東方変形葉
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日常の中の無限変幻
東方変形葉34話「非想非非想天の娘への天罰」
前書き
紫「あの天人、霊夢にぼこぼこにされてから再建に取り組んでいるらしいけど、最近全く姿を現さないじゃないの。再建が停滞しているなんて・・・」
藍「どうしたのものなのでしょうか。」
紫「先に、異変中に仕事をサボって彼岸に行く前の幽霊が消滅するなんていう二次被害を出した小町に制裁を加えなきゃいけないわ。」
藍「そうですね。今のうちに痛い目にあわせておきましょう。」
紫「・・・もし、私の推測が正しかったとしたら。あの天人は亡き者にすべきかしら。」
あれからしばらく再建の様子を見張っていた。しかし、再建がある程度進んでいるとはいえ、あの天人は最近全く姿を現さない。霊夢は魔理沙の家に、神社ができるまで泊っているらしい。
天人は霊夢の話によると、歌の日だかなんかで天界へ戻っているらしい。
おかしい。明らかにおかしい。再建が停止しているとはなんて由々しき事態。
俺の推測があっていたとしたら?・・・あの天人を亡き者にしないといけないかもしれない。
「どうしたの?そんな真剣な顔をして。」
姫雪が顔を覗き込んできた。
「ああ、いや、ちょっとね。それよりも、ちょっと探し物をしてくるけど、一緒に来る?」
「うん!で、何を探しているの?」
「重要参考人」
「え?」
とにかく、俺の推測があっているかどうかは別として、やっぱり本人の口から聞いた方が早い。俺の能力の前では絶対に隠し事など不可能だし。
「よし、出かけるよ。きらちゃん、ほたるちゃん、姫雪。」
「は~い!」
「は~い!」
「うん!」
魔法の森、竹林、妖怪の山など行ってみたが、いなかった。となると天界のみ。
天界に上ると、そこはがらんとしたところだった。・・・天界は確か、飽和状態で成仏禁止と紫から聞いたが・・・どこが飽和状態なんだ?・・・そうか、天人というのはそういう種族なのか。
「あら、地上の人間。」
と、羽衣を羽織って、帽子をかぶっている人が現れた。たしかこの人は・・・竜宮の使いという妖怪だったはず。
「君は、竜宮の使いで間違いないね。」
「はい、その通りです。私は永江衣玖と申します。あなたは?」
「俺は葉川裕海だ。こっちの子が小鳥姫雪で、この人形たちが左からきらちゃん、ほたるちゃん。」
急いでいるので少し早めに紹介をする。
「なるほど。で、地上の人間がここへ何の用なのですか?」
「ある天人を探しているんだよ。ほら、この前巫女にぼこぼこにされたあの天人。」
名前は聞いていないのでこれで通じるのかは不安だ。
「総領娘様のことですか?どのような用件でしょう?」
「あの天人の口から真実を語ってもらおうと思ってね。場合によっては亡き者にするけど、いい?」
これで「はい」と答えたらすごいよな。どう聞いても上司と部下の関係っぽいし。・・・え?フラグ?細かいことはいいんだよ。
「物騒ですねえ。」
やはり、はいとは言わなかった。しかし、少し笑いながら言っている。
「今どこにいるかわかる?」
「ええ、今あの方は地上に降りています。」
ん?たしか今日の朝に霊夢に聞いたら、今日は歌の日だから天界に行ってるって聞いたけど。矛盾している?
