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特殊陸戦部隊長の平凡な日々

作者:hyuki
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第12話:おはなみに行こう!-3


一行を乗せた車は、ゲオルグの運転によって港湾地区に向かって走っていた。
子供たちが後部座席を向かい合わせにしておしゃべりに興じている声が
賑やかに響く中、車はクラナガンの外周を走る道路をひた走る。

「いいお天気だね」

「そうだな。お花見日和ってやつか」

ガラス越しに太陽の方を見ながら、なのははまぶしそうに目を細める。

「アメ、食べる?」

「ん、もらう」

運転中のゲオルグが真っ直ぐ前を見たままあんぐりと口を開けると
助手席に座るなのはがその口に飴玉をひとつ放り込む。

「サンキュ」

「どういたしまして」

やはり前を向いたままのゲオルグが飴玉を口の中で転がしながら言った感謝の
言葉に対して、なのははニコッと笑って答えた。

車は港湾地区へと入り、車窓に日光を受けてキラキラと光る海が見えてくる。
やがて車はある建物の前にある駐車場で止まった。

「さあ、ついたよ。 みんな行こうか」

「はーいっ!」

ゲオルグが後を振り返りながら子供たちに向かって声を掛けると、
子供たちはドアを開けて車から飛び出していく。

その様子を微笑ましく思いながら見送ると、自身も車から降りて大きく伸びをする。
そして車の後方に回るとテールゲートを開けてレジャーシートや椅子といった
荷物を下ろし始めた。

「パパ」

後から声を掛けられてゲオルグが振り返ると、ヴィヴィオ・コロナ・リオの3人が
ゲオルグの顔を見上げていた。

「どうしたのかな?」

「私たちも運ぶの手伝うよ」

ヴィヴィオの言葉に続いてコロナとリオも笑顔で頷く。
ゲオルグは3人に向かって頷き返すと3人にそれぞれ1つずつ
レジャーチェアを手渡した。

「じゃあこれを頼むよ。 大丈夫かな?」

「うんっ、平気だよ!」

「はい、大丈夫です」

「任せてくださいっ!」

3人の少女たちはゲオルグが手渡した椅子を抱えるように持ち
元気よく返事をするとティグアンを伴って歩いて行った。

「ヴィヴィオもずいぶん頼もしくなってきたね」

4人の背中を目で追っていたゲオルグの側に大きなお弁当を抱えたなのはが
歩み寄ってくる。

「だな。 しかし、あの子らはちゃんと場所を判ってんのか?」

「大丈夫じゃないかな。 ヴィヴィオは何度も来てるんだし」

「まあ、な」

ゲオルグは肩をすくめながらそう言うと、側に立つ建物-元機動6課の隊舎にして
現在は特殊陸戦部隊の隊舎-へと目を向けた。

「あれから何回もここに来ちゃってるけど、この隊舎を見るとどうも
 感慨深くなっちゃっていけないね」

「俺は毎日来てるけど、そんなこと全然ないな」

「そっかあ・・・。 やっぱり今のわたしにとってはここは非日常なんだね」

なのははわずかに目を細めると抑え気味な口調で言う。
そんな彼女の視線の先に銀色の長い髪をした女性が歩いて来るのが見えた。

「おっ? ありゃチンクだな。 そういえば、今日はアイツが当直番か」

「そうなんだ。 おーい、チンクちゃーん!」

なのはが大きく手を振りながらチンクに向かって呼び掛けると、
チンクの方も軽く手をあげて歩みを少し早くする。
そして、2人の前まで来るとチンクは足を止めて2人の顔を見上げた。

「久しぶりだな、なのは」

「そうだね。 元気だった?」

「まあ元気だ。 お前の旦那にはこき使われているが」

チンクは肩をすくめてそう言うと、ゲオルグの方にジト目を向けた。

「にゃはは・・・ごめんねぇ」

困ったような表情を浮かべながら笑うなのはに対して
ゲオルグは不機嫌さを前面に押し出して、むくれた表情を見せる。

「しょうがないだろ。 チンクはデキるヤツなんだから」

「それとほぼおんなじセリフをはやてちゃんに言われて、
 ものすごーく怒ってたのはどこの誰だったかなぁ?」

「うぐっ・・・」

にやにやと笑いながら僅かな嫌みを取り混ぜつつなのはが発した
機動6課時代の出来事を掘り返す言葉に、ゲオルグは苦々しげな表情を
浮かべながら喉の奥から絞り出したような声をあげた。

