| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/EXTRA IN 衛宮士郎

作者:トドド
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

狩人の襲撃

階段の上に立ち、眼下の四人の姿を見下ろしながら、静かにそう自覚した。数ヶ月前に体験したあの戦争とはまた違う戦争。 エミヤシロウがいる、セイバーがいる、遠坂がいる、アーチャーがいる。そして何より、死んだはずのイリヤがそこにいる。
誇りと哀惜感とが彼女を包む。魔道の名門、アインツベルンが必勝を期して送り出した世界最強の英雄ヘラクレス。この時の彼女は、その不敗を微塵も疑ってはいなかった。 ギルガメッシュにやられるまで…………

「……アーチャー、聞こえる?」

遠坂は口を開く。まるで、それを自分の声で宣告することだけが、彼女にできる償いであるかように信じるが如く。

「少しでいいわ。私たちが逃げている間、アイツの足止めをして」

(なっ!?)

遠坂はアーチャーにしねと言っているのか!?
イリヤスフィールの背後にいた巨体が、ロビーの中心に移動した。眼前に聳える魔人。前も後ろも間に合わない。攻撃すれば無効化され、惨殺。逃げようと背を向けた刹那、斧剣に両断され、惨殺。
そんな相手と戦うなど自殺行為と言ってもいい。遠坂はアーチャーの背中をみつめている。かける言葉などないのだろう。遠坂も、自分の命令が無茶だと解っている筈だ。自分たちを逃がすために、アーチャーに死ね、と言ったのだから。

「…………アーチャー、わたし」

「ところで凛。一つ確認していいかな」

何かを言いかける遠坂を場違いなほど平然とした声で、アーチャーが遮った。

「……いいわ。なに」

伏目でアーチャーを見る遠坂。アーチャーはバーサーカーを見据えたまま、

「ああ。時間を稼ぐのはいいが。別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

二人と一騎を逃がすための足止めをマスターから命じられた時に、赤い弓兵は傲岸なまでの台詞を言い放った。

「アーチャー、アンタ………」

アーチャーの言葉に驚きを浮かべていたが、それが徐々に笑みに変わり

「ええ、遠慮はいらないわ。がつんと痛い目にあわせてやって、アーチャー」

「ならば、期待に応えるとしよう」

アーチャーは一歩、二歩と足を踏み出す。後ろを振り向くことなく、ただ敵の殲滅だけを考えているのがわかる。

「っ、バカにして…!いいわ、やりなさいバーサーカー!そんな生意気なヤツ、バラバラにして構わないんだから…!」

ヒステリックなイリヤの声。意にも介さず、遠坂はアーチャーに背中を向けた。

「行くわ。外にでれば、それでわたしたちの勝ちになる」

遠坂はエミヤシロウとセイバーの手を握って、背後にアーチャーを残したまま玄関へと走り始める。

「衛宮士郎」

そんな中アーチャーはエミヤシロウだけを呼び止めた。そして何を思ったか俺にはわからないが、エミヤシロウに何かを伝えようとしているということだけわかった。

「いいか。お前は戦う者ではなく、生み出す物にすぎん。余分な事など考えるな。お前に出来る事は一つだけだろう。ならば、その一つを極めてみろ」

アーチャーは投影した干将・莫邪を天井に投げつけ、自ら退路を断つかのように塞いだ。それを見ていたエミヤシロウは守るべき少女達の後を追う。その瞬間ザァーと目の前に砂嵐(スノーノイズ)が走し、暗転した。



























































《二回戦 三日目》

「いい加減、起きんか!」

「痛って!?」

突然、浮遊感が体をやってきたと思ったら、すぐに体の芯に響くくらいの衝撃が襲う。目を開けてみると俺を見下ろすアーチャーがいた。
どうやら、背中から床に落とされたらしい。受け身を取り損なったのでかなり痛い。

「なにしやがる!?」

「お前が何時までも寝てるのが悪いのだろう」

時計を見てみると9時を過ぎている。まずい、昨日の疲れからのせいかいつもより眠り過ぎたな……………。

「さっさと用意せんか。たわけ!」

こいつの勇姿が出てきた夢を見ていた気がするが、あんな起こされ方をされたせいで、忘れてしまった。
第一、そんな夢を見る自体あり得ないか。気のせいだな……………。そう自分の中で決めつけ、部屋をから廊下へと移る。

「っ!?」

すると、廊下へ出た瞬間底冷えするような悪寒を全身で感じ取っていた。

『どうやら、我々は狙われているみたいだ』

俺たちを狙うとしたら、あの緑のアーチャー(仮)しかいない。

(それに、いつもに比べ、静か過ぎる)

