ボロボロの使い魔
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『戦う理由』
前書き
モンモランシー好きなんです
贔屓したいです…
この辺オリ設定ということでどうか…
モンモランシー
トリスティン魔法学院に通う少女である
彼女は、お世辞にも才能に恵まれているとは言えなかった
コモンマジックすら使う事の出来ない『ゼロのルイズ』に比べられるものではないが
彼女も魔法の実技においては劣等生の一人であった
無力さに嘆き、落ち込む日々
だが そんな自分に、同じ学院に入学した、彼は言ってくれたのだ
『魔法が力の全てでは無い』
モンモラシーは香水の調合が得意だった
その香りは評判が良く、クラスの女生徒達にも喜ばれた そして彼は言った、人を笑顔にさせる事ができるそれは紛れもなく君自身の『力』なのだと
そう言ってくれた、彼の事が好きだから
『香水のモンモランシー』は自分の『力』に胸を張り、誇りを持って生きている
第六話『戦う理由』
午前の授業は、どこか上の空だった
朝、食堂を出た後、声をかけてきた男のせいだろう
相当など田舎から来たと言った彼は、自分に図書室への道を訪ねてきたのだ
自分に欠けている都会の常識を調べたいと言って
なんと、その男は『魔法』の存在すらロクに知らないと言ったのだ
この世界においてはありえない言葉である
正気を疑い、唖然としたまま道順を教え別れたが、その時、彼は言ったのだ
『別に、魔法が全てじゃないだろうに…』
その憮然とした呟きはモンモランシーの印象に強く残った
「魔法が力の全てでは無い…か。」
授業を受けながらボンヤリと
その言葉を呟き自分より前の席に座るギーシュを眺めた それは昔、ギーシュが自分に言ってくれた言葉である
魔法の才能が無いと落ち込む自分を暖かく励ましてくれた学友
自分はそんな彼が好きだった
なのにギーシュは変わってしまった
自分の力を誇示し、無力な平民を馬鹿にするようになってしまった
昔のギーシュに戻って欲しいと思い、何度も会い、話をしようとした
だが彼は自分の事など忘れたいとでも言うように邪険に扱い、自身もそんな彼を見ている事が辛くなっていった 次第に話もしなくなり、顔を合わせる事もロクに出来なくなった
何とかしたいと思いながら何ともならず
結局、一時はそれなりに親密だった筈の二人の関係は離 れてしまっている
そして、変わったと言えばもう一人
今まさに『錬金』を唱えようとしている少女
響く爆発音
ルイズ、彼女がまた、魔法を失敗したのだ
学院に入ったばかりの頃、二人の仲は決して悪くは無かった、魔法が不得手という一点で共通し ていた二人は、お互い多少の話くらいはする事もあった
その頃のルイズは今ほど酷くは無く、親近感もあってか他のクラスメイトよりは親しくつきあえ ていたのだ
だか、何故かある時を境にルイズは自分に対しても壁を作り拒絶するようになってしまった
元々、友達といえる程の仲では無かった為、次第に疎遠になってしまい、今では単なるクラスメ イトである
だが
授業が終わり、食堂に行く前
一人で教室の掃除をしているルイズをしばらく見ていた
誰も彼女を手伝おうとはしない
そして自分も
ルイズは一人だった
それは、彼女の性格に問題があるせいだと思う
たぶん、自分が手伝うと言っても彼女は怒鳴り拒絶するだけだろう
実際に以前、言われた事もある
そんな理不尽な彼女に構うだけ損だとも思い、今まで無理に付き合おうとはしなかったが、唯一 の味方である筈の使い魔が彼女の手伝いをせず側にいない事には少なからず自分にも責任のある事だと思っていた
後でわかった事だが、あの男はルイズの使い魔だったのだ
だからモンモランシーはせめて、使い魔の彼にルイズを手伝うよう伝えに行ってやる事にした
自分でも人のいい事だとは思うが、それは多分、昔のギーシュと同じような事を言った彼女の使 い魔に興味を抱いたからかもしれなかった
「貴族と平民、か…」
図書室、その一角で大量の本を積み上げ読み続けていた橘は思わず声に出して呟いた
