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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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憎悪との対峙
  27 琴座の始動

 
前書き
今回はミソラが動き出します。
あらゆる登場人物が敵が占領している一箇所に集まり、それぞれの作戦やら陰謀やらが交錯していきます。
分からなくなってきたら数話前を見返して、「コイツはこんな考えで動いてたんだ~」とか思い出しながら読んで頂けるといいかもしれません。 

 
「ねぇ、ミヤ。明日、また手術だね」

三崎七海は病室で眠っているミヤの見舞いにやってきていた。
七海はここ数日、部屋に閉じ篭もり、両親から心配されながらも全く食事を摂らずに自分を責め続けていた。
自分を責め続けていると、1人で自分を責め苦しんでいる沢城アキ=彩斗の気持ちになれる、1人で背負わせずに済むとでも思ったのだろうか。
自分でも何をしているのかよく分からなかった。
人の気持ちになるなんて出来るわけがない。
ただ分かったのは、自分を責めるというのは辛いということだ。
ミヤが傷ついたのは本来なら彩斗よりもどちらかと言えば、自分のせいだ。
それなのに彩斗が自分よりも苦しんでいるとすると罪悪感で苦しい。
この数日であらゆることを学んだ。
胸が苦しくなり、呼吸器が止まりそうになる。
全身に激痛が走り、自分の無力さに腹を立て周りのものに当たり散らす。
この数日で空のはずの胃から絞り出すように何度も吐いた。
出来れば2度と味わいたくはない程の苦痛だ。
それを抱えているとすれば、今の彩斗は平静を保ってはいないと確信していた。
もし保てているように見えるならば、必死に押し殺すために更に心に深い痛みを受けていると。

「ミヤ...アキくんのせいじゃない。私のせい....ごめんね」

七海はゆっくりと跪き、涙を流した。
罪悪感で出来るなら手首を切ってしまったほうが楽だろう。
しかし今、罪悪感からくる全身の痛みに耐え続けるのが償いのような気がして今もこうして生きている。
甘えのような気がした。
死ぬのが怖いから言い訳を言っているようにも感じた。

「あぁ...ねぇ、ミヤ。今さ、アキくん、行方不明なんだって。それに街中で色んな事件が起こってるよ。どうなっちゃったんだろう、この街」

七海はため息をつきながら、立ち上がり窓の外を見た。
もうすぐ日が落ちる。
また夜が来る。
七海はやはり数日前の発端の事件を思い出してしまう。
ちょうど日が落ちそうな時だった。
彩斗とミヤが襲われたのは。
そして1週間後の夜、その犯人の不良たちが皆殺しになった。
既に夜というものが怖くなっている。
夜というのはある種の武器だ。
窓に背を向けてゆっくりと再びミヤの方を見た。

「アレ?」

よく見ればミヤの日記帳になにか挟まっている。
白い紙が僅かに覗いていた。

「何だろ?」

七海はそれを引き抜き、折りたたまれている紙を開いた。

「!?....」

そこにはとても汚い字で一言だけ書いてあった。

さようなら

その特徴的過ぎる筆跡は見覚えがあった。
それによって七海は一瞬で全て理解できた。



























響ミソラは野次馬の中から逃れ、学校の近くのコンビニの前にいた。

『ミソラ、あれじゃどうやったって通してくれるわけないわよ』
「でもさっき私と同じくらいの男の子が入っていったじゃん!?」
『だからって私たちが通れるわけ無いでしょうが!?』
「そうだけど...」


ミソラはため息をつきながら、トランサーの中のFM星人・ハープと話していた。
本来なら自分が電波変換して音もなく校舎に侵入し、武装集団を倒して人質のスズカたちを助けるところだ。
しかし今は事情が違う。
妨害電波の影響で変身しても周波数が変更できないため、現実空間にしかいられないのだ。
結果として学校に入ろうと思えば、壁を通り抜けることも出来ずに玄関か窓から入るしかない。
しかし玄関や学校の周囲は警察が取り囲んでいる。
そして戦うとなれば、周波数を変えて撹乱しつつ近づき急所に一撃とはいかない。
相手には自分が見えるし、銃火器で武装した相手と最悪殴り合いをしなければならない。
ミソラはポケットからiPhoneを取り出した。

