遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン12 泥水と永久電力
前書き
「泥水」ってのは清明のことです。いちいち「壊れた鉄砲水と~」だとタイトルが長すぎるので。
「邪魔邪魔ぁ!シーラカンスでダイレクトアタック、マリン・ポロロッカ!」
「うわあああっ!す、すみません斎王様………」
魚の王の突撃をまともに受けライフが0になった誰か。名前がわからないどころか顔も見たことないってことは、多分ノース校の人なんだろう。でもまあ、そんなことはどうでもよかった。吹っ飛んだ今までの相手は放っておき、周りにまだ何人かいた白い制服をぎろりと睨みつける。
「………それで?次の相手は誰?」
まだ足りない、もっとデュエルがしたい。こんな雑魚相手じゃ物足りなさすぎる。この中で一番強そうなのは誰かな、と。
「ひええええっ!助けてー!」
リーダー格の男に目を付けた瞬間、それを感じ取ったらしくとっとこ逃げていく。金魚のフンのようにそいつについていた数人も、それを見て我先にと逃げ出していく。
「ふぅ、逃げちゃったか」
別に逃げるような相手に興味はない。もっと歯ごたえのある白制服を探して、ぶちのめす。ただそれだけだ。
次の獲物を探して校内をうろついていると、ちょうど三沢が階段を上っているのが下から見えた。ふむ、三沢か。さっきのとは違って、少しは楽しめそうだ。一瞬でも気を抜いたら僕がやられるかもしれない。だからこそ、潰しがいもあるだろう。
「みーさーわくーん、あーそびーましょー!」
手を振りながら声を張り上げると、びくっとした様子でこちらを見る三沢。はて、そんなに怖かったんだろうか。あ、よしよしちゃんとこっち来たね。それじゃあ………覚悟しろ、三沢。これといって君に恨みはないけれど、あえて言うならホワイト寮に入ったお前が悪いんだ。
その1時間ほど前。ホワイト寮と化した元オベリスクブルーの一室で、何人かの生徒と斎王が白いレースのかけられた机を囲むようにして座っていた。その輪の中には、三沢の姿もある。部屋中が白で統一され、窓からはあふれんばかりの日差しが降り注いでいる。にもかかわらずどこか重苦しい空気が漂う中、斎王の言葉が響いた。
「なるほど。つまり、ここ最近遊野清明の調子がおかしい、と」
「は、はい。まさか、あいつがあんなことになるなんて………」
普段の彼にはまるで似合わない固い調子で弁明の言葉を発しようとする鎧田を手ぶりで止めて、その横にいた万丈目が代わりに口を開く。
「すみません斎王様。本来は俺たちの手で処理すべき問題なのですが、どうも去年までの遊野清明という男とあまりにも違いすぎるので、一応報告にと」
「ふむ、構いませんよ。それで、どのようなことになっているのです?」
「3日前の、ノース校にいる我々の仲間がこちらにやって来た日に俺は奴をワンキルしてやりました。そうしたら次の日、奴は体調不良とやらで一日中学校に来ませんでした。その時は別に堂とも思いませんでしたが、問題はその次の日からです。学年も出身校も関係なく、校内を歩いている光の結社の仲間が突然現れた奴にデュエルを挑まれるようになり、再起不能とまではいかないまでもボロボロにされてるんです」
「ボロボロに?喧嘩でも売っているんですか?」
「ち、違います!」
上ずった声で何かに怯えながら叫ぶ一人の少年。斎王様の前だぞ、口のきき方に気をつけろと周りの生徒が彼を止めようとするが、それどころではない少年は制止を振り切って斎王の前に進み出る。
「俺は、その、確かにデュエルを挑まれたんです。奴と勝負した最初の一人です。あいつは間違いなく化け物ですよ!やってることはただのデュエルのはずなのに、ライフが減ってダメージを受けるたびに俺の体にまで痛みが走ったんです!しかもサレンダーすらさせてくれないし、もうどうしていいかわからなくて………!」
「なるほど。三沢君、君は確かその現場の一番近くにいたそうだね。君は去年,
