴こえますけれど」
 それでもだとだ、悠理は申し訳ない顔で俊蔵に答えた。その声はかなり意識して大きなものになっていた。
「それでも」
「聴こえにくいんだ」
「そうなんです」
 こう彼に答えるのだった、大きな声で。
「私は」
「そうだったんだ」
「それで耳が悪いので」
「この仕事に就いたんだ」
「マッサージ師なら」
 それならだったのだ、悠理も。
「耳が悪くても何とかなりますから」
「補聴器は普段はつけてるんだよね」
「はい、そうしています」
 今はつけていない、だが普段はというのだ。
「それで何とかやっています」
「僕と一緒だね」
 ここまで聞いてだ、こう言った俊蔵だった。
「それは」
「確か前橋さんは」
「うん、目が悪くてね」
 俊蔵もだ、申し訳なさそうに微笑んで悠理に答えた。
「普段はかなり度数の高い眼鏡をかけているんだ」
「それで、ですね」
「見てはいるんだ」
 盲目ではないことは断る彼だった。
「ちゃんとね。けれどね」
「それでもですね」
「普通の仕事にはね」
 それにはともだ、俊蔵は悠理に話した。
「就けなかったから」
「だからですか」
「この仕事を選んだんだ」
 按摩、マッサージ師ともいうがそれにだというのだ。 
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