仮面ライダー龍騎【13 people of another】
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Part One.
First chapter.
第2話
聞こえていた。
声が聞こえていた。
彼の声が聞こえていた。
みんなの声が聞こえていた。
聞こえなくなった。
声が聞こえなくなった。
彼の声が聞こえなくなった。
みんなの声が聞こえなくなった。
わかっていた。
結局自分は1人なのだと、何処かで気がついていた。
あの人は自分を最後まで守ってくれたというのに自分は何も返すことはできない。
だから変身するのだ。
──────────
「えー…、ここは……」
静かな教室、芳樹と亮平は授業を受けていた。
と言っても、芳樹は昨日、戦いが深夜まで長引いたために寝不足だった。
「芳樹、寝るなよ」
「わかってるよ」
寝そうになると亮平が起こしてくれるのだが、正直いつ眠ってしまうかわからない。
「………芳樹?」
頭が上がらない芳樹を見て亮平は溜息をついた。
芳樹はとうとう睡魔に勝てず眠ってしまったようだ。
───…
「全く、芳樹はすぐ寝るよな」
「我慢できなくて…亮平、後でノート見せてくれ」
「仕方ないなぁ……」
授業が終わり二人は大学を出る。
二人はなるべく必須科目以外は受けないようにしていた。今日は授業は全部終わってしまったので少し早いが帰ることにしたのである。
キィーン…
「!?」
「亮平!」
「ああ、行こう芳樹!」
二人は人気のないビルの窓の前に立った。
「変身!!」
「変身!!」
二人は龍騎とライアに変身し、ミラーワールドへと入って行った。
───…
油島はナイトへ変身し、目の前の敵を見据える……。
目の前には仮面ライダー王蛇が立っていた。
「……お前が、最近ライダーを襲っている一連の犯人か?」
「そうだけど?これはこういう戦いなんだろ?」
なんの躊躇なく答えた王蛇はカードを取り出した。
そしてコブラを模した召喚機、牙召杖にカードを装填する。
『ソードベント』
王蛇は蛇の尾を模した黄金の硬鞭【ベノサーベル 3000AP】を召喚した。
『ソードベント』
それに対抗すべく、ナイトも【ウイングランサー
2000AP】を召喚する。
「最初に言っておく。願いを叶えるのは後にしろ」
「何それ、願いを叶えるのは全部のモンスター倒してからとか、そう言いたいのか?」
「俺達は今戦い合うよりも、モンスターを倒し、人々を救う事に専念している」
王蛇はベノサーベルでナイトを攻撃した。
ウイングランサーで受け止めるも、力は王蛇の方が勝っていた。
「……くっ!」
「俺は、願いを叶えるのを後回しなんかにできない。早く戦いたい。早く願いを叶えたい。たったそれだけだ。なのに、アンタ等はそれを後回しにして『人のためにライダーをやっている』?ふざけるなよ。俺は戦いたいのに……」
王蛇は何度もナイトに斬りかかる。
その度にナイトは苦痛に顔を歪め、王蛇を蹴り飛ばした。
「くそっ」
そうナイトが小さく呟き、新たにカードを装填する。
『トリックベント』
するとナイトの分身が現れる【シャドーイリュージョン 1000AP】だ。
「はっ!」
ナイトは分身達と同時に王蛇に攻撃を仕掛ける。
王蛇はその攻撃を避けることもせず、ジッとその場に立っていた。
そして、ナイトの攻撃が当たる瞬間……。
───…
「あ、油島さん!?」
ミラーワールドへ来たライアがナイトへ変身した油島を見つける。
「桑元、塚原!逃げろ!」
「逃げる!?」
「油島さん、何言って……!」
すると、激しい音がしたと同時に王蛇が建物の中から出てきた。
「あれ?なんかライダーが増えてる……」
「お前は……!?」
「あいつは、最近ライダー達を襲っていた犯人だ!」
龍騎とライアはナイトの言葉に衝撃を受けた。
初めにこの戦いを始めた男が目の前にいる。仲間を傷付けた男が目の前にいる。二人は闘志に火がついたように王蛇と戦おうとするが。
「やめておけ。あいつは、今までのライダーとは、全く違う!」
「どういう意味ですか、油島さん!?」
「そのままの意味だ。あいつにはお前達は敵わない」
ナイトは二人を止める。
先程戦ったナイトはわかるのだ。この王蛇は何かが違うと。
「なに?もうやめちゃうの」
「……油島さん、俺はやるぜ!」
「桑元!いいから今は逃げるぞ!」
「油島さん、アンタは怯えすぎなんだよ!
