迷子の果てに何を見る
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第四十三話
前書き
オレは間違っていなかった。
答えは得られた。
これからも頑張っていける。
byレイト
予想外
side other
その情報が広まったのは終業式終了後からだった。始めは噂程度の物だったが翌日、報道部の新聞で明らかとなる。
『天流先生、突然の教師引退』
記事には天流先生本人が語ってくれた事が一字一句間違いなく載せられ、その情報と天流先生の人柄と業績。また3学期、正確に言えば2月初めからの出来事や噂を統合するとこういう答えが導きだされる。
『天流先生のことを煙たがっていた学園長と一部の先生方にネギ・スプリングフィールド教育実習生が起こした不祥事を押し付けられ辞職に追い込まれた』と。
この事態に一番最初に動いたのは天流先生に担任を持ってもらった事のある一般のOG達だ。彼女達は独自にその情報の信憑性を確認し、ネットで公表した。
これに対して動き出したのが魔法先生達と保護者だ。
魔法先生達は学園長の指示でこの情報を隠蔽しようと動いたがOG達の数は多く、また権力を持っている者もそれなりに居て、権力をフルに使ってまで情報の拡散と麻帆良学園の糾弾に努めた。そして、長期休暇という事もあり帰省している生徒から保護者に情報が渡り、ネットなどからその情報が正しいという事が判明。学園に対して確認の電話や抗議が起こり、一般の先生方もその対応に追われる事態になっていた。また天流先生に授業を担当してもらっていた生徒達の反応も様々だった。仲の良かった生徒達は突然の引退に嘆き、またある生徒は学園に対して疑問を抱き、またある生徒はなんとか復帰してもらえないかと直談判を行なおうとし、またある生徒は頼れる教師を失いカウンセリングを受けたりと本当に様々だ。
そしてこの件の中心人物である天流は前日から家族を連れて麻帆良から離れていたためこの騒ぎを知るのは3日後の事である。そしてその頃天流は。
「それでこっちでの生活はどうなんだナギ」
コトン
「かなり暇で錬金位しかやってないな。一応なまらない位には身体を動かしてるけど」
コトン
「ふむ、なら娘のために魔力回復薬を大量に作ってやれ」
コトン
「アリスが必要としているのか?」
コトン
「アリカ、それロン」
「くっ、またレイトか」
麻帆良でそんなことが起こっている等露とも知らず魔法世界の一角で麻雀を打っていた。
「それで、何でまた回復薬なんて必要としてるんだ」
ジャラジャラと牌を混ぜながらナギがレイトに訪ねる。
「ほら、お前の村が悪魔に襲われた時に他の村人が永久石化されただろう。それを解呪するアーティファクトを開発したんだが、さすがに全員分を解呪する魔力が足りないらしいんだよ。手伝ってやっても良いんだが、どうせなら最初から最後まで自分の手でやってもらおうと思ってな」
「分かったよ。娘の為に一肌脱ぎますよ」
「レイトよ、少し良いか」
「どうしたゼクト」
「なにやら麻帆良が騒がしいようだが?」
「なに?原作では特に何もなかったはずだが。まあ放っておいても良いだろう。それに今は儀式の方で忙しい」
彼らはただ麻雀をしているだけに見えるが実は儀式を行っていたらしい。
どんな儀式かは不明だが。
「来るべき時の為とはいえ些かシュールな儀式じゃのう」
「「「まったくだ」」」
「これでもまだまともな方なんだぞ。他の方法だと口では言えない様な事をやらねばならんし」
「ほう、口では言えないだと」
「うん、エロイじゃ無くてグロイ+非人道的理由でだ。だから断罪の剣を消してくれ」
納得してくれたのか断罪の剣が消える。
「ところでどんな儀式なのじゃ」
「言ってなかったっけ?」
