ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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竜の咆哮
ユウキが嫌そうな顔をしていたが、結局空腹には堪えられなかったようで食べ始めるのを苦笑しながらパンを口に運ぶ。
レアはなにが嫌なのかわからず、終始不思議そうな顔をしていたが。
食べはじめて数分後、満足したのかヘラがやけにツヤツヤとした顔で食卓についた。グレイ?そこら辺に転がってる。
「白イウムの口には合わなかったのかい?」
「味は問題ないが、芋虫を食べる文化は少なくてな。なかなか受け入れ辛いんだろう」
日本だと昆虫を食べる文化ですらあまりないからな。蜂の子と蝗くらいじゃないだろうか。
一般家庭出身のユウキには辛いものがあるだろう。食感とかビジュアル的に。
俺はまあ、気にしなければ問題なかった。
「あー……そいつはすまなかったね。でも、ここにはそういうもんしかないのさ。普通の肉なんてありゃしない」
「うぐっ……う、うん。味はいいんだよ……味は……」
若干青い顔をしているユウキは、竜のいる場所へとレアに案内している途中までそのままだった。
「そろそろ大丈夫か?」
「う、うん……なんとか……」
まだちょっとフラフラしているユウキを気遣いつつ、薄暗い洞穴を進む。
「……この先だよ」
先頭を歩いていたレアは立ち止まると、身体ごとこちらに振り返り、そう言った
レアの身体の向こうには一つの曲がり角があり、その左には今いる場所よりも明るく、光が漏れているように見える、洞穴の続きが存在している。
レアが言うにはこの先に巨大な空洞があるらしい。
「じゃ、じゃあ……ボクは剣になるからあとはよろしくね?」
「ああ……任せろ」
そう言ってユウキは剣になった。そしてその剣を腰に吊ると俺はレアに向かって一つ頷く。
「……死なないで。危なくなったら逃げてね?」
「ああ……まあ、ボチボチ頑張るさ。それはそうとくれぐれも乱入するなよ?仮に俺がピンチでも、レア程度の実力だったら足手まといにしかならないし、時間稼ぎにすらならないから」
「……う、うん。わかった」
返答に間が合った。自分なら敵わないまでも、時間稼ぎ程度くらいはできるって思ってやがったな?
……乱入されるという不確定要素だけは本当に勘弁して欲しい。レアの実力だとフェイントと死に体を勘違いして突撃してきそうだから。
「……乱入してきたら敵と見做して叩き斬るからそのつもりで」
あ、顔色が明らかに青くなった。
……まあ、このくらい念入りに念を押しておけば大丈夫だろう。
「……さてと……」
レアの横を通り抜けると、俺は角を曲がり、ぽっかりと開いた空間へと入って行った。
天井には穴があり、そこから外の光が入って来ている。その光のため、他の場所よりも明るかったようだ。
外の光……といっても太陽光のような暖かさはなく、どちらかと言えば蛍光灯の明かりのような寒々とした明かりで、機能美という言葉を思い起こさせる。
そんな光に照らされて白銀の燐光のような輝きを映し出す竜がその空間の中央に鎮座していた。
形は地をはいつくばったその姿は俗に言う地竜というやつで、地上に適した様相をしている。だが、竜として予想される強さから齎される威圧感は空を飛ぶ竜と較べて、なんら遜色ない。
その竜は人の気配を感じとったのか、閉じていたその爬虫類独特の切れ長の目を開き、こちらを睥睨した。
そして……閉鎖された空間で増幅反響されたのも相まって、鼓膜が破れるかと思うほどの声量で咆哮する。
「……五月蝿いな」
「あはは……人型じゃなくてよかったかも……でも五月蝿いね……」
剣とはいえ、聴覚はあるからな。……鼓膜はないから常識の範囲内で収まるのだろうが。
数秒続いた咆哮。それに期待された反応を見せなかったからか、竜は驚いたように目を見開いた。
圧倒的な強者であろうと推察できる竜にとって、自身が吠えてその程度の反応しか示さなかった存在など、数えるほどしかあるまい。それが自身よりも比べものにならないくらい小さなイウムであれば尚更のことだ。
油断とも取れるその行動。圧倒的強者であるからこそ薄れてしまった野生の勘。その二つが合わさり、致命的な隙を生み出してしまう。
巨体は確かに強力な武器だ。ただの移動だけでも致命的な攻撃となりえるのだから。
だが、その巨体は多くの死角を生むのだ。
できた隙を利用し、瞬歩で竜の意識外へ抜ける。そして死角である懐に跳び込み、竜の意識が追いつく前に生物共通の弱点である喉元に向かってソードスキルを二連で放つ。