俺はこのくらいの修羅場、何度も通って来た。大丈夫だ、俺が頑丈なのはよく知ってるでしょ!」
龍騎はナイトの肩にポンと手を置く。
そして王蛇の元へ一直線に向かって行った。
「さぁて、勝負だ!」
「次は、アンタか……」
「お前は、なんでライダー達を襲ったりしたんだ!?」
「なんで?って……それがこの戦いだからな。俺はなんにも悪いことはしていない」
「それでも、お前は人を殺したんだぞ!」
「そんなことどーでもいい。
やっぱりみんな生ぬるい奴らばっかりだな」
王蛇は悪びれる様子もない。
二人の間にはジリジリとした火花が散る。
「人を殺したって……?別にいいだろ。それができないアンタ達はただ単に人を殺すのが怖いだけだ」
「っんなワケないだろ!俺は、俺達は人を守るためのライダーだ!ライダー同士、戦うためなんかじゃない!」
「ライダー同士戦うためじゃない?また甘いことを……あいつにカードデッキ貰った奴だから少しは期待したんだがな……とんだハズレだよ」
そう言うと同時に王蛇は龍騎に襲いかかった。
龍騎はそれに間一髪のところで反応し避ける。
「くそっ!おい、やめろ!もうこんな、ライダー同士で戦うなんて……!!」
ナイトを安全な場所に移動させたライアが王蛇を止めようとする。
「うるさい、黙って戦え!」
しかし王蛇は攻撃をやめない。
戦えと、そう二人に言う王蛇を見てライアはナイトが言っていた言葉の意味がわかった。
─「あいつは、今までのライダーとは、全く違う!」─
ライアは目の前にいる王蛇の願いが何か、少し興味が出てきた……。
「戦ってお前はいったい何がしたいんだ?」
「……別に、ただ戦いたいだけ」
「それが、お前の願い?」
「まあ、そうなるな。ってことは俺の願いはもう叶ってるワケだ……」
王蛇は嘘を付いた。
自分の願いを言ってしまうとあの頃に帰りたくなってしまう。戦いの時は戦いのことだけを考えなくてはならない。別の事なんて、あの人のことでも考えてはダメなんだと、王蛇は自分に言い聞かせていた。
「うわぁ!?」
「芳樹!!」
龍騎は王蛇に吹き飛ばされる。ライアも王蛇の重い一撃をくらいまともに立てなくなっていた。
「さてと、コレで終わらせる」
『Final Vent』
王蛇は自身の契約モンスター、ベノスネーカーを召喚する。空中からベノスネーカーの毒液の勢いを乗せて連続蹴りを放ち龍騎に攻撃する。
「ぐわぁ!!?」
「あれ?まだ生きてたのかよ……」
王蛇は止めを刺すべく倒れこむ龍騎の前へやってくる。が、王蛇の前で何かが弾けた。
「!?」
「これは……日ノ岡!!」
ライアが周りを見渡すと少し離れたところにゾルダが機召銃を構えている。
「おい、シャキッとしろ桑元!」
ゾルダは王蛇に攻撃を浴びせ続け、龍騎から距離を遠ざける。
「悪い、日ノ岡!」
『ソードベント』
そう言うと龍騎は召喚機、龍召機甲にアドベントカードを装填する。そして【ドラグセイバー 2000AP】を召喚した。
が、王蛇の身体から粒子のような物が出てきた。
「……時間切れか……」
ミラーワールドには生身の人間は長時間存在することが出来ず、一定時間を過ぎると粒子化して消えてしまう。逆にミラーワールドに生息する者が現実世界に長時間存在することもできない。ミラーワールド内でのライダーの活動限界時間は9分55秒……王蛇は先程のナイトとの戦いを含めこのミラーワールドにいるためその時間が他のライダーよりも早く来たのだ。
王蛇は龍騎達に背を向けその場から立ち去った。
──────────…
「どうした、今日はやけに時間が掛かったな」
「……別に、今日の戦いがちょっと楽しかったってだけだ」
金髪の青年が男と話している。
青年の顔は帽子を深くかぶっているためかよく見えない。この青年は芳樹とファミレスで話したあの青年だった。
「お前を満足させるとは……成る程。
しかし、今日は誰も倒せなかったようだな」
「こういう日があっても別にいいだろ?」
青年は壁に寄りかかり溜息を付く。
「読川ナナ。全てのライダーを殺せ」
