『八神はやて』は舞い降りた
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第3章 聖剣の影で蠢くもの
第29話 無職の龍神
前書き
遅くなって済みません。完結目指して頑張ります。
第29話 無職の龍神
目の前から発せられる圧倒的な強者の気配。ボクは戦慄していた。
見てくれは改造ゴスロリに身を包んだ少女でしかない。
だが、その外見に惑わされてはいけない。
なぜなら、彼女は――
「――『無限の龍神』オーフィス……!」
『無限の龍神』とは、この世界の頂点に位置する存在である。
そんな存在が突然現れたのだ。
うららかな夕飯前のひとときを過ごしていたボクたちにとって、青天の霹靂だった。
デバイスを持ち、騎士甲冑を展開したボクたちは、戦闘態勢でもって警戒する。
ピリピリとした緊迫が伝わるような空間で、下手人は、悠然としていた。
ボクが八神はやてとして生を受けてから、一番緊張しているかもしれない。
そして、彼女が言葉を紡ぐ。
「我の名前しっている?我、八神はやてに協力してほしい」
「グレートレッドを倒すためかい?」
少しだけ目を見開いて、そう、と肯定するオーフィス。
グレートレッド――オーフィスとともに世界の頂点に立つ生物。
もともと「次元の狭間」にいたオーフィスを追い出して、そこに居座っている。
追い出されたオーフィスは、お家を取り戻そうと、仲間を求めた。
その集まりこそ――禍の団。平たく言ってテロリスト集団である。
オーフィスは、八神家にその禍の団に入ってほしいらしい。
どこから、ボクたちの情報を集めてきたのか。
おそらく、レイザー相手のレーティングゲームでハッスルし過ぎたのが原因だろう。
「仮に、禍の団に入ったとして、キミは何か対価をくれるのかい?」
「……我、何を渡せばいい?」
悩むような気配をみせるオーフィス。
当然だろう。出会ったばかりの相手が何を望むのかなんて、わかるわけがない。
だから、要求を口にする。
「キミの力が欲しい」
◇
夕食なう。
あれからオーフィスとの取引に成功し、禍の団入りを決めた。
晴れてテロリストの仲間入りである。
お仲間との顔合わせは後日。
用が終わるとさっさと退散しようとするオーフィスを引き留め、親睦会を開催する。
親睦会とはいっても、一緒に夕食を囲むだけだが。
そのオーフィスはというと――
「おかわり」
――物凄い勢いで食べていました。
はぐはぐ、と擬音がつきそうなほど、一生懸命食べている。
なんというか、想像していた無限の龍神とは違う。
もっと恐ろしい存在かと思えば、意外と可愛らしい。
張りつめていた守護騎士たちも、毒気を抜かれたのか、いつも通りの風景が戻ってきていた。
いつでもボクを守れるように、キリリとしていたシグナムも、脱力してへにょんとしている。
そんな中で、ひとり非常に嬉しそうな顔をしている存在がいた。
「シャマル、おかわり」
「はい、どうぞ。たくさん食べてね!」
シャマルである。
なんとこのオーフィス、シャマルのポイズン料理をおいしそうに食べるのだ。
初めは、普通にみんなと夕食を食べていた。
が、瞬く間にオーフィスは、夕飯を平らげてしまう。
彼女の分も考慮して一人分余計に作ったというのに、思わぬ健啖家っぷりに驚愕した。
そんなハラペコ大王は、台所の隅にあるものに目を付けた。
気づいたときには、遅かった。
彼女は、シャマルの料理を口にしていたのだ。
「おいしい」
そのオーフィスが放った一言で、わが家は凍り付いたかのように静止した。
信じられない、いや、信じたくない光景に、ボクは思わず尋ねてしまう。
「い、いま、なんと?」
「これ、すごくおいしい」
「まあまあまあ!オーフィスちゃんは、私の料理の素晴らしさが分かるのね!」
心なしか嬉しそうに答えるオーフィス。
シャマルの料理をおいしそうに食べる姿に、さすが無限の龍神は、格が違うと戦慄した。
そんなわけで、シャマルは非常に機嫌がよさそうである。
試しに味見してみたが、別に彼女の料理の腕が上がったわけでもなかった。
そんなわけで、和やかなムードが八神家を包んでいた。
夕食後の一服で、どうしても気になったことを尋ねてみる。
「ところで、オーフィス、キミの服装は誰が決めたの?」
オーフィスの服装を見ながら言う。
可愛らしい少女姿の彼女は、ゴスロリっぽい服装である。
まあ、あくまでも「っぽい」だけで、乳首にバッテンシールとかどうなのよ。
ちなみに、姿かたちも変えることができ、以前は老人の姿だったらしい。
老人よりはかわいい女の子の方が、協力したくなるってものである。
禍の団に人を集めるために、わざとこの破廉恥な少女姿をとっているのでは?と邪推したくなる。男ってちょろいからね。
「我が決めた。我、とても似合っている?」
その返答に顔を見合わせる八神家の面々。
いや、似合っている云々以前に、破廉恥すぎる。
みんなもそう思うよね?
