戦国異伝
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第百七十五話 信長着陣その一
第百七十五話 信長着陣
毛利家は兵を順調に進めていた、元就は吉田郡山城において息子と家臣達にこうしたことを言っていた。
「尼子は滅ぼした」
「はい、何とか」
「それが出来ました」
家臣達も元就の言葉に応える。
「そして山陰と山陽で東に東に兵を進めています」
「このまま山陽と山陰は制圧出来るか」
「よい、それでじゃが」
ここでだ、元就は目を鋭くさせて家臣達に言った。
「九州のことじゃが」
「あの地ですか」
「島津じゃな」
この家が、というのだ。
「今日の出の勢いじゃな、そしてこのままな」
「島津は大きくなりますか」
「あのまま」
「うむ、大友も龍造寺も倒される」
そうなるというのだ。
「九州には入るべきではない」
「しかし殿」
家臣の一人が元就にここで問うた。
「島津が九州を完全に手中に収めたなら」
「その次はじゃな」
「はい、次はです」
ホカナラヌだ、彼等自身だというのだ。
「我等かと」
「いや、それはない」
元就はその家臣の言葉をすぐに打ち消した、ないとだ。
「島津は我等と同じじゃ」
「天下を望んではいませぬか」
「うむ、あくまで九州を手中に収めることが目的じゃ」
「では」
「後は攻めぬ」
九州の他の国には攻めて来ないというのだ。
「それはない」
「だから我等も九州にはですか」
「攻めぬ」
決して、というのだ。
「少し攻めたが退いてよかったわ」
「左様ですか、では」
「九州は放っておく」
一切だ、毛利家は手を延ばさないというのだ。
「山陽と山陰だけじゃ。じゃがな」
「その山陽と山陰もですか」
「必要とあらば」
「毛利は天下を望まぬ」
このことは一貫していた、元就は常に天下を望まないと言っている。このことは氏康と同じであり信長や信玄、政宗とは違う。
「だからな」
「家を残すことがですか」
「第一じゃ」
それがだというのだ。
「そう考えよ、よいな」
「わかりました、それでは」
「まずは家をですな」
「守る、よいな」
「それではです」
元就の言葉を聞いてだ、隆元が言ってきた。
「織田家に対してもですか」
「戦をするつもりはないがのう、本来は」
しかしだというのだった、ここで。
「それはな」
「織田家次第ですか」
「うむ、織田信長は天下を望んでおる」
このことは間違いなかった、信長は確かに天下を望んでいる。天下布武を唱えていることにそれがはっきりと出ている。
「しかも公方様からも文が来ておるしな」
「では」
「戦になるやもな」
「ですが父上」
今度は隆景が言元就に言ってきた。
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