つぶやき |
---|
もし、彼女が弱さに耐えかねたのなら。彼に頼ったのなら。そして彼が耐えられなかったのなら…… 物語は姿を変える。歪なカタチへと。 60話『少女の慟哭』分岐√ ―――― 涙に暮れる白蓮の身体は未だ震えていた。 自身に押し寄せる罪悪感は秋斗の心を蝕み、せめて何か返す事が出来ないのだろうかと思考を向けていく。 ふいに、彼女は顔を上げた。涙で濡れる彼女は美しく、儚げで、誰しもが守りたくなるような少女であった。 見つめられた秋斗の胸はさらに締め付けられた。瞳の中の絶望を覗いてしまったが為に。今、彼女を支えられるのは彼だけなのだ。何かを与えてやれるのも彼だけ。 「……牡丹は……お前の事が……好きだったんだ」 唐突に、なんの脈絡も無く告げられた一言に秋斗の思考が真っ白になった。 牡丹は白蓮が好きだったはず、自分に淡い感情を向けるわけがない、そう思っていたから。 呆然とした秋斗の様子を見て、白蓮は眉を寄せ、熱っぽい視線を向け始める。 「やっとわかったよ。あいつが好きになった理由も……」 折れてしまった心は皮肉にも、折った相手を求めてしまう。 悲しみに耐えられなかった彼女は失った心の空白を埋めようと、傍にいる彼を求めてしまった。 未だ思考が定まらない秋斗は白蓮を見ながらもその状態を把握出来ていなかった。 だから……すっと唇が重ねられて、数瞬の間を置いて離れて漸く、彼女に意識を向ける事が出来た。 悲しみに染まった瞳を見て、苦しげな表情を見て、彼女を支える方法がすぐに頭に浮かぶ。もう一度、求めるように顔を寄せられたが…… 「お前は寂しいだけだ。失ったからそう勘違いしているだけだ。今のは忘れろ白蓮」 肩を押して、優しく突き放した。本当に支える為の方法では無いのだと知っているから。 秋斗の言葉を聞いた白蓮の目からは再び涙がこぼれ始めた。 「……っでもさぁ……胸が苦しいんだ、もう、ダメなんだ……一時の夢でいいから……この幻想に溺れさせて、全部を忘れさせてくれよ……そうしたら……きっと私は元に戻れるから」 ぐちゃぐちゃになった心のせいで、星の想いも牡丹の想いも頭には無かった。 はらはらと涙が落ちるまま、泣き笑いの顔を向けられて、秋斗の心が揺れ動く。 大切な友を支える為に出来る事の一つなのだ。 ただ、それをすればどうなるか……彼とて分かっている。 何より……あの子を傷つけてしまうのだから出来るわけがない。 しかし、目の前の壊れそうな少女を放っておけるかと聞かれても、秋斗には判断できなかった。 迷っている内に、白蓮は秋斗をゆっくりと押し倒し……再び唇を重ねた。そして抱きしめて口を耳元に持っていき、偶然にも、彼の心の一番弱く脆い所を突き刺した。 「……嘘つきに、なって。一時でいいから、私の為だけのお前になってくれ」 弱っている状態で『嘘つき』の言葉を聞いて……秋斗の脳髄に呑み込んだはずの怨嗟の声が溢れかえる。その中の一つに、白蓮の失った大切なモノ、秋斗にとっても大切なモノの声が追加されていた。 ――ねぇ、秋斗。私を助けなかったのに、私が助けた白蓮様を助けてくれないんですか? 彼の瞳に絶望が溢れかえる。だが、抱き着いている白蓮には見えてはいなかった。 心が潰れる寸前にまで追い詰められている事に彼女は気付く事が出来なかった。 無言のままでいる秋斗の様子から、受け入れてくれるのだと判断した彼女は優しく止めの言葉を告げる。 「ありがとう、助けてくれて」 白蓮が放った言葉の意味は、命を助けてくれたのは秋斗でもあると感じている為のモノであった。 だが、今の彼がそれを聞くとどうなるか。彼女には分からない。 そのまま……秋斗の心に大きなヒビが入り、脳髄の中の牡丹が微笑む。 ――私の心は白蓮様と共にあるんです。だから……白蓮様と一緒に愛してください。そうすれば、私も白蓮様も助けられますよ。 甘い誘惑。砕けかけた彼の心にはじくじくとしみ込んでしまうほどの。 