『ミソラ、ここじゃ電話は...それにスバルくんも携帯電話なんて今どき持ってるかどうか...』
「ええ、分かってる...スバルくんを頼ることも出来ない...」
『思い出して...何か手がかりは?』

唇を噛みながら、必死に策を巡らせる。
見つからずに学校に侵入する方法、普段学校に行く機会も殆ど無く、学校の構造も詳しくは分からない。
必死に今まで学校に通った短い間で得られた情報を頭の中で整理する。

「...そうだ...地下!!」

『地下?』
「確か地下通路が色んな所にあるって聞いたことある!」
『ホントに?』
「この学校、芸術家とか企業の役員の子供とかお金持ちが多いし、国から支援を受けてて国の役人もよく査察に来るから、非常時に逃げられるように逃げ道を作ってるらしいの」
『なるほどね...それはありそうな話ね』
「それに七不思議?っていうのかな...学校裏のマンホールに落ちた生徒が数分後には学校の中に戻ってたって噂もあるし」
『...試してみる勝ちはあるわね』

「でしょ!!行こう、ハープ!!」

ミソラはいつになく自分の頭の冴えに驚きを隠せなかった。
走り出し、横断歩道に飛び出した。
一刻も早くスズカを助けなくてはならないという気持ちで全く周囲のものが目に入らなくなっていた。

『ミソラ!!危ない!!』
「え?キャァァ!!?」

ミソラは反射的に横断歩道を蹴り、後ろに飛んだ。
バイクが猛スピードで通り過ぎたのだ。
ミソラは後ろに倒れて信号を見た。
赤信号、つまりミソラが信号を無視した。

『危ないわね!!せっかくいいひらめきだったのに、これじゃタダのヌケサクみたいじゃない!?』
「ゴメン!!びっくりした....」
『でも今のバイクもバイクよ!!信号無視してたこっちが悪いけど、全くスピードを落とさなかったわ。普通、ぶつかりそうになったらブレーキくらい掛けるものじゃないの!?』
「いや...私がいきなり飛び出したからそんな暇なかったのかも...」
『免許取り立てで調子に乗ってただけでしょ、どうせ』

ミソラはテールのウインカーを上げ交差点を左に曲がるバイクの後ろ姿を見た。
形は典型的なリッタースポーツ、青と白のカラーリングが特徴的、進行方向は学校のグラウンドの方向だった。

「.....」

ミソラは何か違和感を感じながら、信号が青になると走り出した。
あの方向はグラウンドがあるだけで行き止まりだ。
確かに普段なら試合やら練習やらで教育者や保護者が車で行こうとすることはあるだろう。
だが今のタイミングというのはどう考えてもおかしかった。
時刻は16時13分、もうすぐ日が暮れる。
ミソラは何かが起こる前触れのような気がしながら、学校裏に向う。
高いフェンスが侵入者を拒む。
常人には何の備えも無しに上ることはまず不可能、しかしそのために誰もそこから侵入しようとしない上、人通りも少なく、見張りもない。
これはミソラに取っては好条件だった。

「行くよ..」
『ええ』

ミソラはかぶっていたウィッグと帽子、そして掛けていたサングラスを投げ捨てト、ランサーを背負っていたギターに繋ぎ叫んだ。

『電波変換!!響ミソラ!!オン・エア!!!』

一瞬にしてミソラはピンク色の渦に包まれ、姿を変えた。
水色のバイザーにワンピース状のピンクのスーツ、ベレー帽のようなヘルメットからはみ出た艶のある金髪の髪。
響ミソラとハープが電波変換した姿、ハープ・ノートだった。