「来るべき時の為としか聞いておらん」
「簡単に言えば魔力を放出しながらオレが作った特製麻雀牌に魔力を注入しているんだよ。そんでもってオレはこういう魔力溜まり的な物とか土地から魔力を吸い上げたりする事が出来るんだよ。まあサブタンクみたいな物だな。まあ来るべき時の保険として用意しているだけだから無くても良いんだけどな」
「そんな事せんでもお主は魔力が多いじゃろう」
「オレの魔力量って実は全然ないんだよね。戦闘中は周りにある魔力をかき集めて大量にある様に見せかけてるだけで本来なら闇の吹雪が2回使えれば良い位なんだ」
「つまり環境に左右されるという事か」
「そう、だから昔から色々な方法で魔力を持ち歩いたりしてたんだがこの世界じゃあ魔力溜まりじゃなくても簡単に魔力を集められるから作ってなかったんだ。だけどこれからはそんなことを言ってられなくなるかもしれない。だから用意だけはしておかなければならない」
「なるほど、だがなぜ麻雀牌なのじゃ」
「儀式自体は簡単なんだよ。ただ単にあらかじめ術式を施した物品を魔力を放出しながら触れているだけで良いんだ。だけど時間が巫山戯ている位かかる。だから暇つぶしをしながら触れる物でそこそこの数が必要になってある程度の体積が有る物を探した結果が麻雀牌だったんだ」
「以前まではどうしておったのじゃ」
「武器やら服に仕込んでたな。今みたいに影の倉庫がないから」
「なるほど、後で術式を教えてもらっても良いかのう」
「『研究室』の論文の山のどっかにあるはずだから勝手に探してくれ」
「……とっとと発表してくれれば楽なのに」
「絶対に断る。あれは娘達へのプレゼントだからな」
「この親バカめ」
「親バカで結構」
「レイトそれロン」
「あっ、ナギ、てめえよそ見しているうちに河からすり替えやがったな」
「知らねえな。それより8000だ。早く寄越せ」
「そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ」
麻帆良での出来事が判明するまで後二日。
side out
side レイト
儀式が終了し、娘達のストレス発散は途中の春休み4日目。
オレとキティは一足先に麻帆良に帰ってきていた。たまには夫婦二人きりで過ごして欲しいと娘達の気遣いが嬉しくもあり親元から離れていく気がして悲しくもある今日この頃。そして麻帆良の地についてから違和感を感じる。別に何か結界が張られているとか、殺気に満ちあふれている訳でもない。ただ、いつもより変に慌ただしい空気が漂っている。
「何かあったのか?」
「そういえばゼクトがなんか騒ぎが起こってるとか言っていた気がしないでもない様な」
「そうだな。まあ私たちにはあまり関係ないだろう」
「せっかく娘達が二人きりにしてくれたんだ。時間が勿体ないから関係があろうがあまり関わりたくはないな」
リーネが産まれてから完全に二人きりで過ごした事がなかったからな。ここらで少し位子育てに手を抜いても罰は当たらんだろう。一応、ナギやアリカ、ゼクトにデュナミスが付いてるし、どんなことが起ころうと大丈夫だろう。さすがに魔法世界が崩壊する様な事態には対応できないだろうが。
「あっ、先生。やっと帰ってきたんだ。大変なんだよ」
「どうした朝倉、それからオレはもう教師を辞めたんだが」
「そんな事は良いからちょっと来て。先生の事で大変な事になっちゃってるんだから」
「何?」
「もしかしてネットとか見てないの」
「すまん、ちょっと遠くの知り合いの所に行っていたからな。それで、何があったんだ」
「それが先生が急に教師を辞めちゃった事を記事にしたらOGの人とか保護者の人から抗議が殺到してるみたいで、今も校舎前でデモが起こってるの。これがその記事とOGの人が纏めて広めている情報の箇条書きしたメモ」
