機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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番外編
番外編4:隊舎防衛戦
第3話
シンクレアは,通路をガジェットに向かって駆け抜けて行く。
先頭のガジェットまであと数メートルに迫ると,強く床を蹴り,
魔力の刃をガジェットに向けて叩きつける。
(よしっ,これで1機!)
床に着地したシンクレアは,インビンシブルを振り抜いた勢いで,
重心を低く構えると,爆発したガジェットには目もくれず,
隣のガジェットを横殴りに切りつける。
《背後にガジェット1機です》
シンクレアはインビンシブルの声に反応して,踏み込んだ右足を軸に
180度回転すると,目の前のガジェットを叩き斬る。
《おみごと!》
「そりゃどうも」
感嘆の声を上げたインビンシブルに短く答えると,シンクレアは
インビンシブルを構えなおす。
再びガジェットの群れに向き直ると,10機を超えるガジェットが
迫ってきていた。
「うーん。本当に突破できるのかな・・・?」
《可能だと思います》
「インビンシブルは楽観的だね」
そんな会話を交わしている間にも,1機のガジェットを破壊したものの,
さすがに手数が続くなってきたため,シンクレアはバックステップで
ガジェットから一旦距離を取る。
「隊舎はどうせ放棄するんだから砲撃で多少壊してもいいよね」
《ですが,シューティングモードに転換するには距離が足りません》
「インビンシブルの言うとおりだけど・・・」
その時,シンクレアの背後から1発の弾丸が飛来し,シンクレアの脇を抜け,
1機のガジェットを爆散させた。
シンクレアが背後を振り返ると,ヴァイスが親指を立てて笑っていた。
[助かったよ,ヴァイス]
[援護するって言いましたからね]
シンクレアもヴァイスに向かって親指を立てると,表情を引き締め
背後に迫るガジェットに切りかかった。
そのころ,隊舎の上空ではシグナムとヴィータが増援のガジェット編隊との
戦いを続けていた。
2人とも,魔力消費が激しく厳しい戦いを続けていたが,増援部隊のうち
半分ほどのガジェットを破壊し,ようやく終わりが見え始めていた。
ヴィータは,目の前に迫ったガジェットにアイゼンを振りおろして破壊すると,
小声でつぶやく。
「・・・くっそ・・・,また増援が来たら今度こそアウトだぞ・・・」
そして,小さくため息をため息をつくと,次のガジェットに向かった。
シグナムもまた,長い戦いで激しく疲弊していた。
レヴァンテインを振りガジェットを破壊していくが,その動きには
戦闘開始当初の精彩を欠いていた。
ガジェットから放たれたエネルギーの塊をレヴァンテインで受け止めると,
隊舎の方を一瞥する。
「・・・これではじきに限界を迎えるな・・・」
シグナムは消耗が激しくなり,戦いの継続に焦りを感じている自分自身に
気づくと,ヴィータのほうに目を向け念話をつなごうとする。
[ヴィータ,聞こえるか?]
シグナムからの念話を受けてヴィータはシグナムの方へ一瞬目を向ける。
[んだよ,シグナム。今忙しいんだよ!]
[判っている。だが,今のままこれ以上戦闘を続けてもすぐに
限界を迎えるだろう。何らかの形で状況を打開する必要がある]
ヴィータはその言葉に先ほどまでの厳しい表情をわずかに緩める。
[ってことは,シグナムには何か打開策があんのか?]
ヴィータがそう尋ねるとシグナムは返事を返す。
[あまりいい考えとは言えんかもしれんが,合流するぞ]
シグナムの返答にヴィータは眉をひそめる。
[合流って・・・,敵が2手に別れてんのにか?]