「ハッ!!」

ハープ・ノートは足に力を込め、一気にフェンスと飛び越えた。

「誰もいないや」
『まさかこのフェンスを飛び越えてくるとは犯人たちも考えてないでしょうからね』

ハープ・ノートはプールの裏に回り、部室が並ぶ例の場所へとやってきた。
早速、噂のマンホールを力ずくで開けた。

「...ハープ...行くよ」
『分かったわ』

先に続く暗黒の下水道にハープ・ノートは若干、背筋に悪寒が走った。
照明も無ければ、人がいるわけでもなく、いてもネズミやペットショップから流出した動物くらいという今まで自分が見たこともないような世界が広がっているのだ。
いくら電波人間でも中身は歳相応の少女なのだった。
しかしスズカの事を再び思い返し、深呼吸をすると一気に下水道へと飛び込んだ。






















「ここか...」

バッグの中から工具を取り出し、上部の蓋を開いた。
一見、厳重に塞がれているようで非常時には出入りすることを前提としているのか金属製の蓋は呆気無く外れた。
ゆっくりと空間から頭を出して周囲に誰いないことを確認すると、彩斗は両手に力を入れ下水道から学校の地下4階へと飛び込んだ。

「....ボイラー室か...16時24分、概ね計画通り」

彩斗は左腕につけていたCITIZEN・アテッサ エコドライブ ダイレクトフライトは電波が使えない中でも正確な時間を刻んでいた。
ブルーダイアルのクロノグラフ、ワールドタイムに定期的な電池交換の必要のないエコドライブ機構、軽量なチタンに特殊なコーティングがなされ、どんな服装にでもマッチするデザインと普段から役立つ多機能性に惹かれて購入したものだ。
そしてポケットからMotorola・ PHOTON Q 4Gを取り出し、PCからコピーしたデータを表示させた。

「ここを出たら20メートル直進、左に曲がって20メートル直進でサーバールームのエントランスか」

彩斗は情報を確認すると、物音を立てないようにボイラー室の扉を開き、廊下を歩いて行く。
耳を澄まして周囲の気配を確認する。
そして防犯カメラの位置を確認し、死角を通ってサーバールームの扉を見た。

「...カメラに完全に写らないのは無理か」

彩斗は少し引き返し、「機械室」と書かれたプレートの部屋へと入った。
多くのパイプが音を立てているため、音を潜める必要は無くなり一呼吸置く。
既に心臓がバクバクと鳴って破裂する寸前だというのに、今までにない程に冷静という自分でも驚きが隠せなかった。
緊張しすぎて頭に血を昇らせる余裕が逆に無くなってしまったのだろう。

「上か」

彩斗は再び工具で天井の空調ダクトのカバーを外した。
ここを通れば、カメラには写らずに済む。
それにValkyrieの意表を突くことにも繋がる。
ポケットからハートレスから渡された銃を取り出す。
ハートレスが言うにはハートレスやアイリスには撃てなかったらしいが、何かを発射する小型のレールガンらしい。
取り敢えずの北欧神話の雷神の名から『トール・ショット』と名づけた。
まるで宝石のように繋ぎ目のない美しいデザインでもはや武器とすら思えない。
倒れていた自分が持っていたというが、全く身に覚え無い。
どうやって手に入れたのか、心当たりとしてはスターダストに電波変換したことくらいだった。

「ふぅ...」

彩斗は深呼吸をすると、それをしっかりと握りしめ、目の前のパイプを踏み台にダクトへと侵入した。


 
 

 
後書き
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
ラストで彩斗が中に侵入しました。

そろそろ再びロックマンと敵との戦闘というロックマン系作品の見どころという場面ですが、そろそろ試験が近いので、更新遅くなります。
もし読んでくれている人がいたら申し訳ないです。

彩斗が握りしめていた武器やらValkyrieの計画やら、WAXAと警察とで交錯する思惑やら、メリーの持ち物のお守りやら、謎な部分が色々と多いですがちょっとずつ明らかになっていくので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
 
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