マスター達が一斉に居なくなったような人気の無さ。階段の前まで来ると、明らかにそれは背後から此方を狙っている、と確信できた。
しかし、その行為は、マスターとサーヴァント共々制限(ペナルティ)を受けると言うことだ。
それを逆手に取り、生き残ったならば、対決の日までステータス低下という罰則が相手に与えることができ、戦いを有利に運べる。

『いいか、振り向くな。振り向けば、殺される』

今居るのは二階。一階か三階、どちらに逃げるかと考えれば、三階に逃げるのは論外だ。一階、向けて逃げるのが最善だろう。

(分かってるさ。このままは、アリーナに行くぞ)

『ほう。ちゃんとわかってるじゃないか。一階に着いたら私の合図に合わせろ』

(ああ。頼むぞ)

気づかないふりをして一階へとたどり着く。そろそろ、仕留めにきたのか殺気が頭、心臓と言った急所を次々と狙っている様に移動している。茂みの向こうにいる狩人に狙われた獲物の様な気分だな……………。
振り返り文句を言ってやりたいが、今すべきことはアリーナへの逃亡。流暢に考え事をすることではないな。

『準備はいいかマスター?』

(ああ、いつでも)

『では……………』

アーチャーは実体化し、一本の剣を投影。すぐさま実体化し

「アリーナに走れ!」

掛け声と共に、それを少し離れた位置に投げつけた。投げつけた剣は、中規模な爆発し、爆煙を発生させる。煙は廊下中に広がり、あたりの視界を遮っていく。

「チッ!味な真似を」

サーヴァントの舌打ちが聞こえてきた。この煙で標準が合わせられないんだろう。煙幕は古くから敵の照準に対して自らの活動を隠すことに関しては、王道中の王道。古典的だが、効果抜群だ。

(しかし、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を煙幕に使うとはな………………)

本来、この技は強力な武器である宝具を矢として放ち、爆弾として敵の前で炸裂させる。
だが、今回の場合は威力を調整して、爆煙を発生させるのを目的として変則的に使ったのだ。調節しないと確実に俺が死ぬからな……………。

(今のうちにアリーナに)

俺は煙がはなれないうちに全力で廊下を走り、アリーナへと飛び込む。

《二の月想海 第一層》

「っ、はぁ……はぁ……! これで、もう……」

相手のマスターの気配はなかったし、流石にアリーナには入って…………

「油断するな!この殺気、まだこっちに狙いを定めてる」

「なっ!?」

まさか独断でアリーナにまで入ってくのかよ!?

「とにかく、ここだと狙われる。広い場所に出て、チッ!」

台詞を中断しながら、飛んできた矢を刃で切り捨て、アーチャーは舌打ちをする。
矢が飛んできたのは数本であり、場所を特定されないためか、それぞれ別方向から俺たち向かっているのだ。

(確かに、ここにいたら、狙われるだけだ)

急ぎ、広い場所に向かう。その間にも、数本の矢が飛んできた。

投影開始(トレース・オン)!」

目の前に飛んできた矢を干将・莫邪で打ち落としていく。しかし、前後左右から矢は打ち込まれ、気少しもが抜けない。
前と右は俺、後ろ左はアーチャーと言った感じて矢を打ち落としていく。
そうしているうちに、俺たちはアリーナの広場にまで、なんとか到着した。いつしか殺気も消えている。逃げ切れたのか?

「予想通りだな。単純なマスターで助かったぜ」

「っ!!」

「上か!」

上を見上げると、先ほどよりも段違いの速度で矢が迫ってきた。不意をつかれ、動けない。

「はぁっ!」

アーチャーはそんな俺をかばうかのように矢を打ち落とす。
よかった…………なんとか…………防げ………

(あ………れ?)

「死角から狙ってくるとは、徹底しているな、アーチャー」

「おぉ、お見事お見事。オレの一撃止めるだけじゃなく、クラスまで見抜くなんてな。だがちょっと甘いぜ?」

「っ!?マスター!」


そして、気がつくと視線が横になっていた。

すぐ左に地面が見える。





なんだ?


倒れた?

倒れたのか、俺は?


いつの間に?




いや、そんなことよりも。

起き上がらないと

早く起き上がらないとな


滑って転んでしまったのだろうか?まったく、こんなときに情けない。さっさと起き上がろう。


………………どうして起き上がれない?なんで、体に少しも力が入らないんだ?




