Fate/EXTRA IN 衛宮士郎
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黒と緑の攻防
前書き
今回は長い上アンソロジーネタがあります
相変わらず戦闘描写が短い
『第二暗号鍵を生成。第二層にて取得されたし』
一旦マイルームに戻り、端末を調べてみると第二層に入れると通知が来ていた。今日から第二層の詮索が始まる。
「アーチャー、アリーナに行くぞ」
「…………………」
何時もの定位置に座って腕を組んでいる。仏頂面で、目をつぶっているから寝てはいない。聞こえてないということはないし、無視かよ……………。
「おい、アーチャー!」
少しカチンときたので少し大きな声で呼ぶと
「ん、ん?な、なんだ?」
俺の声が聞こえてなかったのか少し驚いたように慌てて返事をするアーチャー。反応を見た限り、どうやら、わざと無視しているのではなく本当に考え事に没頭していたようだ。
「さっきから、考え事しているけど?お前らしくないぞ」
「たいしたことではない。気にするな」
それだけ言うと、実体化を解いて消えてしまった。う〜ん、なんなんだろう?気になるが聞いてもはぐらかされるだけだし。気にしないでおこう。
マイルームを出て階段を降り、アリーナへと足を進めると
「あっ!衛宮君みっけ!!」
藤ねぇがどこからともなく出現。わかってたさ。そろそろ来る頃だって……………。
「ねぇねぇ、柿見つけといてくれた?」
「ああ、見つけたよ」
端末を操作して、ダンボールに入った柿を取り出す。それを見た瞬間、藤ねぇの目が光り、満面の笑みを浮かべ
「ありがとう衛宮君!………………実はもう一個お願いがあって」
「………………なに?」
嫌そうな表情になるのを必死で押さえできるだけ自然体の笑顔で尋ねる。
「引き受けてくれるの?ありがとうねえ。実はメガネをアリーナに落とした子がいて、困ってるのよ。アリーナの二層にあるのはわかるんだけど、アリーナでメガネを見つけたら持ってきてお願いね!!」
用件だけいうと藤ねえは柿を早く食べたいのか、ダンボールを担ぎ何時もよりも二倍速で走り去っていく。食いものにたいする欲求は俺の知っている藤ねえのそのものだ。
『大丈夫なのか。あの柿』
アーチャーが心配そうに呟く。結構な量の柿が入っていたけど、まあ、藤ねえならあのくらいの量おやつにも入らないだろう。
(別に心配することじゃないだろ?藤ねえだしあのくらい食べれるだろ)
『いや、私が心配してるのは柿の状態のことなんだが…………』
(状態?………………あっ!)
アーチャーの言いたいことが何と無くだがわかった気がする。
長年の付き合いでわかっていることだが、藤ねえはもし物を無くしたら、ひとまず一日中自分で探す。
それでも、見つからない場合は、その次の日他の人に助けてもらうのが何時ものパターン。
あの藤ねえが本物そっくりの性格をしているなら大変なことになる。
柿はおそらく俺に頼む2日くらい前にアリーナに落としたもの。
ってことは、頼まれる前日にダンさんのサーヴァント緑アーチャーがアリーナ全体に仕掛けたあの毒に汚染されたということだよな。それを口にしたら………………いや
(大丈夫だって!あの藤ねぇだぞ!!たかが毒程度で………)
『なるほど、あの人ならフグですらそのまま食べても問題なさそうだ』
『(気にしないでおこう)』
変なところでいきのあった俺たちはそう決めつけ、藤ねぇに心配をせずに、アリーナへと続く扉へと向かう。藤ねぇのことを常識的にとらわれてはダメだ。あの人、普通の人間じゃない。
《二の月想海 第二層》
新しいアリーナには、スタート地点から見えるコロッセオが特徴的だった。
アリーナの姿は、固有結界のように心象風景をあらわしているようで、たった一つの魂と意志を貫くダンさんの心境のようだ。
慎二の場合はどちらかというと、海賊であるライダーの方が色濃く反映されていたようだが…………………。
「今日はどんな鍛錬をするんだ?」
準備運動をしながらアーチャーにいう。
「………………そうだな。今日は、コードキャストを使ってみるとするか」
「えっ?」
思わず耳を疑った。投影だけを訓練してきたのに、いきなりコードキャストとはどういうことなんだろう?
「急になんだよ?今まで何もいわなかったじゃないか?」
「この先戦うのであればある程度は使えるほうがいいだろう。それに戦略の幅が増える」
まあ、確かにコードキャストが使うことができれば、投影と組み合わせて使うことで、戦いやすくなるかもしれないな。
「よし。じゃあやってみるか」
俺は端末を操作して手持ちの礼装を確認して見る。現在、俺に装備されている礼装は体操服のみ。
だが、アリーナを探索して、幾つか礼装も手に入れていたが、一回戦の一層以来気にもしてなかった。考えてみるとゲームみたいに装備するだけで、本来使えない魔術を使えるのに、使わないなんて宝の持ち腐れだな。
(礼装、何があったっけ?)