召還された事による影響なのか、言葉が通じるだけでなく文字も読む事が出来た
食堂を出た後、橘はこの世界の事を調べる為に図書室でひたすら本を読んでいたのだ
そして、彼はこの世界にとって『魔法』と呼ばれるものが如何に重視されているかを知ることになる
『魔法』を使えるメイジ、即ち『貴族』と呼ばれる存在が『魔法』を使えない『平民』の上に絶対的な存在としてある世界
それは橘の感覚からすれば到底受け入れられるものではない
如何に『魔法』が凄いものとはいえ『力』の一つに過ぎないものが全てに優先されるなど
それは様々な『力』と、その『強さ』を知っている橘だからこそ言える事であるが、この世界は そうでは無い
だが同時に『平民』である自分に対するルイズの言動に納得する
…受け入れる気は毛頭無いが
ルイズ
彼女の事を考え、橘は少し苦い顔をする
結局、自分はルイズを放り出してきてしまった
大人気ない事をしたと苦々しく思うが、あの量はあまりに酷すぎ、我慢がならなかったのだ
だが こうして頭が冷えるとやはり、自分の軽挙な行動に後悔し、昨晩と全く同じ事を繰り返している 自分を情けなく思う
仮にも まだ、その話も出来てはいないが、自分は彼女の使い魔としてパートナーでいてやると決めているのだ
そんな相手を放り出して来てしまった事に対する後悔と罪悪感が橘の中にはあった
だから
「困っているわよ、貴方のご主人様」
朝、自分にこの場所を教えてくれた少女にそれを伝えられた瞬間、読み散らかした本を片付けも せず、彼は急ぎ飛び出した
場所も聞かずに
とはいえ、いつも同じ事をしているルイズの手際はモンモランシーの想像していたより遥かに向 上していたため、既に話が伝わった頃には終わりかけていたのだが
そして、格好つけて飛び出したはいいもののしばらく走った橘は足を止める
ルイズはどこにいるのだろうか
知らず知らずの内に食堂の方向に向かっていたが、それは他の場所などロクに知らない彼が無意 識の内に自分の知っている場所を目指してしまったからであり、その判断に空腹感などは影響し ていない…はずだ
困り、モンモランシーに訪ねようとしたが
彼女は今、橘が飛び出す際散らかしてしまった本の 整理をさせられていた為にいない
だが変わりに、食堂の方向からやって来た一人の男子生徒が話し掛けてきた
「やぁ…君が『ゼロ』の使い魔君か、早く御主人様の所にいってあげたらどうだい、彼女、お困りのようだからね…」
「…どういう事だ?」
しかし、その男はニヤニヤするだけで、答えることなく行ってしまった
『ゼロ』の意味を知ら ない橘に、それが誰を指すかは分からない
ただ、自分の事を『の使い魔』といわれた時、もしやと思った
その男の言葉と態度に、何か嫌な予感がした橘は、それ以上男に構う事をせず、急ぎ食堂に向かい
そして、何があったかは知らないが
泣き崩れているメイドと途方にくれていたルイズを見つけその予感が正しかった事を知るのであった
「貴方が変わりに決闘を受けるですって!?」
「ああ」
何の気負いも無く言われ、言葉がでない
モンモランシーは呆れてしまった
ようやく本の片付けが終わり図書室から出た後、自身も食事をとるべく食堂に向い、再度橘と顔 を合わせたモンモランシーが聞く事になった事情は彼女の予想を超えていた
…というか、何で教室の掃除が決闘に変わってしまっているのだろうか
それは、彼女の説明不足と偶々によるものではあるが、一番の理由は二人がお互いの事をロクに 知らず、まだまともな相互理解を出来ていないということでもある
なのに 橘はそんな相手の為に戦おうとしているのだ
モンモランシーでなくとも呆れるだろう
「ヴァリエールは承諾したの!?」
「勝手にしろと怒鳴られたよ」
困ったように言ってはいるが、その態度に深刻さは無かった
「理由はどうあれ俺はあいつの側にいてやる事をしなかった…だから俺の責任でもある、パート ナーだからな一応は」
馬鹿だと思った
一体、どんな思考回路をしていればこんな理屈がでるのだろうか?