朝倉から受け取った記事とメモをキティと二人で目を通しながら現場に向かう。報道部にしては珍しくまともな記事だな。捏造とか一切ないし。メモの方も間違いらしい事は一切ない。ふむ、一体誰がこの情報を集めたんだ。
「朝倉、この情報を集めたOGの名前は」
「それがさあ風祭グループの総帥らしいんだけど、先生に心当たりは」
ありすぎるな。というより彼女か。懐かしいなあ、麻帆良で一番最初に持ったクラスにいた子だな高校卒業後に財閥に戻って天才と謳われていた兄と姉を上回る才覚を見せつけ総帥の座に付いたと聞いていたが彼女が動いていたか。頭が痛くなる。以前の彼女ならオレが教師を辞めたと聞いたら自分の補佐にしようと考えていたんだろうけどこの6年で考えも変わったのだろう。
「元教え子としか言いようがないな。デモの中心人物の情報は?」
「さっきの3ページ後に分かる限りで」
ええ~っと……ほとんど教え子が関係しているな。へぇ~、あの娘会社を建てるとか言ってたけどあの会社か。おっ、こっちは風祭と同じで財閥に戻った娘か。デモに参加してるってことは対人恐怖症も治ってるみたいだな。この娘は誰だ?ああ、昔論文の発表で会った事のあるあの博士の娘さんか。自分が来れないからって娘に来させてるのか。おっとこっちはあの娘か、それなりの地位の娘とは思っていたが王族だったか。う~む、こうして見ると中々凄い面子だな。簡単に日本をひっくり返せるな。
「助かった朝倉」
「いやいや、それより先生一体何者なの。これだけの面子が揃ってたら日本を支配できるよね」
「はっはっは、ただの一教師だ。まあ、若い頃に色々と知識を溜め込んだ為に色々と教えてやる事が出来る程度だがな」
風祭には魔王式帝王学を教えたり色々したっけ。おかげでただの威張り散らすだけのガキから人の上に立ち続ける事が出来る淑女になったからな。
身長は伸びたのだろうか?
はっ、殺気!!
……伸びなかったみたいだな。
とか巫山戯ている間にデモ隊の最後尾が見えたのだが…………すごく多いです。
うん、なんで桜通りまでデモ隊が集まってるんだ。
「すまん朝倉、オレにはどうする事も出来ない」
「諦めないでよ先生。原因は先生なんだから」
「朝倉、間違えてはいけない。オレは原因ではなく切っ掛けだ。原因は学園長だからそこの所を間違えない様に」
学園長が野菜を麻帆良に連れてこなければこんな事にはならなかったんだから。
「一応対策を考えてくる。もしかしたら協力を仰ぐかもしれないから携帯の電源を常に入れておけ」
「りょうかい~」
朝倉と別れてキティと共に店に戻りだす。
「それでこれからどう動くんだ」
「別にどうも動かん。これぐらいの罰が当たっても良いだろう。でも新田先生達に迷惑がかかったのは痛いな。今度何か持って行こう」
「確かにあの人に迷惑がかかるのは避けたかったな」
まったく風祭の奴め。やるなら周囲の事を考えてから行動しろよ。
無理か。オレの教えた魔王式帝王学じゃどう考えてもこの結果になるな。
今度職員室に持って行くお土産を考えながら今日は定休日なのでcloseとなっている店のドアを開けると
「おう、レイト。お邪魔してるぞ」
ドアを閉めた。
「こらぁあああああーーーー、久しぶりに会った教え子に対してそのたいどはなんだぁあああ」
ドアを壊さんばかりに思い切り開け、店で寛いでいたちびっ子が怒鳴った。
「五月蝿い」
「むぎゅ」
頭を軽く押さえつけ黙らせる。
「それでこれはどういうつもりなんだ風祭
・・
」
今、オレの目の前に居るちびっ子、オレの元教え子で今回の事件の首謀者と思われる少女、年齢的には女性か。まあどっちでもいいがとりあえず彼女の名は風祭雅。日本の経済を支えている大財閥の一つ風祭グループの若き総帥だ。