「悪い。 今度の増員でもう少し楽になるはずだから・・・な?」

チンクの方を窺いながらゲオルグがそう言うと、チンクは再び肩をすくめて
苦笑してみせる。

「判っているさ。 ただちょっと駄々をこねてみただけだ」

冗談めかした口調でそう言うと、チンクはくるりと振り返って
隊舎の方へと歩き出した。

「時間ができたらあとで少し顔を出す。 妹たちも来ることだしな」

「うん、待ってるね」

「ああ」

なのはの言葉に片手をあげて答えると、チンクはそのまま隊舎の方へと姿を消した。
その背中が見えなくなったところで、ゲオルグは大きく息を吐いた。

「はあ・・・やれやれだな」

ホッとした表情で呟くゲオルグの顔を、ニヤニヤと笑うなのはが見上げていた。

「ゲオルグくんってさあ、チンクちゃんには弱いよねぇ。 ホント」

「そんなことは・・・」

「ない? ほんとにぃ~?」

両手を後ろで組み、その豊かな胸を突き出すようにしながら
なのはがゲオルグの目をじっと見つめる。
ゲオルグもなのはの目を真剣な顔で見返していたが、しばらくして
スッと目をそらすと大きなため息をついた。

「ま、確かにチンクには頭が上がらないよ。
 アイツがいなきゃウチの隊務はとたんに滞るだろうからな。
 それに、アイツを怒らすとスゲェ怖いんだよなぁ・・・」

「ふぅーん、そっかぁ・・・」

遠い目をして話すゲオルグの顔をずっと見つめていたなのはは、
ゲオルグが話し終えると、小さな声をあげゲオルグの視線の先に回り込んだ。

「ね、ゲオルグくん。
 チンクちゃんね、ああ見えてゲオルグくんのことをすごく慕ってるんだよ」

「はあっ!? あいつが!? それはないだろ」

なのはの言葉にゲオルグが両目を大きく見開き声を裏返して応じると、
なのははくるりと回ってゲオルグに背を向ける。
ふわりと舞いあがったスカートが風をはらみながら元に戻り、
なのはは一歩ずつ踏みしめるようにゆっくりと歩み始める。

「うーん、チンクちゃんは照れ屋さんだからあんまり自分の気持ちを
 表に出すタイプじゃないもんね。
 でも、チンクちゃんがゲオルグくんのことを慕ってるってのはホントだよ」

「お前なぁ、何を根拠にそんなこと言ってんだ」

自分に向かって呆れたような声を投げるゲオルグの方をなのはは振り返った。

「じゃあ、ちょっと昔話しよっか。 歩きながらさ」

なのはは再びゲオルグに背を向けるとゆっくりと歩き出す。

「おい、昔話ってなんだよ! ちょっ、待てって!」

ゲオルグは車からテーブルを取り出すとそれを抱えて
小走りになのはの背を追いかけた。





新暦76年の晩冬。
産休中のなのははある一人の客を自宅に出迎えた。
このころ、ゲオルグは士官学校の教官であり、特殊陸戦部隊の編成に
着手し始めていた時期である。

「いらっしゃい、チンクちゃん」

「ああ。 悪いな、大変な時期だろうに」

訪れたのはチンク。
このころの彼女は管理局の嘱託魔導師として、その活躍が徐々に
目立ち始めた時期である。

「ううん。 今はティグアンも寝てるし、どうせ家のことをやってるだけだから
 結構暇なんだよ。 どうぞ、上がってよ」

「お邪魔します」

リビングに入りチンクはソファに腰を下ろす。
キッチンから紅茶の入ったポットとカップ、そして焼き菓子を乗せた
トレーを持ったなのはがその向かい側に腰を下ろした。

2つのカップに紅茶を注ぎ、その片方をチンクの方に押しやってから
なのはは紅茶に口をつけた。

「で、話って?」

「うむ。 実は、ゲオルグから自分の部隊に参加してほしいと誘われていてな。
 どうしたものかと相談に来たのだ」

「ふぇ? ゲオルグくんに?」

チンクの言葉に驚き、なのはは目を見開いてチンクの顔を見つめた。

「ゲオルグくんの部隊って、クロノくんの差し金で来年には
 発足するってやつだよね。
 ゲオルグくんがその準備で忙しいのは知ってるけど・・・。
 なんて部隊だっけ? テロ対策部隊?」