白蓮は耳に、頬に、首筋にと、本能の赴くまま、一つ一つ口付けを落としていく。 二つの甘美な誘いには、弱り切った男が抗えるはずも無く。 彼女を抱きしめて、甘い瞳と目を合わせ、自分から……口付けを交わし、心に空いた穴を埋めようと、彼女を求めてしまった。 ―――― エイプリルフールなので嘘です。続きません。 こんな思いつきのIFルート。ふしだら禁止です。ぎりぎりのラインでは無いでしょうか。 こうなるとメインヒロインが白蓮さんに移行しますねー。 主人公はぶっ壊れますけども。 ではまたー |
その日の仕事を終えて、長い廊下を歩いていた。 ふと、楽しそうな歌が聴こえて脚を止める。その場所は厨房の前、聞こえてくる歌は意味を理解出来ない単語が多かった。 そのような単語を知っているのは一人しかいない。 扉をそっと開けて覗き見ると……甘い匂いが迎えてくれた。 中ではくるくると忙しなく料理をしている彼。 ニコニコ笑顔で手際よく動く様子が普段の彼からは想像も出来ないくらい可愛く見えて、少し胸がときめいた。私も手伝ってもいいだろうか。 ふいに、視線が交差した。 「お、おう」 「あわわ……」 私も彼も、何を言っていいか分からなくて変に言葉が漏れる。 ――何を作っているんですか? そう尋ねようとしたが、すぐに彼は意地悪な顔に変わり、 「見なかったことにしないと雛里にはあげない」 とだけ言って私から目線を切って料理に取り掛かった。 教えてくれてもいいのに。 そういえば、この甘い匂いは覚えがあった。私の大好きな…… すぐに扉を閉めて廊下を進む。 嬉しさと期待で弾む胸を携えながら。 後日、皆は夕食の後にそれぞれの部屋に届けられた彼からの贈り物の話をしていた。 ほわいとでぇ。ひと月前の贈り物に対するお返しとの事。 彼からのお返しは大好きな甘味である『ほっとけぇき』 わざわざ店長さんのお店から材料を取り寄せてくれたらしい。 ただ、私と朱里ちゃんのだけは別のモノも贈られていた。 藍色と朱色の押し花を厚紙にあしらった栞。 くっきぃのお返し、とのこと。 本が好きな私達の事を考えてくれたんだと胸が暖かくなると同時に、相変わらずの鈍感さで伝えた気持ちに気付いてくれなくて少しの落胆はあったけど、めげずに頑張ろうと二人で決意を固めたのでした。 ―――――― 忙しくて時間が足りないので超短編となってしまいました。すみません。 ではまたー |
「遅れて申し訳ない! 秋斗殿、鈴々、おかえり」 急いで机の前に並ぶ愛紗はその手に金属製で半円形の蓋のされた皿を持っていた。コトリと机の端に置き、俺達の方を向いて微笑む。 お楽しみは後で、と言った所か。 「ただいまなのだ! 揃ったし食べてもいい!?」 「ふふ、いいよ鈴々ちゃん」 「味見もしたし、気に入ってくれたら嬉しいんだけど」 「鈴々、待った! 桃香に挨拶でもしてもらおう」 「ええ!? うーんと……うん! 何にも用意出来てなくて申し訳ないけど……『ばれんたいんでぇ』は贈り物をする日なので、せめて私からは感謝の気持ちを贈ります。みんな、いつも支えてくれて本当にありがとう。これからもよろしくね。こんな素敵な日がたくさん溢れる世界になりますように。 じゃあ……頂きます!」 桃香の言葉に皆も感謝の意を伝えあい、それぞれが朱里と雛里の作ったクッキーと俺の買ってきた団子を食べ始める。 クッキーは驚くほどおいしかった。やはり二人はお菓子作りが上手い。 団子は普通だった……ホワイトデーは俺がしっかりと料理を作ろう。店長のとこに手紙を送って甘味の材料とか買い取って……。 これも内緒にしておけば驚くだろうな。 しばらくしてクッキーも団子も少なくなった頃、鈴々がうずうずと愛紗の持ってきた皿を気にしていた。 「なぁ愛紗。愛紗は何を作ったのだ?」 「ふふ……そうだな。そろそろ開けるとしよう。皆、常日頃から感謝している。