何度頭の中で命令しても、体がちっとも言うコトを聞かない。聞いてくれない。……それに……寒い。

体が死ぬほど寒いどうなってんだこれは?
気温とか、湿度とか、そんなもの関係なく、体の芯から凍えていく感覚。
体の中の熱が全て体外へと流れ出てしまっているかのよう。
僅かに自分の腕に痛みが走る。
視線を自分の腕に向けてみると微かな傷があった。そして、傍に落ちている矢を見て確信する。

(二つ矢………)

一回の攻撃行動で、二本の矢を放つ技術。アーチャーが撃ち落とした矢に隠れてたんだろう。俺がライダーにやったよりも、矢を隠すのがうまい。

(しかも、この矢に …………毒が塗ら………れてたのか………)

寒いのも、動けないのもこのせいなのだろうか。……まずい。

「その内、呼吸も出来なくなるさ」

それだけ言うと、相手の気配は消えてしまった。ああ、眠い。雪山では寝たら死ぬだのなんだのと言われているが、今、寝たらどうなるのだろう。やっぱ死ぬ…のか…?
何故かは分からないけど、今は何となく死というものを感じることができた。

「くっ、私としたことが………おい、しっかりしろ!」

意識が遠のく。アーチャーは何を言ってるんだ?襲い来る睡魔に対抗することができない。視界がだんだんと暗くなり、体が沈むような感覚に飲み込まれていく。

「今寝てしまってはだめだ。死んでしまうぞ」

あぁ……これは本格的にまずいな。

「起きるんだ。マスター!」

ヤバイ、このまま死にそうだ。

「マスター!!」

俺の意識は完全に途絶えてしまった。











   



































いつか見た夢よりも現実味があった。俺の目の前には、バーサーカーとイリヤ。その近くで、膝をつき動けずにいるセイバー。そして、

「ハァッ!ハァッ!!」

今にもバーサーカーに握りつぶされそうになっている遠坂の姿が目に映った。

(なっ!?と、遠坂!)

体を前に動かそうとするが、動かない。足に地面がくっついてるようだ。遠坂の顔には、玉のような汗が浮かぶほど疲弊している。こんな遠坂を見るのは初めてだ。
恐らく、魔力もほとんど空になっているため、魔術も使えないのだろう。

「頑張るわねリン。でも、わたし疲れちゃったから終わりにしましょ?」

そんな遠坂をまるで、実験動物を処理するかのようにイリヤはバーサーカーに

「バーサーカー、もういいわよ。潰しちゃって」

処刑を命じるイリヤ。命令通り、バーサーカーは、ギチィギチィと音を立てながら遠坂を握る力をあげた。

「あが……!」

(遠坂!!)

見ている俺も思わず声をあげてしまった。

(や、やめろ……それ以上やったら遠坂が……………)

これは夢だとわかっている。でも、目の前で大切な人が死ぬとこなんか見たくない。それが遠坂なら尚更だ!!しかし、俺の意思とは対象的に、体は動くところか、

(がっ!!!)

身が焼けるような激痛に襲われる。か、体が熱い。身体中に火がついたようだ。

「凛!」

セイバーの声も虚しく、バーサーカーは、更に力を入れようとした途端、

「「「「「!?」」」」」

目の前に信じられない光景があった。バーサーカーの腕が切り落とされたのだ。
それにより、手から解放された遠坂は、地面に倒れたが、見たところ目立った外傷はない。よかった………本当に良かった。

「嘘でしょ………!?」

バーサーカーの切り落とされた自体は、確かに信じられない。しかし、切り落とした人物にイリヤだけでなく全員が驚愕を覚えた。

「シロウ!?」

エミヤシロウだ。エミヤシロウがいつの間にか、投影していた剣で腕を切り落とした。だが、セイバーが驚いているのは、バーサーカーの腕を切りおとしたことだけではない。
驚いているところは、エミヤシロウが持っている剣。伝説では、彼女が引き抜き、永遠に失った王の選定の剣。
名は、勝利すべき黄金の剣(カリバーン)彼女にとっては約束された勝利の剣(エクスカリバー)よりもなじみが深い聖剣。だが

「………ダメだ」

エミヤシロウのつぶやきと共に、剣は砕け散った。エミヤシロウのいう通り、俺から見ても今のは、骨子の想定が甘い。

「あの剣を模造したなら砕けるなんてあり得ない。もう一度」

エミヤシロウも理解しているようで再度投影を試みるが、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

後ろから、バーサーカーが斧剣を振り上げ襲いかかってきた。

投影開始(トレース・オン)!!」

バーサーカーよりも、素早く剣を投影すると、まるで、セイバーのような無駄のない動きでバーサーカーの攻撃を受け流す。
何度も攻撃されては、エミヤシロウは、投影した剣で何度も受け流した。

