機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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番外編
番外編5:ある執務官の恋愛事情
第1話
時はJS事件の末期。
ゆりかご浮上の直前という頃である。
シャッハたちからのスカリエッティの拠点発見の報を受け、
機動6課の主要メンバーに見送られる形でアースラの艦橋を出たフェイトは、
転送ルームに向けて走りながら直前にあった会話について思い返していた。
(必ず生きて帰れ・・・か・・・)
彼女にとって7年来の友人であり、現在は同じく機動6課に所属する
ゲオルグ・シュミット3等陸佐から別れ際にかけられた言葉に対して、
懐かしさを含んだ感慨を持って受け止めていた。
(こんなふうにゲオルグから声を掛けられて戦いに行くのって
どれくらいぶりかな・・・)
全力で駆けながらフェイトはうっすらと笑みを浮かべる。
「どうしたんです、フェイトさん?」
「え? どうもしないけど・・・なんで?」
後方から思いがけず声を掛けられ、フェイトは目を丸くして
首から上だけで振り返る。
だが、その走るスピードは些かも損なわれていない。
一方、声をかけた男性士官-シンクレア・クロス1等陸尉も
全力でフェイトの背を追っているにも関わらず平然とした表情で話しかける。
「笑ってるように見えたんで、どうしたのかなと思いまして」
「え!? 私、笑ってた?・・・っと!」
考えが顔に出ていたことに驚き、思わず目的地である転送ルームを
通り過ぎそうになって、フェイトは慌てて足を止める。
そして部屋の扉を開けながらシンクレアの方を振り返る。
「ちょっと、昔のことを思い出してたんだ。
さっき艦橋を出るときにゲオルグから掛けられた言葉がきっかけでね」
「そういえば、フェイトさんはゲオルグさんと旧知の仲なんですよね」
フェイトはシンクレアに向けて話しながら部屋の奥に鎮座している
転送ポッドに歩を向ける。
シンクレアはフェイトの話を微笑を浮かべ相槌を打ちながら聞いていた。
そして、話が終わると厳しい表情を作ってフェイトに話しかける。
「さあ、行きましょう。 シャッハさん達が待ってます」
シンクレアの言葉に反応してフェイトは一瞬足を止める。
その目はわずかに細められ、普段は優しそうと評されることの多いフェイトの顔に
精悍な印象を与える。
「うん、行こう」
フェイトはシンクレアに背を向けたまま短くそう言うと、
いくつかあるポッドのうちの1つに入る。
そしてシンクレアが隣のポッドに入ると2人は光に包まれ、次の瞬間には
ポッドの中から姿が消えていた。
ところ変わってクラナガン東方の山岳地帯の森の中。
木々が鬱蒼と生い茂る斜面にぽっかりと大きな口を開けている
ひとつの洞窟があった。
洞窟そのものはこの地域にいくつかあるほかのものと大差はない。
だが、その入り口周辺には異様なものがいくつか転がっていた。
それは、破壊された魔道機械-ガジェットドローンの残骸の数々である。
こここそシャッハとヴェロッサが発見したスカリエッティ一味のアジトである。
ガジェットの残骸はシャッハとヴェロッサが戦闘の末に破壊したもので
2人はすでに洞窟内部へと突入していた。
そこにフェイトとシンクレアの2人が転送されてくる。
転送による光が収まると、2人は注意深く辺りを見回した。
すぐに破壊されたガジェットの残骸を発見し、2人は警戒態勢をとるが
一向にガジェットが襲ってくる様子はなく、しばらくして構えを解いた。
「ここらへんのガジェットはもう全部破壊されたんですかね?」
「わからないけど、そう見えるね」
辺りの様子をうかがいながら2人がそんな会話を交わしていると、
2人の前に通信ウィンドウが現れた。
「ゲオルグ?」
画面の中にアースラの艦長席に座るゲオルグの姿が映り、
それを見たフェイトは不思議そうに首を傾げながら声をあげた。
『今いいか?』
ゲオルグに尋ねられ、フェイトとシンクレアはお互いの顔を見合わせてから
画面の中のゲオルグに向かって頷く。
『さっき連絡があったんだが、シスター・シャッハとアコース査察官は
既にアジトの内部へと侵入している。
それ以降連絡がないところを見るとアジトの内部では通信が
途絶しているようだ。
お前らも続いてほしいんだが、内部の構造は全くわかっていないから
慎重に進んでくれ。いいな?』
「了解したけど、なんでゲオルグがそこに座ってるの? はやては?」
『はやては既に出撃した。 アースラの指揮は俺が引き継いでいる。