なのはの問いかけにチンクは小さく頷く。

「部隊設立の趣旨はそうだが、部隊名は特殊陸戦部隊だ。 今はまだ仮だがな」

「そうなんだ。 で、チンクちゃんは何を悩んでるの?
 わたしで力になれることならいいんだけど」

「私などがそんなところに参加してもいいものかと思ってな」

「それは・・・チンクちゃんの気持ちひとつじゃないの?」

何をそんなことで悩んでいるのか解らない、といわんばかりに首をかしげながら
尋ねるなのはに向かって、チンクは肩をすくめて首を横に振った。

「そういうわけにもいかんだろう。 引き受ける以上はきちんと役割を
 果たせるだけの能力があるかとか、自分を見つめなおさないとな」

「それくらいゲオルグくんが考えてるって。あれでちゃんと管理職やってるもん。
 チンクちゃんなら大丈夫だって判断したから声を掛けたはずだよ。
 だから、チンクちゃんはゲオルグくんと一緒に働きたいかとか
 ゲオルグくんの部隊の仕事にやりがいを感じられるかとか
 そういうことだけを考えればいいと思うよ」

「そんなものだろうか・・・」

小さめの声でそう言うと、些か控えめな胸の前で腕を組み考え込むチンク。
そんな彼女の姿を見ながら、なのはは小ぶりなクッキーを皿から手にとって、
一枚口に放り込む。
咀嚼し終えて紅茶でのどを潤したとき、チンクは顔をあげてゆっくりと話し始めた。

「あの戦いから1ヶ月ほどたったころだったかな、あいつがはやてに連れられて
 初めて更正施設に来たのは。
 ちょうどギンガの社会についての講義の最中でな、ウェンディやセインあたりが
 騒いで大変だったのを覚えているよ」

そのときのことを思い出しつつ目を細めるチンクは、一呼吸置いて話を続ける。

「それからは、1週間に1度くらいの頻度で顔を出すようになってな、
 外であったことをいろいろと面白おかしく話してくれたよ。
 それに、ルーやアギトともよく話していた」

「そっかぁ。ルーちゃんが明るくなったのはそのおかげもあるのかな?」

「かもしれん。 まあ、アイツだけのおかげというわけでもないだろうし、
 母親と暮らし始めたことのほうが大きいとも思うがな」

感心しながら言うなのはに対して、チンクは苦笑しながら頷く。

「私たちの裁判が終わった後は、それぞれの進路についても相談にのってくれてな。
 結局、アイツが一番私たちのところに来てくれたんじゃないかな。
 だからというわけでもないが、私自身はアイツのことを信頼しているし
 アイツの役に立つことがあれば力になってやりたいとも思っているのだ」

チンクはそこでなのはの顔を見上げた。

「だから、私はアイツの部隊に参加することにする。
 それが私にできる最大限の恩返しだと思うからな」

そう言い切ったチンクの顔には晴れやかな表情と決意に満ちたのある目があった。
その顔を見て、なのはは微笑を浮かべてチンクの肩に手を置いた。

「ありがとね、チンクちゃん」

「いや、そのセリフは私のものだな、この場合」

2人はお互いに向かって笑い合い、お互いの手を固く握った。

「さ、食べよ。 お茶も冷めちゃうし」

「そうだな。 いただくとしよう」

なのはの言葉にチンクはクスッと笑い、テーブルの上のクッキーに手を伸ばした。





「ってことがあったんだよね。 つまり、チンクちゃんはゲオルグくんのことを
 心から信頼してるし、ものすごく慕ってるんだよ。 照れ屋さんだけどね」

数分間の昔語りをそうして締めくくり、なのははゆっくりとした歩みを止めて
ゲオルグの方を振り返った。

「そりゃあ、チンクちゃんだって忙しければイライラもするだろうし、
 上司のゲオルグくんに愚痴くらいは言うと思うよ。
 でもね、本心ではゲオルグくんが頼ってくれるのをうれしく思ってると思うな」

「そうかもな。 いや、きっとそうなんだろうな」

少し赤らめた頬を指で掻きながらゲオルグが小さな声でそう言うと
なのははクスッと笑ってゲオルグの鼻のてっぺんを自分の人差し指で
軽くつついた。

「うん。 でも、だからといってなんでもかんでもチンクちゃんに
 押し付けるのはなしなんだからね」

「わかってるよ、んなことは」

そう言ってぶすっと不機嫌そうに頬を膨らませる。
その肩を後から軽くたたかれ、ゲオルグは顔をしかめたまま後を振り返った。

「おはようございます。 こんなところで何やってんですか?」

そこに立っていたのは彼とは旧知の仲といっていいシンクレアだった。
その隣には、フェイトが娘のジュリアを抱いて寄り添うように立っている。
ゲオルグは2人の姿を見止めると、しかめっ面をしまいこんで3人に向かって
笑いかけた。