「衛宮君………アンタ、なんて魔術を……」

そんな光景を見て、顔を真っ青にする遠坂。驚きを越えて恐怖すら感じたのだろう。
本来、人間がバーサーカーの攻撃を防ぐことすら奇跡に近いのに、エミヤシロウが手にしているのは、聖剣、勝利すべき黄金の剣(カリバーン)
分を超えた魔術は身を滅ぼす。
いつか、遠坂やアーチャーが言っていたが、今のエミヤシロウは、無意味に見える。同じ人間としてわかるんだ。
エミヤシロウがたたかっているのは、バーサーカーなどではなく、挑んでいる相手は、自分自身。
限界を越えて、敵や自らも騙しうる完全無欠のイメージを作り上げること。

「ぎ、くう、ううああーーー」

投影する剣の創造の理念を鑑定を
基本となる骨子を想定し
構成された材質を複製させ
制作に及ぶ技術に模倣し、
成長に至る年月に共感し
蓄積された年月を再現し
あらゆる工程を凌駕し尽くし
ここに幻想を結び剣と成す

「あ、あれは………!?」

「シロウ!!」

そして、エミヤシロウの手に完成した剣があった。だけど、手にしているものを見て、エミヤシロウの体の力が抜けていくのが見てわかる。

(当たり前か………)

ただでさえ、宝具の投影には体力がいるのに、それを連続で何度もしたら、立っていることすらできなくなる。せっかくの剣も使いこなせる奴がいないのなら意味が…………

「シロウ、手を!」

俺の考えをよんだかのようにセイバーはエミヤシロウの元へと走り出した。

「わたしなら使える!!」

「セイバー!」

エミヤシロウの元に着くとセイバーも剣を握る。バーサーカーが迫り、手にしている斧剣を振り下ろす中

「我が呼び声に答えよ!!汝の名は」

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)が斧剣を切り裂きバーサーカーを貫く。そのまま、剣から放たれた光が森の木々を突き抜け、空の雲を貫いた。














































《二回戦 4日目》

気がつくと、一度見たことのある保健室の天井が目に入った。なんで、ここに寝ているんだ?

(俺は確か……………)

直前の記憶を探ってみる。敵のアーチャーから逃げるため、アリーナに逃げ込んでそれから……………あっ。

(そうだ、アリーナで敵の攻撃を受けたんだっけ…………)

敵の攻撃には、毒が使われたため、倒れてしまったんだ。そこから記憶がない。アリーナからアーチャーがここまで運んでくれたのか?

「うっ…………」

ゆっくり上半身を起こすが、体が鉛のように重い。どうやら、毒がまだぬけてないのか?
試しに、手に力を入れて開いたり閉じたりとしてみるが、ズキズキと痛みが走る。
くっそ…………どうやら、俺の不思議な治癒力は、毒のせいかわからないが、上手く発動してない。何で、発動しなかったんだろう?う〜ん、自分の身体なのによくわからないな。

(っと、それよりも今何時だ?)

アリーナで倒れてから、どのくらい時間がたったのかわからない。とりあえず、誰かに聞いてみよう。

「誰かいるか?」

呼びかけてみると、カーテンが開けられる。開けたのは見慣れたアーチャー。

「マスター、気がついたか」

「なんだ、いたのか。俺はどのくらい寝てたんだ?」

「アリーナで倒れてから約一日くらいだな」

ということは、今日は四日目か。よかった、あまり時間がたってなくて…………不戦敗とかシャレにならないからな。

「アーチャーさん、ずっと衛宮さんを看病してたんですよ」

そう言いながらアーチャーの後ろから顔を出したのは保健室のNPC、桜だった。えっ?こいつが俺を看病?

「桜君。余計なことを言わないでくれ」

「ふふふ、ごめんなさい」

アーチャーがそっぽをむくと、それを見ながら桜は笑う。

「そっか、ありがとうアーチャー」

「……………フン!」

素直にお礼を言うとアーチャーは実体化を解いてしまった。あっ、始めて、アーチャーに勝った気がする。

「仲がよろしいですね」

「そうか?」

「はい。まるで、兄弟みたいですね。ちなみに、衛宮さんが弟ですよ」

じゃあ、あいつが兄かよ。兄弟ね……………あいつが兄で俺が弟……………想像ができん。

「そういえば、体の調子はどうですか?」

「ん?ああ。なんか体が思うように動かないだよ。どうなってるんだ?」

「はい。おそらく、打ち込まれていたイチイの毒のためです。自然界から摘出された毒にしては随分凶悪なものなので………」

桜が説明してくれる。またしてもイチイの毒。毒というのは実に厄介だ。でも、相手のクラスがアーチャーである事と、イチイの毒という情報が確定したのでよしとするか。

「本来ならある程度、私の権限で治せるんですが、衛宮さんの場合、なぜか、わたしの力が上手く働かないんです」

「つまり、このままってこと?」

「はい。申し訳ありません」

律儀にも頭まで下げて謝る桜。こういうところは、俺の知っている桜、そっくりだ。しかし、困ったな。これだけ体が上手く動かないと、戦闘どころかアリーナで暗号鍵を探索することすらできない。