「なに、財閥にいる部下の一人から聞いたんだがな。娘が通っている中学で頼りになる教師が急に辞める事になったと聞いて詳しく聞いてみたらお前の事だとすぐに分かってな。お前が教師を辞めるなんてただ事ではないと思って調べてみたらあのぬらりひょんがお前をクビにしたんじゃないかという結論に至ったという訳だ」
「八割方正解だ。はんこをやろう」
「ほい、カード」
「……まだ持ってたのかよ」
「お前も人の事言えないだろ」
「うるさいちみっ子」
「むか~~、身長の事は言うんじゃない。これでも昔よりは大きくなったんだぞ」
「かわいそうに、若い頃のエヴァよりも小さいのに打ち止めとは」
出会った当初の姿のキティより小さい。どう贔屓目に見ても同じ位の大きさだ。
「そのなんだ。頑張れ」
キティも哀れみの目で風祭の事を見ている。キティは成長を止められていたのを進めてみたらこの姿になった、つまり真祖にならなければこのように成長した事になる。それに対して風祭はこれで普通だ。つまり本当にこれで打ち止めだ。哀れとしか言いようがない。
「やめろよ、そんな哀れそうな目で見るなよ、まさか打ち止めなのか、この身長で完全に打ち止めなのか、ねえ嘘でしょ、嘘だと言ってよ」
「風祭、元教育者として嘘はつけない。普通の方法じゃ打ち止めだ」
「嘘だ~~~~~」
「大丈夫ですか、お嬢様」
orz状態の風祭の横に金髪のメイドが現れた。あいかわらず気配遮断がうまいな。
「ひさしぶりだな、リーダ」
「ええ、先生もお元気そうで」
彼女の名はリーリア・イリーニチナ・メジューエワ。風祭雅付きのメイド長だ。まあ、色々と苦労してきている人だ。得意な事は家事全般。美貌も性格も良しの人だが好きな男性のタイプがお嬢様を愛してくれる人では結婚も出来ないだろうな。公認の浮気相手か?
なんか違うがまあ幸せにはなって欲しいと思ってる。
あと二人とも裏の事もオレの事も知っている。
裏の事はデカイ財閥とか権力者なら普通に知っている。まあ、持ちつ持たれる大人の関係だな。
で、オレの事だが。ぶっちゃけると中3の頃に風祭の兄と姉が風祭の危険性を理解し始めて利用するより消した方が良いと判断して暗殺者を回してきた。それもかなりヤバいの。普通の魔法先生じゃ仮面ライダーになろうとまず返り討ちになる。そんな奴らを10人も送り込んできやがった。ついでにオレも抹殺対象になっていたみたいだが逆に返り討ちにして二人を助けたという訳だ。それまでは風祭もリーダも魔法に関しては知らなかったから懇切丁寧に教えて、リーダの方は気の運用が出来そうだったからある程度手ほどきしてやった位だな。そしたら半月程でオレの情報まで辿り着きやがった。あれには吃驚した。まあ、その後も何回か暗殺者が来たんだが生徒である以上オレが完全に守り切った。学園には一切知られていないがオレ専用の探知結界が学園全体に敷いてある。それに引っかかった危険な奴、つまり一般の魔法先生では勝てない、かつ生徒を狙っている奴を片っ端から潰しただけだ。たまにリーダに実践を詰ませる為にわざと取りこぼしたりするがその時はいつでも助けに行ける場所に隠れている。そして兄と姉に反撃する為に色々とコネを紹介してやったり、今まで教えていた魔王式帝王学以外にも色々と仕込んだ結果、高2の頃に兄を次期総帥の座から引きずり降ろす事に成功。それから高校卒業と同時に正式に財閥の総帥を引き継いだ。それからは会う機会なんかなかった訳だがお歳暮やらは毎年届いている。
「で、実際の所なんでこんなことをしたんだ」
リーダに慰められorz状態から立ち直った風祭に聞く。
「さっきも言ったと思うがお前が教師を辞めるなんて信じられなくてな。最初はなんとか復帰できる様に手を回そうと思ってたんだが、あまりにもお前があっさりとしている事が疑問に思って、とりあえず抗議に留めているんだ。昔からここの警備やら魔法の秘匿に問題があると感じていたからそこも突いてな」
