東方魔法録~Witches fell in love with him.
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二章 吸血人狼~Are you a werewolf.
22 妹様~Kyu to shi te do ka - n.
「今夜はいい月ね」
月を眺めながら紅茶をすする。紅茶は血の次に良い飲み物ね。心が落ち着くわ。
私は落ち着いた心でここ最近の出来事を思い出していた。
孤独だった私に明希とパチュリーに続いて小悪魔までこの紅魔館に住むことになった。ドジなところもあるけれども司書として見所があるわね。いつか見た夢に着実に近付いていてとても嬉しいわ。
残すは咲夜のみね。全員揃った時が楽しみだわ。……そしてあの子は心の底から笑顔になれるのかしら?
そんなことを思っていると、テーブルに置いていた紅茶が少しだけ揺れて小さな波紋を作った。
「……あら、開けてしまったのね」
私はすぐに原因がわかった。少しだけマズいことになったわね。いえ、それとも……
紅茶を飲みながら小悪魔から聞いたことは半信半疑だった。まさか隠し扉があったなんてね。でもさっきの音があるし、小悪魔が狂言を言うはずないので真実なのだろう。
「俺はその隠し扉の中を見てくるけど、パチュリーはどうする?」
「私も行くわ。面白い本があるかもしれないし、それに…明希と離れるのは嫌…」
バカップル万歳。心の底からそう思った。
「そうと決まれば早速行くか。小悪魔、案内してくれ」
「はい!わかりました!」
俺は残りの紅茶を飲み干して小悪魔の後に着いていった。
………………………………………
……………………………………
…………………………………
カツーン…カツーン…カツーン…
隠し扉は下へと続く階段を隠す為のもので俺、パチュリー、小悪魔の順番でその地下へと続く暗い階段を魔法で明かりを灯しながら下っていった。
「我々は隠し扉を通って秘密の地下へと下りていっています!果たしてこの地下には一体、何が隠されているのでしょう!?」
何故か小悪魔がノリノリで実況している。ちょっとうるさいが、楽しそうだから放っておいた。
階段は意外にも短くて直ぐに下りきった。階段の先には廊下が続いていて、俺達は迷わず歩き始めた。探検ごっこみたいで…いや、完全に探検だね。ちょっとドキドキする。
しばらく歩いていくと人影が見えた。
「おっと!怪しい人影を発見しました!もしや封印された悪魔なのでしょうか……!?」
怪しい人影は緑のチャイナ服みたいな服と緑色で星の飾りがある帽子を被った見知った赤毛の女性で、どこからどう見ても美鈴だった。悪魔には見えない。
「あれ、美鈴。こんなところで何してるの?」
「え!?皆さんこそどうしてここにいるんですか!?」
俺達の姿を見た美鈴は俺達以上に驚いていた。
「美鈴こそ何してるの?」
「ええ!い、いや…その…ええっと…」
ひどく焦りはじめて何かを隠そうとしているが、そんな反応をすると何かありますよと白状しているようなものだ。
知的好奇心が疼いた俺達は先に進もうとしたが美鈴がそれを阻んできた。
「駄目ですよぉ。困ります。ここから先は危険ですから~!」
美鈴が両手を広げて俺達を押し返す。俺達は広げた腕の下からくぐって抜けようとするが美鈴は素早く腕を動かしてそれを阻む。
「通して」
「駄目ですぅ」
「通しなさい」
「駄目ですって」
「通してくださいよ~」
「だから駄目ですって」
「美鈴その人達誰?」
「あ、妹様。この方たちは新しい住人ですよ」
「ねえ、美鈴。その子誰?」
「ええっと御嬢様の妹様です」
「「「「ええ!妹(様)!?」」」」
何で美鈴まで驚いているんだよ。
美鈴の後ろにいたのはレミリアに似たナイトキャップを被って、金髪をサイドテールに纏めていて、紅い瞳で背中に一対の枝に七色の結晶がぶら下ったような特殊な翼が生えている少女だった。
この子がレミリアの妹…。話には聞いていたけど、それほど狂ったようには見えない。
「い、妹様…?部屋にいたはずじゃ…」
「えっとね、何か騒がしいなーと思って見に来たの」
大人びたしゃべり方をする姉と対称的に無邪気なしゃべり方をするね。
「私はフランドール・スカーレット。フランでいいよ。貴方達、お名前は?」
「俺は明希・ヘルフィ・水原。魔法使いで吸血鬼だよ」
「パチュリー・ノーレッジ。魔法使い」
「司書をしています小悪魔です」
「明希にパチュリーに小悪魔ね!よろしく!」
無邪気な笑顔がよく似合うがどこか無理に笑っているのは気のせいだろうか?やっぱり両親を殺された(17 経緯を参照)ときに出来た心の傷が治ってないのかも…
「ねぇねぇ!私暇なの。遊んでくれる?」
「ダメよフラン。部屋にいなさい」
「お姉様!?」
唐突に後ろからレミリアがあらわれてフランに遊ぶなと言ってきた。唐突なのは何時もの事なので別段、驚きはしなかったが俺はその言葉に腹を立てた。
「おい、レミリア。妹相手にそれはないんじゃないか?」
「明希、貴方は知っているはずでしょ?今フランがどういう状態か」
「そりゃ、聞いたけどさ、遊ぶぐらい問題ないんじゃないか?」
「その遊びが問題なのよ!」
「てい」
「あう!」
俺はレミリアの頭にチョップをかました。そしてレミリアに引きこもりが如何に情けないか耳打ちしてやった。このままじゃフランは引きこもりになっちまうぞ?と。すでになりかかっているかもしれないが。
するとスカーレットの誇りがその情けなさを嫌ったのか難しそうな顔をして言った。
「わかったわ…その代わり、危なくなったら力ずくでとめるからね」
「遊びで危なくなることなんてないだろ……フラーン!お待たせ。何して遊ぶ?」
実年齢は俺より上だが、さっきからのやり取りからしてフランの精神年齢はまだ幼いと見える。遊びって言えば鬼ごっこや隠れんぼかな?