「失礼する」

そんな一声が聞こえた後、保健室の扉がガラガラッと開く。ダン・ブラックモアとそして、毒を負わせたサーヴァント、緑色のアーチャー。
敵の来訪に身構えようとするも、まだ身体が思うように動かない。しかし、彼の行動は此方の予想を大きく裏切った。

「……イチイの矢の元になった宝具を破却した。しばらくすれば、イチイの毒は消え去るだろう」

「え……?」

そう言うと、今までの様な厳格な騎士のものではなく、失望の眼差しで、アーチャーの方に視線を移す。

「そして失望したぞ、アーチャー。許可無く校内で仕掛けたばかりか、毒矢まで用いるとはな」

手袋を取ると、刻み込まれた弓の様な形の令呪が露になった。

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪をもって命ずる。学園での敵マスターへの、宝具祈りの弓(イー・バウ)による攻撃を永久に禁ずる」

「はあ!?旦那、正気かよ!?負けられない戦いじゃなかったのか!?」

信じられない、という顔のアーチャーに、あくまでもブラックモアは坦々と告げる。

「無論だ。儂は自身に懸けて負けられぬし、当然の様に勝つ。その覚悟だ。だが、何をしても勝て、とは言わぬ。儂にとって負けられぬ戦いでも、貴君にとってはそうではないのだからな」

「……………」

緑色のアーチャーは何も言わずに、その場から姿を消した。

「此方の与り知らぬ事とはいえ、サーヴァントが無礼な真似をした。君とは決戦場で、正面から雌雄を決するつもりだ。どうか昨日の事は許して欲しい」

「いえ、そんな…………」

敵と思ってた人にこんな風に言われるとなんと言っていいか、わからない。スッと右手を差し伸べた。

「今更、言っても信じてはもらえないだろうが。君とは是非正々堂々と戦いたい」

『どうするつもりだマスター。信用するのか?』

アーチャーが聞いてくるが、愚問だと思う。この人は、わざわざ貴重な令呪を使うくらいだ。信じてもいいだろう。

「わかりました」

差し出された右手と自らの右手で熱い握手を交わす。なぜかわからないが、この人とは、本当に正々堂々と戦って見たいと心の底から思った。

「では、よろしく頼むぞ。士郎君」

「はい、ダンさん」

自然と名前で呼び合うと、にっ、と深い笑みを携えて、ダンさんは俺から背を向け、保健室から去っていく。

「へぇ〜礼儀正しい人だな」

「うむ。サーヴァントは、いけすかんがなかなかの騎士ではないか」

ダンさんを見送ると、入れ替わるように、白野と赤セイバーが部屋に入ってきた。どうやら俺とダンさんのやりとりの一部始終を見られてたらしい。

「どうしたんだ。保健室に何か用事か?」

「いや、士郎が倒れたからお見舞いにきたんだよ。はい、お見舞い」

そう言うと、ビニール袋を渡してきた白野。わざわざ足を運んでくるなんて。

「悪いな。気を使わせて」

「いいって、いいって」

袋を受け取ると、早速で失礼だが中身を確認することにしよう。疑ってないけど、一応、敵同士だからさ。こういうの確認しとかないと、アーチャーに何言われるかわかったもんじゃない。

(えっと、中に入ってるのは…………)

林檎。まあ、定番か。
苺。へぇ〜最近ご無沙汰だったからな。
サクランボ。塾してて旨そうだ。
ザクロ。これはあまり食べたことないな。
赤ピーマン。間違えていれたのかな?うん、そうに違いない
唐辛子。お見舞いでもってくるものじゃないだろ。
パックに入った麻婆豆腐。なぜ、麻婆?

「………………何を基準に選んだんだ?」

明らかに後半からおかしくなってるだろうこれ?最後の三つは、お見舞いに持ってくるものじゃない上に生野菜と麻婆豆腐だ。

「決まってるじゃないか。士郎のサーヴァントが赤色をしてたからさ。それに、赤色はセイバーの色だし」

自信満々に答える白野。基準それだけかよ…………。

「そのとおり。赤色は、情熱を表し、実に良い!…………………しかし、余は、最近、奏者の色に染められてしまった」

はずかしそうに頬を真っ赤に染める赤セイバー。自分のセリフで恥ずかしくなってどうするんだ…………。

(なぁ、アーチャー。実体化してなんか言ってやってくれ………)

『……………助けたいのはやまやまだが、すまないマスター。どうやら、看病の疲れか実体化ができないみたいだ。残念だ。本当に残念だ』

(嘘つけ!?サーヴァントがそのくらいで疲れるかよ!)