わけあって闇のデュエルをしたことがあると聞いているが、これについてどう思う?」
「おそらくは奴が一方的に仕掛けたのでしょう。俺の知っている闇のデュエルは敗者が命や魂を取られるほどのものでしたが、そんなことをする気はないのだと思います」
淡々と話す三沢だが、目を見れば彼もこの事態にかなり動転しているのがわかる。それはそうだろう。たとえ進む道が違うことになっても、彼にとって遊野清明という人間はいまだに友人なのだ。
「ふん、どうせ世間の目でも気にしているだけだろう。どうやっているのかはともかく、このまま奴を野放しにしたら、何をしだすかわかったものじゃない」
一方、万丈目をはじめ同じく彼の友人だった他の生徒の意見は違う。彼ら彼女らにとって遊野清明とはどんな技を用いたのかはわからないが、自分らの仲間を傷つけ崇高なる斎王様の目的を邪魔する愚か者でしかないのだ。
それがわかっているからこそ、三沢は斎王に先手を打って進言する。万丈目たちに任せていては、どんな過激な手を取るか分かったものではない。
「どうでしょう斎王様。ここはひとつ、この三沢大地にお任せください」
「待つんだ、三沢。ここはこの万丈目ホワイトサンダーに任せておいてくれ」
ここで万丈目は、あくまでも純粋な親切心から言っているだけだ。普段は威張った態度が目につくが、ここぞという時には自分の部下や味方を危険な目にあわせまいと自分が真っ先に動く。そんなカリスマ性があるからこそ、光の結社の中でも万丈目は斎王に次ぎナンバーツーの立ち位置を得ることとなったのだ。
だがその親切心は、清明と万丈目たちを引き離したい三沢にとっては邪魔でしかない。どう言って断ろうかと脳をフル回転させるが、その時意外なところから助け舟が飛んできた。
「いえ、ここは三沢君に任せましょう。危険な仕事ではありますが、よろしくお願いしますね」
「さ、斎王様。………わかりました。頼んだぞ、三沢。気を付けてな」
という会話ののち、被害者たちに聞いた話からどうも構成がだいぶ変わったらしい清明のデッキに対抗できそうなカードを抜かりなく何枚かデッキに忍ばせてから校内をうろつきまわること数分。できれば本格的なメタデッキを組みたかったのだが、そんな時間もなさそうなので本当に部屋にあったカードからめぼしいものを数枚放り込んだ程度である。
「みーさーわくーん、あーそびーましょー!」
そして、話はようやく現在に至る。そんなことがあったとはつゆ知らず、ひょいひょいと軽い身のこなしで三沢のもとにたどり着き、退路を塞ぐような位置に立つ清明。もっとも三沢も元から逃げるつもりはない、もはや言葉は不要とばかりにわざわざ白塗りした自分のデュエルディスクを構える。勝負から逃げない態度を見て一瞬嬉しそうになった清明も、そのデュエルディスクを見て露骨に嫌そうな顔になった。そのわかりやすい態度から素直なところはまるで変わってないな、と苦笑し、すぐに気を引き締め直す。
「何も言わずにすぐデュエル………どうやら、まんまと誘い込まれたかな?まあいいさ、とりあえず病院送りだけは勘弁してあげるよ」
「それはありがたいことだな。だが、俺も負けるわけにはいかん」
「あー?よくわかんないけど、無駄話はそろそろ切り上げようかね」
「「デュエル!」」
先攻は、三沢。手札にお互いにカードをドローすることで相手のエンドフェイズまでのあらゆるダメージを0にするカード、一時休戦が来ているのを確認して少し考え込む。まだ相手の出方がはっきりとは分からない以上、先行で1枚しか入っていないこのカードをいきなり使うことは控えたほうがいいのだろうか。だが、ここで先手を打って使っておけばおそらく清明は効果が切れるまで大量展開は控えるはず、出鼻をくじく意味も込めて使うのもありだろう。
「…………俺のカードはマスマティシャン。召喚時の効果でデッキからレベル4以下のモンスター1体、電池メン-単4型を墓地に送る。カードを1枚伏せて、これでターンエンドだ」