ありがとうとの気持ちを込めて作ったので食べてほしい」 愛紗が蓋に手をかけた瞬間、何故か俺は血みどろの戦場を思い出し、脳髄が警鐘を鳴らし出す。 ダメだ、それを開いたら後戻り出来なくなる、愛紗を止めろ、と。 無意識のうちに手を伸ばしていたが一歩及ばず―――― 地獄の窯の蓋は開かれてしまった。 あふれ出る異臭に愛紗以外のすべての人物は鼻をつまんで口を抑え、一番近くにいた鈴々はずざーっと戦場での行動並に迅速に後退した。しかしちゃっかりクッキーと団子を避難させている。 はわあわと慌てる二人は鈴々に倣って部屋の隅にまでとてとてと駆け出し、桃香は引き攣った笑顔のままで愛紗を見つめていた。 涙が溢れそうになるほど刺激的な匂いを発するそれを見ると……ダークマターの名が相応しいほど黒々とした黒トリュフのようなモノがそこにはあった。 「な! どうした!?」 皆のいきなりの様子に慌てる愛紗でだったが……お前はこの異臭に気付いていないのか!? 「……愛紗、これはなんだ?」 「……? くっきぃです。あなたの作り方を前に見ていたので思い出しながら、まあ私の想いを込める為に少しだけ手を加えてみましたが、問題ないでしょう?」 これがクッキーだと? チョコだと言われればまだ頷ける。何故こんな真円になるのだ。それに焦がしただけなら異臭などしないだろうに……何を混ぜ込んだらこんなことになるのか。どの点を見て問題ないと言いやがるのか。 「あ、愛紗……鈴々はおなかいっぱいだからもう食べられないのだ。気持ちだけで心が膨れたからかも」 「私も……その……久しぶりに食べ過ぎました。お気持ちだけありがたく頂いておきます」 「あわわぁ……」 鈴々と朱里は戦略的撤退を選んだようだ。雛里はただぷるぷると子犬のように震えている。その言葉を聞いて愛紗は残念そうにしゅんと落ち込んだ。 「あはは……愛紗ちゃん、ちゃんと味見した?」 「……時間も無かったのでしておりません」 力なく笑う桃香の問いかけの答えは絶望だった。つまりこいつはこれがどのようなモノなのか自分でも分からないわけだ。 「……一つだけ貰うね」 お前はそれを食べるというのか。せっかく作ってくれたのだから、と思う気持ちは立派だが死に急ぐのはまだ早い。 女の子に無茶をさせては男の風上にも置けないだろう。 怯えた瞳で俺を見つめる雛里からは、桃香を助けてあげてという想いが伝わってきた。 そうだな、俺がやらねば誰がやる。ここは戦場。戦い、守るのは俺の仕事だ。 「いいや、桃香。お前にはやらん。これは全て俺が貰う」 「ええ!? そんなことしたら……」 「秋斗殿……私は皆に食べてほしいのですが……」 桃香は哀しみに染まった瞳で俺を見つめ止めようとし、愛紗は事の異常さに未だ気付いていない。 「愛紗、お前の気持ちは受け取った。だがな、料理は人を救うモノであるべきだ。これがどのような結末を齎すか、その眼に刻んでおけ」 重ねて何か言おうとした愛紗であったが、俺の力強い瞳に圧されたのか口を噤んだ。 食べられるモノしか厨房にはないのだから、きっと死にはしないだろう。数が少ないのも幸いか。 近しい者から出された料理を残すのは俺の矜持に反する。例えそれがどのようなモノであろうと、使われた食材と作り手の込められた想いの全てを無駄にするなど出来はしない。 笑顔で見回すと皆は一様に哀しみに瞳を沈めていた。 雛里は引き留めようとしてくれたのか手を伸ばしたが、首を振って見届けてくれと暗に伝えておいた。 そんな悲しい顔をするな皆。必ず生きて帰ってくるからさ。 「じゃあ、いってくる」 言葉の後に黒き異物をひっつかんで口の中に押し込む。咀嚼するたびに意識が飛びそうになったがそれでも皿の上のモノをすべて食べきった。 俺の記憶はそこから無い。 † 目を覚ましたのは夜だった。 鈍痛を伝える腹からは如何に危険な毒物を食したのかが容易く理解出来る。 