仮面ライダー龍騎【13 people of another】
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Part One.
First chapter.
第3話
「ハッ!今日も絶好調だ!」
「芳樹、あんまり無茶してると痛い目見るぞ!」
「何の!俺はそんな目絶対見ない!」
芳樹はいつものように仮面ライダー龍騎としてミラーモンスターとの激闘を繰り返していた。
しかし芳樹は、モンスターに負けた。
「───で、落ち込んでいると……」
「ごめんね、ナナくん。いい年した20過ぎがあんな風に落ち込んでて」
亮平とナナの目線の先にはモンスターに負け、項垂れている芳樹がいる。
「……なんであんなに落ち込んでるんですか?」
「多分、一度もモンスターに負けた事なかったのがキてるんだと思うよ」
「負けた事ないんだ……」
「ライダーには負けたことあるけどな」
「ライダーに?でもライダー達とは戦わないんじゃ?」
「最近さ、新しい仮面ライダー、王蛇って奴が現れて……いや、でもあれって負けたって言うのかな?」
芳樹と亮平、そしてナナが夕食を食べるためにいつものファミレスに集まっていた。
「そういえば、ナナくんは学校行かなくていいのか?」
「一昨日から夏休みに入ってるんで、大丈夫です」
「そっか、もうそんな時期か……」
亮平は、そういえば最近子連れの親子がよく出かけていることを思い出して頷いた。
「ああ!俺は本当になにやってたんだよぉ!」
「芳樹、うるさい。ここは他の客もいるんだから…」
三人は夕食を済ますと他の客の迷惑にならないようにファミレスを後にした。
「もう遅いしナナくん、送って行くよ」
「え、でも悪いですよ」
「お前、どうせその髪とその服装でこの時間ウロウロしてっと補導されるだろ?」
「そもそもなんで制服なんだよ」と芳樹がナナに言う。確かにナナの服装は夏休みに入ったというのに学校の制服であろうブレザーだ。
「家出してきたから仕方ないか。俺のお下がりでよかったら貸すけど?」
「あ、はい…よろしくお願いします」
「よし、じゃあさっさと帰るぞ」
──────────
つまり世界は平凡で、きっと未来は一つで。
英雄がいても誰も気付かずに通り過ぎるのが当たり前で。
それでも彼らは戦うのが常で。
今を知りたい彼はそんな平凡から抜け出して。
そしたらいろんな物が見てきて。
これが真実かと絶望して。
願いなんて無くて。
それでも彼は人間になりたくて。
──────────
「おはようございます」
「ああ、おはよう読川」
油島総司は記者である。
それも結構腕利きの。
彼は職場では信頼も厚く、自由行動を許されている。
そんな彼は、ひょんなことから家出の青年と共に暮らすこととなった。
同棲相手の名前は読川ナナ。
金髪でよく目立つ青年だ。ナナのそばには彼の頭にはまだ少し大きい黒いキャップ帽がある。ナナはいつもこれを被っている。家の中でもほとんど手放そうとはしない。
「朝ごはんは目玉焼きでいいですか?」
「あとソーセージも焼いてくれないか?」
「はい、わかりました」
このナナはこんな見た目をしているが教養の行き届いた稀に見るような青年だった。初めは緊張しているのかと思っていたが、彼はごく当たり前だという風に家事をやってのける。おかげで油島の家は前とは見違えるほどに綺麗になった。
こう見てえ油島は生活力が全くないのだ。よくここまで生きてこれたなと思うほどに。
「読川、今日は仕事が遅くなると思うから、戸締りよろしくな」
「はい、わかりました」
家を出た油島は今までの自分を振り返った。
どうして今、振り返る必要があるのかと尋ねられれば油島はこう答えるだろう「あの読川ナナを見ると「たしか、自分にもこんな時期があったな」と考えてしまったから」
油島は父親はサラリーマン、母親は専業主婦、三人家族のごく平凡の家庭に産まれ、ごく平凡に学校生活を送り、ごく平凡な反抗期と思春期を経て、ごく平凡に生きてきた。記者になったのも成り行きである。
たった一つ、平凡でないといえば最近"仮面ライダー"になったことだろう。仮面ライダーナイトそれが油島総司のもう一つの顔だ。
油島の願いは特に何もなかった。「とりあえず、平和な家庭を築きたい」というのが20後半を過ぎた油島の本音である。
何故あの男が自分を仮面ライダーに選んだのかわからないが、人選ミスにもほどがある。こんな平凡な男を願いを叶えるバトルロイヤルに参加させたのだから。