関わりたくないからって、実体化しないつもりだな。こういう時に助けるのがサーヴァントだろ!

「大丈夫!俺もそんなセイバーも大好きだ。いや、むしろ愛している!!」

「よ、余も愛しているぞ!奏者!!」

互いに相手の背中に両腕を回し、抱き合う白野と赤セイバー。TPOという言葉を知らないのか?

「…………頼む…………もう…………帰ってくれ」

そんな光景を目のあたりにした俺は、げんなりとした表情でつぶやくが、二人はなお、抱き合い続ける。
この二人に常識を求める方が間違いだったと最近思うようになってきた。心なしか、身体に残る毒が強くなった気がするな。

「あっ、そういえば、士郎に聞くことがあったんだ。ごめんねセイバー」

用事を思い出したのか、赤セイバーの後ろに回していた手を離す白野。

「あっ…………」

白野が離れた瞬間、寂しそうな表情になる赤セイバー。まるで、飼い主に構ってもらえない飼い犬のように見えるが、白野が用があるみたいだし、そのことには触れないでおこう。

「聞きたいことって?」

「全身青タイツの変態と、お金にがめつそうなツインテール美少女が、保健室の前でウロウロしてたけど、知り合い?」

「誰が、変態だ!!」
「余計なお世話よ!!」

白野の言葉を聞いていたのか、扉をいきなり開けて、赤と青の主従が入ってきた。案の定、遠坂とランサーだが、盗み聞きしてたのか、この二人。

「えっと……………どうしたんだ二人とも?」

いきなり入ってきた二人に質問をしてみる。すると、遠坂は慌てていつものように、

「べ、別に対した用事じゃないわよ。ただ、学園で襲われたマヌケなマスターの話を聞いて、来てみただけ。それだけだから!本っっ当にそれだけだからね!!」

ビシィ!と俺に人差し指を突きつける遠坂。マヌケって、ひどい言われ方だな…………。

「ぷっ!坊主がこの部屋に運ばれたって聞いて、結構心配そうにしてたくせによぉ」

遠坂の様子をみて、口元を押さえて笑うのを堪えているランサー。ランサーの言葉を聞いて遠坂は、顔を真っ赤にし

「そ、そんなわけないでしょ!?な、なんで、私が敵のマスターのことを心配するのよ!!」

「へぇ〜部屋の前で入ろうか。悩んでたのは誰だったっけ?」

ケラケラと笑うランサーに遠坂は殴りかかるが、拳が当たる直前にランサーは身体をわずかにそらし、それらを回避していく。

「何で、避けるのよ!当たりなさい!!」

「や〜なこった」

何処かの喜劇ような遠坂とランサーのやり取りを見て、思わず笑いそうになるが、笑うのを我慢する。笑った瞬間、標的が俺になるからだ。

「やれやれ。騒がしくなってきたな…………」

実体化したアーチャーは、そんな光景をみて呆れたように肩を竦める。そう思うならなんとかしてくれ。

「見てると、んぐっ、面白いね、この二人。はぐっ、セイバー、サクランボとって」

椅子に座りながら、パックの中に入っていた麻婆を食べている白野。どうでもいいけど、それ、お見舞いで俺にくれたものじゃなかったか?別にいいけど。麻婆には嫌な思い出しかないからな。

「うむ。奏者と余の仲には負けるがな。これだな。受け取るがいい奏者」

白野の言葉に頷きながら袋からサクランボを手渡す赤セイバー。そして、そのまま当然の如く、白野の膝の上に座る。いや、だからさ、お見舞いの品として俺にくれたやつだよなそれ。

「ありがとうセイバー。それで、士郎?この人たち誰なの?女の子の方は食堂にいたよね」

赤セイバーの頭を撫でながら、再度俺に質問してきた。そういえば、白野は遠坂のこと知らないんだったな。いい機会だ紹介しておこう。

「彼女の名前は、遠坂凛。知り合いと言うかなんと言うか、まあ…………ここで出会った知り合いかな。それで、あっちが遠坂のサーヴァント」

俺の師匠であり恋人ということは黙っておくか。それにここは別世界だからこの遠坂と俺は赤の他人だし。
ランサーは……………ややこしいことになるから黙っておこう。説明を聞くと白野は手を口元に当て