「おう、おはよう。 こうして会うのは久しぶりだな、フェイト」

「うん。 お久しぶりだね、ゲオルグ。 なのはもおはよう」

「おはよ、フェイトちゃん。 ジュリアもおはよ」

「あい!」

なのはが腰をかがめてジュリアに顔を寄せて挨拶すると、
フェイトの腕の中でジュリアは大きく手を上げてそれに応えた。
微笑ましい光景、だがそれに納得できないものが一人いた。

「ちょっと、俺を無視しないでくださいよ」

苦笑しながら不平をもらすシンクレアにゲオルグは一瞥をくれる。

「お前よりもフェイトやジュリアのほうが大事。
 お前とは定期的に顔を合わせてるんだから当然だろ」

「相変わらず俺の扱いが悪くて安心しましたよ。
 で、さっさと行きませんか?」

苦笑するシンクレアの言葉に頷くと、ゲオルグは再び目的地に向かって
歩き出した。
その隣をシンクレアが歩き、なのはとフェイトの奥さん衆は
その数歩後を談笑しながら付いていく。

男同士、女同士、それぞれに他愛無い会話をしながら歩いていくと
4人の視界に淡いピンク色に染まった桜の木々が入ってくる。
さらに近づいていくと一際大きな桜の木の根元に4人の子供たちが座りこんでいた。

「あっ、ママ!」

近づいて来る4人の大人たちに気がついたヴィヴィオが声をあげると、
他の3人も大人たちに気付いて立ち上がる。

「お待たせ、ヴィヴィオ」

「ううん」

ヴィヴィオのそばまで行ってそう声をかけたなのはに対して、ヴィヴィオは
首を横に振り、続いて歩み寄ってきたフェイトの顔を見上げた。

「おはよ、フェイトママ」

「おはよう、ヴィヴィオ」

ヴィヴィオに向かって挨拶を返しながら、フェイトは抱き上げていたジュリアを
地面に下ろした。

「ジュリアもおはよ」

にっこり笑ったヴィヴィオに向かってジュリアはにぱっと笑って見せた。

ゲオルグとシンクレアがレジャーシートを広げ、その周りにいくつかの
折りたたみ椅子を置き終えると、女性陣と子供たちは靴を脱いでレジャーシートに
ぺたんと座りこんだ。

「ほんと、ここの桜はきれいだよねぇ」

「そうだね。 本当にきれい」

なのはとフェイトはそんな言葉を交わし合いながら目を細めて桜の木を見上げる。
その時吹いた風に桜の花びらが舞い散り、なのはとフェイトの長い髪をなびかせる。
その姿に折りたたみ椅子に腰を下ろしていたゲオルグとシンクレアが見とれていた。

「きれいだ・・・」

「ですね・・・」

ゲオルグが意識せずにあげた声に、同じく無意識でシンクレアが応えると
お互いの声で2人はハッと我に返り、お互いの顔を見合わせて苦笑する。

「あの・・・俺が言ったのは桜のことですからね」

「ほほぅ、そうですか。 ま、俺もだけどな」

そして2人は乾いた笑い声をあげる。
ひとしきり笑った後、ゲオルグは真剣な顔を作って談笑する
なのはとフェイトの方に目を向けた。

「ホント、きれいだよな。 あいつら」

「ですね。 改めてそう思いましたよ」

ゲオルグと同じく真面目な表情でシンクレアが応じる。

「幸せもんだな、お互い」

「ええ、俺たちにはもったいないぐらいにね」

お互いの顔を見合わせながら、ゲオルグとシンクレアはニヤリと笑いあう。

「何をニヤニヤ笑ってるんですか? 男同士で」

2人は後から掛けられた声に反応し、揃って振り返る。
そこに立っていたのはスバルとノーヴェ・ディード・ウェンディの3人だった。

「おっさん2人が顔を見合わせてニヤニヤしてるなんて気持ち悪いッスよ」

頭の後で両手を組んで2人を見下ろすウェンディの言葉にスバルたちは
ニヤニヤと笑いながら頷く。

「おっさんって言われるほど歳はとってねえよ」

憮然とした表情で反論するゲオルグだったが、スバルたちは肩をすくめて
首を横に振る。
さすがにゲオルグも腹を立てたのか引き攣った顔でスバルたちを睨むように見た。
その額にはうっすらと青筋が浮かんでいる。