「そういや、読川の奴を選んだのも人選ミスだな」
よりにもよって、戦いが嫌いなナナをライダーに選んだのだ。彼こそ人選ミスにもほどがある。
「………そもそも、あいつがライダーに選ぶ基準ってのはなんだ?」
あの男の人選ミスは結局、ライダー達を一箇所に集め人々をモンスターから守るライダー軍団ができ一致団結しただけだった。といってもそのうち五人は死んでしまってもういないが……。
「残ったのは、俺と桑元と塚原と日ノ岡、それと読川……そして、その他三名か……」
キィーン
その時、油島はいつもの警告音を聞いた。
ミラーモンスターか、それともあの王蛇か。
「変身!」
油島は誰よりも平和を望む男だった。
───…
「んー……ナナくんはコレも似合いそうだな…」
「あの、服なんて着れればそれでいいんで……」
「悪りぃな、ナナ。亮平は服にはうるさくてな」
ナナは亮平のお下がりの服を借りるために亮平と芳樹が一緒住んでいるアパートに呼ばれていた。しかし、何故こうなったのかはナナは全くわからない。
「よし、とりあえず今日はこの服着てて!あとは俺がナナくんに似合いそうな服何着か見繕っておくから」
「ありがとうございます」
そう言うとナナはいつもの帽子を被った。
亮平はお茶を出すためにキッチンへと向かったため、今は芳樹とナナしか部屋にはいない。
「ナナ、お前家の中くらいその帽子被るなよ」
「え?ああコレですか」
「それ、大事にしてるみたいだけど?」
「世界で一番大事な人に貰ったんです」
芳樹の質問にナナは帽子を取りながら答える。
「ハッハーン、恋人か?高校生なのに熱いね〜」
「違います、男の人です」
「男?」
「俺の命の恩人で、ヒーローなんですよ」
「ヒーロー?」
「はい、ヒーローです!」
ナナはそのヒーローについて目を輝かせながら語った。ナナにとってその人は掛け替えのない存在なのだろう……芳樹は長話を始めたナナをとめる。
「うん、わかった…わかったから……」
「えぇ!?こっからがいいとこなのに……」
「いや、だって。何!?警官と素手でやりあうヒーローなんて聞いたこと無いぞ!」
「でも、本当のことです。めちゃくちゃかっこいいんですからね」
「亮平!早く来て!お願いだから、この子を止めて!!」
───…
「くそっ
油断したか……」
芳樹達が馬鹿をやっていたその頃、油島はミラーワールドでモンスターと戦っていた。
王蛇であれば、目的を聞き出そうと思ったが……。
「今日は来てないか……」
「それもそうか」とナイトはため息を吐いた。
「あんなクレイジー野郎、毎回出て来てたらこっちの身が持たねぇっての」
『Trick Vent』
ナイトは自身の分身を使いモンスターに攻撃を仕掛けた。が、その攻撃はいとも簡単にモンスターに避けられる。
「な!?」
モンスターはナイトの本体を見切り反撃を繰り出す。
「ぐぁ!」
モンスターは何度もナイトを攻撃する。そしてもう一撃、というところでモンスターの攻撃は別のライダーに攻撃され止んだ。
「油島さん、大丈夫ですか!?」
ゾルダだ。
ゾルダはモンスターを遠方から攻撃し、こちらへ向かってくるモンスターを足止めする。
「すまない」
「大丈夫ですよ、俺もよく油島さんに助けられますし」
ゾルダがナイトの元へやって来た。
2対1は流石に不利と思ったのか、モンスターは二人から逃げた。
「待て!」
「日ノ岡!」
ゾルダはそんなモンスターを追いかけようとするが、それをナイトが止める。
「どうしてですか!?二人でならたおせますよ!」
「二人でならな。残念だが、俺は時間切れだ」
そう言うナイトの身体からは粒子が出ていた。
9分55秒……それは仮面ライダーがミラーワールドで戦える時間だ。
「……すみません」
「今度、礼に何か奢ってやるよ」
「本当ですか!?」
──────────
「よし、次はあそこに行こう!」
「だから俺は金が無いって……そもそもお下がりを借りるって話しじゃなかったですか?なんで買いに来てるんですか!?」
「こうなった亮平はもう止められねぇよ」
その頃、芳樹達はデパートで服を物色していた。
理由はナナの服を亮平のお下がりから選んでいる内に亮平のファッションデザイナーの血が騒ぎ始めたからである。
来た時よりも多くなった荷物を持って三人はデパートから出た。
しばらく歩くと三人は広場へやって来た。
「ここのコーヒー美味しんだよな」
「コーヒーって俺苦手なんだけど……」
「俺も苦手です」
「まあ、コーヒー以外にもあるからさ」