お前らが出てすぐにゆりかごが浮上したために、こちらでは
大規模な空中戦が始まっている』
「だとすると、こっちもあまり時間を掛けられないね」
フェイトの言葉に対して画面の中のゲオルグが頷く。
『そうなんだ。 さっきは慎重にやってくれと言ったんだが、
それに反してゆりかごに手が出せなくなるまであと2時間半しかない。
それまでにスカリエッティの身柄を確保してもらいたい』
「2時間半ですか・・・タイトですね」
『ああ、すまん。 だが、何とかしてくれとしか言えない』
シンクレアの言葉を受けて、ゲオルグはすまなそうな表情で頭を下げる。
「別にゲオルグが悪いわけじゃないでしょ。それよりそっちは大丈夫?」
『大丈夫だ。 だから、お前らはスカリエッティを捕えることに全力を尽くせ』
「わかった。 ゲオルグも気をつけてね。 まだ全快したわけじゃないんだから」
『判ってるよ、だからここに居るんだ。 じゃあな』
フェイトの気遣う言葉に笑みを返すとゲオルグは通信を切った。
「厳しいですね、この状況」
通信画面が閉じると同時にシンクレアが眉間に深いしわを寄せて言う。
その声は低く抑えられたものであったが、その中に焦燥の色が混じっていた。
「確かにね。 でも焦っても仕方ないよ、シンクレア」
対してフェイトは落ち着きはらっていた。
「何言ってんですか。 2時間半しかないんですよ? 判ってます!?」
「判ってるよ。 でも、焦るのと急ぐのとは全然違うんじゃないかな?
焦ったって作戦の成功率が下がるだけだよ」
目を吊り上げて大声をあげるシンクレアに向かって、
フェイトは落ち着いた口調で、諭すように言葉を掛ける。
気勢を削がれたシンクレアは少しすると落ち着きを取り戻した。
「すいません・・・」
「いいよ。 それより、早く行かなきゃ」
「はい、行きましょう」
そして2人は洞窟の中へと入っていく。
照明のない洞窟の中は薄暗く、2人は慎重に目を凝らして前を見ながら
奥へ奥へと走っていく。
《マスター》
洞窟に入ってほんの100mほど進んだ時、シンクレアのデバイスである
インヴィンシブルが声をあげた。
「どうしたんだい、インヴィンシブル」
《AMFです。 入り口から検知はしていたのですが、進めば進むほど
強度が上がっています》
「やっぱりか・・・。 シスターシャッハたちとの通信ができないのも
このせいですかね?」
「たぶんね」
フェイトは小さくそう答えると足を止めた。
並んで走っていたシンクレアも合わせてフェイトの側に立ち止まる。
「ちなみに、シンクレアは携帯用AMFCは持ってきてる?」
「ええ、もちろん」
シンクレアは大きく頷くと携帯用AMFCの筐体を取り出して
手のひらの上にのせる。
「じゃあカートリッジの数は?」
「ええと・・・」
答えあぐねたシンクレアは手持ちのカートリッジの数を確認すると、
再びフェイトの方に目を向けた。
「20ですね」
「そっか・・・私も同じくらいかな。 あんまり余裕ないね。
AMFCはここぞと言う時にだけ使うようにしなきゃだめかな」
「そうですね」
2人は状況の厳しさを再認識し、お互いに厳しい表情で頷き合うと、
再び洞窟の奥へと進み始める。
だが、いくらも進まないうちに再び2人の足は止まった。
「これは・・・・・」
「困りましたね・・・・・」
2人の目の前で洞窟は三つに道別れしていた。
そのうち一つの道には足跡がくっきりと残っていた。
「シスターシャッハたちはこの道を行ったんだね。 残るは2つか・・・」
フェイトはそう言って腕を組み、しばし目を閉じて考え込んだ。
(道は二つ、私たちは二人。 こういう探索任務では単独行動は厳禁。
ということは、とるべき道はひとつ。
二人でひとつずつ探索する、なんだけど・・・・・)
無言で目を閉じるフェイトの眉間に深いしわが寄る。
(このアジトがどれだけ広いのか判らない上に、2時間半の時間制限付き。
悠長にはしていられない・・・)
そして再び目を開けたフェイトの顔には険しい表情が浮かんでいた。
「シンクレア」
フェイトのどこか張りつめたような口調で名前を呼ばれ、
シンクレアは背筋を伸ばした。
「ここから先はそれぞれ単独行動で探索を継続しようと思うんだけど、どうかな?」
「それは、2つの道を順番に探索していたのでは時間が足りなくなる
という懸念からですね?」
「うん。そう」
「今回の場合はやむを得ないと思いますよ。 時間が勝負ですからね」
「そっか。 じゃあ私は真ん中を行くから、シンクレアは左側をお願い」