一瞬迷ったものの、最終的に手札で温存しておくことに決めたようだ。かわりに彼が伏せたのは、攻撃モンスターを除外することができるトラップ、次元幽閉。マスマティシャンを囮にして使うつもりなのだがはたしてこの判断、吉と出るか凶と出るか。
マスマティシャン 攻1500
「僕のターン。魔法カード、スター・ブラストを発動。ライフを500単位で払うことで、その分だけ手札か場の自分モンスター1体のレベルをターン終了時までダウンさせる。これで1500ライフを支払って、レベル7から4になったシーラカンスを通常召喚」
清明 LP4000→2500
超古深海王シーラカンス 攻2800 ☆7→4
「そしてシーラカンスの効果、魚介王の咆哮!手札1枚を捨てて、デッキからレベル4以下の魚族を出せるだけ特殊召喚する!さあみんな、今日も僕を勝たせるんだよ?」
竜宮の白タウナギ 守1200
シャクトパス 守800
オイスターマイスター 守200
軍隊ピラニア 守200
「くっ、外したか」
シーラカンスからの大量展開を止められなかったことに軽く頭を抱えそうになる三沢。それも無理はない、シーラカンスは自身が効果の対象になったときに魚族をリリースすることでその発動と効果を無効にして破壊できる効果耐性を持っているのだ。つまり、対象をとる効果である次元幽閉はシーラカンスを除外できないうえに攻撃も止められないと、使う理由がほぼなくなってしまったのだ。
「ふふ、その伏せカードはなんだったかな?光の力なんかに頼ろうとするからそういうことになるんだよ、三沢。もっとも、今更後悔しても遅いけどね。シーラカンスでマスマティシャンに攻撃、マリン・ポロロッカ!」
超古深海王シーラカンス 攻2800→マスマティシャン 攻1500(破壊)
三沢 LP4000→2700
闇のゲームということを聞いた時点からある程度の覚悟はしていたが、それでもやはり慣れることのない痛みが三沢を襲う。とはいえ、本人も病院送りにする気はないと言っていただけあって、前に三幻魔の1体、神炎皇ウリアと戦った時のような意識が吹き飛ぶほどの痛みではない。ちなみにその後三沢の手に渡ったウリアのカードは、彼が光の結社に入ったときに斎王のもとへ渡っている。今は光の結社の中心部で分厚い金庫の中に封印されているはずだ。
「マスマティシャンが戦闘破壊されたことで、俺はデッキからカードを1枚ドローする」
「はいはい、どうぞー。それじゃあ、本番行ってみようか。このデッキのキーカード、永続魔法エクトプラズマーを発動!」
「何!?エクトプラズマーだと!?」
これまでの犠牲者たちからは、これを使ったという話は一切聞いていない。それがキーカードということは、これまでの相手にはそれを使うまでもなかったということだろうか。
「清明、お前………本当に変わったんだな。以前のお前はどんな相手にも決して手を抜かずに全力で戦うデュエリストだったはずだ」
「あー、そんな時期もあったねえ。でも、僕は今すんごい強いのさ。雑魚にいちいち本気出すまでもないんだよ。舐めプ、最初とある人にやられた時はすんごい腹立ったんだけどさ。いざやってみるとすんごい楽しいもんだねえ!あはハハハ!」
ぬけぬけと言い放つ清明。その眼は明らかにおかしな光を宿していて………と言えば少しは聞こえがいいが、要するにアレなクスリでも決めたみたいな状態になっていた。その様子に心を痛めながらも、なんとか自分の言葉を届かせようと別方向からのアプローチにかかる。
「それに、エクトプラズマーだってお前らしくないぞ。俺の知っているお前はモンスター射出どころか、死に出しや自爆特攻ですら嫌っていたじゃないか。モンスターのことを、カードのことをまるで1枚1枚人格があるかのように取り扱ってデュエルしていたじゃないか!」
当たらずとも遠からず、である。実際に彼のカードには精霊が宿っているので人格があるというのもあながち間違いではない。そのため、ただでさえその手の戦法は取りたがらなかった彼は精霊が見えるようになって以降見向きもしていなかったのだが。
