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戦国異伝

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第百七十四話 背水の陣その一

              第百七十四話  背水の陣
 柴田達は北ノ庄城に入った、城はまだ築城中であり石垣や城壁もまだ築かれていた。しかしそれでもであった。
 五万の兵がそこにおり柴田達も入った、そしてだった。
 城の中でだ、柴田はすぐに諸将に対して言った。主の座は置いて自身は家臣としての最も上座にいてそこで話すのだった。
「さて、ではじゃ」
「そうじゃな、これからな」
 佐久間がその柴田に応える。
「加賀に入りじゃ」
「そのうえで手取川を渡ってな」
 そのうえでだというのだ。
「上杉との戦じゃ」
「しかしじゃ」
 佐久間はここであえて柴田に言った。
「あえて言わせてもらうとな」
「川を渡らずにじゃな」
「そうじゃ、守る方がよい」
 己の向かい側にいる柴田への言葉だ。
「そうだがな」
「しかし川の北を抑えられると」
「渡れぬな」
「加賀の北は上杉のものになる」
 それが問題だった。
「それをさせてはならん」
「だからじゃな」
「そうじゃ、あえて川を渡ってな」 
 そのうえでだというのだ、
「加賀の全てを治めなくてはな」
「ならぬからな」
「川を渡る」
 柴田はここでも言い切った。
「そのうえで上杉と戦うぞ」
「そして殿が十万の兵を率いられてじゃな」
「川の北に来られるまで守る」 
 川の北をというのだ。
「そうするぞ」
「覚悟しておるな」
 佐久間は強い声で柴田に問うた、柴田と並ぶ織田家の武の二枚看板のもう一枚として。
「恐ろしいまでに強いぞ」
「上杉謙信はな」
「まさに軍神じゃ」
「あの武田も危うくじゃったな」
「川中島で負けておった」
 まさにだ、武田はあと一歩で敗れていた。そこで多くの将帥を失うところであったことは天下に知られていることだ。
「北条もな」
「全く歯が立たなかったな」
「一向宗にも負け知らずじゃった」 
 数で来る彼等にもだ。
「軍神と呼ぶ他ないわ」
「それはその通りじゃな」
 こう二人で話すのだった、そしてだった。
 ここでだ、柴田はあえて言うのだった。
「しかしそれでもな」
「これからのことを考えるとじゃな」
「川を渡ってじゃ」
「加賀の全てを治める必要があるな」
「うむ、その通りじゃ」
 だからこそ、というのだ。
「ここは川を渡る」
「加賀から能登、そしてやがてはか」
「越後まで行く為にな」
 そこまで見ていた、柴田は。織田家の天下布武の為にここは川の北に出るべきだというのである。それでだった。
 柴田はだ、ここで諸将に言い切った。
「わしは川を渡るぞ」
「そしてですか」
「上杉と戦われますか」
「うむ」
 まさにだ、そうするというのだ。
「そうする、しかしじゃ」
「我等はですか」
「残りたくばですか」
「相手は越後の龍、命が幾つあっても足りぬ」
 戦うとなればというのだ。 
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