蜀碧
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第二章
「その縄の下を潜って門の中に入れ」
実際に書生達にこう言った。
「よいな」
「そうらしいな、では」
「潜って入るか」
「そうしようぞ」
こう話してだった、彼等は縄を潜った、だが。
殆ど全ての者がその縄をそのまま潜れなかった、そして。
張はその潜れなかった者を一つに集めてだ、兵達に命じた。
「縄の下を潜れなかった者は殺せ」
「全てですか」
「全ての者を」
「そうだ、皆殺せ」
血に餓えた目での言葉だった。
「よいな」
「しかし全員となりますと」
兵の一人が驚きを隠せないまま張に言った。
「相当な数になりますが」
「それがどうした」
張はここでも血走った目で応じた。
「何が悪い」
「そ、それは」
「決めた、貴様も殺す」
その意見をした兵もだというのだ。
「皆殺せ、いいな」
「は、はい」
「それでは」
張の言葉に兵達は逆らえなくなっていた、その恐怖のあまり。
逆らえば自分が殺される、そう思ってだ。
彼等は張の言葉に従いそのうえでだった。
書生達を一つの場所に集め皆殺しにした、生き残ったのは子供二人だけだった。彼等だけが縄を潜れたのだ。
彼はこれで終わらない、今度はだ。
「布施をする、坊主達にな」
「その額は」
側近達は彼の真意がわかっていたがあえて問うた。
「どれだけですか」
「僧侶には銀十両、小坊主には六両だ」
「それだけの額をですか」
「布施をする。皆呼べ」
こうして今度は僧侶達を集めた、小坊主達も。
そしてだ、四川中から集まった数万の僧侶達をだ。
十人ごとに集めて縄で縛らせてだ、彼は兵達に命じた。
「この者達も殺せ」
「わかりました、では」
「その様に致します」
こうしてだった、何万もの僧侶達も殺されたのだった。
書生も僧侶達も殺された、だが殺されたのは彼等だけではなかった。
兵達にだ、張は血生臭いその中で問うた。
「そなた達偉くなりたいか」
「はい、是非」
「そうなりたいです」
「ではだ」
兵達の返事を聞いてだ、張は彼等に命じた。
「殺せ」
「敵をですか」
「梁紅玉とその兵達をですか」
張と争っている明の将だ、梁は女であり所謂女将として名を馳せていた。
「あの者達と戦い」
「そのうえで」
「違う、その辺りの者達をだ」
つまり民達をというのだ。
「殺す相手は問わぬ、殺した証にその手足を持って来い」
「殺す相手は誰でもいいのですか」
「民百姓でも」
「誰でもよいから殺せ」
血塗られた笑みでの言葉だった。
「よいな、手足を忘れるな」
「で、では」
「殺してきます」
「殺せば殺す程重く用いる」
自身の言葉に蒼白となった兵隊にだ、張は血生臭い笑みのまま言うのだった。
「わかったな」
「それでは」
「今より」
こうして民達も容赦なく殺されていった、都が置かれていた成都は瞬く間に生きている者がいなくなった。その代わりに屍が幾つも何処までも堆く積まれ。
成都の周りの川はどれも血で紅になった、それを見た成都の周りの民達は恐れ慄いて口々に言い合った。
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