手に入れたものの一覧を見てみると
・鳳凰のマフラー
サーヴァントの傷を癒す
・守り刀
敵にダメージ+対スキルスタン
・聖者のモノクル
敵対者の情報を表示
の三つがあった。
端末を操作して鳳凰のマフラーを装備。これで、この礼装特有の魔術が使えるようになったので、早速使ってみよう。
「【heal(16)】」
アーチャーに手を突き出し、頭の中に浮かび上がった言葉を叫ぶ。するとアーチャーが淡い緑色の光に包まれた。
「成功した……」
「使用者が未熟者でも無関係とは……」
感心しながらアーチャーが何やら呟いている。無視だ。無視。他の魔術もこれくらい簡単にできれば遠坂の負担を減らせるのにな。
そんなことを考えながら鳳凰のマフラーを外して聖者のモノクルに付け替える。再び頭に浮かびあがった言葉を叫んだ。
「【view_status】」
呪文を唱えると聖者のモノクル能力敵対者の情報を表示というものを発動したようで、俺の体を光が包み込む。
「どんな感じだ?」
「凄い、エネミーの強さとかが一発でわかる」
ここから目にうつるエネミーの頭上に細かい情報が表示されている。
ゲームのようにLevelと表示されているあたりが少し気になるが、Level=強さということだろう。これをもとに危険と判断した相手をアーチャーを任せることにしよう
「そうか。では、進むとしよう」
アーチャーは歩き始め、俺もその後に続くようにアリーナの探索をおこなう。情報が少しあるだけで、エネミーの攻撃や行動などが読みやすくなった。
おかげで、探索が楽な上にいい鍛錬にはなっているが、一方、使ってわかったことだが、どうやら、能力付属のコードキャストというものは時間制限があり、何分かすると効果が消えてしまうみたいだ。
しかも、元々使えない魔術を無理矢理使っているためか、魔力の消費が思ったより激しい。
「はぁ…………はぁ………」
戦闘+投影+コードキャストのためか、肩で息をするくらい疲弊してきた。さ、流石にきつい…………。
「……………少しこの辺りで休むとするかマスター」
そんな俺を見兼ねてかアーチャーは気を使ったようで、わざわざパイプ椅子を投影し、渡してきた。
「…………悪いアーチャー」
素直に椅子を受け取ると腰をおろし、呼吸を整える。その間にアーチャーは俺の端末を操作してアイテムを取り出す。出てきたのは、水が入ったペットボトル。
「この世界では意味がないかもしれんが一応、飲んでおけ」
ペットボトルを受け取ると、蓋を開けて水を一気に飲み込む。ちゃんと冷えている上に、喉の渇いてたため、水が美味しく感じる。
「はぁ〜生き返るな………」
そんなことを呟く俺をみて、くくくっと笑みを浮かべるアーチャー。なんか、バカにされている感じがするな…………。
「やれやれ、少しは、まともになったかと思ったが、まだまだのようだなマスター」
「悪かったな………」
「そう思うなら、早く一人前になって欲しいものだ。いつまでたってもへっぽこのマスターだと私は恥ずかしいからな」
「くっ!」
アーチャーのやつ、露骨に俺のことを毛嫌うことはなくなったが、ここぞという時に皮肉を言ってきやがるな。人が気にしていることだから尚更むかつく。反論しようとしたが
ぐぅ〜
「…………………」
「…………………」
盛大に俺のお腹がなった。そういえば、昨日から何も食べていない。
アーチャーは無言で端末を操作して焼きそばパンを取り出すと少し間をおき
「……………食うか?」
菩薩のような笑顔で焼きそばパンを差し出してきた。
「食うかーーー!」
小馬鹿にされているような感じがしてしょうがない。ってなんでこのタイミングなんだよ!?そんなくだらないやりとりがありながらも、ある程度体力が回復したため、再度アリーナを探索し始めた。すると
「あっ、これ礼装だ」
アイテムボックスを開いてみると中には新しい礼装を発見する。礼装の名称は【開運の鍵】というもので、能力は、サーヴァントの運をあげるらしい。チラリと後ろで待機しているアーチャーに視線を移す。
あたりを警戒しているためか、俺が見ていることに気づいていない。俺は端末を操作して、守りの刀を外し、手に入れた開運の鍵を装備。そして
「【gain_lck(32)】」
アーチャーに手をかざし、魔術を発動。アーチャーの体を光が包み込んだ。
「……………マスター何をした?」
ジト目で俺を睨みつけるアーチャー。何かされたのが不愉快なんだろうか?人をよく不愉快にさせるくせに……………。
「優しいマスターがお前の運をあげやったんだよ。よかったな、これで少しは物事が良くなるんじゃないか?」
先ほどの休憩の時のように今度は俺が菩薩のような表情で言う。アーチャーは俺の言い方にカチンときたのか
「ははは。確かに、へっぽこマスターよりもいいマスターに巡り会うかもしれん」
「それはいいな。まあ、お前みたいな無愛想な奴を選ぶ物好きなんていないと思うけど」
「「……………………」」
お互いに睨み合いながら、距離をとり戦闘態勢に入る。こいつが俺をマスターと認めても、俺たちはこんな関係だということがよくわかった。
「ちょうどいい。私の強さをマスターに理解してもらおうか」
「やってみろよ」
集中力を高め、全身に強化を………カッン……ん?今、踵で何かを蹴ったぞ?
「ちょっとタイム」
そうアーチャーに言うと踵で蹴ったものを確認してみると少し離れた位置にメガネがあった。これって………
「ひょっとして藤ねえが言っていた眼鏡か?」
「見たところそうらしいな。これは…………」
アーチャーは俺より先に眼鏡を拾うとまるで、芸術品でも扱うかのようにその眼鏡を見始めた。驚いているようにみえるが凄いものなのか?
「………………こいつは驚いた。魔眼殺しじゃないか」
「魔眼を封じるあの?」
「ああ。しかも、超一級品のな。これほどのものを再び見るとは…………」
アーチャーは魔眼殺しを見ながら、何かを思い出したのか少しだけ懐かしそうに微笑んだ。
「何か思い出でもあるのか?」
気になったので質問をしてみる。こいつは、記憶がほとんどないと言っていたが、懐かしそうにこれを見ていたということは少しは何かを覚えてるはずだ。
「……………話すことなど何もない」
「………………だろうな」
なんとなくだが、わかっていたことなので特に何も言わない。こいつは遠坂と契約していた時でも自分のことを話さなかった。それなのに嫌っている俺なんかに…………
「と言いたいが、教えてやろう」
「えっ?」
素っ頓狂な声をあげてしまった。げ、幻聴か?こいつがこんなこと言うなんで……………。
「なんだ。聞きたくないのか?私はそれでもかまわんが」
「いや、聞くって」
慌てて返事をする俺を見て、呆れたようにふぅーとため息をつき、アーチャーは口を開く。
「たいした話ではない。生前、私はこれほどのできの魔眼殺しを使っている男と関わりがあっただけの話だ」
「へぇ〜どんな奴なんだ?」
「それはな………くくく」
俺の言葉にアーチャーは、何かを面白いことを思い出したのか 、口元を押さえ笑い始める。…………………マスターになってからこいつのキャラがわからなくなってきた。
あの時の真面目で皮肉屋のお前はどこに行ったんだよ!?あれか?遠坂がいないからなのか!
「そいつは、吸血鬼の彼女がいながら、学校の先輩であるカレー代行者、混血の義妹、寡黙な妹と実験大好きの姉の双子姉妹、死従の同級生、アトラス院の錬金術師、お世話になっていた家の八極拳少女、ペットの黒猫幼女に手を出したりしていたため、毎日、喜劇のような喧嘩の中心になってた男だ」
「…………………」
言葉を失うとは、このことを言うのだろうか?いくら俺が半人前の魔術師でも、聞いたことがあるワードが幾つか出てきた。一体何者なんだそいつは……………。後、ペットとか八極拳少女とか何?
「………………そいつ最後はどうなったんだ?」
「さぁ?私が覚えている限りは、そいつは、優柔不断のため、一人を選ぶことなどできず、最終的にハーレムを作っていた」
「凄い女たらしだな」
俺の言葉にアーチャーは、えっ?こいつなに言ってんの?と言いたげな顔で見てきた。目が可哀想なものを見る目だ。
「……………後輩を毎日家に連れ込み、高嶺の花である同級生を彼女に持ち、美少女騎士に気に入られている男。この状況を他人から見たらマスターも充分たらしに見られるが?」
「…………………」
すぐに否定しようとしたが改めて考えてみると、学生時代、俺ってそんな風に見られてたのかな?だが、先に言っておく俺は遠坂一筋だ!