「全身青タイツの変態がサーヴァントなんて可哀想に…………」

同情するような目でボソリと呟く。すると自分の服装がバカにされたのが聞こえたようで

「おい!誰ガバぁっ!!??」

白野の方を見て文句を言おうとした瞬間、遠坂の一撃がランサーの胸にヒット。不意をつかれたランサーは、胸を押さえ膝をつく。

「す、寸勁かよ…………嬢ちゃんやるな」

全身の力を集約させ、至近距離からの打撃を可能とする特殊技術。密接打撃(ワンインチパンチ)とも呼ばれる中国拳法の絶技。
英霊すら膝をつくこの威力、本気の一撃だ。遠坂は、縄張りを争っている猫みたいに、ふーっ、ふーっと荒い息を繰り返していたが

「それで、そちらの方々は誰かしら衛宮くん?」

呼吸を整え白野たちについて聞いてきた。目を合わすと引っかかれそう気がするので遠坂からさりげなく視線を外し

「こいつは、岸波白野。ここで仲良くなった奴だ」

紹介をすると白野本人が膝に座らせている赤セイバーを自分の座っていた椅子に座らせ、立ち上がる。

「どうも、岸波白野です。趣味は、セイバーを一日可愛がること。好きなことはセイバーとのスキンシップかな」

ぺこりと頭を下げて自己紹介をした。自己紹介を終えると再び赤セイバーを膝の上に乗せて頭を撫でるのを再開。うん、ぶれないなこいつ。

「ず、随分とサーヴァントと仲がいいのね…………」

そんな光景をみて、苦笑いを浮かべる遠坂。わかるぞその気持ち。白野達を見ているとこっちが恥ずかしくなってくるからな。

「ってか、今気づいたけどよ。そいつセイバーの嬢ちゃんじゃねえのか?」

赤セイバーに指をさしながら俺に尋ねてくるランサー。遠坂の一撃は直ぐに治ったようだ。流石英霊。

「やはり、貴様も同じことを言うな。だか、視線を下げてみろ。違いがよくわかる」

アーチャーは俺の時と同じようなことをいう。ランサーは言われたとおり、顔から身体へと視線を下げ

「…………………ああ、よくわかったぜ。こいつは俺が知っているセイバーの嬢ちゃんじゃねえな」

首を縦に振って納得するランサー。多分あの部分で納得したんだろう。何処かとは俺の口から言えないが。

「しっかし、アーチャーがいるなら、セイバーの嬢ちゃんもいるかと思ったのによ」

はぁ〜とため息をつき肩を落とすランサー。そういえば、セイバーと再戦といってたが、結局、庭の一回限りだったな。口約束みたいなものだと思っていたが、セイバーとの再戦はランサーも心残りだったようだ。

「ちょっと、セイバーって誰のことよ?また、あんたら共有の話?いい加減教えなさいよ。いつもいつも気になることばかり言って!」

口元を子供の様にとがらせ、しゃべっているうちにさらに熱くなってきた遠坂から、強制的な威圧感で迫ってくる。俺達とランサーの関係を屋上の時からずっと気になってるんだな。

「なんで、そんなに気になるんだよ?」

「私は隠し事されるのが嫌いだからよ!自分がするのはいいけど」

な、なんて、自分勝手な暴論だ。

「……………少しは話してやれマスター」

アーチャーはそんな遠坂の様子をみて折れたのか話すことを進める。仕方ないな。これは、話とかないとずっとこんな感じだろうし。話しても、問題ないことだけ話しとくか。

「わかったよ。それじゃ、一つだけ答えるから聞いてくれ。その前に…………」

白野の方に視線を移す。これから話すことは他の人に聞かれると、ちょっとまずいからな。来てもらって悪いが二人にはここで退室してもらおう。

「悪いけど二人とも。席を外してくれないか?今から大事な話をするから」

「ん?わかったよ。それじゃあ、士郎お大事に」

「……………ああ」

白野は保健室を出ていった。……………赤セイバーをお姫様抱っこをしながら。恥ずかしくないのかなあいつ。

「……………質問していいかしら?」

「…………どうぞ」

白野たちのことをみて遠坂も唖然としていたが気を取り直し、真面目な表情になる。その表情はまさしく魔術師としての遠坂の表情だ。

「そう。じゃあ、あんたとランサーの関係は?随分と親しそうだったけど」

気になるところはやっぱりそこか。確かに英霊と顔見知りなんて人間は世界中探しても一人いるかいないかだろう。

(だけど、おれとランサーの関係か………)

学校ではルールによって心臓を貫かれ、キャスターと戦った時は共闘し、慎二や言峰から令呪で自害を命令されてなお遠坂を救ってもらった。なんていえばいいんだ?