「なーに、勝つためさ。簡単だよ?シーラカンスで肉の壁を作って攻撃を防ぎつつエクトプラズマーの弾を補充する。我ながら合理的な戦法だと思うけどね、あっという間に4000程度のライフなら消し去れるし、シーラカンスで殴ればこっちのライフが先に消える心配も基本しなくて済むし」
「お前………本当に清明なのか?」
「やだね、三沢。僕は僕さ、遊野清明さ。カードを伏せて、エンドフェイズにエクトプラズマーの効果発動。モンスター1体をリリースすることでその元々の攻撃力の半分の数値だけダメージを与える!殺れ、軍隊ピラニア!」
リアルなタッチで描かれたピラニアが苦しみ悶えながらその場に崩れ落ち、体から引きずり出された魂が三沢めがけて突っ込んでいく。
三沢 LP2700→2400
「くっ………」
「どう?痛い?でもね、僕がお前たちのせいで感じた痛みはこんなものじゃない。倒れるまではとことん付き合ってもらうからね」
三沢 LP2400 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP2500 手札:2
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
竜宮の白タウナギ(守)
シャクトパス(守)
オイスターマイスター(守)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターン、ドロー!」
シーラカンスの効果で常に魚族が現れること、そして清明のデッキがビートダウンからバーン軸に変わったことを考えるとおそらくこの先の展開でシーラカンス以外のモンスターが攻撃してくる可能性は低い、つまり次元幽閉が通る確率はほぼないだろう。そう考え、せっかく伏せた次元幽閉のことはすっぱりと諦める。
「電池メン-単四型を召喚。このカードが召喚に成功した時、手札か墓地の単四型を特殊召喚できる。先ほど墓地に送った単四型を特殊召喚だ」
電池メン-単四型 攻0
電池メン-単四型 守0
「そして俺の場に電池メンのモンスターが2体以上存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる。来い、燃料電池メン!」
細長い体の中心に4と刻み込まれた緑と紫の電池メン達。その2人がさっと中心を開けるように飛び退ると、空いたスペースに四角い体を持ったピンクの大型電池が召喚される。
燃料電池メン 攻2100
「それで?残念だけど、2100程度の攻撃力じゃあねー」
「確かにな。だが、俺の狙いは燃料電池メンを特殊召喚することじゃない。電池メンと名のつくモンスターが俺の場に3体以上存在するとき、相手の場のカードをすべて破壊する!食らえ、漏電!」
「………役立たずが。トラップ発動」
3体の電池がそれぞれポーズをとって、全身から電気を発生させる。激しく火花が弾け、辺りが眩しさのあまり何も見えなくなり………光が収まったときには、立派な焼き魚が3つ転がっていた。
「ちっ。まあいいさ、オイスターマイスターの効果発動。戦闘以外の方法でフィールドから墓地に送られた時、オイスタートークンを特殊召喚する」
オイスタートークン 守0
「無論知っているさ、ここで燃料電池メンの効果を使おう。1ターンに1度場の電池メンをリリースすることでその電力を自らに供給し、その際に発生したエネルギーによって相手の場のカード1枚をバウンスする。対象はオイスタートークンだが、トークンはバウンスできないから存在しなかったことになるな」
「………!!」
ころりと一つだけ転がっていた牡蠣が電気の力でみごとな焼き牡蠣となり、今度こそ清明の前のモンスターがいなくなる。これで燃料電池メンの攻撃力2100でのダイレクトアタックが通れば、そこで速攻魔法、突進を使用するつもりである。攻撃力が700ポイントアップした燃料電池メンの直接攻撃ならば、清明を一撃で倒すことも可能だ。