システム外スキル【シンフォニー】による突撃系剣技【ソニック・リープ】二連。
竜に切り付けて、一気に走り抜けて着地した俺は咄嗟に剣をクロスして横から飛んできた巨大な尻尾を受け止めた。
「ぐっ……」
苦し紛れの一発にしてはそれは重く、後ろに跳んで精一杯衝撃を殺してもなお、凄まじい痺れに身体中を襲われた。
先に攻撃した際に、その衝撃で痺れていた手では、もうすでに剣を保持するための握力はなく、衝撃に合わせて宙を舞う。それが俺の身体に走るはずだった衝撃を多少和らげたのは何と言う皮肉だろうか。
「……ソードスキルを重ねて……体重をすべて載せても抜けないなんて硬い鱗だな、本当に」
悪態を付きながらもバックステップで距離を取り、飛ばされた際に人型に戻っていたユウキと並んで竜の様子を見る。
竜は俺を油断ならない相手だと認めたらしく、低い唸り声をあげながらこちらの一挙手一投足を観察していた。
「……だが、丸っきり効いていない……というのが救いか」
竜の喉元、ちょうどソニック・リープが直撃したところにある一枚の鱗に大きめの皹が入っている。
これはソニック・リープの威力の低さを歎くべきなのか、それともソニック・リープ程度で皹が入るユウキの変化した剣の攻撃力の高さを褒めればいいのか……わからないな。
「これ、詠唱しようとしたら突っ込んでくるよね。いつでも動けるように足に力入ってるみたいだし」
「だろうな。……正直、最初の接触で決めるつもりだったんだが……」
線での攻撃ならば、そう思うが、竜の攻撃はほぼすべてが面での攻撃。つまり、受け流しがしにくくいつもの戦い方ができない。
「何とか貫けないの?リンって確かそういう系統の武術を使えたよね?」
「……無理だな。さっきの接触した感じではあの鎧の下に厚い脂肪の層かなにかのクッションがある。衝撃を透しても減衰されて本命の内臓への衝撃は通らない」
身体が大きくなった分、皮下脂肪も筋肉も桁外れに厚い。
それでいて鱗は硬く、斬撃も通らないとなれば半ば絶望でしかないのだが。
「ど、どうするの?」
多少焦燥感の混じった声をユウキが発するが、俺は竜から目を離さない。
「鱗を砕いて、そこから喉を潰す。それしかないだろう」
言うのは易いが、実際に実行するには難い。今度は竜も自らを傷つけた相手に慢心することはないだろう。
相手の攻撃は即死級。こちらの攻撃は全力で撃っても軽傷級。割に合わないことこのうえない。
「……とりあえず、ボクが剣になるための時間を稼がないとダメだろうけど……どうするの?」
「俺が突っ込む。その隙に剣になってくれ。二本ではなく、片手剣一本で構わない。地面に刺さった状態で頼む」
「え……双剣じゃないの!?う、うん……わかった」
さっきと同じ様に二本の片手剣になろうと思ってたのか、驚きの声をあげるユウキに軽く頷く。
ユウキは戸惑ってはいたものの、最終的には同意した。理由を説明しなくとも、信頼してくれるのはありがたい。
「じゃあ……行くぞ」
そう言うと同時に地面を蹴り、即座に距離を詰めて竜に肉薄する。
さすがに準備をしていただけあり、竜もしっかりと反応した。
太い右足を上げてのスタンピング。俺の動きから進路を予測し、ちょうどかわせないような距離、スピードで放たれたそれを横に跳ぶことで回避した。
攻撃するつもりだったのならば、当たっていただろうが、生憎と俺の目的は時間稼ぎ。正面からの特攻に対する対処方法は噛み付きかスタンピング、頭突き、ブレス(撃てるかは不明)くらい。攻撃部位は足か頭。集中して観察していれば、次の行動を読むことは容易い。……回避はギリギリだったのだが。
横に跳び、地面についた手を曲げて、片手倒立の状態からさらに上に方向を変えて跳ぶ。すると俺のすぐ下を竜の太い尻尾が轟音を立てて通過していった。
スタンピングの踏み込みを使用したテイルスイング。やはりこの竜、知能が高い。となれば、ここで攻撃の手を緩める道理は存在しなかった。
俺の現在の位置は空中。鋼糸があれば移動もできるのだが、今はまだ持っていない。
重力に引かれ、地面へと向かう俺に向かって竜は突進を開始した。
後書き
リンの現在地は山ゴブリン族の棲み処です。原作小説に付随されている地図で御確認ください。
どうも蕾姫です。
アリシゼーション編はこれまでにない程の長編になりそうな予感。……シノン成分が足りないのが難点。代わりにユウキ成分などいかが?(笑)
閑話とかで糖分補給しつつ、エタらないように頑張って参ります。
感想が燃料!
次回もよろしくお願いします。ではでは。
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