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ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~

作者:村雲恭夜
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訓練と罠

 
前書き
クラディールさん、本日退場です。 

 
翌日の朝、俺は白のコートの袖に手を通すと、ミザールと共に55層グランザムへ向かった。
今日から血盟騎士団の一員として活動する。だが、本来五人一組で攻略に当たる所を第二副団長ミザールの強権発動により、二人のパーティーを組むことになった。
しかし、ギルド本部で俺を待っていたのは意外な言葉だった。
「訓練?」
「そうだ。私を含む団員四人のパーティーを組み、ここ55層迷宮区から56層主街区まで到達してもらう」
そんなことを斧戦士………ゴドフリーが言った。
「ちょっとゴドフリー。ライトは私が……」
「第二副団長と言っても規律を蔑ろにされては困ります。アスナ様にも言いましたが、一度はフォワードの指揮を預かる私に実力を見せて貰わねば困ります」
それでも食って掛かろうとするミザールの肩を叩き、いさめると、
「別に良い。その方が信頼出来ると言うならそうしよう」
「うむ。では、三十分後に街の西門に来てくれ」
そう言って、ゴドフリーは部屋を出た。


















それから三十分後、俺は西門に行くと、キリト、ゴドフリー、そしてクラディールが立っていた。
「どういう事だ」
俺はゴドフリーに小声で尋ねる。
「ウム。君らの間の事情は承知しているのだがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いを水に流してはどうかと思ってな!」
ガッハッハと大笑するゴドフリーを細目で見る。しかし、連れてきてしまった物は仕方無いと判断し、俺はクラディールの謝罪を大人しく受けた。本当は殴りたかったが。
「さて、今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムを全て預からせてもらおう」
「……転移もか」
俺の問いに、当然と言わんばかりに頷く。ここで渋ればそれだけまた面倒な事が起こらないとも限らないので、俺は全ての結晶アイテムを渡す。念の入った事で、ポーチまで確認された。
「ウム、よし。では出発!」
ゴドフリーの号令に従い、俺達はグランザムを出て、遥か西の彼方に見える迷宮区目指して歩き出した。