………………まあ、セイバーの湯上りや桜のふっとした行動にドキとしたことはあるが、黙っておこう。
…………………悲しいかな男の性。
軽いショックを受けながら、魔眼殺しをしまい、アリーナ探索を再開する。しばらく、探索しながらアリーナに落ちているアイテムを拾い、遂に
「よし、二つ目の暗号鍵ゲット」
暗号鍵を手に入れることができたか。これでなんとか、最終日に戦い会うことがてきる。後は、残りの日数をどう過ごすか………………?
う〜ん、あの厄介な毒の対策もどうにかしないといけないし、やることなまだまだあるな。気を緩めている場合じゃないか。
「今日はここまでだ。帰るとしようかマスター」
「そうだな。取れるものは取り尽くしたようだし」
そう結論づけると俺たちは、入り口に戻り、アリーナを後にした。
「……………………あれ?」
気がつくと俺はグランドに立っている。今までは、アリーナを出たらそのままマイルームに繋がっていたのになんで?
「アーチャー?」
辺りを見てみるがアーチャーの姿が見えない。呼びかけてみたが反応がないところを見ると無視というより通じてないようだ。
(システムの不備かな?)
イマイチこの世界のことがよくわからないがこういうこともあるみたいだ。考えていても仕方ない。とりあえず、校舎に戻ろう。
時間的にも夜になっているのか、あたりが暗い。そのせいかわからないが、何故か、少しだけ恐怖心が出てくる。
「ん?」
今、足音が聞こえたような気がした。 当然なのだが、あいにく俺はまだ脚を動かしていない………………ひょっとして幽霊?恐る恐る音のした方を振り向いてみると
「なっ!?」
幽霊はいなかったが、別の意味で驚きの声を上げた。そこには、二本の槍が刺さっている。一本は3ヤードに届こうかという幅広の長槍、先端が二又に分かれ、螺旋状の巨大な槍。解析してすぐにわかった。
この二本の槍は両方とも宝具。ということは……………近くにサーヴァントがいるってことか!
「投影開始」
右手には、白き短刀の陰剣莫耶。
左手には、黒き短刀の陽剣干将。
「同調開始」
強化をかけ、大きくなった干将・莫邪を構え、集中力を極限まで上げる。次の瞬間、地面に刺さっていた二本の槍が引き抜かれたかのように、中に浮かびあがると左右から襲い掛ってきた。
サーヴァントの姿が見えないが、何処かで操っているのか。眉間、心臓、肺、喉元と一撃で相手に致命傷を与える箇所ばかりが狙われ、それらの攻撃をもらわないように槍の側面を干将・莫邪で攻撃するそれにより、槍を体に当たらないようさばいていく。
「うっ、ぐっ!」
時間が経つに連れて、槍の一撃一撃が僅かだが徐々にスピードもパワーも上がっていく。まるで、意思でもあるかの様に……………やはり、サーヴァントが近くにいる。
(よし、それならこっちにだって考えがある)
足に強化をかけて後ろに飛び、距離を取る。今日覚えたあれを使えば、何かわかるかもしれない。
「【view_status】」
呪文を唱えると同時に、アリーナの時同様に光が俺の体を包み込んだ。
すぐに、二本の槍を見てみると詳細は全く入ってこないがぼんやりとだが、二本の槍を両手で持っている影のようなものが見える。一応、辺りも見てみるが何も反応がない。
(となると、恐らく、あの影みたいなのが本体か)
自分自身を不可視にしてあの二本の槍で襲ってきたってところか。そういえば、さっきから気になっているが、アリーナよりも学園サイドでの戦闘は見つかりやすいのに、なぜ、セラフに感知されないんだ?緑アーチャーは、感知されないように、何か使い奇襲をかけてきたが、こんな目立つ場所で暴れていたら、すぐに見つかると思うのに……………。
「おい、なにをしたんだ!」
「…………………」
質問を投げかけてみたが、無視。まあ、質問に答えてくれるとは思ってなかったが。俺は再び構えをとる。今俺のすることは、なんとか、アーチャーがここに来るまで生き延びないといけないことだ。
しばらく、動かずじっとしていると相手の方がしびれを切らしたのか、二本の槍を持つ影が再び、俺に襲いかかってきた。そこからは、無数の攻防が繰り広げられこととなる。
二本の槍は只の一度も俺の身体に掠ることが無い。
突き、薙ぎ払い、切り上げ、振り下ろし、攻撃の全てを受け流し、弾いてく。一見サーヴァントと渡り合っているかのように見えるが、俺にはすぐにわかった。
(くっそ!?弄ばれているな)
いや、むしろ、俺と戦っているのが、喜んでいるかのように感じる。ひょっとして、俺が知っているやつなのか?
槍と言えば、思いつくのは、あの青い槍兵だが、二本も槍は所持していない。どっちもゲイボルグじゃないし。ダンさんの緑アーチャーや白野の赤セイバーという可能性はクラスからして、極めて低いし、俺の勘違いか?
「お前は誰なんだ?」
「……………………」
当然のごとく、相手からの返事はない。しかし、返事がない代わりに今度は相手が俺から距離をとる。
ゾクッ
「!?」
相手の魔力が急激に高まり、周りの空間を凍らせるような寒気が全身を襲う。
この感じは、覚えがある。聖杯戦争で何度も体験した宝具の解放。
相手は巨大な長槍を地面に突き刺し、二又に分かれた螺旋状の槍だけを構える。すると、その槍を片手に持ちギリギリと自分の体を弓のように……いや、それどころか投石器の如く大きく捻りこみ力を込めている。
(投擲するつもりか)
宝具は、人間の使う魔術では防げない。宝具を防ぐものは具現化した神秘たる宝具――それも盾の宝具――を除いて他には無いが、今残っている魔力で防げるかどうかわからない上、相手の宝具の能力は未知。
どうなるかわからないが、やるしかない!!
「体は剣で出来ている
意識を集中させる。
片目を瞑り、意識を内面へ、開いた瞳は真っ直ぐに敵を見据えて。そして意識を自身の奥深い所に潜らせる。深く、深く、もっと深く、魂の、精神の、肉体の底まで、深く、探り出す。全てのものがありながら、何も無い世界を。
何千何万という、墓標の如く丘に突き刺さる剣の群れ。
咲き誇る花の如く、美しい盾の存在を。その盾を、俺はその真名と共にあの丘から引きずり出す!!
「熾天覆う七つの円環!!」
右手を前に突き出し叫ぶ。生まれ出でる、花弁を持ち咲き誇る美しき盾。しかし、本来なら七枚ある花弁が、四枚しかないがそれに全魔力を注ぎ込む。
俺が盾を投影すると同時に相手は、手にしている槍を投擲した。投擲された槍は、先端が二又分かれていたのが、収束し、偽螺旋剣のように、鋭い回転をしながら四枚の花弁に激突。激突の拍子に一枚の花弁が消えた。
「ぐ、あ!」
続くように、二枚、三枚と砕けていき、最後の一枚にもヒビがはいる。つ、強い、勢いが全然殺せてない。まずい、全魔力を回しているがこのままじゃ破られてもおかしくない。一体、どうすれば
【あなたが私の…………】
そう思ったその時、頭にあるイメージが浮かんだ。黄金の光に照らされたある一つの何か。光に照らされているが、霧がかかったかのようにその姿を見ることができない。けれど、不思議と不快な感じはしず、むしろ、それが当然のように感じる。
(……………………ッ!?)