頭を見ると湿らせた手ぬぐいが置かれていて、誰かが看病してくれていたのだと分かった。 首を回しても誰もいない。部屋には俺一人だけだった。 ただ、寝台の傍らにある机の上、水の入った瓶と……小さな袋が置かれていた。 なんだろう、と不思議に思って手を伸ばし、カサリ、と乾いた音を出したそれを引き寄せる。同時に紙の切れ端が寝台の隅に落ちた。 手にとり、目を通してみると、 『いつもありがとうございます。これは私達の気持ちです 雛里、朱里』 なんて言葉が書かれていた。その下にはしっとりしたモノは雛里が、サクサクのモノは朱里が作ったとの説明書きも。 袋を開いて中に入っているモノを一つ取り出す。 それはハート型をしたクッキーだった。 「……まさか……な」 そんなわけないだろう、と頭に浮かんだ淡い希望を否定して、彼女達の贈ってくれた親愛の想いをありがたく腹の内に溶かしていった。 次の日、雛里と朱里が愛紗に対して十刻に及ぶ説教とお仕置きを行い、料理は禁止であると告げ、愛紗も自分の料理のもたらした結果を見て諦めたことを聞いた俺は、もう犠牲者が出ないことを心の底から喜んだ。 その後、雛里と朱里の二人からはどちらのクッキーが好みだったか問い詰められ、どっちも大好きだと言うと二人共が顔を赤くしながら少し怒っていた。 蛇足~その日、月ちゃんと詠ちゃんは 「いつもありがとう詠ちゃん」 侍女仕事を終えて二人の部屋でゆっくりしていると月が突然そんなことを言った。 「どうしたの急に?」 「昨日雛里ちゃんから聞いたんだけど今日は―――――っていう日らしいの」 月から説明されて思わず感嘆の息が漏れ出た。秋斗は結構おもしろい事を知っている。 ばれんたいんでぇ、か。ボクも何か月と雛里に贈りたかったな。あと、ついでに秋斗にも。 「何も用意出来なかったから、言葉だけだけど」 「それでも嬉しいわ。じゃあ、ボクからも……いつもありがとう、月」 ふにゃりと微笑んだ月の顔を見てボクの口元も綻んでしまう。 この表情が見れただけでも嬉しい。感謝してあげるわ、秋斗。 明日にでも二人で日頃の感謝の言葉を伝えよう。 遅れたけど別にいいわよね。 ―――――― 読んで頂きありがとうございます。 こんな拠点フェイズ、如何でしたか? 愛紗さんの料理は封印指定です。 チョコは店長がいない限り簡単に作れるわけないのでクッキーにしました。 本編はがっつりシリアスなのでこんなギャグもたまにはいいかな、と思い即興で書き上げました。 日曜までには本編を投下します。 ではまた |
雛里と朱里にバレンタインの話をして二日後の朝。 何かを準備するでも無く、何を贈ればいいのかまったく決まらなかったので安易に料理でも、と思い立って来てみたのだが……扉に一枚の張り紙が貼ってあった。 『本日、徐晃将軍入室禁止。入った場合お説教とお仕置き十刻』 一度読んだ時は何が書いてあるのか理解出来なかった。 二度、三度と読み直して漸く内容が頭に溶け込み、疑問と恐怖が心を襲い来る。 ――なんで俺限定なんだ。しかも十刻……だと……!? 可愛らしい文字なので軍師のどちらかが書いたのは間違いない。中からも二人の楽しそうな声が聞こえてくるし。 そこでさらに張り紙の下に小さく書かれていたモノを見つける。 『予約済み、昼から関羽』 律儀に予約したと書く所が愛紗らしいと感じた。 多分、二人からバレンタインについて聞いたのだろう。誰かに何かを贈りたいと思ったのかもしれない。 「そういやぁ愛紗の手料理って食べたことないな」 才色兼備の愛紗ならばきっと料理の腕もいいのだろう、と考えながら料理をここで作るのは諦め、他に何かないかと街に繰り出すことにした。 † 日輪が遠くの山に掛かり、大地は橙色に照らされていた。肌寒い風が吹き始め、街道は人の行き来もまばら。 俺は一人寂しく城への帰路についている……わけでは無く、隣にご機嫌な鈴々が居たりする。 