「わかりました。 フェイトさんよりも実力のない俺が言うのも変ですけど、
気をつけて」
シンクレアが些か照れくさそうに言うと、フェイトは微笑を浮かべて
首を横に振った。
「そんなことないよ。 ありがとう、シンクレア。 シンクレアこそ気をつけてね」
「はい。 それでは」
「うん。 またあとで」
2人は頷き合い、それぞれが担当する道へと進んでいった。
分かれ道を左に進んだシンクレア。
奥へと向かって走る彼の前にガジェットの群れが現れる。
「ちっ・・・急いでるってのに! インヴィンシブル。
AMFCの効果を最大限に生かすために近接モードで行くよ」
《了解です、マスター》
インヴィンシブルがシンクレアの声に応え、その先端に魔力の刃を作りだす。
一方、シンクレアはAMFC発生装置を取り出しカートリッジをセットする。
《マスター、AMFCの起動を確認しました》
「よし。 じゃあ5分でカタを付けるよ!」
自らを鼓舞するように殊更大きな声を出すと、シンクレアはガジェットの群れへと
飛び込んでいく。
もともと、身分偽装をして6課にやってきたシンクレアには、A+ランクの
魔導師でありながら能力リミッタはかかっていない。
その上、AMFCの力でAMFを打ち消しフルスペックの魔法を得ている
シンクレアにとって、1機1機のガジェットは大した脅威にはならない。
シンクレアがインヴィンシブルを振るうたびに、ガジェットの機体が
切り裂かれて爆散していく。
結局、当初宣言していた5分を要することなく20機ほどのガジェットを屠った。
「ふぅ・・・。さて、急がないとな」
そしてまた洞窟を奥へと向かって走り始める。
その後5回ほど同じような戦闘を繰り返しつつ、1時間ほどが過ぎた時だった。
《マスター!》
自らを呼ぶインヴィンシブルの鋭い声に、シンクレアは足を止めた。
「どうした!?」
《この先に大きな魔力反応がいくつかあります》
「パターン分析はできるかい?」
《はい・・・・・。 1つはハラオウン執務官ですね。
他は・・・・・、戦闘機人の反応に酷似しています!!》
「ってことは戦闘か・・・」
《恐らくは》
「うーん・・・・・」
シンクレアは俯いて考え込む。
ややあって、顔をあげたシンクレアの服がバリアジャケットから制服へと変わった。
《マスター。 なぜモードリリースを?》
待機状態であるブレスレットとなったインヴィンシブルが訝しげな声をあげる。
「手遅れかもしれないけど、魔力反応を消そうと思ってね。
すでにフェイトさんと敵が戦闘状態にあるのなら、俺の存在を隠すことは
ひとつのカードになると思うんだ」
《なるほど》
シンクレアの考えを聞いたインヴィンシブルは感心したような声をあげる。
「ただ、戦闘に入っている可能性が高いことと、俺の存在が既に敵にバレてる
可能性がある以上、敵の攻撃にすぐ対応できるようにする必要があるから
その準備だけは頼むよ、インヴィンシブル」
《了解しました》
インヴィンシブルの返答を聞き終えたシンクレアは、息を殺して物音を立てぬように
細心の注意を払いながら、戦闘が行われているであろう前方へとゆっくりと進んだ。
一方のフェイトであるが、こちらも何度かのガジェットとの戦闘を幾度か繰り返し、
洞窟を奥へと進んでいった。
しばらく進むと、奥の方がぼんやりと明るくなっているのが見えた。
フェイトはわずかに目を細めて顔をしかめると、歩調を速めて前に進む。
明るくなっているところが近づくに従って、フェイトは緊張の度を深める。
やがて、その場所では洞窟の幅が広くなっていることが判ってくる。
フェイトがその空間に出ると3人の人影がそこにはあった。
うち一人は白衣を羽織っていて、なによりも何度も写真を見た人物で
フェイトはすぐにそれが誰かを判別することができた。
「ジェイル・スカリエッティ・・・・・」
小さく呟くような声ではあったが、周囲は静まり返り洞窟内部の反響もあって
彼らの耳に届いたのかフェイトの方を振り返る。
「君か・・・。フェイト・テスタロッサ」
フェイトの姿を見たスカリエッティは落ち着きはらった態度で言う。
「ドクター、お下がりください」
「何を言っているんだい、トーレ。
せっかくこんなところまで来てくれたのだから、私自ら歓迎しないとね」
「ですが!」
「それに君たちが側にいてくれるなら私は安全だ。 そうだろう?」
「はい・・・」
そんなやりとりが2人の間でなされている間にもフェイトは歩みを進めていく。
そして20mほどの距離をおいて向かい合う。
「ジェイル・スカリエッティ。 あなたを逮捕します。 おとなしく投降しなさい」