「マスターにとっては敵であり、または恩人と言ったところだ」

アーチャーが代わりに答えてくれた。命を狙われ

「そんなんじゃなくて、私が欲しいのはもっと具体的なことよ」

お気に召しませんか。…………仕方がないな。本当はあんまり言いたくないけど

「遠坂………………魔術師の間では自分の秘密が何であるかとかを軽々しく教えるものなのか?このさき、戦うかもしれない相手なら、なおさらだ」

「ぐっ!……………そうね、悪かったわ。今のは私の失言ね。忘れてくれると助かるわ」

自分が魔術師としての本分を忘れていたことを恥じたのだろう。少し顔が赤いが、冷静さを取り戻し、いつもの遠坂に戻った。

「ははは!一本取られたな。嬢ちゃん」

「うるさい!もう、帰るわよ」

笑うランサーに怒鳴ると遠坂は保健室から立ち去ろうと扉に手をかけた。その前に伝えとかないといけないことがある

「あっ、遠坂。一ついいか?」

「……………何よ?」

「わざわざ、心配してくれてありがとうな」

おれの言葉を聞いて遠坂は鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情をしたが、直ぐにギッと俺をにらみつけ

「別に、ただの気まぐれなんだから!次からは容赦はしないわよ!!」

遠坂は顔を真っ赤にしてがあーっと怒ると出て行ってしまった。こうやって怒られるのはもう何度目だろう。よく怒られるな……………俺。

























祈りの弓(イー・バウ)
イチイの木によって作られる短弓である。この森と一体になるという意味があり、武器としてヨーロッパでは、まず木製の短弓、続いて人間の背丈ほどもある長弓が普及した。用材としてはイチイが最も良質のものとされるため。

「へぇ〜」

この説明を見る限り、アーチャーはどこまでもイチイに精通した英雄らしいな。
遠坂達が保健室を退出して、一時間くらい経った後、毒も完全に抜けたので、桜から支給品をもらうと図書館でダンさんが言っていた祈りの弓(イー・バウ)について調べてみた。
令呪で命令する時に、これが宝具と言っていたので、嘘の情報ではないし、調べても損はないだろう。

『なるほど、北欧、イチイ、弓矢、奇襲ときたらあの英雄か』

本の説明を一緒の読んでいたアーチャーはある程度の予想がついたようだ。しかし、俺には教えてもらえないだろう。こいつの性格からして不確定要素なことをおいそれを口にしないはずだからだ。
そう自分の中で結論づけ、本を戻し、図書館を出るとある人物に会うために三階にへと向かう。っとその前に

(少し人に合うけどいいか?)

一応、アーチャーに尋ねる。聞いとかないとぶつくさと何か小言を言われそうだしな。

『………………………』

(アーチャー?)

『…………ん?あぁ、構わんぞ』

アーチャーの許可がおりたのはいいがいつものアーチャーらしくない。考え事でもしてたのかな?三階にたどり着き、あたりを調べてみると

「あっ、いた」

廊下の一番奥に窓の外を見ているラニを発見した。

「こんにちは、ラニ」

「ごきげんよう。衛宮さん」

俺の挨拶に気付いたラニは、ぺこりと頭を下げて挨拶し返す。うん、こうやって挨拶を返してくれる奴は好感が持てるな。

「例のもの持ってきたぞ。これだけあればいいか?」

昨日渡すつもりだったが、アーチャーに襲われて私渡しそびれたからな。どうでもいいことだけど、アーチャーが二人もいるからややこしい。
よし、セイバーと赤セイバーのように混乱しないように区別しよう。えっと…………緑色のアーチャーだったから、無難に緑アーチャーでいいか。そんなことを考えながら、アリーナで発見した緑アーチャーの三つの遺物をラニに渡す。ラニは、受け取ったものを見て

「これだけあれば充分です。ご協力ありがとうございます。明日ならば時も満ち、ブラックモアの星も詠めるでしょう」

今すぐというわけにはいかないようだ。どうやら、占星術というのは読んで文字の如く、星を占うものだから、星の配置やら何らが大きく関係するのだろう。遠坂が深夜の方が調子がいいと聞いたことがあるし、似たようなものかな?

「それじゃあ、また明日ここでいいのか?」

「はい。よろしくお願いします」

「わかった。また明日」

別れを告げ、背を向けて帰ろうとすると

「………………お気をつけを」

「えっ?」

聞こえた言葉の意味を、尋ねようとしたが、振り返ってみるとラニの姿はなかった。なんだ?すごく気になるんだけど……………本人がいないんじゃ教えてもらえないか。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