『八神はやて』は舞い降りた
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第3章 聖剣の影で蠢くもの
第30話 コカビエル?強いよね。序盤・中盤・終盤、隙がないと思うよ。
前書き
・コカビエルさんって将棋が強そうな顔をしていると思いませんか?
コカビエルとの戦いは、グレモリー眷属の勝利に終わった。
5本の聖剣を束ねた力を、木場祐斗は、亡き同胞から譲り受けた力――聖魔剣で撥ね退けた。
コカビエルの放ったケルベロスは、リアス・グレモリーが消滅させた。
彼が連れてきていた『三人の上級堕天使』と一進一退の戦闘を繰り広げていた姫島朱乃、塔城子猫も、戦列にリアスが加わることで、辛くも勝利した。
そして、コカビエル自身は、赤龍帝と一騎打ちの末に――敗れた。
史実よりも強化されたコカビエル陣営でも、グレモリー眷属には勝てなかったのだ。
「う、ぐっ……これが、赤龍帝の力、か」
戦いの途中で、コカビエルは、神の不在を明らかにした。
予想外の事実に、紫藤イリナ、アーシア・アルジェント、ゼノヴィアは衝撃を受け、隙をさらしてしまう。
「コカビエル、お前の負けだ。まだ他に何か言い残すことはあるか」
「ふはは。既に神の不在を明かしたあとでは、な。念を入れて、上級堕天使まで連れてきたというのに、敗れるとは……」
その隙をついたコカビエルは、彼女たちを戦闘不能に追いやった。
木場祐斗でさえ、動揺してしまい、攻撃を喰らってしまう。
彼は、すぐに戦闘に復帰したが、戦闘不能になったアーシア・アルジェントたちの防御で手いっぱいになってしまった。
その結果、一誠はコカビエルと一騎打ちせざるを得なかったのだ。
一誠は、満身創痍といっていい様態だったが、一切の油断を許していない。
リアスたちは、臨戦態勢のまま、堕天使の言葉に集中する。
コカビエルは、敗れたいまも、余裕の表情を崩さない。
情報を得るためにも、しばらく喋らせるつもりだった。
声を出さずとも、グレモリー眷属は、意識を同じくしていた。
まさに以心伝心――これこそ、彼女たちの強さの秘訣だろう。
「そう、だな。これから起こる戦争に参加できないのが残念、だ」
「馬鹿な。お前の野望は潰えた。もう戦争は起こらない」
「何をいっているの、コカビエル。貴方を倒し、聖剣は教会の手に戻った。戦争の火種はもうないわ」
何をいまさら、とでも言うようにあきれ顔に指摘するのは、リアス・グレモリーである。
本来なら強敵であるはずの堕天使コカビエルすら、一騎打ちで倒してしまう。
上級堕天使相手にも、勝利できた。
木場祐斗もさらなる力を手に入れた。
とくに、禁手化した兵藤一誠の力は、既に上級悪魔に匹敵、あるいはそれ以上かもしれない。
戦争も未然に防げた。
何もかも順調といっていいはずだ。
「確かに、俺は失敗した。だが、戦争を望むものは大勢いる」
「何をいまさら。天使、堕天使、悪魔を問わず、戦争を望む人はいるでしょうよ」
「ああ。その通りだ、リアス・グレモリー。せいぜい気をつけるがいい」
その後も、言葉を交わすが、結局有用な情報は得られなかった。
「はあ……。一誠、領地を管理するグレモリー家として、正式に処断します」
「わかりました。じゃあな。お前を生かす理由はない。いま止めを――――」
「それは困るな」
一誠がコカビエルに止めを刺そうとした瞬間、白い何かが飛来し堕天使をさらっていった。
何事かと目を向けると、そこには、白い髪をした一誠と同世代に見える少年がいた。
白い鎧をまとった彼からは、尋常ではない力を感じる。
『久しぶりだな、白いの』
『そういうお前こそ、耄碌していないようで何よりだ』
「ドライグ、もしかしてコイツは――」
『相棒の考えで正解だ。当代の白龍皇、やはり惹かれあう運命にあったか』
推測は当たっていたが、ちっとも嬉しくない。
白龍皇からは尋常ではない魔力を感じる。
強い、一目でそう思った。