「燃料電池メンでダイレクトアタックだ」
「そのまま受けるさ」
「ならばダメージステップ、手札から突進を発動する。これにより燃料電池メンの攻撃力はさらに700ポイントアップだ!少し荒療治になるが目を覚ませ、清明!」
燃料電池メン 攻2100→2800→清明(直接攻撃)
清明 LP5300→2500
「ふう。それで?今何かしたわけ?」
「馬鹿な!いや、さっきのトラップか!?」
「物わかりが良くて助かるよ、説明の手間が省けるってもんさ。僕が使ったのは通常トラップ、デストラクト・ポーション。効果は………」
「自分フィールドのモンスター1体を破壊し、その攻撃力ぶんのライフを回復する、か。これもまた」
「お前らしくないカードだ、って?」
三沢の言葉に割り込むように、ふっと笑って後を続ける清明。その笑いは狂気的ではあったが、同時にどこかさびしそうにも見えた。あるいは、それもまた光の加減だったのかもしれないが。
「…………いや、なんでもない。手札がこれしかないなら、温存するよりもドローに賭けてみるか。メイン2に魔法カード、一時休戦を発動。お互いにカードをドローして、次のお前のエンドフェイズまで俺たちが受けるダメージは0になる。そして手札のサンダー・ドラゴンの効果発動。このカードを捨てることで、デッキからサンダー・ドラゴン2体を手札にサーチできる。これでターンエンドだ」
燃料電池メン 攻2800→2100
「僕のターン。魔法カード発動、死者蘇生。シーラカンス、お前にはまだ使い道があるからね」
清明自身の手によって破壊された魚の王が、強制的に呼び起される。だがその鱗はところどころ痛々しく剥がれており、王冠のような形をした謎の部位もボロボロになっている。なによりも目につくのは、顔についた大きな傷のせいで片目が完全に潰れてしまっていることだ。
だが、そんな痛々しい姿に見向きもせずに淡々と手札を1枚墓地に送る清明。いや違う、と三沢はぼんやり考えた。見向きもしていないのではなく、目を背けて少しでも見ないようにしているのだ、と。
超古深海王シーラカンス 攻2800
「さあて、ね。手札を捨てて、魚介王の咆哮」
そして呼び出される、4体のモンスター。
ハリマンボウ 守100
ツーヘッド・シャーク 守1600
フィッシュボーグ-アーチャー 守300
ハンマー・シャーク 守1500
「ダメージは通らなくても、攻撃はさせてもらおうかな。シーラカンス、燃料電池に攻撃」
満身創痍と言えど、魚の王の勢いはピンク色の燃料電池をスクラップにするには十分なほどの威力を持つ。相変わらず身代わりのせいで次元幽閉が使えない三沢には、それをどうすることもできない。
超古深海王シーラカンス 攻2800→燃料電池メン 攻2100(破壊)
「これでターンエンド」
三沢 LP2350 手札:2
モンスター:電池メン-単四型(守)
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP2500 手札:2
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
ハリマンボウ(守)
ツーヘッド・シャーク(守)
ハンマー・シャーク(守)
フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:なし
「俺のターン、ドローだ」
三沢の手札にあるのは、デッキ圧縮のため先ほどのターンに効果を使ったサンダー・ドラゴンが2体のみ。このドローで融合のカードが来れば双頭の雷龍が融合召喚できるのだが、と少し期待していたのだが、残念ながらそう都合よくデッキに1枚しか入っていない融合を引くことはできなかったようだ。
「モンスターを1体セット。これでターンエンド」
