クズノハ提督録
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クズノハ提督遠足
前書き
すみません…とんでも無いミスが発覚してたので再投稿しました。
お恥ずかしい限りです……
電車に乗ること数時間。四人はとある提督が着任する鎮守府へと来ていた。
「うちより大きいんじゃないか…?」
「司令官が本気を出せばすぐこれくらいになるわよ!」
「なのです!」
「それは楽しみだな。是非とも追いついてくれよ?」
扉を開けて出迎えたのは痩せ型長身の眼鏡が馴染む男、この鎮守府の提督芝田であった。
「提督さーん!!」
「夕立!本当に無事だったんだね…よかった…」
しかし夕立を見た途端先程の戯けた顔から一転、芝田の目には少しだけ涙が浮かんでいた。
「まさかこんな感動の再会シーンを目の当たりにするとは…人生何が起こるか分からん」
「まだまだ司令官若いじゃない!これからよ」
「…お前に言われると何かなぁ」
「私も雷お姉ちゃんも起工されたのは1930年、竣工したのは1932年なのです」
「人生の大先輩じゃないか!」
「そうよ、だからもっと私に頼っていいのよ?」
「実年齢80以上にしてこの見た目って、艦娘って一体…」
「あれ、司令官?聞いてるー?」
芝田達が感動の再会をしている横で、感動とは程遠い会話をしている三人であった。
「ありがとう葛葉。夕立を助けてくれて」
「いやぁ俺らも助けられたからな」
「なのです」
「夕立よくわからないけど何か助けたっぽい?」
「大助かりだったぜ」
「…さて、いつまでもここにいるのもアレだし入りなよ。」
芝田が一同を手招きした時、突然
「か、可愛いじゃないかー!!」
「あうっ」
「なの!」
後ろから歓喜の声と共に小柄な影が二人の駆逐艦娘に襲い掛かってきた。
「…お茶くらいなら出すからさ」
「スルーかよ!助けてやろうよ!つか助けてくれよ!」
「どうせ安藤でしょ?いいじゃないか憲兵に捕まることも無いんだし」
「憲兵って…いや、本人達が」
「可愛いなーこの娘達、葛葉が本気で恨めしくなるなーぐへへ」
「た、助けて司令官…」
「苦しいのです…」
「つか安藤のこんな姿見たことないぞ」
「提督業を始めて以来、駆逐艦娘と出会った途端こんな風になっちゃうみたいでね。子供が好きなのか幼女が好きなのか…」
「そこ、人を変態みたいに言うな」
とは言え笑顔で二人に頬擦りする彼女の姿はどう見ても、幼い少女を溺愛する変質者そのものであった。
「とりあえず安藤。二人を離せさもなくば12.7cm連装砲が火を吹くぞ!…雷の!」
「え、私?至近弾?」
「少し辛いだろうが頼む雷!」
「はーい司令官、いっきますよー!」
「待て待て分かった分かった…ごほん。羨ましいな全く…」
しぶしぶ二人から手を離し妬まし気に葛葉を見ながら両手を挙げて降参を表した。
「全く、やれやれだぜ…二人とも、さっさと入るぞ」
「あのお姉さんちょっと怖いわ…」
「首がまだ苦しいのです…」
三人は安藤から逃げるようにして扉を開けて入っていった。
「しかしいい匂いだった。反省はしていない」
周りに誰もいなくなったにも関わはさらず、安藤は開き直った様な態度で堂々と独り言を言った。
「提督は相変わらずだね」
…独り言では無かった様だ。
ーー応接室
「粗茶ですが」
「おおありがとう」
「ありがとうなのです!」
「ありがとう五月雨。手伝ってくれて」
「いえいえ、これくらいお任せ下さい」
『五月雨』と呼ばれた艦娘は盆を抱え、気恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。
「一応紹介するよ。我が第一艦隊旗艦にして艦隊最古参の五月雨だ。」
「五月雨っていいます!よろしくお願いします」
芝田は少し誇らしげに五月雨の紹介をした。
五月雨は電と同じく就任直後から提督をサポートする艦娘であり、同じく駆逐艦である。
「ところで芝田、他にメンツはいないのか?」
「紹介したいところだけど…多分今部屋で寝てるか、歌ってると思う。」
「そうか。今の内に寝てるってことは…何だ?夜戦でもするのか?」
「あ、馬鹿…」
「え?」
その瞬間、近所一帯に響き渡る程の音を立てながら勢い良くドアが開かれた。
「夜戦!?」
声の主は目をこれでもかという程に輝かせ、芝田に詰め寄った。
「はぁ…ドアを壊さないでくれ。川内」
「今度は壊してないよ!それよりも夜戦!夜戦は!?」
「分かったから、また今度ね」
「また今度…」
『川内』と呼ばれた少女はがっくりと項垂れ、先程と打って変わって覇気の全く無い顔で部屋から出ていった。
「…さて何の話だっけ?」
「お前の仲間の話だよ。今のはもしかして軽巡洋艦か?」
軽巡洋艦とは艦船の種類のことで、巡洋艦の中でも比較的軽く小さめの艦船を指す。
駆逐艦は水雷艇(機雷や魚雷、爆雷を用いる船)を駆逐する艦であるのに対し、巡洋艦は遠洋を巡回する能力の高い艦であり、駆逐艦よりも大型となっている。
「彼女は川内型軽巡洋艦一番艦の『川内』だ。夜せ…夜に戦うのが好き見たいでね、さっきの言葉がこの鎮守府内ではほぼ禁句になってるくらいだ」
「ウチには軽巡はまだ早いな」
「軽巡のお姉さんならすぐに来てくれると思うわ」
「資材さえ貯めればですが…」
「ん?資材が無いの?」
芝田は少しだけ驚いた表情で葛葉を見た。
「ああ、無さ過ぎて建造も一回しか出来ない。工廠の妖精さん達も暇してるだろうな…」
「おかしいな…僕が着任した時も少なかったけど、一隻しか作れない程では無かったよ」
「「え?」」
これには葛葉だけでなく、電も声を揃えて驚いた。
「わ、私が鎮守府に来てすぐに受け取ったのは確かに一回しか建造が出来ない程の資材だけでしたが…」
「とすると…資材の輸送中に手違いがあったか、あるいは一ヶ月で随分と新米への待遇が変わったか」
「後者の可能性は無いな」
その時、またも一人の少女によって扉が開かれた。今度はゆっくりであったが。
「安藤、今までどこ行ってたんだよ?」
「ま、まぁそれは置いといて。新米への待遇は今まで通り変わっていない、ってか変わってたら文句やスレの一つや二つは出るはず」
「じゃあ手違いがあったかな。今度問い合わせてみる」
「そうするべき」
「信じてくれるかどうか…」
「そこは頑張るさ。まぁ、この話は良いとして」
葛葉は改まって話を切り出した。
「安藤、お前のとこはどんな感じなんだ?」
「ん?どんな感じと言われてもなぁ」
「よし突撃だ」
「え、勘弁してくれよ」
「言葉で伝わらないものは実際に見た方がいいだろう?」
「ぐ…それはそうだが」
かくして、一同は安藤の鎮守府へ向かうこととなった。
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