広場にはアクセサリーを売っている若い男女が集まっている。それを見て亮平はまた着火した。
「……コーヒー飲む前に、見に行こう!」
「え!?」
「またかよ、お前…まあ、いいけど」
「あ、ナナくんも何か欲しいのあったら言えよ」
「いや、これ以上何かを買ってもらうなんて無理です」
亮平はナナに「無理するな!」と笑いかけるがナナは冗談じゃないと方を竦めた。
「悪い奴じゃ無いんだぜ。ただ、金銭感覚がズレててファッションの事になると周りが見えなくなるだけだから」
と芳樹がフォローを入れるがナナにとってどうでもいいことだった。
ふと、ナナはコイン占いをしている男を見つける。
年は芳樹達と同じくらいだろう。何を勘違いしたのか、芳樹がナナの肩に腕を置く。
「お前、占いに興味あるのか?」
「キョーミないですよ……女の子じゃあるまいし」
「でも、ジッと見てたよな」
「コイン占いって、またなんか珍しいな」
芳樹と亮平は顔を見合わせた。
乗り気ではないナナを二人は占いの男の前に座らせた。
「あのこの子を占ってあげてください、お願いします」
「え、塚原さん!?」
男は何も言わずコインを弾きナナを占い始めた。
が、途端に動きを止めた。
「キミは……何かを隠している」
「……」
「その隠し事は誰にも言いたくないし、知られたくもないこと……」
「……」
男はまたコインを弾いた。
「このままだと、いずれ破滅の道を進むことになる。
その破滅は……この夏の終わりにやってくる」
その結果を聞いた芳樹はナナをフォローするべく話しかける。
「ナ、ナナ…占いだからな、占いだからあんまり気にすんな!」
「俺の占いは当たる」
男の言葉に芳樹と亮平は固まった。
二人とも頭の中には「空気読めよ!」の言葉だった。
「だが、運命は変えることができる…」
「……そ、そうだぞ〜ナナ、落ち込む事なんかねぇよ!そうそう、運命は変えられるんだ……!」
「これから気を付ければ、大丈夫だから!」
「………ありがとうございました」
「ナナ?」
ナナは男に頭を下げた。
心なしか、何か吹っ切れたような顔をしていた。
「あの、貴方はなんでも占えるんですか?」
ナナは何かを確信したように男を見る。
まるで、獲物を逃がさんとする蛇のような目で……。
「もし、そうなら……人探し、とかできますか?」
───…
「それにしても、あのモンスターなかなか手強かったですね」
「多分、桑元が負けたのはあのモンスターだろうな」
「でしょうね〜。
そういえば、油島さん」
「なんだ?」
「読川、なんか妙な動きはしませんでしたか?」
「今のところ無いな」
「そうですか……」
「日ノ岡、ナナが王蛇ってのわ考え過ぎだろ?」
自宅へ戻るため、油島と日ノ岡は帰路についていた。
日ノ岡は芳樹と亮平には話していないがナナが王蛇ではないかと睨んでいる。
それもそのはずだろう。ナナはここへ来て一度もカードデッキを見せていないし、変身した姿も見せていないのだ。怪しむのも無理はない。
反対に、そのことを日ノ岡から知らされていた油島は王蛇はまた別の人物だと思っている。ナナは確かに不思議な奴だが悪い奴ではない。むしろ優しい子だ。そう、少なくとも油島は思っている。
「確かに、まだ証拠はありませんけど……あの馬鹿二人には読川の様子を見させておきましょう、でいざとなったらそれを外す……もし、これで王蛇が出てしたら……読川はほぼ黒です。強制的にでも、カードデッキを見せてもらいます」
「………そうだな、それでもし、あいつが王蛇じゃなかったら、その時はちゃんと謝れよ」
「わかってますって……じゃあ、俺こっちなんで。さようなら!」
「おう、気ぃ付けろよ」
───…
─「残念だが、それはできない。
それと、これ以上、願いを叶えようとしない方が身のためだ」─
油島の家へ帰って来たナナはテーブルに突っ伏していた。ナナの願い。ナナはそれを叶えるためにここへやって来た。願いを叶えるにはここしか残っていなかったから……。
「あの人、マジで本物だ……」
あの人、先ほどの占い師を思い出してナナは窓を見る。その時、ナナは何かの視線に気付き急いでカーテンを閉めた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
ちょうど、その時油島が帰って来た。
ナナはホッと一息ついて油島を出迎えるために玄関へと向かった。
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