「ふふ、電池メンでモンスターのセット。おおかた引いたのはリバース効果のあるボタン型ってとこかな?ならまあ反転召喚なんてまずしないだろうし、攻守0の単四型も放置で大丈夫そう。となると、別に攻撃するまでもないね。だって、いいカードがまた引けたんだ。永続魔法、エクトプラズマー発動!残った手札もセットして、エンドフェイズ。攻撃力1700のハンマー・シャークをリリースし、霊魂攻撃!」
金槌のような頭を持つ青い鮫が、クリクリした目をバツ印にしてぐったりとする。その体から出た霊魂が、単四型とセットモンスターを突き抜けて三沢に直撃した。
三沢 LP2400→1550
「ターンエンド。さあーて、ライフが0になるのと意識が飛ぶの、どっちが早いかな?」
三沢 LP1550 手札:2
モンスター:電池メン-単四型(守)
???(セット)
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP2500 手札:1
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
ハリマンボウ(守)
ツーヘッド・シャーク(守)
フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:エクトプラズマー
1(伏せ)
「ふざけるなよ、清明。俺は闇のデュエルなんかに負けはしないさ!ドロー、エレキリンを召喚!」
電気をパチパチと鳴らしながら、明るい黄色を基調としたメルヘンなデザインのキリンがやや窮屈そうにしながらも召喚される。その効果も知っているらしい清明が、露骨に嫌そうな顔をした。ルール違反ではないが立派なマナー違反である。
エレキリン 攻1200
「そんな顔をするもんじゃないぞ。エレキリンは、相手プレイヤーにダイレクトアタックができる!エレキリンで攻撃!」
エレキリンがその長い足を持ち上げ、シーラカンスたちをわずか一歩で乗り越えておもむろに踏み下ろす。本当に踏みつけるとソリッドビジョンとはいえ心臓に悪いのでわざと微妙に狙いをそらした一撃は清明を踏みつけるとまではいかなかったものの、それでも地面を踏みしめた時の衝撃がダイレクトに伝わってくる。
エレキリン 攻1200→清明(直接攻撃)
清明 LP2500→1300
「エンドフェイズでのエクトプラズマーの効果は、もったいないがエレキリンをリリースしよう。よくやったな、エレキリン」
清明 LP1300→700
本音を言うともう少しダメージを与えておきたかったが、それでもここまで削れば十分だろう、と三沢は考える。彼は今のターン、苦し紛れで攻撃を仕掛けたのではない。すでに罠は張ってある状態であり、あと1枚のキーカードが来るのをじっと待っているのだ。
「今の程度でいい気にならないでよ。僕のターンドロー。三沢のライフは残りあれだけ…………ここは大きく賭けに出る!カードをセットだけして、あとはこのままターンを流してエンドフェイズ、エクトプラズマー発射!」
次の標的に選ばれたのは、すでに満身創痍のシーラカンス。魂を引きずり出される苦しみを隠せないようにその場で暴れだす魚の王だったが、どんなモンスターでもカード効果とプレイヤーの意思にだけは逆らえない。力尽きる寸前最期に一声吠え、魚の王の巨体は再び地面に崩れ落ちた。
三沢 LP1550→150
「ぐわあああっ!?」
「三沢!」
これまでのエクトプラズマーによるダメージの2倍近い数値。それをまともに受け止めた三沢もさすがに苦痛の呻きをこらえきれず、その場に膝をつきそうになる。なるが、そこで清明が叫んだ。彼がよく知っている、いつも通りの清明の声が。その声を聞き、踏みとどまって立ち直る。まさか元に戻ったのか、と清明を見るが、当の本人も彼の名を呼んだのかは自覚していなかったらしく、自分の口に手を当てて忌々しそうな顔をしていた。
「ちっ、もう起きてきやがったか………」
「何?」
それは、間違いなく清明の言葉。なのだが、どこか彼とは違う何かが喋っているような印象を受けた。気のせいかと思い軽く首を振って頭をはっきりさせてから見直すと、その感覚はもう消えていたのだが。