暫く歩き、幾つかの小高い岩山を越えた時、眼前に灰色の岩造りの迷宮区がその威容を現した。
「よし、ここで一時休憩!」
ゴドフリーが野太い声で言い、パーティーが立ち止まる。
「では、食料を配布する」
ゴドフリーはそう言うと、革の包みをこちらに一つ放ってきた。それを片手で掴み、開けると中身は水の瓶とNPCショップで売っている固焼きパンだった。
全くと思いながらパンをかじると、ゴドフリーとキリトが倒れた。HPバーを見ると、二人のバーがグリーンに点滅する枠に囲まれていた。麻痺毒だ。
「テメェ、何しやがった!!」
俺は背からブラッティ・ギルティを抜き放つと構える。すると、クラディールはこちらを見る。
「おっと……お前だけ水飲まなかったのか……これは失策だったな……」
その口調に悪寒を感じ、一歩下がる。クラディールは大剣を抜き放つと、ゴドフリーが持つ結晶を蹴り飛ばし、更にポーチの結晶を奪った。
「失敗したぜぇ………まぁ、殺す順序が変わっただけか……」
(こいつ……狂ってやがる!!)
そう思った俺はクラディールに接近する。
「おいおい……わざわざ殺されに来たか………んじゃあ死ねよ」
クラディールは俺にアバランシュを放つ。当然、モーションを見てない俺が避けられる訳無くまともに一撃を喰らう。そのまま壁にぶつかり、ズルズルと地面に落ちた。
「よぇぇなぁ<滅殺者>ァ。折角アンタを殺すために入ったのによぉ……」
「何……っ?」
クラディールが突然左のガントレットを除装した。純白のインナーの袖を捲り、露わになった前腕の内側を俺に向ける。俺はそれを見て驚愕した。
「そのエンブレム……<笑う棺桶>か……!!」
<ラフィン・コフィン>、俺の空白の一年間に所属していた殺人ギルドの名だ。つまり奴は、俺と同類……と言うことだろう。
「そう言う事だ。この麻痺テクもそん時教わったんだが……アンタは引っ掛からなかったしな」
クラディールが一歩ずつ俺に近付いてくる。それに対して、俺は逃げられなかった。
「さぁて……アンタには死んでもらわねぇとなぁ……アンタは俺にとっての最大の汚点だからなぁ!!」
と、俺に大剣を突き立てる。俺に大剣が突き刺さるたび、HPが確実な勢いで減っていく。
「どうよ……どうなんだよ……。もうすぐ死ぬってどんな感じだよ……。教えてくれよ……なぁ……」
クラディールが囁く声で言いながらじっと俺の顔を見る。
「何とか言えよガキィ……死にたくねぇって泣いてみろよぉ……」
俺はその時、こう思っていた。死にたいと。
現実では、家との関係が嫌だった。ああしろこうしろと親が煩かった。そんな俺が心休まる場がVRMMOとミザールだった。だが、それでも家に縛られている感覚は消えなかった。ならば死ねば楽になると思った。しかし、ミザールは悲しむだろう。そんな考えに辿り着いた俺は、手に持つ剣を奴に放っていた。
「何っ!?」
クラディールは俺の放った剣を避けるが、一瞬大剣を手放す。その隙を付き、体から大剣を抜き出し、クラディールに投げる。
「お……お……?何だよ、やっぱり死ぬのは怖ぇってかぁ?」
「違う。俺は、大事な人が悲しむのが嫌なだけだ」
「そうかよ。なら、死ねェェェ!!」
クラディールは大剣を振り被り、俺に止めを刺そうとする。俺は腰に手をやるが、双剣を装備していないことに気付いた。
(やはり……俺は死ぬ定めなのか……?)
俺は目を閉じ、その時を待つ。だが、そこに一陣の風が吹いた。
「な……ど……!?」
驚愕の叫びと共に目を開けた直後、クラディールは剣ごと空高く跳ね飛ばされた。
「間に……合った……」
震えるその声は俺の耳に届いた。崩れる様にしゃがんだミザールは俺を見た。
「生きてるよね……ライト……」
「間一髪……な」
俺はキリトの方を見ると、どうやらアスナも来ている様だ。俺はハイポーションを飲まされると、ミザールはスッと立ち上がった。
「大事な人を傷付けた罪は重い……覚悟して」
刹那、今までに無い剣速でクラディールに細剣を放つ。その顔は、怒りに身を任せている様な顔だった。恐らく、この剣速を見切れるのはレッドの俺だけだろう。
そして、クラディールのHPが赤い危険域に突入した所で、奴は剣を投げだすと喚いた。
「わ、解った!!解ったよ!!俺が悪かった!!」
そのまま地面に這いつくばる。
「も、もうギルドは辞める!あんたらの前にも現れねぇよ!!だからーーーーー」
「それが何?私の知った事では無い」
細剣を構え直し、一気に突き立てようとした。だが、
「ひぃぃぃっ!死に死にたくねぇーーーーーーーーっ!!」
その言葉で剣の切っ先が止まった。恐らく、彼女はプレイヤーを殺した事は無い。だが、この世界ではそんな物は致命的な弱点だ。
叫ぼうとしたが遅く、すでにクラディールによって細剣を飛ばされていた。
「アアア甘ぇーーーーーーーーんだよ第二副団長様ァァァァ!!」
「甘いのはテメェだ、クラディール」
ドスッ、と言う音がクラディールから聞こえた。狩人体術複合スキル<無月>。俺は一瞬で二人の間に割り込み、剣を折り、クラディールの鎧の隙間にピンと伸ばした手を突き刺し止めを刺す。
「この……人殺し野郎が……」
「生憎、それは言われ慣れてる。嫌味にしか聞こえんよ」
そしてクラディールはポリゴンとなり、四散した。
「ごめん……なさい……私の……せいで………」
悲痛な表情でミザールが言った。普段は覗かせない、女の子らしさを出して。
「私が………ちゃんとしていれば………そのせいで……ライトがぁ……」
俺は近付き、ミザールの頭をポンッと優しく叩いた。
「いい加減泣き止め。ミザールのお陰で俺は生きてるんだ。別にミザールのせいじゃ無いよ。だから、自分を責めないで」
俺はミザールを抱き締めて、二、三度頭を撫でると、クラディールからドロップした転移結晶を手に取り、ミザールと共にその場から離れた。 
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