休日だが街を警邏しながら何かないかと考えても思いつかず、せめて買って帰るか、と考えて団子屋に立ち寄ったのが先ほど。買ったのは餡がたっぷり乗った串団子。 そのまま城に向かう途中で鈴々に見つかり、すぐに一つくれとねだってきた。 城につくまで待て、皆で一緒に食べよう、もしかしたら他にも何かくれるかもしれないぞ、とバレンタインの説明も交えて言ったので彼女は今ご機嫌だった。 「鈴々は何も準備してないし食べる係りを引き受けるのだ!」 なんてことまで言ってたりする。 鈴々の頭をくしゃりと撫でてやり、そのままくいしんぼな彼女をからかいながら城への歩みを進め、到着したと同時に門番の兵に声をかけられた。 「お二方に軍師様より言伝です。食堂に来ていただけないか、と」 言われてピンと来た。朝から作っていたモノを振る舞ってくれるのだろう。 俺にもくれるのだという事に気づき小躍りしたい気分になる。鈴々は首を傾げていたが朝から二人が厨房に籠っていたと伝えると意味を理解し、さらに上機嫌な様子。 二人で何が食べられるのかと語らいながら、食堂へと向かった。 厨房の前を通り過ぎた時に少しだけ異臭がしたのは気になったが。 † 「あ! 二人ともおかえりなさい」 「ただいまなのだ!」 「ただいま」 扉を開けると元気のいい桃香の声が出迎えてくれる。 しかし、俺達の姿を目にして朱里と雛里の二人はもじもじと身を捩じらせていた。 「お、おおおおかえりなさい!」 「お、おかえりなしゃい」 ただ帰ってきただけなのに何故そんなに噛むのか。そんな二人に鈴々は不思議そうに首を傾げ、桃香はおかしそうに口に手を当てて笑った。 「秋斗さん、今日は『ばれんたいんでぇ』っていう特別な日なんだってね」 「ああ、親しい人に贈り物をしたりするんだ」 「私にも教えてくれたらよかったのに。何も準備出来なかったし」 不満げに口を尖らせる桃香。朱里と雛里が話しているんじゃないか、とも思っていたが…… 「すまないな。俺の場合、桃香にはびっくりさせたくて隠してた。新作の団子買って来たから皆で食べてくれ。売り物で申し訳ないんだがな」 買ってきた団子を見せると少し三人が目を丸くして驚いていた。 「わあ! ありがとう! ふふ、考える事は一緒なんだね。朱里ちゃんと雛里ちゃんの二人も隠れて用意して驚かそうとしてくれたみたい。ほら」 指差された先の机の上には丸いクッキーがたくさん並んでいた。 色合いも上々、焼き加減もサクサクからしっとりっぽいのまで。俺はサクサクのしか作ってなかったんだが……二人は凄いな。 「くっきぃなのだ!」 「二人で作ったんだ。愛紗さんが来たら食べようね鈴々ちゃん」 「ありがとなのだ! そういえば愛紗は?」 「愛紗さんは厨房でお料理をしておられるようです。お昼に皆に手料理を振る舞うんだと楽しそうに話されてましたから」 やはり愛紗は手料理を作ってくれるのか。少しの異臭は何かを焦がしてしまったのだろう。誰でも失敗する時はあるし。 「皆いいなー。私も何か贈りたい」 「クク、その気持ちだけで嬉しいもんだよ。皆、いつもありがとう」 桃香がしゅんと落ち込んだので俺がいうと皆も口々に日頃の感謝を伝え合う。 チョコは無いがなかなかいいモノだな、こういうのは。 そのまま少しの間談笑していると扉を開けて愛紗が入ってきた。 ――――― つぶやきは5000字以内らしいので二つに分けます |