気がつくと頭に出てきたイメージが消えていた。時間にすると刹那と呼んでもいい位のわずかに出てきたあのイメージは一体…………。
パリン!
そんなことを考えたのが一瞬の油断だったかもしれない。最後の花弁が割れてしまったのである。こうなっては後の祭り。
(!?しまっ……)
全ての盾が消失してしまい、無防備な俺に槍は迫ってきた。投影をしようにも魔力がカラッポの上に俺の投影スピードでは間に合わない。
「熾天覆う七つの円環!!」
しかし、俺に激突する瞬間、目の前に完全な熾天覆う七つの円環が作り出された。
ギンッ!
盾は槍を受け止め、 一枚、二枚、三枚、四枚とその花弁を散らし、五枚目にヒビが入ったところで、槍の勢いが消え、持ち主である相手の手に戻っていく。
「ふぅ…………どうやら、ギリギリ間に合ったようだ。無事かマスター?」
「ああ、助かったぜアーチャー」
俺の時間稼ぎが功を奏したのか、本当にギリギリのタイミングで間に合ったアーチャー。き、肝を冷やすところじゃない…………本当にダメかと思った。
「………………安心しているところ悪いがマスター」
アーチャーは干将・莫邪を構え、警戒を未だに解いていない。相手は再び槍を二本持つと構えも取らずにその場にじっと佇んで俺たちをみている。というか睨んでいると言った方がいいのかな?顔がわからないため判断のしようがないが。
「…………一つ尋ねるがあそこにいるのに間違いないだろうな?」
あっ、そうか。アーチャーには相手の姿が見えないんだ。
「ああ、俺もはっきりとは見えないが、あそこにいるのは確かだ」
しかし、あのコードキャストを使ってもうずいぶん時間が経った。そろそろ効果が消える頃だ。疲労困憊のこの体では、もうコードキャストや投影を使えない上、ろくに動けもしない。状況は悪くなる一方だ。
「心配するな。後は私の仕事だ。マスターは後ろで堂々としていろ」
俺の考えを読んだのかアーチャーはかばうかのように前に出た。今はこいつに頼る他ないな。
「…………………」
それと同時にタタタンタタタンという独特の音が聞こえてきた。これは蹄の音?その音の主は、暗闇から姿を見せた。黒い馬だ。見上げるほどの大きな黒馬。暗闇から出てきたせいかわからないが、不気味でしようがない。
「…………………時間か」
突然、機械で作ったような声が聞こえてきたかと思えば、風が吹き、二本の槍を持っていた影が姿を現す。
不可視をといた相手の姿は、一言で表すなら黒。全身を黒い鎧に包み込み、顔を兜で覆った人物が立っていた。不気味ででしょうがない。なんなんだこいつは?
「貴様は何者だ?」
アーチャーは警戒心したまま、質問を投げかけるが
「…………………」
相手は喋りもせずに馬に飛び乗ると、一度だけこちらの方を向くと走りだし暗闇に消えていった。しばらくして、完全に相手の気配が消えると緊張が解けたのか、尻餅をついてしまう。
「な、なんだったんだ?」
「詳しくはわからんが、厄介な相手だということだけは確かだ」
アーチャーは校舎の方へと歩き出した。俺も疲れている体に鞭を打ち、立ち上がるとその後に続く。こうして、四日目が終了した。
夢を見ている。
目の前には、英雄王ギルガメッシュとセイバーが冬木の橋を下りたところにある深夜の公園で対峙していた。
ギルガメッシュは、王の財宝を展開し、セイバーはフル装備の状態で体が真っ二つになりかけのエミヤシロウを守るようにしている。
「ほう?我の名を知った上でまだ抗うか。今度こそ勝ち目がないと悟ったはずだが」
「やってみなければわかりません。英雄王とて、越えられぬものはあるはずだ」
吹き始めた風は渦を巻くと同時に現れた黄金の聖剣。
ギルガメッシュも、聖剣の力を知っているのか、目に見える余裕が消えた。
セイバーはギルガメッシュから倒れているエミヤシロウの方をちらりと視線を移す。
「シロウ今のうちに」
逃げるように目で訴えかけるが
「だめだ、セイバー。それを使ったら………」
必死に身体中の魔力を使い、セイバーを守るためか起きようとするが、エミヤシロウは動けずにいる。そんな体で動いたら本当に死んでしまう。そんな怪我を負っているのに上体を起こした。
(自分を客観的に見たらこんな風に見えるのか)
遠坂は以前俺のことを酷く歪んでいるといったのが、初めて理解できたきがする。
「ふん、いいだろう」
一方、聖剣を前にしても、ギルガメッシュは笑っていた。まるで、子供が面白いおもちゃを見つけたように。
「その聖剣に敬意を表し、こちらも相応のものを出さなければな」
酷く異質な剣を後ろの門から取り出した。出てきたのは、円柱ような形をした剣。三つのパーツに分かれそれぞれ別の方向に回転している。
削岩機のような剣だが、あれはただ一つこの世界にしかない魔剣。
「我は全ての宝具の原型を持っているが、この剣は正真正銘、この英雄王しか持ちえぬ剣だ。我はエアと呼んでいるが」
ギルガメッシュの言うとおり、あの剣は、俺やアーチャーですら投影するのは不可能。
「純粋に宝具の力くらべをすると?」
セイバーも何かを感じ取ったのか、聖剣の光を収束させる。二人の距離は十メートルほど。その間合いならギルガメッシュは避けることなどできない。
「遠慮することはないぞ。くるがいい」
押し殺した笑いが響く。それを挑発と受けたのか
「いいだろう。ならば全力で行かせてもらう!」
セイバーの剣を振り上げると聖剣の真名を解放する。聖剣の光がさらに輝きをます。
「出番だ。起きるがいい、エア」
ギルガメッシュのことばに反応し、三つの刃が回転し暴風を作り出す。
(力を解放したのか!?)