「正直ここじゃあ頭の固いジジイばかりで教師として生徒を守り切れない事がある。だから潰そうと考えててな」
「リーダ、零斗がまたトンデモナイ事を言い出したぞ」
「ですがお嬢様。零斗様がこうおっしゃるという事は実現可能だという事になりますし、聞いた話によると余裕で出来る思いますが」
「だからって何も学園を滅ぼそうなんて考えるとは」
「誰がいつそんなことをすると言った」
「えっ、だって潰すんだろう。お前の事だから文字通りなんかでかいのを召還して押しつぶすんだとばかり」
「失礼な。そんな事をしたら無関係の人間まで巻き込んでしまうだろうが。そんなんだったら魔法先生達の集会を襲撃する方が効率がいいだろうが」
自分で言っててなんだが在りかもと思ってしまう。計画を変更……だめだ麻帆良祭は結構楽しみにしてるから変更は無し。
「今、本気で襲撃しようか悩んだだろう」
「ああ、割と本気で考えてた」
「……本当にやるなよ」
「別の方法でジジイ共を潰すから問題ない。なんなら風祭も参加するか」
「うん?何にだ」
「まあ話が長くなるから中で話そう」
「ひさしぶりにお前のコーヒーが飲みたい」
「はいよ、エヴァはどうする」
「私も久しぶりにコーヒーを貰おう」
「リーダはどうする」
「私もよろしいのですか」
「当たり前だ。久しぶりに会った弟子に何のもてなしもせんでどうする」
「ふふっ、ありがとうございます。では私もコーヒーで」
「了解だ。少し待っていると良い」
「中々面白そうじゃないか」
「やっぱりそう思うか」
「これは財閥も一枚噛みたいな」
「なら、材料の方を少し融通を利かせてくれないか。見返りは、そうだなガイノイドの技術を使った義手義足の製図と権利でどうだ」
「それよりは人工筋肉の方が欲しいな」
「ありゃ駄目だ。中の媒体が魔法物質だ」
「ならEXギアみたいな物はないのか」
「ちょっと待てよ、確かこの辺に製図が、おっ、あった。ふむ、これ位なら少し材質を換えれば使えるな。コストが少し高くなるが」
製図を渡して確認してもらう。
「う~ん、飛ぶ機能は要らないからもう少しコストを減らせないか。大体この位に」
「正確にはこれ位ですね」
「ふむ、翼の分とエンジン部分を削ってもまだ少し高いな。エヴァ、どこを削れば良いと思う」
「何に使うか分からんがとりあえず動力をバッテリーに換えれば出力は落ちるがどうにかなるだろう」
「となるとここも仕様を変更してこんな感じになるな」
「なんかかっこわるいな」
「ならデザインもこう弄ればコストもぴったりだ」
「うん、じゃあこっちの取り分はこれで。次にそっちだけど」
「とりあえずこれ位くれない。そこに書かれてる質量があればどんな物でも良いから」
「量は凄いけど、どんな物でも良いのか?」
「くず鉄だろうがそこら辺の石ころだろうがとりあえずそこに書かれてる分の質量をかき集めてくれれば良い。受け取り場所もそこに書いてある通りだ」
「ふぅ~ん、分かった。揃い次第連絡を入れればいいのか?」
「ああ、それで頼む」
「分かった。リーダ」
「畏まりました、お嬢様」
リーダが何処かに連絡を入れている。たぶん部下に指示を出しているのだろう。冷めてしまったコーヒーを飲み干す。酸味がキツくなっているな。お代わりを入れ直す。うん、やはり熱いコーヒは旨い。
「当日は顔を見せるのか」
「時間が出来れば来るつもりだ。今の所は何もないから来れるとは思うけど、どうなるかは分からない」
「まあそうなるか。とりあえずこの話は終わりにしよう。それで本題に戻るんだがこの騒ぎ、どうするつもりなんだ」
「考えて無い」
「ふんっ」
「イタッ」