思いついたので息抜きに投下です。 ―――― 「「ばれんたいんでぇ?」」 雛里と朱里の二人と昼食を取っていた時の事。ふいにここに来る前の世界の事を思い出して彼女達に話していた。 「ああ、大陸の外の国ではそういった日があったりもするらしい。旅をしていた時に耳にはさんだだけだが」 未来の事なので今は無い、とは言わないでおいた。 どうせこの時代の中国では他国の文化はそこまで密に伝わってこないから問題ないだろう。シルクロードから伝わるローマの文化はまだまだ薄いし。 「それはどのようなモノなのでしょうか!?」 大陸の外の話に興味深々な様子の朱里が身を乗り出して尋ねてきた。 その様子に雛里はびくっと驚いたが、こちらも知りたくて仕方ないらしく瞳に知性の光が輝いていた。 「国によって様々だが……恋人や親しい者に贈り物をする事が多い。ある国ではお菓子を送ったり、それに乗じて募る気持ちを異性に伝えたりとか――」 と、説明の途中で二人は一瞬だけ鋭く目を見合わせ、 「その日はいつなのでしょうか?」 「どんなお菓子を贈るんですか?」 二人ともが真剣な表情で問いかけてくる。その鬼気迫る様子に少しばかり引いてしまった。 「……日にちは正月からひと月と十四日だから明後日くらいか。贈るお菓子は大体がチョコというモノだが材料が特殊で作れないな」 言うと二人はそれぞれがしゅんと落ち込んだが、どうして落ち込むかの予想が立った。 ――ああ、そうか。二人は親友だから友チョコでもしたかったんだろう。 どの時代の女の子も変わらないのかもしれないと少し苦笑が漏れ、それを見てか二人は不思議そうに見つめて来る。 一応、チョコじゃなくても構わないことを伝えておこう。 「送るのはチョコじゃなくてもいいんだ。ほら、チョコが苦手な人もいるだろう? ああ、お菓子じゃなくてもいいぞ。要は伝える気持ちがあればいいわけで、どんなモノでも贈られる人には嬉しいモノになるだろうよ」 途端に表情が明るくなったが……また二人は互いに見合わせて真剣な表情になる。 「……では、好きなお菓子の話をしましょう」 お菓子の話が出てきたからか目を輝かせて朱里が提案してきた。ただ、軍師モードの凛とした空気を放っているのは不思議だが。 「そうだね朱里ちゃん、私はほっとけぇきが好き」 雛里も朱里と同じく瞳に知性の光が輝く軍師モードとなって発言した。 何故、二人ともそんなに気合を入れているんだ。 「私もだよ雛里ちゃん。秋斗さんはどうですか?」 話を向けられ、思考に潜るがこの世界で食べられる大概のお菓子は好物な為にどれか一つとは決められない。この時代の人に生クリームたっぷりのショートケーキが一番好きだと言っても分からないだろうし。 「お菓子ならなんでも好きだしなぁ。甘いモノ全部じゃダメか?」 「「一つに絞ってください」」 重なる声は俺の背筋に冷たい汗を流すほどの力強さがあった。 「……そうだな。前に幽州でお前たちに作ったが、クッキーとかいいな」 バレンタイン繋がりでホワイトデーのモノが思い浮かんでしまった。 店長にオムライスついでにバターも教えたら作ってくれたし、一応俺も料理好きだから城に揃えてある。 そういえば、クッキーなら二人は作り方を見てたから贈りあいには最適なんじゃないだろうか。 (くっきぃ……焼くときに形を変えられるサクサクした食感のお菓子だね) (たくさん作れば桃香様達にも贈れるし) (そうだね雛里ちゃん。形は……) (秋斗さんが前に教えてくれたはぁと型も作ろうよ) 誰かに贈るならそれにしたらいいかもなと提案しようとしたが、二人は急にこそこそと内緒話を始めてしまった。 話しかけようとするもそのあまりの真剣さに割って入る気にもなれずにいると、 「お兄ちゃん! 仕事の時間なのだー!」 後ろから鈴々が勢いよく抱き着いてきたので二人に仕事に戻ると伝えてその場を後にした……しかしこちらを見てもくれなかったのが少し寂しかった。 バレンタイン、日本以外なら男からも何か贈るし俺も準備しておくか。 † 秋斗殿と入れ替わり、遅れて食堂に行くと朱里と雛里が何やらこそこそと内緒話をしていた。不思議に思って声をかける。 「二人とも、なんの話をしているんだ?」 「あ、愛紗さん。秋斗さんから聞いたのですが、明後日は『ばれんたいんでぇ』という親しい人に贈り物をする日だそうでして」 「二人でお菓子を作ることにしたんです。あ、お菓子じゃなくてもいいらしいんです」 秋斗殿の知識は広い事は知っていたが……それなら息抜きにもなっていいかもしれない。 この二人のお菓子作りの腕は高い。きっとよいモノを作ってくれるだろう。 「ふむ、それはいい日だな。日頃の感謝も込めて贈り物をする……か」 明後日か。私も皆に何か贈ることにしよう。 ――――― 続きは明後日にでも |