三沢 LP150 手札:2
モンスター:電池メン-単四型(守)
???(セット)
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP700 手札:0
モンスター: ハリマンボウ(守)
ツーヘッド・シャーク(守)
フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:エクトプラズマー
2(伏せ)
「俺のターン、ドロー!」
今一瞬だけ起きた当の本人にもよくわからない現象が収まった。そして三沢がカードを引くのを見ながら、それにしても、と清明は大事な一瞬だというのにふと考える。相変わらずこの男には、どうも勝てる気がしない。こちらが一生懸命知恵を絞って考えた戦略が、三沢にはまるで通用しない。いや、もちろん全く通用していないということはないしある程度ダメージは通るのだが、常に全部お見通しにされているような気がしてならないのだ。実際、彼は2年生になってもいまだに三沢相手には1勝すらできていない。現校生の中でこんな相手、あとは十代とノース校から帰ってきてからの万丈目くらいのものである。
だけど、なんでこんなことを今考えているんだろうか。ふと疑問が彼の胸をよぎる。別に今じゃなくても、あとでじっくり考えればいいではないか。まるでそう、例えるならば『何か』に思考を誘導されていたかのような。なにかかんがえてはいけないことがあるかのような。でもなにが。なにが。なにが。な…に……が…………。
『難しいこと考えるなよ、遊野清明。それよりも、さっき十代に万丈目って言ったろ?そいつらは今どうしてるんだ?十代はいまだに行方不明、万丈目は真っ白に染まってお前のことを敵としか見てないぜ。目の前にいる三沢だって、口じゃあ立派なこと言ってはいるが所詮は光の結社さ。お前の友を次々に奪っていった、憎い憎い光の結社だよなぁ?ほら、もっと憎むんだよ』
彼の頭の中で、また声がした。残念ながら三沢にはその声が聞こえていない。もし聞こえていれば、たとえ清明を殴りつけてでも止めただろう。だが、清明はその声に耳を傾けてしまった。それを聞いて、自分が今すべきことを思い出す。さっきの疑問もどうでもいい。今考えることはただ一つ、光の結社を潰して皆を取り返す、ただそれだけだ。
「来い、三沢!」
「言われなくても、このターンで終わらせてやるとも」
「えっ」
格好つけて言ってみた台詞に予想外の自信満々な返しをされ、ちょっと慌てて素が出る。そんな様子を意に介さず、三沢が待ち続けていたカードを場に出した。
「俺のカードはこのモンスター、RAI-JINだ!」
RAI-JIN………漢字で書くと雷神。どことなくアメコミヒーロー風の派手な衣装に身を包み、雷の形を模した黄色のサングラスをかけた赤髪の若い男が、派手なスパークを起こしつつ天井から飛び降りてスタイリッシュに着地する。そして全身から電気を放つと、そのパワーの一部が単四型に降り注ぐ。
「このカードは、自分フィールド全ての光属性モンスターの攻撃力を墓地の光属性モンスターの数につき100ポイントアップさせる能力を持つ。今の段階で俺の墓地にいるのは単四型、燃料電池メン、サンダー・ドラゴン、エレキリンの4体。よって攻撃力は400ポイントずつアップだ」
RAI-JIN 攻?→400
電池メン-単四型 攻0→400
「た、たかがその程度で驚かさないでほしいね。それに、エクトプラズマーの効果で参照するのはモンスターの元々の攻撃力!いくらフィールドで全体強化を掛けたって無駄なのさ!さらに、ここで伏せカードのうち1枚を発動、リビングデッドの呼び声!甦れ、シーラカンス!」
超古深海王シーラカンス 攻2800
「確かにな。だが、この俺のセットモンスター………お前がボタン型だと信じこんだこのモンスターの効果がここで生きてくる。反転召喚によるリバース効果発動、魔道雑貨商人!」