「やあ。初めまして、今代の赤龍帝。俺の名前は、ヴァーリ・ルシファー。歴代最強の白龍皇だ」
自信満々に言い放つ。
普通なら見栄や虚言の類だと受け取るところだろう。
しかし――
「そんな……。『ルシファー』ですって!?あなたは、ルシファーの血を引くと言うの!?」
リアスが驚愕の声を上げる。
それも当然だろう。
ただでさえ強い魔力をもつルシファーの末裔が、白龍皇になっているのだから。
『ここでやり合うつもりか、白いの』
声に警戒を滲ませながら、ドライグが問う。
一誠もいつでも反応できるように、戦闘態勢を崩さない。
他のグレモリー眷属も既に臨戦態勢だ。
「いや。まだ決着をつけるには早い。アザゼルにコカビエルを回収するように頼まれてね。今日はあくまで顔見せ程度さ」
『俺も同意見だ。お互い面白い宿主に巡り合えたようだな』
その後も、いくつかの問答が続き、白龍皇――ヴァーリ・ルシファーは帰って行った。
彼に、神器に封印されし白龍――アルビオンも同調する。
一誠は、緊張を解くと同時に、へたり込む。
実力の差を肌で感じ取れたからだ。
なまじ、素人の状態から実力をつけただけに、壁の高さが分かってしまう。
だが、一誠の闘志は、衰えていない。
――――リアスを守れるくらい強くなると誓ったのだから。
◆
――――ヴァーリ・ルシファーによって、アザゼルの下に連れられている最中のことである。
コカビエルは、敗れ去ったとはいえ、余裕の表情を崩していない。
戦争は必ず起きると確信しているからだ。
アザゼルは、おそらく自分を永久凍結の刑に処するだろう。
ただでさえ、堕天使の総数が少なくなっているのだ。
貴重な戦力である自分をアザゼルは殺すことはないはずだ。
ただ、心残りもある。
(――大戦に参戦できず、間近でみることも出来ないのは、残念でならないな)
主戦派は、彼以外のもまだ大勢居る。
アザゼルによって封印される前に、準備をしなくてはならない。
あの小娘。
いや、八神はやてたちが、戦争を始めることを知るのは、おそらく今のところ彼一人。
秘密裏に事を運ぶ必要がある。
(きっと、今度の戦争は、三大勢力の命運をかけた激しいものになる)
コカビエルは、逸る気持ちを抑える。
今にも躍り上がりそうな高揚感が身を包む。
――――彼の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
◆
目の前の堕天使――コカビエルという名の聖剣を奪った主犯者――は、八神はやての取引に応じた。
木場祐斗と兵藤一誠に敗れたエクソシストたちと聖剣3本に加えて、紫藤イリナたちが保管していた聖剣2本の破片を渡した甲斐があった。
(いや、奴はただの戦争狂だ。戦争のためならば、敵とも手を組むだろう)
護衛としてはやてに付き添う形になったシグナムは、内心でつぶやく。
コカビエルに尋ねた理由は、八神はやての父が残した手記の裏を取るためだ。
彼は、はやての父母と面識があったらしく、かなり詳しい事情まで教えてくれた。
両親の死の真相まで知っていたのは、運が良かった。
薄々勘付づいてはいたが、証拠という最後のひと押しが欲しかったのだから。
「――俺が知る事情はこれくらいだな。不抜ける前のアザゼルは、優秀な駒を失ったと嘆いていたよ。だからこそ、裏切り者には見せしめが必要だったのだろうな」
「なるほど。こちらが持つ情報と食い違いはないな。それにしても、はぐれ悪魔の襲撃は、アザゼルの仕業だったとはね」
「策謀にかけてうちの総督の右に出る者はいないだろう。少し前までは、いつ戦争が起こってもおかしくない緊張状態だった。手段を問わぬアザゼルの手腕は頼もしかったものだ。神器狩りもその一環だな。それで、お前はどうするつもりだ。両親の弔い合戦でもするつもりか?」
あざ笑うかのように。
だが、どこか期待に満ちた目で、コカビエルは、はやてを見つめる。
堕天使のあけすけな態度に、シグナムが眉をひそめるが、主本人は気にする様子もない。
はやては、ゆっくりと言葉を返す。