思わず殴ってしまったがオレは悪くない。
「一般人に迷惑をかけるなとオレは教えたよな」
「確かにそう教わったけど今回ばかりは私も我慢できなかったんだ」
風祭の目には裏も何も無くただ単にオレを教師に戻したかっただけだと言ってきている。
「はぁ、分かった。この件はあの茄子に任せよう。お咎めも無し」
「えっ、いいの?」
「ああ、たまには良いさ……未だに退職金が振り込まれていないからな」
「お前の総資産なら別に要らんだろ」
「貰える物は貰っておけが師匠からの教えだからな」
急に携帯から『SKILL』が流れる。
「現在電源が切れているか電波の届かない場所に居る為通話に出る事ができません」
『巫山戯ている状況ではないのじゃが』
電話の向こうは茄子だった。
「おい若造、とっとと退職金を振り込みやがれ。国に訴えるぞ」
『だからそういう状況ではないと言っておるじゃろうが』
「なんだ、世界樹でも枯れたか」
『そうではない。というよりどこに居るんじゃ』
「オーストリア」
『なんでそんな場所に』
「エヴァと二人きりで旅行に出てるんだよ。もう良いか?正直お前の声等聞きたくないんだが」
『待っとくれ』
「ならとっとと話せ。エヴァに知られたくないからドイツ語で」
『いや、まっ』
「Übrigens wirst du eine Geschichte hören?(さて、話を聞こうか)」
『ええっとIm Schulprotest(学園に抗議が)』
「Kommt Protest zur Schule?(学園に抗議が来ている?)」
『Es ist damit(そうじゃ)』
「Nun, deshalb das was. Ich bin mehr kein Lehrer(で、だからどうした。オレは既に教師ではない)」
『Nimmt der Meister nicht teil?(お主は関与しておらぬのか?)』
「Es was für eine Sache ist?(どういうことだ?)」
『Das Gerücht, daß ein Meister gemacht wurde zurückzutreten, als ein Lehrer von Machtspannweite. Bestätigung und der Protest dagegen kommen(お主が教師を無理矢理辞めさせられたという噂が流れて、それに対する確認と抗議が来ておるのじゃ)』
「Es ist ein Unterschied der Popularität. Ach, tue sein Bestes(人望の差だな。まあ頑張れ)」
そう言ってオレは電話を切り、電源も落とす。
「あいつ、ドイツ語話せたんだ」
「驚く所はそこなのか」
「態々翻訳魔法が通じない様にしていたのに本当に話してくるとは思わなかったからな」
最近の魔法先生は翻訳魔法にたよりきりで授業や私生活で使いまくりだからな。一般の留学生を見習って勉強しろよ。それに対してあの茄子はちゃんと普通に話してきた。勤勉だった事だけは評価してやろう。
「確かに翻訳魔法は楽で良いよな」
「オレは一度も使った事がないがな」
「それより、何でいきなりオーストリアなんだ?」
「ちょっとあそこで探し物をしているからな」
「探し物?私にすら秘密でか」
「エヴァを驚かせたいからね。見つけたらちゃんと教えるつもりだよ」
嘘は一切ついていない。まあ、物ではなくて場所なんだが小さい事には目を瞑ろう。それにしても春休みが終わるまでどうしようかな。麻帆良がこんな調子なら何処かに出かけた方が良いな。
「そうだ、あれを再開しよう」
side out
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