「あの方は、本当に自由すぎて困るのです。あ、もしお灸を据えるのでしたら、ぎったんぎったんにしてやってください。」
「お灸を据えるんじゃなくって、亡き者にするんだよ。」
「あ、そうそう。あの方は家系に神社を持っているんですよ。」
ん?なんで今そんなことを・・・ああ、そういうことか。俺の推測の歯車ががちりとはまってきた。少しふっと笑いをこぼした。
俺の様子を、不思議そうに見る姫雪と人形たちなのだった。
地上に戻り、神社を見てみると、完成間近だった。
そうか、もうわかったぞ。
落成式は明日らしいので、その時まで待とう。・・・あの天人に痛い目に遭わすために。
姫雪たちに悪い思いはさせたくなかったので、このことは話さず、怒りを抑えていつも通り接した。
「はーい!落成式をはじめまーす!」
いえーい!と、会場が盛り上がる。やはり私の推測は正しかったようだ。ならばあの天人を、この八雲紫の手によって滅多打ちに遭わせるまで。
比那名居天子が長い演説をし始めた。その時だった。
「ハロー、初めまして。」
スキマから裕海が現れた。
「な、なんなのよあなた!今は落成式の途中なのよ!?」
天子は驚きながら言った。
「ふ~ん?よくできてるね。こんな神社、壊れちゃえよ。」
普段の裕海とは思えないほど残酷で、きつい言葉だった。
「なっ!?いきなり出てきて何を言っているの?そんなことはさせないわ!」
「ほお?あんなに簡単に地震で神社をぶっ壊したお前がそんなことを言うわけ?」
「ぬっ!そ、それは・・・」
最もなことを言われ、言葉に詰まる天子。
「何を仕込んだんだよ?」
そうか、裕海も気が付いていたのか。
「な、何を・・・」
「ふん、お前の目的なんてもうわかってるんだよ。お前の家系は神社を持っている。だから、自分のいいように神社を改造し、住処をふやそうとしていると。」
「・・・ええそうよ?いいじゃない別に。だから何?」
「だから、こんな屑神社、壊れちゃえよ。」
「へえ?あんたにみたいな、“変化の現人神”であるのもかかわらず、大地の変化にも気が付かずに致命傷を負ったあんたみたいなよわっちいやつがそんなことを言うわけ?」
・・・こいつだったのか。裕海を襲った犯人は。
「お前が俺を襲ったのか、まあそれはいい。昨日天界を見て来たよ。どこが飽和状態だよ、あれだけ贅沢な土地を持っていながら、まだお前は土地を欲しがるか。しかも、大地震の原因となる要石を埋め込むなんて。幻想郷の喉元にナイフを突き立てるような行為をしやがって。」
「いいじゃない、たとえここが滅びようとも。遊び半分で埋めたんだしいいじゃん。」
「天罰覿面。流るは最悪の変化、下るは最善の変化。お前はもう、永遠にまとわりつく地獄の変化からは逃れられない!」
「生生流転~死の境界~」
「ふん、私に挑むなど、人はここまで愚かになったの?さあ、おとなしく帰って布団にでもくるまるがいいわ!」
要石「天空の霊石」
天子は小さな要石を飛ばして地味に攻撃する。しかし、そんな程度では裕海の眼中にも入らないだろう。
天子の周りには黒い弾幕でいっぱいだ。
「ふん、この程度の罠に引っ掛かるとでも思ったの?人間の頭はこれだから駄目なのよ。」
と、誇らしげに言った途端、色とりどりの弾幕が渦を巻いて天子に襲い掛かる。
「っ!?」
すっとかわしたようだが、体勢はかなり崩している。さっきの強い意気はどうしたものか。
「『恐怖の眼』『威力の変化~鬼~』」
と、天子の後ろに奇妙な目が現れる。
「いったあっ!!なんなのよ、これ・・・」
と、油断した隙に裕海はいつの間にか天子の傍まで迫っていた。
天変「局地的大彗星豪雨」
すごい勢いの光線が放たれる。直撃のようで、とんでもないダメージを喰らっているようだ。
裕海は、今までに見たことがない冷酷な顔と目をしていた。そう、彼は怒っている。それはなぜか。簡単だ、彼も幻想郷を誰よりも愛している一人だからだ。かつて、能力のことで自ら孤独になっていた自分を受け入れた幻想郷を愛している。だから、遊び半分で幻想郷に危機をもたらした天子に怒っているのだ。
「わああああっ!?な、何よこの程度・・・」
と、我慢強く耐えていた。しかし、かなりダメージは大きい。
「ふん、この程度ねえ。これを喰らってもそんなことが吐けるか?」
大変化「無と有の境界」
何もないはずのところから、突然大爆発が起きる。
「わあああああああああああああっ!!!」
あの夢想天生と互角な力をもつあのスペカは、喰らってしまってはもう立ち上がれない。
だが、天子はかすかに残るプライドのため、立ち上がっていた。
「くっ!こ、こんな人間に~・・・」
と、天子の後ろに裕海は回り込んでいた。
神変「無限変幻 閃」
高威力の閃光が解き放たれる。至近距離で直撃した天子は、それでもなんとか立ち上がろうと、スペカを持った。
「全人類の緋想天」
大地が持ち上がる。そして、むやみやたらに光線を放ちまくる。
しかし、裕海はそれをすべて読み切っていた。すいすいとかわし、天子のもとへとやってきた。
「七曜弾幕大結界」