[だからあまりいい考えではないと言ったのだ。だが,このままそれぞれ単独で
戦っていては,そう遠くない先に各個に撃破されるだけだ]
ヴィータはガジェットとの戦闘状態を維持しながら少し考える。
(確かに,このままじゃあたしもシグナムもやられちまうかもしれねー・・・
だったら,うまく合流して少しでも生き残る確率を上げる方がいいか・・・)
内心でそう結論付けると,ヴィータはシグナムに向かって念話を送る。
[わかった。合流すんぞ]
シグナムはヴィータの返答を聞くと,ほっと小さく息を吐いた。
[よし。では戦闘状態を維持しながら徐々に後退して合流する。
うまく敵を引きつけながらな]
シグナムはヴィータに向かってそう言うと,目の前に迫ったガジェットを
切り捨てると,ヴィータの方に向かってゆっくりと後退し始める。
ガジェットたちが自分を追ってくるのを見ると,シグナムは小さく口元を
ゆがめた。
(そうだ・・・そのまま追って来い!)
一方のヴィータも自分から積極的に攻撃を仕掛けはしないものの,
接近してくるガジェットを叩き落としながら,じりじりとシグナムの方へと
後退していった。
そして,もう間もなくお互いの声が届く距離まで近づこうとした時だった。
「は・・・?」
「なんだ・・・?」
ヴィータとシグナムはほぼ同時に小さく声を上げた。
2人が茫然と見つめる先では,先ほどまで2人に対して攻撃を加えていた
ガジェットの群れが,くるりと向きを変え急速に2人から離れて行った。
2人はそのまま合流すると並んでガジェットが撤退していく様を眺めていた。
「・・・追わなくていいのかよ」
「この作戦の目的は防衛だ。追う必要はない・・・と言いたいところだが,
魔力も尽きかけているからな。追うに追えん」
「同感だな。ったく,どうなってんだよ・・・」
一方,隊舎内でガジェットとの戦闘に入ったシンクレアとヴァイスもまた,
追い詰められつつあった。
退避ルート前方に出現したガジェットの突破に手間取っている間に
正面玄関から侵入したガジェットに追いつかれ,狭い通路の中で
挟撃されつつあった。
「ちっ・・・あと少しで突破できるところだったのに!」
シンクレアは,舌打ちをしながら毒づくと,眼前のガジェットを叩き斬る。
「そんなこと言っても始まらないっすよ。とにかくなんとか生き残らないと!」
ヴァイスはほとんど背中合わせの位置に立っているシンクレアにそう言うと,
玄関側から迫るガジェットの1機に向かって狙いをつけ,引き金を絞る。
「わかってる!でもこのままじゃ俺達はお陀仏だよ!」
シンクレアはヴァイスの言葉を受けて不満そうにそう言いながらも,
眼前のガジェットに斬撃を加えて行く。
すでに2人とも肩を上下させており,疲労はピークに達していた。
シンクレアは,大きく息を吐き気合を入れ直すと,
床を蹴って,ガジェットに向かってインビンシブルを振りおろそうとした・・・
「なっ・・・!」
が,急にガジェットが向きを変えて後退したために,斬撃は空を切る。
見ると,シンクレアの前にいたガジェットは全機が向きを変えて急速に
2人から離れていた。
「シンクレアさん!これ,どうなってんすか?」
背後からヴァイスに声をかけられ,シンクレアは振り返る。
すると,ヴァイスの肩越しに一斉に後退していくガジェットの姿が見えた。
「俺に聞かれても判るわけないでしょ。それより,追うよ!」
シンクレアはそう言って,玄関の方に向かってガジェットを追い走る。
ちらりと振り返ると,少し離れて追ってくるヴァイスが目に入る。
2人とも,全力で追っているのだが,走れど走れどガジェットには
追いつかない。
やがて,玄関から隊舎の外へと飛び出すと,隊舎のあちらこちらから
出てきたガジェットが,スピードを上げて隊舎から離れているのが見えた。
「訳わかんねぇ。どうなってんだよ・・・」
ヴァイスはそう言って空を見上げた。
隊舎の上空には茫然と同じ方向を見つめるシグナムとヴィータの姿があった。
ヴァイスが傍にいるシンクレアの肩を叩き空を指さすと,
シンクレアもシグナムとヴィータを見つけた。
シグナムとヴィータの見つめる先には高速で飛び去っていく
飛行型ガジェットが小さな点になって見えた。
「ほんとに,どうなってんだか・・・」
シンクレアは,みるみる小さくなっていくガジェットを眺めながら
小さく呟いた。
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