「うーんとね、チャンバラごっこ!」
女の子にしてはアクティビティな遊びを選ぶなぁ。
「いいよ」
「わーい!それじゃ…えい!」
「…え?…わ!」
「明希!」
フランは何処からか燃え盛る剣を手に取り、それを振りかぶって斬りつけてきた。それに驚いたパチュリーは思わず俺の名前を叫んだ。
俺はかろうじで躱して距離をとった。だが、フランは一気に距離を詰めて俺を逃がさない。
燃え盛る剣が俺の肌の近くを通る度にその炎の熱さにひやひやする。
と、とりあえず俺も武器を出して応戦しないと…!
「暗闇から斬りつけるが如く…!暗剣殺!」
カキン!ギチギチギチ…
俺は魔法で真っ黒な剣を作り出し、フランの炎剣を受け止め、そのままつばぜり合いに持ち込んだ。
「凄いね明希!レーヴァテインを受け止めるなんて!」
「いやいやいや!死んじゃうって!フラン危ないって!」
「まだ危なくないわ。頑張りなさい」
観戦しているレミリアがまだ危なくないと言う。これ以上危険なことがあるのかよ!?
つばぜり合いが崩れ、再びフランが斬りつける。俺はフランを傷つけるつもりはないのでレーヴァテインを暗剣殺で受け止めるだけだ。
フランは剣術の心得とか実戦経験がないのか剣の扱い方が適当で、受けたり避けることは簡単だ。でも、力がとても強く、一撃がとても重い。俺は防戦一方で後ろへ後ろへどんどん下がっていく。
「あはは!楽しいなぁ!」
「こんなことで楽しくなっちゃ駄目…でしょ!」
俺は暗剣殺でレーヴァテインを弾き返す。レーヴァテインを持っているフランの腕が大きく逸れ、フランの手から炎剣が離れ、くるくると宙に舞った。
「さあ、もう遊びは終わりにしよう」
「え~!?やだよ!もっと遊びたい~!!」
「じゃあ俺と遊ぼうか?お嬢ちゃん」
後ろを振り向くといつの間にか人狼が立っていた。
あー、紅魔館の住人は今、全員この地下にいるから誰も侵入を阻止する人がいなくて紅魔館には入り放題になっているのか。
「噂の紅魔館に入ったはいいが誰もいなくてね…匂いをたどってここに来たんだがまさか吸血鬼が殺しあっているなんてな」
あ、やっぱりそう見える?事情を知らない人からみればやっぱ俺とフランが殺しあっているようにしか見えないよね…。それとここまでどうやって来たのか説明ありがとう。
「うー!邪魔しないで!私は今明希と遊んでるの!!」
どうやらフランは人狼をおきに召さなかったようだ。
残念。折角、遊び相手を変わってもらえると思ったのに。
するとフランは右手を前に出して手のひらを開き、何か丸いものを乗せていた。
「きゅとしてドカーン」
そしてその丸いものを握り潰した。
ドカーン!ビチャビチャ!
フランが握り潰すと同時に人狼が爆発して細切れになり、肉片が飛び散った。
……マジっすか?
「これでヨしっと。明希、はヤくツヅケマショ?」
狂った笑顔で遊びの続きを催促してくるフラン。や、ヤベぇ…まさかこれ程まで狂っているとは思わなかった…
刹那、フランの目の前に槍が突き刺さった。
「そこまでよフラン。大人しく部屋に戻りなさい」
「オネエサマ!ジャマシナイデ!」
「パチェ」
レミリアがパチュリーに合図をするとパチュリーは魔法を使ってフランの上だけ雨を降らせた。
「キャアァァァ!」
吸血鬼が雨に晒されると力が抜けて動けなくなる。如何に強力で狂ったフランでもこの性からは逃れられない。
フランはそのまま力なく崩れ落ち、気絶した。
「……これでよかったのかな…?」
「これで良いのよ。でないと、貴方死んでたわよ?フランはありとあらゆるものを破壊出来るんだから」
ぐったりしたフランを美鈴が抱え部屋に運んで行く。
「また、遊ぼうね……」
「え?」
フランからそう聞こえたけど気のせいか?まあ、今度は死なないような遊びを教えないとね。
「いつか、フランの狂気が無くなればいいけど」
「無くなるわ。何時になるかはわからないけどね」
「それも運命なの?」
「ええ、そうよ」
レミリアはそれだけ言って自分の部屋に戻って行った。
「さて、俺達も図書館に戻ろうか。戦ったら喉が渇いた」
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