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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第十話

「……妙に静かだな」
「……ですね」
 あれから紫に連絡をとってスキマを作ってもらい永遠亭に帰ってきたわけだが、どういうわけか永遠亭は静まり返っていた。別に夜遅くになってしまったわけでもないし、時間帯的に夕飯でもないだろう。それに人影すら見えないのも不思議だ。二人はとりあえずさっき連絡をとっていた
 しばらく廊下を歩いていると、ある一室から声が漏れてきていた。周囲を見てもそこだけ明かりがともっているところから、全員がこの部屋に集まっているようだ。
「……みんなここにいるのか?」
 試しに声をかけてみると、部屋の中は一瞬で静まり返りゆっくりと戸が開く。そこに立っていたのは紫だった。
「お帰りなさい。感動の再会はあったかしら?」
「どうだろうな。で? 何をしていたんだ?」
 そう問いかけてみると、紫は無言のまま部屋の中を見せてくれた。
 そこにはいつも通りのメンバーに加えて、普段見たことがない顔ぶれが四人こっちを見ていた。どうやらさっき宮下と牧野が話していたことをここでも話していたみたいだ。
「なるほど……天界からの脱走劇の話か」
「……知ってるの!?」
 俊司は守矢神社での出来事を紫達に伝えた。どうやら宮下の牧野の協力の事もきちんと伝わっていたようで、特に驚かれることなく話はすすんだ。
 紫達によれば、四人は俊司が守矢神社に向かうと紫に連絡をしてから数分後、永遠亭に転がり込んできたとのことだ。ひどく疲れていたようなので敵襲があったのかと聞いてみたところ、今の状況にいたる。
「なるほど……でもなんで呼び戻さなかったんだ?」
「宮下があんたに会いに行くって言ってたわ」
 そう言ったのは青髪のロングヘアーで、なぜか黒い帽子に桃を乗せた少女だった。
「話は聞いていたわ……あんたが里中俊司ね? 私は比那名居天子。天子でいいわ。そこの羽衣を着てるのが永江衣玖。黒白のドレスみたいなのを着てるのが聖白蓮。いかりマークのついた帽子をかぶってるのが村紗水蜜よ」
「こちらこそ。俊司でいいよ」
 その後彼女達から脱出の様子について聞いてみたが、大方宮下が言っていた予想通りだった。天界の拠点にいた能力持ちの兵士の数は予想より多かったらしく、思うような行動が出来なかったらしい。
 脱出後あらかじめ設置していた脱出用の装置を破壊した彼女達は、牧野から受け取っていた地図を頼りに永遠亭を目指していた。ただ地図自体も気休め程度で、装置が設置しているところからどこに向いて歩けばいいかとしか書かれていなかったらしい。奇跡的に永遠亭へとたどりついたのは良かったが、へたすれば迷いの竹林で永遠に彷徨い続ける可能性もあったわけだ。
「問題は私達よりも……捕まったみんなよね」
「すみません……私が不甲斐ないせいで……」
「だっ大丈夫だよ聖! みんな無事だって!」
 人一倍正義感の強い聖は精神的にかなりきているようだ。そんな彼女を村紗はずっと慰めていた。
「……早く助け出してあげないといけませんね」
「そうだな……紫、もう今日は解散して後日また話をしよう。皆さん疲れてるだろうし……」
「……それもそうね」
 それぞれ決意を心の中に秘めつつ、一同は部屋を後にするのだった。

 その日の夜妖夢が話をしたいと言ってきたので、二人は俊司の部屋に集まっていた。最初は簡単な雑談ばかりしていたのだが、次第に話題は再思の道での出来事に変わっていった。
「……あそこではいろいろありすぎましたね」
「そうだな……」
 和やかだった雰囲気が次第に重くなっていく。
 再思の道での戦いは勝利に終わったはずだった。だがその戦いに復讐の念を持っていた俊司は、復讐相手に相討ちという形で殺された。そして俊司に恋心を抱いていた妖夢も、彼の死で精神が壊れ自殺寸前までいってしまった。思いだしただけでも体が震えてしまいそうだ。
「俊司さん……少し考えたことがあるんです」
「……考えたこと?」
 妖夢は少しためらいながらもそれを言った。
「また……俊司さんが……どこか行ってしまうんじゃないかって。また、離ればなれになっちゃうんじゃないかって……」
「妖夢それは――」
「わかってます。でも……怖いんです。そう考えると……とても……とても……」
 妖夢はそう言いながら静かに泣き始めた。
 もう会えない寂しさを味わいたくはないのが彼女の本音だった。たとえ俊司が亡霊だったとしても、革命軍はなにか対策を考えているのではないか。考えたくもないことが妖夢の脳裏をよぎっていた。それにせっかく思いを告げられたばかりだ。それで俊司がなんらかの方法でこの世から消え去ってしまえば、今度こそ自殺しかねないくらい精神を崩壊させてしまうだろう。
 それにそう思っていたのは彼女だけではない。俊司だって今回のような亡霊になるなんて事が続くなんて思っていなかった。それに目の前で誰かが自分をかばって殺されるなんてこと二度と見たくはない。ましてその相手が恋人ならなおさらだ。
「……妖夢」
 俊司は泣き続ける彼女の頭を優しくなでると、そっと自分の懐に引き寄せた。
「俊司……さん?」
「俺だって怖いよ……妖夢。もうあんな思いはしたくないからさ」
 不安にさせないためにも無理やり笑顔を作り出す。それを見た妖夢も泣くのをやめ、静かに彼を抱きしめた。
「なあ妖夢。約束してくれるか?」
「……なんですか?」
「俺は君に背中を預ける。だから妖夢も俺に背中を預けてくれるか?」
 そう問いかけると、妖夢は無言のまま静かにうなずいてくれた。まあわざわざ問いかけなくても答えは決まっていただろう。しかしお互いの意志を確認出来た二人は、少し重荷が減った気がしていた。
「……あなたが救世主でほんとによかった」
「それはどうも。でも俺は救世主じゃない。ただの亡霊だよ」
「いいえ。私にとっては立派な救世主です」
 そう言って妖夢は笑みを返してくれた。俊司もまた笑みを返して静かに彼女の頭をなでる。最終決戦までの日はそう遠くはない。自分に出来ることを再確認しつつその日を待ち続けるのだった。 
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