「……わかったよ。全然戦わないあいつらの代わりに…この戦いを激化させる。アンタも、残りのライダー選びは慎重にな……」
読川ナナと呼ばれた青年は暗闇の中へ消えて行った。
───…
「くっそぉ!アイツ、許せねぇ!!」
「芳樹、ちょっと黙ってて」
いつものファミレスで芳樹、亮平、日ノ岡、油島は四人で席に座っていた。
「すみません、海鮮グラタン一つ」
「ナポリタンお願いします」
「トンカツ定食」
「じゃあ俺、牛丼」
「俺は、唐揚げ定食」
知らない声が聞こえて、四人は一斉に声が聞こえた方を見る。
そこには金髪の帽子をかぶった青年が座っていた。
芳樹はこの青年に見覚えがあった。
「あ!お前、あの時の……!」
「お久しぶりです。なんか満員らしいので相席させていただきます。よろしくお願いします」
「……芳樹、知り合いか?」
亮平は芳樹に尋ねる。
芳樹は口元をとんがらせる。
「この前、話しただろ……新しくライダーになった奴だよ」
「ああ、パフェ食い逃げして芳樹が払ったんだっけ?」
「間抜けだな」
「まったく、それでもライダーかよ」
「酷い!酷いぞオイ!」
「あ、今回もご馳走になります」
「何言ってんだよ!そもそもお前、名をなのれ馬鹿野郎!あと帽子も取れ!」
青年は帽子を取った。
顔は整っておりモデルと言われれば納得がいきそうだ。しかし、思っていたのよりも幼い顔だったため、芳樹は少し驚く。
「読川ナナです」
「ナナ?女の子みたいな名前だな」
「よく言われます」
「ってか、なんで今回も俺が奢らなきゃならないんだよ!」
「家出してて、お金がないんです」
「家出?」
「はい、俺は今高校二年なんですけど、進路のことで親と喧嘩してまして……」
ナナは帽子をかぶり直しながら芳樹の質問に答える。
進路で親と喧嘩をしたと答えるナナを見て、数年前まで受験生だった己を四人は思い出した。
「うん、その気持ちはよくわかる」
「仕方ねぇ、奢ってやるよ」
「家出って……読川くんはどこで寝泊まりしてるの?」
亮平がもっともらしい質問をナナに投げかける。
「野宿してます」
「野宿!?高校生が!?」
「あんまり大声出さないでください」
「あ、ごめん」
「お待たせいたしました、唐揚げ定食と海鮮グラタンです」
ウェイトレスが持って来た唐揚げ定食と海鮮グラタンをナナと日ノ岡が受け取る。
「……読川」
「はい、なんですか?」
「その格好は夜、出歩いていたら補導されるんじゃないか?」
油島はナナの服装を見て問いかける。
ナナは高校の制服を着ており、補導される恐れがあった。
「本当だな」
「一番いいのは、今すぐ家に帰る方が……」
「絶対嫌です」
高校生は扱い辛い。もう大人に近づいた子供は自分で何かをしたいと言う考えが身につくのだ。
「仕方ない、油島さんこの子泊めてあげたら?」
日ノ岡がとんでもない発言をした。
油島は呆気にとられポカンとしている。
「だって、俺ら学生ですよ。家族と一緒に住んでますし……だったら、一人暮らしの油島さんが一番適任だと思うんですよ」
「成る程……じゃ、油島さんよろしくお願いします」
「ナナ、この人にあんまり迷惑かけんなよ」
「はい、油島さんよろしくお願いします」
そして強制的に油島とナナの共同生活が始まったのだった。
───…
「あ、初めにいいですか?」
「なんだ?」
ファミレスを出た五人は帰路についていた。
「俺、戦いって嫌いなんです。モンスターとの戦いもしたくないし、ライダー同士の戦いもしたくない」
「……そっか」
「それなら仕方ないな」
ナナは呆気に取られた。この四人に一言か二言小言を言われると思っていたのに、あっさりとそれを承知してしまったのだから無理もない。
「モンスターは俺らに任せとけ!」
「けど、契約モンスターがお腹空かせたらいけないから、適度に戦った方がいい」
「ライダー同士の戦いが嫌いって言う子が居てくれて嬉しいよ」
「………ありがとうございます」
今日はファミレスの前で五人は別れた。
満月が空に浮いている。
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