今回は気分的にセリフと地の文の行間を開けてみました。どことなく自分でも読みづらかったので。 基本的に縦書き用としていたのですが、こちらの方が読みやすいのでしたら今後も行間を開けます。 物語を書いていく上での精神的にきつい壁を一つ越えたのでやりきった感が凄いです。 ご都合主義の全てが救われる話は苦手です。 生きているキャラを感じてくれましたら幸いです。 個人HP、小説家になろう様にて、『主人公が鳳雛の元では無く幽州に落ちた別事象』幽州√を明日投下し初めます。本編の週一投稿優先ですので遅筆となりますが、そちらもお楽しみ頂けたら幸いです。 ではまた |
幽州の戦は結構長く書きたいのですが、どうしても本編は主人公の物語の為書けないのです。 申し訳ありません。 野戦と言えば陣構築、そして睨み合いや牽制、威力偵察、兵糧保管所の強襲等、様々な要素が組み込めます。 ことさら陣構築からの読みあい等は好きな部類なので書きたかったです。 恋姫の戦は華やかな決戦が主ですのでどうしても地味になってしまう長い野戦はあまり書けないですよね。 半年に渡る戦は恋姫ではありえないですから。 白蓮さんが籠城戦を選んだのは生来持つ手堅さと優しさ故の判断です。 攻城戦の定石、三倍の兵が必要である、を読んでの事と、兵糧の数がまだ十分である事、そして何より侵攻の範囲を広げたくないのと、部下を信頼して助けに来てくれると思っていたからです。 才豊かな軍師がいないのが本当に悔やまれます。 それと、私は恋姫に於いてあり得ない事を少々書いてます。 毒の使用、民のいる街を燃やす等々。少しでも他の作品様と被ってなければ幸いです。 少しだけシビアな恋姫が描けていたなら嬉しいです。 ではまた |
原作、真・恋姫†無双、うたわれるもの ハクオロさんが恋姫の世界に 始まりの場所は……どこがいいですかね。 出来れば二人組の所で死にかけたキャラを助けるようにして始めたいです。 ハクオロさんは記憶喪失で、エピソード記憶のみ無くしているので内政や戦の知識は少しありな感じがいいかと。 幼女キャラからおとうさんと呼ばれて慕われるようにしましょう。 戦術的な思考能力が高いので雛里ちゃんや稟ちゃんと相性がいいかもですね。 ただ、一番難しいのはウィツァルネミテアの設定を使い切るように物語を持っていくことですかね。 エンディングとかどうすればいいのか、そして恋姫の世界に現れた理由等、思い浮かんだらプロットに起こしてみましょう。 今書いている物語を終わらせなければ書くことはできないですけど。 うたわれるもの、大好きなんですよ。設定も世界観もすべてが好きな作品の一つです。 クロスオーバーするなら恋姫がいいなと考えてました。 こんなことを考えていると、私は恋姫がつくづく好きなんだなと実感します。 次の話は結構早くあげられるかもしれません。 ではまた |
仕事が忙しいため遅れてしまい申し訳ありません。 次の話は一週間以内に投稿出来るように頑張ります。 今回の話は白蓮さんと麗羽さんの戦の始まりまでです。 先遣隊に麗羽さんが参加していたのは、白蓮さんに自分の口で奪いに来たと伝える為です。 恋姫らしい戦や舌戦というのは難しいですね。 次も幽州での戦の話です。 ではまた |