「弔い合戦、ね。確かに、当たらずとも遠からずといったところかな」
「ならば、他に理由でもあるのか」
「『とある少女』の願いを叶えてあげたくてね。ボクはそのために存在している。使命と言い換えてもいいかな」
「曖昧すぎてよくわからんな。だが、俺が戦争を起こしたら、お前はどうするつもりだ」
「どうもしないさ。いままで通り、どの陣営にも加担しない―――立ちふさがる全てをなぎ倒すことになるだろうね」
さらりととんでもないことを言う。
予想外の発言に、コカビエルも驚愕の表情を浮かべた。
「なるほど。八神はやて。お前は実に面白い。戦争がはじまったら、是非とも戦いたいものだ」
「ああ、そちらも頑張ってくれよ。この地を管理するリアス・グレモリーたちは強いぞ?せいぜい足をすくわれないように気をつけたまえ」
「ふん。言われなくてもわかっている」
吐き捨てるように。
だが、面白そうな表情を浮かべてコカビエルは、言葉を交わす。
既に、お互い必要な情報を交換した後だというのに、会話は続けられた。
最後の別れ際、八神はやては、その場を去ろうとするコカビエルに、ある宣言をした。
思わず不敵な笑みを返す少女を一瞥し、堕天使は、姿を消した。
彼の脳裏には、彼女の最後の言葉が繰り返されている。
その言葉は、白龍皇に捕まったいまも、彼の心を熱くさせていた。
――――キミが敗れても心配しなくていい。ボクが代わりに戦争を起こしてあげよう。
◆
「やはり、コカビエルは敗れたか」
サーチャー越しの映像を見やりながら、主はやてのつぶやきが聞こえる。
性格破綻者だが、実力は確かだったフリード・ゼルセンがいないせいだろうか。
堕天使側の聖剣使いは、大した脅威を感じなかった。
現在、駒王学園近郊に待機しているはやての側にいるのは、ザフィーラだけだ。
「上級堕天使まで撃破したのは、予想外でしたね」
「ああ、ボクも驚いている。彼らを育てた身としては、複雑な心境だ」
本来ならば、実力者であるコカビエルの相手は、はやてがするはずだった。
しかし、彼と取引したことで、中立の立場をとることになった。
もちろん、リアス・グレモリーたちには、秘匿してある。
「あの堕天使から、我らの計画が漏れる可能性があるのでは?」
「いや、それはない。ヤツの望みは、戦争だ。ボクたちが、戦争を起こすと知っている以上、余計な邪魔はするまい。むしろ、喜んで便乗して戦いの準備をするだろうよ」
怜悧な表情を浮かべながら、淡々と告げる。
「さて、そろそろ駒王学園に到着する前に、他の皆と合流しないとね」
「我々は、二手に分かれて策敵のために別行動をしている、でしたね」
「そうだ。コカビエルとの約定により、ボクたちは、参戦できない」
コカビエルとの裏取引により、彼とグレモリー眷属との戦いには非介入となった。
だが、そのままでは、グレモリー眷属に怪しまれる。
そのために言い訳が必要だった。
「だから、紫藤イリナたちから聖剣を奪った未知の敵と遭遇したようにみせかける。戦闘の跡は、既に偽装してある。うまくはぐらかせてみせるさ」
そういって、主は、最近よく見せるようになった無表情に不敵な笑顔を浮かべると、ゆっくりと合流地点に向かっていった。
ザフィーラは、そんな彼女に出来る限り寄りそう。
(なるべく態度にださないように振る舞っている。だが、主はやては、心の底では、グレモリーたちとの対立を、気に病んでいるのではないか)
内心で問う。それでも答えは変わらない。
(いや、決別を宣言した以上、もはや止まることはできないだろう。ならば、せめて、自宅警備員たる私が負担を減らさねばなるまい)
胸の内に決意を宿しながら、盾の守護獣は、敬愛する主の後をついていくのだった。
後書き
・お待たせしました。次はもっと早く投稿できるように努力します。
・次話あたりで、とあるキャラがあんなことになります。
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