エアと呼ばれるあの剣は、解析できないが、見るたびに悪寒が俺を襲う。だから、俺はギルガメッシュと戦った時にあの剣を使わせないよう腕を切り落とした。
力を解放させたら、あの剣はどれほどの威力を持っているかなんて予想ができない。
「天地乖離す」
「約束された」
だが、セイバーは聖剣に魔力を限界まで注ぎ込み最大の力を使うつもりだ。すごい!これなら………
「勝利の剣!!」
「開闢の星」
セイバーの剣からは黄金の光が、ギルガメッシュの剣からは、赤い渦のような光が発せられ、凄まじい衝突が起こる。
衝突した閃光は、太陽のように瞼を焼く。閃光のぶつかり合いは、続くと思われたが、
(な、なんだと…………)
渦を巻いた赤い光がセイバーを飲み込み、しんでいるのかと思わせるくらいセイバーはズタズタにしていた。そ、そんな、セイバーの剣が敗れるなんで…………
「ふ、くははははははは!人類最強の聖剣も所詮子供騙しよな!!」
高笑いをするギルガメッシュ。勝つことがもともとわかっていたように見える。
「セ、セイバー…………くっそ!!」
それを見ていたエミヤシロウは、満身創痍の体でありながら、立ち上がると
「投影開始!」
「シロウ!や、やめてください!!」
聖剣を投影して、セイバーの呼びかけを無視してギルガメッシュに突っ込んでいく。
「雑種。目障りだ。そんなにそれが気に入ったのなら本物を見せてやろう」
そう言うとギルガメッシュは、一本の剣を取り出した。装飾が似ているところを見ると、あれは聖剣の原型。
「転輪することで劣化する複製は原型には叶わぬとしれ!」
振り下ろした剣はエミヤシロウが投影した剣を砕き、エミヤシロウの体を吹き飛ばす。ギリギリ繋がっていた体は半分に分かれ、セイバーのそばに吹き飛ばした。
「し、シロウ………」
「セ、セイバー…………」
「目障りだ消えろ。雑種!」
ギルガメッシュは手にしている剣再度を振り下ろす。すると黄金の光が二人に襲いかかる。
「投影…………開始…………」
瀕死の状態になってもエミヤシロウはセイバーを守るため、投影をする。無茶だ!?今のエミヤシロウに、あの攻撃を防ぐことなんかできるはずがない。しかし、俺の考えはすぐに覆された。
「な、に?」
エミヤシロウの手から何かが生み出され、それがギルガメッシュの攻撃を防いでいる。な、なんだあれは?
防御などによく使う熾天覆う七つの円環でもなく、見たことないものがそこにはあった。
(鞘?)
青く神々しい鞘がそこにはあり、それが防壁となっている。あんなもの俺は知らない。でも、何処かで……………?
《二回戦 五日目》
気がつくと天井に向かって右手を上げていたことに気づく。あんな夢を最近よく見る。しかし、そんははことよりも気になるのは、あの鞘だ。あの神々しい鞘が気になってしようがない。
(アーチャーなら何かしているはずだ)
詳細を知るため、起き上がろうとすると、体が重く感じる。やっぱり、昨日の戦闘は少し無理をしすぎたかな。
出来るだけゆっくり起き上がると何時もの場所で寝ているアーチャーの方を見る。すると
「ちょ、や、やめてくれ……………俺が悪かった……………い、嫌だ…………これ以上は無理だよ遠坂!オレにだって………………色々とやることが……と、遠坂さん?その宝石剣で何を……………」
悪夢を見ているのか、体を震え歯をカチカチと鳴らし、恐怖に怯えているアーチャー。
多分、俺の記憶を見ているのだろう。それとも、自分の体験とシンクロして、トラウマでも思い出したか……………かわいそうに今助けてやるからな。
「おい、起きろ」
肘打ちをアーチャーの鳩尾に打ち込む。マスターの優しさで腕に強化をかけた状態でな。
「ゴ、ゴホッ!ゴホッ!な、なんだ鳩尾を打ち抜かれたようなこの痛みは!!なにをした!?」
「いや、何も。おはようアーチャー。少し聞きたいことがあるんだけど」
自分でも白々しいとわかるくらいの笑顔で挨拶をする。アーチャーは渋い顔になった。
「なんだ?まさか、些細なことで起こしたのではないよな?えっ?マスター?」
言葉を発することに、怒りの色が露わになっている。余程、いきなり起こされたのが、嫌だったんだな。………………叩き起こしたことは反省しないが。
「いやさ、青い鞘について知らないか?」
「…………………青い鞘だと?」
な、なんだ?アーチャーの雰囲気が何時もと違う。片手を顎に当てて何かを考えている。思い当たる節があるのか?しばらく長考した後、
「…………………そのようなもの私は知らん。何故、そのようなことを?」
「いや、夢で出てきたからさ」
「…………………それだけか?」
「それだけだ」
「………………」
アーチャーは無言で立ち上がり、握った右手の上に左手を乗せ、不良がよくやるようなボキッボキッと指の関節を鳴らし、
「ふ、ふふふふふふ」
「ア、アーチャー?」
笑い出すアーチャーに少しだけ恐怖を覚え、俺は一歩後ずさる。こ、壊れたのか?
「本来私のキャラではないが言わせてもらおう…………………まさかこのセリフわたしがいうとはな………」
アーチャーは右腕を振り上げると
「お、おい!?早まるな!!」
「マスター……殴っ血KILL!!」
あのあかいあくまが怒った時に使うあのセリフを聞こえたとおもったら、アーチャーは右腕振り抜く。
すると、顎に衝撃がはしり、目の前に真っ白に気を失った。
アーチャーサイド
「ったく、この男は………」
脳震盪を起こしたのか、気絶したマスターを見下ろしながらため息をつく。
この男は、パートナーである凛やセイバーがいないせいか、少しだけ開放的になってるな。恐らく、日頃から抑制されている生活を送っているからだろう。
(日頃からどんな生活ををしてたのやら)
そういえば、こいつは先ほど夢とかなんとかほざいていたが、私も最近ある夢を見る。遠い昔に、在住していたロンドンでセイバー、凛の2人と一緒に生活している夢。
それは私の覚えている記憶にはないもの。私が衛宮士郎をマスターと認めた途端、こいつの体験したことが夢が流れ込んできたのだろう。
ということは
「……………私の記憶も見られたということか」
やれやれ、見られても別に構わんが、やはり腹が立つな。鞘と言っていたがセイバーの……………ん?
(そういえば、この男はあれを扱えるのか?)