「それに…アイツはメイドの子を庇ったらしい…悪い奴じゃないんだ、たぶんな」
メイドを庇った?
あのヴァリエールが? 信じられない、偶々ではないのか
だとしても、それは橘が戦う理由になってはいない
「貴方!図書室でいっぱい本を読んでたわよね、常識を知りたいって!」
「ああ…お陰で色々わかったよ、貴族と平民についてもな」
「だったら…!」
「悪いが、俺はそのルールに納得するつもりがない、平民の一人として『魔法』が力の全てじゃ ないって事を、あのギーシュって子に教えてやるつもりだ」
「……!」
『魔法が力の全てでは無い』
それは、かつて彼自身が言った言葉であったはずなのに
「っ!…あいつも…あいつだって…前は!」
出会った頃は優しかったのに
その言葉で自分を励まし慰めてくれたのに
「?…知り合いなのか、彼と」
「そうよ…昔は優しかった!あんな奴じゃなかったのに…!」
こんな事を今日初めて会った彼に言っても仕方ない、そんな事はわかっている
だが、変わっていく彼を止める事が出来なかった無力感が、憤りが
それを抑える事を許さず叫ばせた
「ギーシュは言った!言ってくれたのよ!魔法が全てじゃ無いって私を慰めてくれた!…なの に…なのにっ…!」
後は、言葉にならなかった
「…そうか」
正直、今日初めて二人を知る橘に、彼等にどんなやりとりがあったかどんな関係であったのかな ど、深く理解できる筈もない
だが、男の変貌を嘆き、心配する少女の姿は橘の内にある苦い記憶を揺り動かした
「君は、好きなんだな…彼の事が」
その、あまりに不躾な橘の問いに、少女は小さく、だが確かに頷く
…それだけで充分だった
「君…、君の名前を教えてくれないか?」
「…モンモランシー…『香水のモンモランシー』よ」
「俺は橘、橘朔也だ」
彼に、その自覚は無いが、この世界で彼が名乗るのはこれが始めてである
「モンモランシー、彼の事は俺に任せてくれ。君は彼を信じて待っていればいい。」
「…え?」
そう言い残すと、橘は歩き出す
ルイズが怒鳴りながらも教えてくれた決闘場へと
モンモランシーには理解できない
何故、彼は戦おうとしているのか
勝手にしろと言ったルイズの為に
使い魔だから
それが義務かもしれない、使命かもしれない
だが、ならば今日出会ったばかりの自分のために動こうとしている彼の戦う理由は一体何なのか
彼の背に向け問いかける
「貴方が戦う理由は、一体何なの!?教えて…タチバナ!」
「理由…か」
戦う理由
後輩の言葉が蘇る
苦笑した、俺はあいつとは違う
あいつの用に純粋な生き方は出来ない
俺に、人を愛しているなど言う資格は既に無い
ただ、守りたいと思った
ルイズが、自分には傲慢で自分勝手でどうしようもない少女が見せたという『優しさ』を
そしてもう一つ
「…ただ増やしたくないだけだ、俺のような…馬鹿な男をな」
力に溺れ、自身を愛し、心配してくれる女を思う事も無く歩き、全てを失った自分と同じ道を、 誰であれ歩かせない為に
だから、戦う 俺は、俺の力を証明してみせる
魔法では無い『力』で それが全てでは無いと言った筈の彼の目を覚まさせる為に
かつて、自分と共にあった『力』は今、その手に無い
だが、その事実も橘の決意を揺るがす事には繋がらない
『変身』
など出来なくとも、俺は負けない
そして橘は向かう
ギーシュが指定した決闘場へと
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