今度は地味に攻撃をして苦痛を与えようとしている。
弾幕がいくつも配置され、そして発射される。
「がっ!?わああああああああっ!!!!」
もう、20分が経とうとしている。天子はまだ負けを認めず、立ち上がってくる。
天子はあれでも幻想郷において上位の力を持っている。そして自分が天人であるということと、自分の力の過信のよって形成されたあの傲慢な心が今、たった一人の人間に、平等な決闘であるはずのスペルカード戦でさえ圧倒的な力を見せつけられている。それは、天子にとって最大級のショックとなっている。おそらくもう心の中では挫折しきっているだろう。しかし、それをプライドが許さない。どんなに攻撃を受けても立ち上がってくる。
「ぅっ・・・くっ・・・」
剣を頼りに、ふらふらと立ち上がる天子。
裕海の目からは、もう光は失われていた。怒りに我を忘れているのかもしれない。
裕海の手であの天人を殺めさせはしない。裕海の手を汚したくないというのもあるが、何より、殺めたことを必ず後悔するだろうからだ。
裕海がスペルカードを構えた。まずい、あれ以上スペカを喰らわせたら、さすがに死ぬ。私が行って止めなければ。
すると、予想外の出来事が起きた。
「「「これ以上はだめ!」」」
裕海の人形と弟子が、天子と裕海の中間地点に立ち、通せんぼをしていた。しかし、裕海の目にはその子たちは写っていなかった。裕海は歩みを進める。しかし人形と弟子は動かない。そして、
「「「だめっ!」」」
人形と弟子が裕海の動きを抑える。若干だが、裕海の目の色に変化が起きた。しかし、構わず進もうとしている。
すると、人形の一人が顔に張り付いた。そしてこういった。
「だめだよぉ、ころしちゃだめなの!今の裕海様はいつもの裕海様じゃないよ、あの人をどうしても殺したいのなら、私たちを殺してからにして!」
と、涙をぽろぽろ流しながら言った。それにつられてもう一人の人形と弟子も泣き出す。
そのときだった。裕海の目に光が戻っていった。そして、冷酷な顔と目は、少しずついつも通りの穏やかな感じになっていった。
「・・・3人とも、ごめん。君たちを殺すことなんてできない。」
そういって、正気を取り戻した裕海は力強く人形たちと弟子を抱いた。
「・・・くぉの・・・」
天人が、ぼろぼろになりながら歩く。裕海は、天人の首元を軽くたたき、気絶させた。
「・・・さて。紫、いるんだろ?紫もこのことに気が付いているんだろ?」
なんと、スキマから覗いていたのがばれていた。
「天人はご覧の通りにしてしまったから、今からこいつの傷を癒す。その間に紫はあの神社を程よく破壊していてくれ。」
私はスキマから出た。
「ええ、わかったわ。それにしても、本当にこの天人を亡き者にしなくてもいいのね?」
「ああ、この子たちのおかげで目が覚めたよ。さて、早くしないと。“癒しの変化”」
両手を天子の方に向けた。すると、みるみる傷がなくなっていく。
裕海からはもう怒りなどは感じられない。それはなぜか。天人をぼこぼこにしたから?いいや、
違う。裕海の本質がとても優しく、寛大だったからだ。怒りに我を忘れている状態の中でさえ、あの子たちの言葉を聞き入れ、受け入れ、自分の愚かさに気が付いたのだから。
さてと、私も頼まれたからには壊しておかないと。
傷を癒し終えた。あとはどこかに寝かしておこう。あ、あの木陰が一番よさそうだ。
振り向くと、いい感じに破壊された神社があった。
「紫、ありがとう。さて、俺はそろそろ帰るね。この子たちがさっきから俺の傍から離れようとしないからさ。」
俺の頭に人形たちが、服の端を持っている姫雪。
「そう、わかったわ。宴会とかの日時は決まったら伝えるわね。」
「じゃ、またね。」
そういって、スキマを開いて家に帰った。
家に帰ったら、3人がいきなり布団に押し倒してきて、すぐに寝かされた。3人が体にずっと張り付いていたから、なかなか寝られなかったけど。
後日。今日は、萃香の手によって再び再建された博麗神社で宴会が行われた。
当然ながら、主犯である比那名居天子も参加している。
「ん?あっ・・・私を笑いに来たのかしら?」
「そんなわけないだろ?過去のことなんてもう忘れたさ。さて、せっかくの宴会なんだから盛り上がろうよ!」
「いえーい!」
「わ~い!」
「裕海様、だっこして~!」
なんか、あれ以来姫雪と人形たちがいつもより甘えてくるようになった。抱っこをせがんだのは姫雪である。師匠と弟子の関係なので、姫雪も名前に“様”をつけて呼んでいる。
「あっ、ずる~い!私が先!」
「いいや、私!」
「違うよ。弟子である私が優先されるの。」
なんか言い合いになってる。
俺が少し困った表情でいる横で、天子が微笑んだような気がした。
続く
後書き
34話です。
俺は別に天子が嫌いというわけではないのです。ただ、ストーリーを原作通りに進ませるにはこんな風にしなければならなかったのです。
次回からこそ日常に戻します。
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