チラリと床で気絶しているマスターを見るが………………問いただすのはやめておこう。不確定要素に頼るほど現状は悪くはない。
(それにあれは…………)
彼女と私が分かり合えた証。そうやすやすと使われるとは不愉快で仕方が無い。
「ふん!」
「ぐぅえっ!?」
先ほどの仕返しの意味も込めて、鳩尾にトゥーキックを放ち、叩き起こす。
「なあ、アーチャー。頭と腹が痛いんだけど?それに朝の記憶が曖昧で、俺は床なんかに寝ていたんだ?」
『私は知らん。それよりも早く行くぞ』
部屋を出た俺たちは購買へと向かっている。理由は昨日試したコードキャストに使う礼装を買うためだ。
あれから購買に一回も行ってないので、何か新しいものがあるかもしれない。そして、購買にたどり着くと早速品物を確認する。
「へぇ〜色々と増えてるな」
案の定、購買の品物がいろいろと増えていた。その中で礼装と思われるものを幾つか買い、購買を後にする。
『さて、次はどうする?マスター』
(ラニとの約束があるから三階だ)
昨日の約束の通り、占ってもらうために三階へと向かう。ふぅ…………全く上り下りしてばかりだから少し辛いな。三階に着き、辺りを見回すとラ二は、昨日と同じ場所から空を見上げていた。
「おはようラニ」
「おはようございます。衛宮さん」
お互いに軽く挨拶をしたので、早速本題に入ろう。
「昨日、言われたとおりきたぞ。今大丈夫か?」
「はい、問題ありません。星々の引き出す因果律、その語りに耳を傾ければ様々なことが分かるものです。ブラックモアのサーヴァント、彼を律した星もまた、今日の空に輝いています」
そう言うと、取り掛かるためか目を閉じたラニは、何かを呟く。その後、昨日渡した遺物を取り出し、手をかざした。すると、ラニの身体が小さく震えだす。
「――これは、森? 深く、暗い……とてもとても、暗い色。時に汚名も負い、暗い闇に潜んだ人生……」
閉じた瞼の裏で、なんらかの景色が流れ始めたのかラニは語り出す。
「緑の衣装で森に溶け込み、影から敵を射続けた姿……」
あの衣装と弓は、まさにアーチャーの生き様が形作られたもの。森に潜み、隠れ続け、卑怯者として闇から敵を撃つ人生。
(似てるな…………)
他人に恨まれ憎まれ罵倒されても、理想を追い続けたその生涯は報われることなく、自分が助けた相手の裏切りによって幕を閉じたあいつとそっくりだ。
『………………なるほど。そういうことか』
アーチャーも何かを感じたのか、自傷的な笑みを浮かべているのを感じる。
「……そう、だからこそ、憧憬が常にあるのかもしれませんね。陽光に照らされた、偽りのない人生に」
隠れ潜む闇として存在したからこそ、光り輝く道に憧れを感じていた。栄光を手にした者こそ英雄の名を冠する。だが、その過程には様々な経緯があるという事だろう。
道化を演じるしかできなかった男、言うなれば、純英霊に憧れた反英霊と言う表現が当てはまるのだろうか。
この聖杯戦争は、まさに見境なしに古今東西から英霊を呼び寄せる代物らしい。ラニの方も、それで全ての景色を、見終わったのかだろう、少し残念そうな声で結果を伝え始める。
「これは、私の探している物ではないようです。今回は、憧憬、それゆえの亀裂。師から教えられた人間の在り方の一つでした。……どうやら、貴方の星もまだ彼とは交わっていないようですので、第二層に向かってはどうでしょう?彼の星をそこに感じてみました。直接問うのもいいかもしれません」
「探し物は残念だったが、こっちは助かったよ。サンキュな」
「いえ、早々に見つかる物とも思ってはいませんので。それではごきげんよう」
これ以上はこの場にいても自分たちの利益は無いだろうし、彼女の邪魔にしかならない。
そう思い、俺たちはラニの言葉に従ってアーチャーと戦おうとアリーナへ足へ向けた。
《二の月想海 第二層》
アリーナに入ると同時、アーチャーは言う。
「気配があるな。このアリーナにあいつらが居るのは間違いないな」
「そうか、行こう」
今回は逃げるわけではない。罠を張っていようとも、ペナルティを受けている今、挑んでみるなら好機。
「それに、あの時の借りを返さないとな」
「気合を入れるのは構わんが、肩に力を入れすぎるなよ。では行くぞ」
ダンさんたちが、何処にいるのか、察知したのかアーチャーは先導して歩き始める。俺もその後に続いて進む。奥に進むとダンさんと緑アーチャーが待ち伏せていた。どうやら、あっちも俺たちが来ていることをわかっていたようだ。
「さ~て、旦那、どうします? 目の前に出てきましたけど」
アーチャーは弓を弄びながらそう言うと、アーチャーはそんな彼を鼻で笑い飛ばしていた。
「ふっ、出てきた?出てきたのはそちらの方だろ?いつも隠れてコソコソしていたくせにな」
「よく言うぜ、鼠みたいに逃げ回ってたのはどっちだっての」
「生前も、隠れ続けて英雄と呼ばれ、今も結局、日の下では、まともに戦うことも出来ない。哀れだな」
緑アーチャーからあからさまな怒りが感じて取れた。先程の涼しい顔は一転、紅潮していく。どうやら今の言葉が、緑アーチャーの心の底にあった何かに触れたのだろう。
「随分と上から目線で語ってくれるじゃねえか、あぁ、やってやるよ。【シャーウッドの森】の殺戮技巧、とくと味わってここで死にな!」
「冷静になれアーチャー、お前らしくも無い」
爆発寸前の緑アーチャーをダンさんが手で制す。
「……分かってますけどねぇ、旦那、こいつはちょいと七面倒な注文ですよ?正攻法だけで戦えってんですか?」
あはは、と高らかに笑う緑アーチャーからは、先ほどの怒りは見られない。
「つーか意味わかんねぇ!オレから奇襲とったら何が残るんだよ?このハンサム顔だけっすよ、効果があるのは町娘だけだっつうの!」
「不服か? 伝え聞く狩人の力は【顔のない王】だけに頼ったものだったと?」
「あー……いや、まぁ、そりゃオレだって頑張ったし? 弓に関しちゃプライドありますけど」
「では、その方向で奮戦したまえ。お前の技量は、なにより狙撃手だった儂が良く知っている。信頼しているよ、アーチャー」
「……仕方ねえ。大ーいに不服だが従いますよ。旦那はオレのマスターですからねぇ。幸い相手はひな鳥だ。正攻法でもどうにかなるっしょ」
ダンさんは、言葉巧みにあの緑アーチャーを律して見せた。年の功というかとにかくすごいと思う。
「くくくっ」
アーチャーはダンさん達のやり取りを見ながら不適に笑い出した。そして、俺に聞こえるくらいのトーンで呟く。
「ありがたい。これで確信になった」
緑アーチャーは、先ほどのやりとりで言っていたシャーウッドの森とダンさんが言った顔のない王。
イチイ、祈りの弓、シャーウッドの森、顔のない王ときてアーチャーは確信を持ったのだろう。
俺はまだわからない………………勉強不足だな。
「成程、ロビンフッドは守る村しか益を与えないみたいだな」