4本の腕にそれぞれ妙なアイテムを手にした商人ファッションのコガネムシが、三沢のデッキをデュエルし救から抜き出して勝手にぱらぱらとめくる。そして上から12枚ほどのカードを無造作に墓地へ突っ込むと、無言のまま1枚のカードを持主に手渡した。
「このモンスターがリバースした時にデッキの上から魔法か罠が出るまでカードをめくり、最初に出たそのカードを手札に加える。そして残り、つまりモンスターカードはすべて墓地に送るのだが、この意味は分かるな?さらに、魔道雑貨商人自体も光属性昆虫族のモンスターカードだ」
「お、落としたモンスターは12枚、つまり上昇値は合計1600………」
RAI-JINの全身から発散される電気がさらに明るさを増す。その光は全てのモンスターに均等に降り注ぎ、みるみるうちに体が大きくなる。
「僕のモンスターは残り4体で、三沢のモンスターは3体。このターンだけなら」
「いいや、それはないな。俺が魔道雑貨商人で手札に加えたカードはこれだからだ。魔法カード、融合を発動!手札のサンダー・ドラゴン2体を素材とし、双頭の雷龍を融合召喚!そして光属性のサンダー・ドラゴン2体が墓地に送られたことで、さらに全体強化の数値が上がることになるな」
RAI-JIN 攻400→2200
魔道雑貨商人 攻200→2000
電池メン-単四型 攻0→1800
双頭の雷龍 攻2800→4600
「ふ、ふざけんな。僕は強いはずなんだ、もう光の結社なんかに二度と負けるはず………」
「光の結社、か。…………悪いな、清明。RAI-JINでツーヘッド・シャーク、攻撃表示にした単四型でフィッシュボーグ、魔道雑貨商人でハリマンボウ、そして双頭の雷龍でシーラカンスに攻撃!」
4体のモンスターが一斉に放つ電流が、シーラカンスたちを飲み込んでいく。その破壊力は先ほどの漏電に勝るとも劣らない。
だが。歪みきった清明の心が、ここで最後の粘りを見せる。
「させるかあああああっ!リバース・トラップ発動、破壊指輪!自分フィールドのモンスターを1体破壊して、お互いに1000ポイントのダメージを受けることになる!僕もダメだけどお前も道連れだ、三沢!」
「何っ!?」
シーラカンスの体を爆弾付きの輪が締め付け、身動きの取れない状態にしたままそれが爆発する。雷撃が清明に届くよりもさらに一瞬早く、爆発の衝撃が2人を飲み込んだ。
三沢 LP150→0
清明 LP700→0
「くっ………」
吹き飛ばされた衝撃で気絶していた三沢がようやく起きた時、すでに清明はいなかった。自分よりも先に目が覚めたのか、それとも最初から意識があったのか。どちらにしても丈夫な奴だ、とつぶやいて立ち上がる。闇のデュエルのせいで節々が痛む体を引きずるようにして立ち上がり、最後にもう一度だけ周囲を確認する。やはり誰もいない。あと少しだった。あと少しであの勝負に勝つことができた。
いや、勝負自体は俺の勝ちだった。そう思い直す。勝負自体は勝っていたが、最後の最後で粘り負けしたのだ。最終的には引き分けとはいえ、あの粘りがなければ確実に三沢の勝ちだったことを考えると、実質負け試合と言っても過言ではない。そしてその粘り、土壇場になってからのわけのわからない精神力こそが、実力では清明をはるかに上回る三沢が清明に一目置いている最大の理由である。
「まだ俺も修行が足りないか………だが、このままだとまずいな」
三沢が清明と引き分けになったことが斎王の、ひいては万丈目ら過激派の耳に入るまでそう時間はかからないだろう。だとすると、少し予定を改める必要がある。
全身の痛みに顔をしかめながら、三沢はホワイト寮へと戻るのであった。
後書き
またしても伏線を張っていくスタイル。ただこれ、この投稿ペースだと回収できるのが誰も覚えてない来年とか下手すると再来年あたりになりそうなんですよねぇ………。
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