戦国異伝
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第百七十四話 背水の陣その十二
「生きるしかないな」
「権六殿もわかっておられますな」
「だからこそ川を渡られたのじゃ」
背水の陣の強さ、それをだというのだ。
「しかしそれも限度がある」
「明日ですか」
「明日以上はもたぬな」
これが明智の読みだった。
「それ以上はな」
「左様ですか」
「では明日殿が来られるまで、ですな」
「殿は来られる」
必ず、というのだ。913
「だからな」
「明日ですな」
「明日踏ん張れば」
「うむ、凌げる」
勝てずとも、というのだ。
「だから安心せよ」
「わかりました、では」
「明日踏ん張りましょうぞ」
こう話してだ、そしてだった。
明智達は明日も踏みとどまることにした、そしてだった。
その中でだ、彼等は明日のことを考えながら寝入った。それは謙信も同じだったが彼の場合はというと。
酒を飲んでいた、それで言うのだった。
「美味です」
「酒がですか」
「はい、やはりです」
本陣において飲みながらだ、謙信は兼続に言った。
「酒はよいものです」
「左様ですか、それは何よりです」
「そなたもどうですか?」
謙信は微笑んで兼続にも酒を勧めた。
「共に」
「御相伴に預かって宜しいのですか」
「はい」
謙信は微笑みのまま兼続に答えた。
「私は誰であろうとそこにいればです」
「酒を共にですか」
「勧めます、それでどうされますか」
「それでは」
謙信のその言葉を拒む筈がなかった、兼続にとって謙信は絶対の主だからだ。それで謙信の言葉を受けてだった。
杯を受け取った、そのうえで。
謙信自ら注ぐ酒を頂いた、そうして飲み。
静かにだ、兼続はこう言ったのだった。
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