あっ、思い出した。シャーウッドとイチイときたらあの人物だったな。
ロビンフッド。イギリスはノッティンガムの近く、シャーウッドの森に潜んだと言われる盗賊・義賊。圧政者であったジョン失地王に抵抗した反逆者。自信満々のところを見ると、アーチャーのやつは前から察していたんだろう。
「ッ、テメェ!?」
「…ほう、見破っていたか」
緑アーチャーは極端な反応を見せていた。対するダンの方は見破られたとしても余裕が存在しているようだが。
真名も暴かれやペナルティを食らっているダンさん達よりも俺たちが有利だ。両マスターともその考えは一致していたらしく、
「此処までくると、流石に後には引けんか。アーチャー、存分に見せてくれ」
「アーチャー俺たちも行くぞ!」
「あいよ。了解」
「任せろマスター」
掛け声とともに両者とも構え、戦闘開始。
「ってオイ、待て待て待てってぇ!?」
「断る」
俺は干将・莫邪を投影するとアーチャーの代わりに突っ込み切りかかった。
とはいえ、流石にアーチャーのクラスだけあってか、緑アーチャーは軌道を予想して俺の攻撃をひらりとかわし続ける。
「マスターがサーヴァントの代わりに攻撃するとか聞いたことねぇ!?」
「そんなの関係ない。お前に一撃入れないと気が済まないんだ」
あのフィールドに仕掛けられたイチイの木や矢に仕込まれていた毒のせいで散々な目にあったからな。
本来なら、こんなことは自殺行為だが、もしもの時のためにアーチャーにはいつでもサポートに入ってもらえるようになっている。アーチャー曰く
「今回はマスターが最初に攻めてくれ」
だそうだ。アーチャーも俺と同じようなことを思ったみたいだからな。
そして、緑アーチャーを追い込み、確実に当たると思い、攻撃しようとした瞬間、
「ぅおわっ!?ーーーーなーんつって」
「うわ!」
身を屈め、俺に足払いをしてきた。それに反応できなかった俺はモロに引っかかってしまい、こけてしまう。そして、
「あらよっと」
「があっ!?」
ボールのように蹴り飛ばされたが、なんとか、直ぐに起き上がり、緑アーチャーから距離をとった。体に強化をかけておいたが、かなりきいたな…………。
「あ〜ちょっとスッキリした。そんじゃ…………」
鬱憤を俺ではらした緑アーチャーは、俺を見て笑うと待機していたアーチャーに視線を移す。
「まっ、おたくには本気でいかせてもらいますか」
「気を抜くではないぞ」
「あいよ。旦那は何もせずにゆっくりと、してな!」
その瞬間、緑アーチャーは弓に手を当て、極短い行動で矢を放つ。
「いいだろう。行くぞ」
アーチャーは投影した干将・莫邪で矢を弾き、一度の跳躍で緑アーチャーの傍まで迫る。弓に矢を番える隙を与えなければ、圧倒的有利だと判断したのだ。
「ほい来た。死にな」
しかし、それをよんでいたのか緑アーチャーは拳を地面に叩きつけると、アーチャー付近の地面が爆発。トラップが仕掛けられてたのかよ!
「アーチャー!」
「マスター、この程度の罠問題ない」
駆け寄ろうとした俺を声で制すアーチャー。怪我がないところを見ると寸前のところで回避したようだ。
「問題ないねぇ…………じゃあ、これならどうよ」
緑アーチャーは己が纏っておる緑色のマントで体を覆うと、姿が消えてしまった。気配などが感じられない。これは奇襲の時に使った透明になる能力。
「【view_status】」
コードキャストを使い、辺りを見渡してみるがなにも情報が入ってこない。敵を視界に入れた瞬間、情報が入ってくるのを利用して場所を特定しようと思ったが、どうやら、あのマントの能力はただ透明になるだけじゃないのかよ。マスターのダンさんもタイミングを見計らったのか、いつの間にか姿を消していた。
「マスター気をつけろ。あの二人思ったより厄介だ」
「ああ、わかってるさ」
俺とアーチャーは互いに背を合わせ、剣を構えた。これならどの方向から攻撃されても、死角がない。戦闘が強制終了するまでまだ時間がかなりある。どこから攻めてくるんだ……………?
このアリーナは高低差がたくさんあり、狭いところはかなり狭いうえに瓦礫が多い。そのため、身を隠すにはもってこいのステージ。
狩人でもあった緑アーチャー、ロビンフットと遠坂曰く現役の時は、匍匐前進で一キロ以上進んで敵の司令官を狙撃したダンさん。よく考えたら、狙撃に関しては超一流のコンビだ。どこから狙ってくるんだ?
「マスター上だ!」
アーチャーの声を聞いて視線を上に移すと無数の矢が俺たちに降り注いできた。咄嗟に降り注いでくる矢を両手の剣で叩き落としていく。
何本か叩き落としところ、ふっと気配を感じた見てみると視界の端に俺達に標準を緑アーチャーとダンさんがうつる。
「覚えときな。生き物ってのはこれだけで死ぬもんだ」
それだけ言うと緑アーチャーは、魔力が宿る一本の矢を撃ちだす。追尾するような矢が俺たちを襲う。あの矢は食らったらまずい。しかし、俺が行動するよりも先に
「二度も同じことはさせん!」
アーチャーは手にしている干将・莫邪に素早く強化施し、その矢を弾き飛ばし、前回同様に放たれていた隠れていた二本目の矢も切り伏せた。アーチャーも前回見抜くことができなかったのが悔しかったみたいだな。
「チッ!やっぱ、同じ戦法がきくわけないか」
「これで終わりか?アーチャーよ」
「冗談!まっ、旦那はゆっくり見てな」
緑アーチャーは、そう言うと再びマントで体を覆うと姿が消えてしまった。それに続くようにダンさんも姿を消す。
「厄介だな。あの能力は………」
「マスター私に任せろ。投影開始」
アーチャーは何か考えがあるのか、干将・莫邪を破棄して、再び何かを投影。
アーチャーの左右の手に握られているその剣は、全長が約一メートルの両刃剣。握り柄が十センチほどしかない細長い十字架状の刀剣だ。剣そのものは細く、だが刀身は妙に太い。 その奇妙な剣をさらに投影し合計六本を左右の指に挟んで持っている。
「なんだよそれ?」
「説明は後だ。まずは、奴を片付けるのが先だろう」
アーチャーは、自然体から軽く両手を開き呼吸を整える。左右に手にした剣の切っ先がかすかを上下した。
「ハッ!」
声と共に右腕を下から振り上げるように投げつける。どうやら、投擲用の剣らしい。投げつけられた剣は、当たることなくそのまま、壁に突き刺さると思った瞬間
「嘘だろ!?」
あの剣の大きさでは考えられない位の大きな穴が空いた。思わず叫んでしまった。えっ?何今の……………。
「外したか……………」
驚く俺を尻目にアーチャーは、続けて左手の剣を、今度はオーバースローで槍のように投げつける。すぐさま両手にあの剣を投影し
「そこか!」
今度は、振り返りざまに片手の3本を投擲したかと思えばもう片方の3本、そして空手のはずの手にはすでに 新たな剣が握られ、再度投擲。
剣は突き刺さると、何か別の魔術を使っているとしか思えない位の威力で壁や柱を破壊する。そして、投げつけた一本の剣が壁に突き刺さると