「何を言う。 私達がおとなしく投降するものか!」
トーレがフェイトを睨みつけながら声を荒げて言う。
そして腰を落として構えをとる。
それに合わせるように、隣に立っているセッテも構えをとる。
「仕方ないね・・・。バルディッシュ!」
《Yes sir》
フェイトがバルディッシュを構えた直後、トーレは地面を蹴る。
地を這うように高速で飛んでくるトーレの姿を見据えるフェイト。
身体をひねって繰り出されるトーレの斬撃をバルディッシュの刃で受け止めると、
その衝撃を利用して後方へと飛ぶ。
「逃がさない!」
そのフェイトの動きに対してセッテはブーメランブレードを両手で投擲する。
フェイトは回転しながら自らに迫るブーメランを上下の動きだけで回避すると、
洞窟の壁に足をついて勢いを殺し、壁のそばに着地する。
顔をあげたフェイトにセッテとトーレが同時に迫ってくる。
「これは、さっさと全力出さないとダメだね」
フェイトは呟くように言うと、バリアジャケットのベルトにぶら下げてあった
小さなケースからAMFCの筐体を取り出し、カートリッジをセットしてから
ケースへと戻す。
「バルディッシュ、ザンバーフォーム」
《Yes sir》
バルディッシュの形状が変化し、黄金色に輝く大剣が姿を現す。
そして、フェイトはバルディッシュを振りかぶるとセッテに向かって飛んだ。
(うん。AMFCのおかげでずいぶん身体が軽くなった)
フェイトは口元に小さく笑みを浮かべると、目前に迫ったセッテに向かって
バルディッシュの刃を振りおろす。
対してセッテは残った2本のブーメランブレードを使ってフェイトの斬撃を
受け止める。
「ぐっ・・・」
苦しげな声がセッテの口から洩れる。
2人の鍔迫り合いは徐々にフェイトが押し込んでいた。
「はあぁぁぁっ!」
気合のこもった声がフェイトの左から響く。
フェイトが目を向けると、トーレがすぐ目の前まで迫っていた。
その腕にあるエネルギーブレードはフェイトの首を刈り取らんしていた。
「くうっ!!」
トーレのブレードを左腕のアーマーで受け止めたフェイトが歯を食いしばる。
一方、受け止められるとは思っていなかったトーレも苦々しげな表情を浮かべる。
「くっ・・・やる・・・」
バルディッシュを握るフェイトの手が1本になったことで多少の余裕を得たのは
ブーメランブレードでフェイトと鍔迫り合いをするセッテである。
だがその視線は、フェイトではなくそのずっと後方に向けられていた。
「・・・スローターアームズ」
小声でつぶやくように発せられたその声はフェイトの耳に届くことはなかった。
直後、先だって投擲された2本のブーメランブレードが、突き刺さっていた
洞窟の側壁から抜けて、3人の方に向かって動き始める。
徐々に加速しながらブレードはフェイトの背中へと迫る。
《Sir!》
「なっ・・・!!」
バルディッシュからの警告で自らに迫る危機を察知したフェイトは
一瞬顔をしかめると、バルディッシュを握る右手に力を込め、
力任せにセッテとの鍔迫り合いを押し切る。
「うっ・・・」
セッテが弾き飛ばされ、トーレとの1対1の状況となる。
フェイトはトーレのブレードを受けている左腕を押し出して、ほんの少しだけ
間合いを広げると、次の瞬間には左腕を引きつつ身体全体をトーレから少し離して
一気に間合いを広げた。
そして、バルディッシュを両手で握ると自らに向かってくるトーレに向き直る。
トーレは自らの右手でフェイトの顔面を殴りつけるように腕を伸ばし、
ブレードをフェイトに向ける。
眼前に迫ったブレードをバルディッシュの刃が受け止める。
受け止めた側のフェイトはセッテを弾き飛ばした時と同様に
力任せにトーレの刃を押し返しつつ、バルディッシュを振った。
「くそっ!」
セッテと同じく勢いよく飛ばされたトーレはその速度を地面に足をつけて殺すと、
セッテの側へと飛んだ。
その表情は苦々しく、フェイトの方を恨めしげに睨みつけていた。
そこに、パチパチという拍手の音が響く。
「さすがだね、フェイト・テスタロッサ。 それともフェイト・ハラオウンと
呼んだ方がいいのかな? まあどちらにせよ、この2人を同時に相手にして
互角に切り結ぶとはね。いや、さすがだよ」
叩いていた手と歩みを止めると、スカリエッティはフェイトの方をじっと見据える。
「だが、せっかくの祭りを邪魔されるのは少々癪に障るんだよ。
いくら温厚な私といってもね」
「祭り・・・だと?」
フェイトは小さく呟くとスカリエッティを睨みつけた。
「ふざけるな! 多くの人を傷つけ、社会を混乱させておいて何が祭りだ!