自分でも思いますが他にヒロインが出来そうにないくらい雛里ちゃんが飛び抜けていますね。 月ちゃんと詠ちゃんの主人公に対する距離感はこのくらいです。 世話焼きな二人を描けていたら嬉しいです。 さて、桃香さんが成長しましたが……先は長いですね。 ただ、もう一つくらい大きな壁を越えたら完成かと思います。 当然分岐点はここじゃないです。 もうすぐ……といっても何話かかるやら。 後10話以内に書けたらいいかな、と考えております。 星さんと牡丹ちゃん、白蓮さんはどうなるのか、徐州の雲行きは、曹操の策は、呉はどう動くか それら全てをどうにか綺麗に書いていきたいです。 これからも少しでも楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。 ではまた |
今年もよろしくお願い致します。 昨日改訂作業は終わりましたが、改訂に伴いひとつ思った事。 人間が苦悩する様が大好きだんだなあ、と。 戦争をしてるんだから、人を殺す物語を書いてるのだからそのような心理描写をこれからもどうにか書いていきたいですね。 すっきりする小説を書くならチート性能持たせればいいですし。 もしくは、スクライドのカズマのようにまっすぐ進んでいく主人公を描きます。 「意地があんだよ、男の子にはなァァァァ!」 って叫びながら戦う主人公が書きたいです。 あれこそ男の義務教育アニメですから。 小話 私の物語ではブレイブルーの設定を幾つか参考に使っています。 例えば題名である確率事象 「確率事象発動中に於いてはあらゆる可能性が観測される」 私の物語では少し違いますが、数学での定義に近くしておきました。 ブレイブルーに於いて、事象干渉は観測者が行えるのですが直接の事象干渉ができない存在がございます。 それが外周因子、タカマガハラや姫様です。 私の物語での外史の管理者はそれに当たります。 ですが無印で貂蝉が直接外史への干渉を行っていたのでどうなるかも、それらの設定も今後、明らかにしていきます。 本当、ブレイブルーの設定と恋姫の外史設定は相性がいいです。 結構ないがしろにされがちな外史設定を使いたい、というのが私が恋姫二次を書き始めた所以です。 乱世を治めて、且つその設定も使った恋姫二次が少ないのも理由だったりします。 さて、今日の投稿は八時です。 ではまた |
二話同時更新致しますのでお気をつけください。 明日からの三日間は20時更新、三話ずつ同時更新となります。 一月三日からは前サイト投稿分が終わりますので書きあがり次第、一話ずつの20時更新となります。 毎日書けるほど時間と力は無いので気長にお付き合いして頂けたら嬉しいです。 ではまた |
明日からは別サイト様と合わせて三話ずつの投稿となります。 予定では一月二日で追加分含め前サイト様での更新分である39話まで更新出来るので、 三日から連載再開致します。 更新の頻度については前サイト様と同じように週一、もしくは週二で行えたらいいなと考えております。 せっかく戦国恋姫買ったのにゲームする暇が無いです。 |
このサイト様での投稿は一挙五話ずつ行ってきましたが、今日の投稿で改訂中の話まで追いつくため明日からは一話ずつ投稿致します。 正月は仕事も休みですので何話かまとめて投稿出来るようにしたいです。 小話 私は魏が好きです。 裏話になりますが、初めの頃、主人公の武将候補は三人でした。 徐晃、太史慈、姜維の三人です。 結局魏の武将が好きなので徐晃にしました。 斧を武器にしなかったのは戦いの描写が描きやすいためと、斧はどうしてもモデルとなるキャラが少ないからです。 基本的に一騎打ちの描写は格ゲーの技等をイメージして書いてます。 主人公の戦い方の参考はブレイブルーという格ゲーのキャラだったりします。 自分が使っているのはロリキャラの姫様ですけどね。 今日の投稿は19時です。 ではまた |
Page 4 of 4, showing 14 records out of 74 total, starting on record 61, ending on 74
2014年 04月 01日 00時 08分