「お前ら、いいかげんに・・・」

椅子から立ち上がりスバルの方に歩を向けかけたゲオルグの肩に
触れるものがあった。

「まあそう腹を立てるな、子供ではあるまいに」

背中越しに掛けられた声に反応してゲオルグが振り返ると、
そこにはヴォルケンリッターの4人が立っていた。
そしてゲオルグの肩にはシグナムの手が置かれていた。

「だよなー。 あれくらいで腹を立てるなんて、ゲオルグはガキくせーんだよ」

「お前が言うな、ヴィータ」

「そうね。 ヴィータはゲオルグくんのことは言えないわね」

ヴィータが自慢げな笑みを浮かべて言い放った言葉に対して
ザフィーラとシャマルの冷静なツッコミが入り、ヴィータは不満げに
頬を膨らませた。
それをちらりと横目で一瞥してから、シグナムはスバルたちに目を向けた。

「お前たちもお前たちだ。 ゲオルグにはそれぞれに世話になっているのだし
 少しは尊敬の念を持て」

少し目じりを吊り上げたシグナムが厳しい口調で言うと、
スバルたちは一様にシュンとした様子で項垂れていた。

「すいません、ゲオルグさん」

「悪かったッス・・・」

沈んだ声でゲオルグに向けた謝罪の言葉を口にするスバルとウェンディ。
2人の様子を見たゲオルグはさすがに気の毒に思って2人の方に歩み寄る。

「まあ、いいさ。 そこまで気にしてたわけじゃないから」

厳しい表情から一転、苦笑を浮かべたゲオルグがそう言うと
スバルたちは安堵感からホッと一息ついた。

「けどな、目上の人間には最低限の礼儀は欠かさないように。
 親しき仲にも礼儀あり、だからな」

再び真面目な顔を作ったゲオルグが釘をさすように言うと
神妙な顔でスバルたちは頷いた。

「うん、みんな揃ったね。 そろそろお昼だしお弁当にしよっか」

そのとき、レジャーシートの上に腰を下ろしてフェイトと話していたなのはが
そう言って、傍らに置いていた重箱の包みを解き始める。

「そうだね。 ジュリア、こっちにおいで」

同じくフェイトも大きなバスケットを手にとってティグアンについて近くを
走り回っていたジュリアの方に手招きする。

2人の声につられるように、レジャーシートの方に参加者たちがわらわらと
集まってくる。

ゲオルグも靴を脱いでレジャーシートの上に上がり、重箱の蓋を開けようとしている
なのはの隣に腰を下ろした。
そしてなのはの作った弁当の中身を覗き込む。

「おっ、うまそう」

ゲオルグの声に反応してヴィヴィオも駆け寄ってくる。

「ホントだ。 ママのお弁当、すっごくおいしそうだね、パパ」

ゲオルグのヴィヴィオのほめ言葉になのはは顔をほころばせる。

「ありがと、2人とも。 って、フェイトちゃんのも美味しそうだね」

なのはを挟んでゲオルグとは反対側に腰を下ろしているフェイトが
バスケットを開けるとサンドウィッチを主体にした中身が姿を現す。

「そう? ありがとう、なのは。 でも、なのはのにはかなわないかな」

なのはの言葉に笑顔を見せつつ、おにぎりを主体にしたなのはの弁当の中身を見て
フェイトはそんな言葉を放つ。

「そんなことないよ」

なのははフェイトの言葉に首を横に振ってニコッと笑う。
そうこうしているうちに、他のメンツも2つのお弁当を囲むように大きな輪を作る。

「私たちもお弁当をつくってきたんですけど、お2人のと並べちゃうと
 見劣りしちゃいますね・・・」
 
眉尻を下げて困ったような顔をしたスバルは、そう言いながらバッグから
大きな弁当箱を取り出して蓋を開く。

「全然そんなことないよ。すごくおいしそう。 ありがとね、スバル」

「あっ・・・はい、いえ」

なのはの言葉にスバルは頬を赤く染めて俯き加減になりながら小さく頷いた。

「さっ、みんな。 食べよ!」

なのはの言葉に合わせて、各々が思い思いの料理に手を伸ばし始めた。





弁当の中身もすべて空になって,お菓子を食べながらのんびりと
おしゃべりをすること数時間。
日はだいぶ傾き、日光がオレンジ色を帯びてきたころになって
お花見会はお開きとなった。