今すぐにお前を拘束してやる!!」
怒りをあらわにして今にも飛びかからんばかりの勢いで叫ぶフェイト。
だが、スカリエッティは飄々とそれを受け止める。
そして口元に笑みを浮かべると、首を左右に振った。
「違う、違うねそれは。 君が怒っているのはそんなことじゃないだろう」
「・・・どう言う意味だ?」
スカリエッティの言葉で気勢を削がれたフェイトであるが、
なおも鋭い目線を向けつつ、引く押さえられた声で問う。
「君が私に対して抱いている怒りは、社会を混乱させたことに対する公人としての
怒りではないと言っているんだ。
君の怒りは極めて個人的な理由によるものじゃないのか?」
「なんだと?」
「君が私に向ける怒りは、私がプロジェクトFの根幹技術を開発したからだろう。
私がいたせいで、自分の母親は破滅することになった。とね。
だが、私がそうしていなければ君自身が誕生することもなかったんだ。
感謝されこそすれ、恨まれる謂れはないんだがね」
笑みを深くしたスカリエッティがそう言うと、フェイトは俯いてしまう。
少しして、彼女の顔がスカリエッティに向けられる。
その顔は猛烈な怒りによって彩られていた。
「貴様ぁぁぁぁっ!」
普段のフェイトを知る者が聞けば別人かと思うほどの怒声をあげるフェイト。
「来るぞ、セッテ!」
「了解・・・」
あまりの剣幕に気圧されたトーレがセッテに声をかけつつ構えをとる。
そしてフェイトがスカリエッティに向けて飛びかかろうとした瞬間、
2つのことが立て続けに起こった。
1つはフェイトがこの場で戦闘を始めて5分が経ち、AMFCの発生に使われていた
カートリッジがその魔力を失ったのである。
(ぐっ・・・AMFCが切れた!? 重い・・・)
AMFCを失い、AMFの影響をモロに受けることになったフェイトは
飛行魔法の出力低下によって自分の身体が急に重くなったように感じていた。
(それでも、行くっ!!)
フェイトは構わずにスカリエッティの方に飛ぼうとする。
だが、その周囲に真っ赤な魔力の糸が地面から突き出してくる。
(なにっ!?)
その魔力の糸はフェイトの四肢とバルディッシュに絡みつき、その動きを拘束する。
(しまった!!)
唇を噛みつつスカリエッティの方に目を向けるフェイト。
その目には両手にグローブ型のデバイスを装着し、その先端からフェイト自身を
拘束する魔力の糸が伸びるさまが映った。
スカリエッティは呆れたような表情をフェイトに向ける。
「やれやれ。 こうも思惑通りに事が運ぶと、些か張り合いがないね」
「どういう意味だ!?」
フェイトがスカリエッティを睨みつけながら言うと、スカリエッティは
フェイトに向けて嘲笑する。
「どういう意味もないだろう。 君は私にうまく乗せられて私の思い通りに
動いてくれたということさ」
次いでスカリエッティは肩をすくめる。
「どうも君は過去の反省が生きてないようだな。
自らの出自を揶揄されると激昂して冷静さを失う。
結果として私に動きを読まれてしまうほど単純な動きをしてしまう」
「くっ・・・なぜ?」
「なぜだって? 君は私が管理局のデータベースにアクセスできないとでも
思っているのかい? 君がドクター・エメロードを拘束したときの戦闘記録は
バッチリ見させてもらったよ」
「そんな・・・」
フェイトはそこで初めて気弱な表情を見せる。
対してスカリエッティは、浮かべていた笑みを消すとフェイトの身体をじっと見た。
「まあいい。 これで私はプロジェクトFのサンプルを手に入れることができた。
君にはしっかりと私の役に立ってもらうよ」
スカリエッティはそう言うと、いやらしい笑みを浮かべる。
フェイトは身動きすることもかなわず、唇をかみしめることしかできなかった。
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