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それでも行く

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第三章

「そうしていた」
「何故そこまでされるのですか?」
「武士は勝負から逃げぬものだからだ」
 渡辺と同じことをだ、彼も言うのだった。
「約束も違えぬからだ」
「お命に危険があろうとも」
「それはどうということはない」
 命、それもだというのだ。
「全くな」
「それが武士ですか」
「そうだ」
 まさにそうだというのだった。
「そのことはわからぬか」
「私は医者ですので」
 申し訳ない顔で応えた医師だった。
「そうしたことは」
「そうだな。しかしだ」
「それがですか」
「武士だ」
 まさにというのだ。
「武士だからこそだ」
「渡辺様は貴方との果し合いに出られましたか」
「そうされたのだ」 
 こう医師に語るのだった。
「この方はな」
「全く、今動かれたらお命も危ないというのに」
「では頼む」
 ここでこうも言った彼だった。
「渡辺殿のことは」
「はい、それはもう」
「渡辺殿は命を賭けて接写との果し合いに挑まれた」
「だからこそですね」
「この方のお心、素晴らしきものだった」
 それ故にだというのだ。
「この方は死んではならぬ、頼むぞ」
「わかりました、何としても」
 医師も強い声で彼に答えた、そうしてだった。
 大八車を呼んで渡辺をそこに入れて彼の屋敷まで帰った、そうして必死に果し合いでの怪我の手当も病気の薬も飲ませてだった。
 何とか彼の命を救った、それでようやく意識を取り戻した彼に言うのだった。
「武士のお心、見させてもらいました」
「そうか」
「私にもやっとわかりました」
 こう渡辺に言うのだった、布団の中にいる彼に。
「武士の方々の中にあるものが」
「拙者なぞまだまだだがな」
「いえ、確かなものがあります」
 渡辺の中にも、というのだ。
「武士のお心が」
「ならよいがな」
「では後は」
「この病をだな」
「私がこの命を以て治させて頂きます」
 そうするとだ、彼は渡辺に約束した。
「医師として」
「それがだな」
「はい、私は医師です」
 今度は彼が言うのだった。
「医師として。その心をお見せします」
「頼むぞ。この病が癒えたらまた剣を持つ」
「そうされますか」
「やはり剣が好きだ」
 布団の中で笑って言った言葉だった。
「そうしたい」
「その為にもですね」
「頼むぞ」
「はい、お命の危険は過ぎましたので」
 だからだというのだ。
「後は床から起き上がれる様になりましょう」
「それではな」
 渡辺も微笑んで医師の言葉に応えた、そしてだった。
 医師は彼を再び剣が持てるまでにした。そうして彼の心を見せたのである。
 この話をだ、今一人の若者が周りにいる者達に話していた。見れば細面で聡明さを伺わせる顔立ちをしている。姿勢もいい。
 若いがかなりの者であることがわかる、彼はこのことを周りに話してから微笑んだ。
「これが我が師緒方洪庵先生が私にお話してくれたことです」
「先生の若き日のですね」
「その頃のお話ですね」
「そうです」
 若者は微笑んで彼等に答えた。 
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