「うおっ!?あぶねぇ」
五メートルも離れていない位置から突如緑アーチャーが姿を現していた。アーチャーの攻撃を見兼ねて出て来たようだ。
「ネズミが尻尾を出したか」
「よく俺の場所がわかったな。おたくなに?エスパー?」
少し驚いている風に見える緑アーチャーにアーチャーは何時ものような口調で言葉を返す。
「その能力は姿は隠せても、視線や殺気は隠しきれんみたいだからな」
「あら?ばれてた。どうやら俺と同じような匂いがすると思ったら、案外間違ってなかったらしいな」
二人は不敵に笑うと
『SE.RA.PHより警告:戦闘を強制終了します』
その瞬間、セラフによって戦闘が強制終了された。どちらもダメージはあまり負っておらず、あのまま続けても膠着状態だったろう。しかし、俺の考えとは裏腹に緑アーチャーは膝に手をつき、肩で息をしていた。
「あー疲れた。やっぱ柄じゃないっつーか、割りに合いませんわ、こういうの」
疲れを露にしながらも、アーチャーの軽い言動に変わりは無い。姿を消していたダンさんも
「泣き言は禁止だアーチャー。儂のサーヴァントである以上、一人の騎士として振舞ってもらいたい」
「げっ……ほんと旦那は暑苦しいんだから。わかってますよ、前回みたいな騙し討ちは禁止なんでしょ」
緑アーチャーはダンさんの言葉を受けている。しかし、彼なりに不満はあるようだ。
「……まったく、手足もがれているようなもんだぜ。人間には適材適所ってもんがあるんだが……」
確かにアーチャーの真価は弓の腕前にあるだろう。現にあの降り注いでくる矢はどれも俺たちの致命傷になる部分を狙っていた。
「必死になればなんとかなるもんだな。手足が無くても歯を使え、目玉で射るのが一流の弓使いってか。OK、期待に応えるぜマスター。所詮はエセ騎士だが、槍の差し合いも悪くねえか」
「その意気だ。次の戦いの準備は始まっている。意識を戦場から離すな」
ダンさんは懐からリターンクリスタルを取り出す。それを使う前に一度此方を見た。
「中々に心躍ったものを見せてもらった。決戦でもよろしく頼む」
「あ、はい」
ダンさんはそれだけ俺に言うと、学園に戻って行った。俺とアーチャーだけがその場に残っている。もういいだろうか?
「……………それで、あの剣は一体なんなんだ?」
先ほど使っていた剣が気になっていたので質問をしてみた。解析してみたが、宝具というわけではない。それにしても、いくらサーヴァントとはいえ普通に投げただけであんな風にはならないと思う。
「…………………マスター、本当凛のもとで何を勉強していたんだ?」
いつも通り俺の質問に呆れを通り越して、哀れんいるような表情をしているアーチャー。もうこの表情を何回見ただろうか?
「まあ、そんなへっぽこマスターにわざわざ教えてやるんのだ。感謝するがいい」
何様だよこいつ?と口からでかかったがあの剣の秘密が気になったのでなんとかとどめる。右手に一本だけ、その剣を手にして懐かしそうな顔でアーチャーは語り始めた。
「こいつは【黒鍵】と呼ばれるものだ。剣というよりも、聖堂教会で使われる悪魔払いの護符と言った方が正しい」
その名前には聞き覚えがあった。確か、代行者の象徴的な武器にして投擲用の基本武装だったっけ。でも、
「確かそれって、愛用する者があまりいないって聞いたけど」
「マスターの言う通り、これを愛用する代行者はそういない。理由は、簡単だ」
アーチャーは手にしている黒鍵を投げ渡してきた。慌てて黒鍵を受け取る。ってか、刃物を人に向けて投げるなよ。
「試しに投げてみろ。使わない理由はよくわかる」
「ああ」
扱いにくいと聞いたがどのようなものなんだろう。記憶の中では、触ったことなどないからな。アーチャーが投げたように俺も壁に向けて黒鍵を投げてみるが
「あれ?」
アーチャーが投げた時のように壁には刺さらず明後日の方向に飛んでいった。そのまま、黒鍵は、柱に当たり弾かれる。
「はぁ〜」
そんな光景を見てアーチャーは露骨にため息をつく。なんか、悔しいな…………。俺の中で何かに火がついた。
「投影開始!」
今度は俺が投影した黒鍵を持った右手を頭の横に構え、剣先を上にする。狙いをさだめ、全身の筋肉をバネのようにひきしぼった。右手を振り下ろしながら、ここぞというタイミングで黒鍵を投擲。
「あたれ!」
半ばやけくそ気味に叫びながら黒鍵を投げる。黒鍵はその叫びに答えた。【当たる】ということだけについては。
黒鍵は必要とされるだけの回転運動を行わなかった。先端ではなく刃の部分で壁にぶつかり、あっさりと壁からはじき返される。多少の傷がついた程度。
あたるだけじゃ意味がない。刺さらないと。全長一メートル近い黒鍵にかかる遠心力は半端ではない。勢いをつけて投げれば投げるほど、剣はグルグルと回転してしまう。
「な、なんて投げにくいんだ……………」
「理解したか?これが使われない理由だ。それともう一つ物理攻撃に対して威力がないことだ」
「えっ?だけど、アーチャーが投げたら凄い威力だったじゃないか」
俺が投げたのは壁に少し傷つけたり、柱に弾かれたりしていたが、アーチャーの投げた黒鍵は、壁や柱を貫いていた。
「それは投げ方が問題だ。【鉄甲作用】と呼ばれる埋葬機関秘伝の、黒鍵投擲方法もどきを私は使っているからだ。私の知っている代行者はさらに火葬・土葬・風葬・鳥葬式典を施し使っていたが」
「へぇ〜」
埋葬機関といえば、聖堂教会の最高位異端審問機関だ。またすごいところに人脈を持っていたんだな。ふっと、ここであることについて疑問が生まれた。
「埋葬機関秘伝をなんでお前が知ってるんだよ?」
埋葬機関は【神秘の秘匿】を第一主義とする魔術協会とは仲が悪く、幾度と無く刃を交えてきた間柄。
そのためか、度が過ぎると魔術師と代行者とわかると互いが殺しあう時もあると聞く。そんな相手に魔術使いとはいえ秘伝を教えるだろうか?
アーチャーは俺の質問に気まずそうに目を背け
「名誉のため誰とは言わないが……………当時の私がカレーを奢ったら普通に教えてくれた」
「…………………」
何と無く人物に心当たりがある。おそらくアーチャーが昨日言っていたカレー代行者のことだろう。
秘伝だろ?それでいいのかよ…………………。
「捕捉しておくが第一私が使っているのはあくまでもどきだ。本来の使い手である彼女が使う黒鍵と比べるなどおこがましい。彼女が投擲する黒鍵は真祖すら吹き飛ばすからな」
「…………………化け物だな」
魔術の世界はこのような人外が他にもたくさんいるのだろう。だけど、不思議と恐怖心はない。なぜかわからないが、話を聞いたところ遠坂とその代行者は同じような感じがするのはなんでだろう?
後書き
読んでいただきありがとうございます。
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