「とてもよくお似合いですよ」
「リインフォース!?」
思わぬ裏切り者が家族にいた。
そういえば、原作のリインフォースの姿を思い出す。
すごくパンクなファッションですね、わかります。
えっちなのはいけないと思います。
◇
「オーフィスは、普段なにしてるんだ?」
すっかり八神家に馴染んだ感のあるオーフィスにあたしは問いかける。
『無限の龍神』なんて大層な名前がついているようにはとても見えない。
それでも、内に秘めた膨大な魔力にあたしは気づいていた。
はやての話す原作の中で、1、2を争う強さを誇るのだから当然ともいえる。
だからこそ、和んでいても隙は見せないようにしていた。
それはほかのメンバーも同様だが、はやてだけは気づいていないようだった。
まあ、あたしたちとはやてでは、くぐった修羅場の数が違うのだから仕方ないだろう。
「我、寝ている」
「ニートじゃねえか」
思わず口に出してしまう。
一瞬むっとしたような顔をしたオーフィスが問い返してくる。
「……そういうヴィータこそ何をしている?」
「う、あ、あたしは、その、近所のじいちゃんたちの相手をだな……」
藪蛇だった。見事なブーメランである。
「我、組織のトップ。部下が働く。だから、我、働かなくていい。我、働いたら負けかなと思っている」
「どう言いつくろうがニートじゃねえか。そうだ、『無職の龍神』なんてどうだ?」
「ヒモのヴィータに言われたくない」
その後言い合いになったところで、はやてが「明日の夕飯抜きにするよ?」といい笑顔で言ってきたために、お開きとなった。
くそ、あたしはニートじゃねえ。ヒモでもねえし。
◆
木場祐斗と兵藤一誠は、3人のエクソシストと戦っていた。
敵は全員が聖剣で武装している。
まず間違いなく教会から奪ったエクスカリバーだろう。
本当は、新たに武装を容易した紫藤イリナとゼノヴィアも一緒に行動するはずだった。
「イリナたちは、聖剣の破片を奪った犯人を捜索中で来られない、か」
目の前のエクソシストをドラゴンショット――射撃魔法のようなものある――で、吹き飛ばしながら愚痴を吐く。
木場祐斗に破壊された2本のエクスカリバーの破片は、イリナとゼノヴィアが厳重に保管しているはずだった。
だが、現実として、破片は奪われ、犯人は明らかになっていない。
堕天使陣営だと、推測しているが。
「僕としても、破片を奪った犯人は警戒すべきだと思う。彼女たちが部屋にいるにも関わらず、破片がなくなっていたんだ。何らかの神器である可能性が高い」
「事前の情報にないってところが、厄介だな」
木場と戦っていた一人は地に伏し、最後の一人もたったいま一誠が殴り飛ばした。
「な、んだと……!?聖剣持ちを3人も相手に回して、なぜ余裕なんだ!?」
それぞれが7分の1の力しかないとはいえ、エクスカリバーは伝説級の聖剣である。
それを、三本も同時に敵にして、普通は圧勝できるはずがない。だが。
「武器が強かろうと、扱う人間がヘボなら脅威じゃない」
「木場の言う通りだな」
シグナムという師を得て、飛躍的な成長を遂げた木場にとって、並の使い手では相手にならない。
一誠にしても、禁手化という切り札を使わずとも、悪魔の力と通常の倍加で、うまく戦う術を心得ていた。
彼らの努力の成果でもあり、シグナムやはやてたちの教え方がうまかった証左でもある。
特に、一誠の成長は目覚ましい。
もはや、原作の彼とは比較することすらおこがましいだろう。
彼の努力もあっただろう。
だが、それ以上に、八神はやての行った秘策の成果でもあった。
『少し前まで素人に過ぎなかった相棒が言うと皮肉にしか聞こえんな』
「まあ。そうかもな。八神さんのアレは、反則だよな」
アレとは、夜天の書に蓄積されたデータを元に、彼女が作ったオリジナル魔法『ファンタズマゴリア』である。
この魔法は、相手を幻想世界に誘い込み、精神のみでの活動を可能にするというものだ。
レーティングゲームの前にも、ずいぶんとお世話になった。
ライザーとの戦いのあとも、一誠たちは、幻想世界内で、八神家の面々とひたすら特訓に明け暮れた。
幻想世界では、どんなに長時間過ごしても、現実世界では、ほんの数瞬にすぎない。
これが、グレモリー眷属が急激に実力を上昇させた秘密だった。
「さて、君たちの聖剣は、破壊させてもらうよ」
木場は、逸る気持ちを抑えて、聖剣へと向かう。
一応、奇襲などを警戒はしておく。
しかし、情報によれば、コカビエルが主犯だったはずだ。
けれども、彼はこの場に現れない。いや、正確には、「現れることができない」
「向こうも部長たちがうまく抑え込んでいるみたいだな。作戦成功」
一誠が安堵の息とともに、声を出す。
リアスたちが、コカビエルを挑発している間に、聖剣を破壊するという作戦だ。
彼女たちは、どうやら足止めに成功したらしい。
別働隊の木場と一誠が、本命の聖剣使いを撃破したというわけだ。
作戦を立案し、実行したリアスの手腕は、褒められてしかるべきだろう。
――と、そのときだった。
突如、何かが飛来し、轟音とともに、一誠たちとエクソシストの間を土煙が舞う。
「何だと!?」
辺りが晴れると、そこには――誰もいなかった。
「くそっ。逃したか。部長たちが失敗した様子はない。と、すると――新手がいるな」
◆
「やあ。聖剣とエクソシストたちを返しに来たよ」
凛とした空気に似合う言葉づかいをした少女が、ふらりと現れて言う。
「お前は……何のつもりだ?」
「なに。お近づきの印に手土産を、と思ってね。」
警戒しつつも見やると、確かに、失ったと思っていたエクスカリバーで間違いない。
「何が目的だ」
「取引をしたいのだよ――――ボクの父と母について教えてほしいんだ」
――――堕天使たちとの宴は、まだ終わらない。
後書き
『無職の龍神』は、Arcadiaチラ裏の「はいすくーるN×N」が元ネタ。中編、完結済み。至高のギャグものだと思っています。未読の方には是非読んでいただきたい一品です。
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