参加者総出でシートや椅子を片付けて車の方へと運んで行く。
ゲオルグも折りたたみのベンチを小脇に抱えて歩いていた。
その目の前にツインテールを揺らして歩くコロナの小さな背中が見え、
ゲオルグは少し歩調を速くして彼女に追いつく。

「コロナちゃん」

不意に声を掛けられ驚いたコロナが振り返り、自分の前に屈むゲオルグに気付いた。

「ヴィヴィオの、お父さん?」

なぜこの人物に声を掛けられるのか、そんな疑問を持ったコロナは
こくんと首を傾げながらゲオルグの顔を見る。

「なんですか?」

「ちょっとお話したいんだけどいいかな?」

「えっと・・・はい」

ゲオルグの問いかけにコロナが頷くと、ゲオルグは地面に膝をつく。

「悪いね、時間をとらせて。 で、話って言うのは今朝の話なんだけど、
 コロナちゃんに謝りたいと思ってね」

「謝る、ですか? 今朝のことって、なんでしょう?」

コロナはゲオルグが何について話しているのか理解できず、
何度か目をしばたたかせる。

「コロナちゃんに俺が特殊陸戦部隊の部隊長だと言い当てられたときに
 威圧的な態度をとってしまっただろ」

ゲオルグがそう言うとコロナは自身の記憶を探るように目線をさまよわせ、
しばらくすると思い当たる節に行き当たって、納得したような表情で
ゲオルグの顔に視線を固定した。

「確かにそんなこともありましたけど、そんなに気にしてないですよ」

柔らかな笑みを浮かべてコロナは言う。

「ならいいんだけどね」

対してゲオルグは苦笑しつつ応じた。

「それじゃあ、行こうか。 もうみんな待ってるだろうしね」

ゲオルグは立ち上がりつつそう言うと、コロナはニコッと笑って頷いた。





ところ変わって、地上本部近くの市街地。
夕方で人通りの多い大通りを一人の男が歩いていた。
白っぽいシャツに暗い色調のスラックスをはいた男は、周囲の人々と外見上は
大差がなく、少しボケっとしているような印象の目線も相まって
辺りの光景にすっかり溶け込んでいた。

だが、とある裏路地の前まで来たところでその目線が鋭さを帯び
男はサッと周囲を確認すると、すばやくその身を裏路地へと滑り込ませた。

ビルとビルの間、うす暗くどことなく湿気の高い空間を男は歩いていく。
その足取りは大通りを歩いていたときの気だるげなものとは違って、
きびきびとした足取りに変わっていた。

そして男はビルの背面どうしが向かい合うごく細い空間を通りすぎたところで
その足をピタリと止めて、ビルの壁面に背を預ける。

「・・・ご苦労さま」

「お待たせして申し訳ありません」

「いや、時間通りですよ」

男が通りすぎた細い空間の奥、暗闇の中から黒服を着た別の男が姿を現し
男に声を掛けると、男は黒服の男の方をちらりとも見ることなく
だがすまなそうな表情を浮かべて答えた。

一方、黒服の男の方は男の謝罪に対して感銘を受けた風でもなく
平坦な声で応じた。

「それで、首尾は?」

直前までの平板な口調とはうって変わって、黒服の男の声色に真剣なものが混じる。

「問題なく特殊陸戦部隊の所属となることができました」

黒服の男の問いに男が応えると黒服の男が満足げに頷いた。
ただ、その姿は男の目には届かなかったが。

「結構です。 そのうちに指示を伝えますのでそれまでは動かなくて結構。
 せいぜい部隊長以下の信頼を得てください。
 くれぐれも下手を打たないでくださいよ」

「わかって、おります」

黒服の男の指示に男は固い口調で応じる。
その表情には緊張の色があり、その背筋を冷たいものが流れ落ちる。

「では行きなさい」

黒服の男の言葉に従って男は入ってきたのとは逆方向に向かって
裏路地を歩きだす。
そして表通りに出ると何食わぬ顔で人並みにまぎれていった。

 
 

 
後書き
結構間が空いてしまいました。
苦労した割にはできがよくない・・・。 
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