| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAO編-白百合の刃-
  SAO14-聖紅の矛

「おはようドウセツ」
「おはよう」
「おはようございます、イリーナさん」
「はい、おはよう」

 久々の自分の家で目を覚ました私は軽く朝飯を取ってから、指定された決闘の場、五十二層『フリーダムズ』へ向かう。そのデュエル場所がまさかのドウセツの家の前だった。

「なんで、ドウセツの家の前なんですか?」
「そりゃあ、ドウセツがいるからよ」

 あんまり大した理由じゃないのか、ドウセツは不服そうにイリーナさんを見つめていた。もっとも、イリーナさんはドウセツを丸めこむようにからかって、対処していた。
 でも、私もやるのならドウセツが見てくれている方が心強いから家の前では正解かもしれない。こんなこと、口にしたら怒られそうだから黙っておこう。
 さて、イリーナさんとの雑談も悪くないけど、今日は私にとってもあり、最悪兄にとっても分かれ道をどちらに進む権利をかけたデュエル。勝てば、もしも兄が血聖騎士団に入団させられても取り消す権利を私は与えられる。兄が入団する前提なのは不服だけど、保険はかけても損はないと思う。そして負けたら、私が負けたら血聖騎士団に入団。
 負けられない戦い。だから出し惜しみせず、全力でイリーナさんに勝つ。
 
「あら、最初から薙刀で行くの?」
「もう隠す必要が更に無くなりましたのでね」

 正直、油断して欲しかったところはある。
 だけど、おそらくイリーナさんは小細工も効かない正真正銘の力を振るうことができる人なんだろう。
 なので、私は“小細工”を使わないように見せつけた。

「それじゃあ……“最初”は剣でお願いしようかしら」

 イリーナさんは片手剣を左手に持ち出した。
 基本的に片手斧を使用するって、ドウセツは言っていたけど、片手剣なのは専門武器じゃなくても勝てるっていう挑発なのか? いや、ドウセツは片手剣だろうが、片手斧だとしてもどうでもいいことだから気にするなって教えてくれたっけ? だから深く考えずにやれることだけをやってみよう。

「じゃあそろそろやる前に……ドウセツ」

 デュエルを見守るドウセツの表情は清々しく冷静で淡々としていた。

「何かしら?」
「あー……そのー……」
「なに? 言いづらいことを私に伝えようとしたの?
「いや、その、そうじゃなくてさ……あ、私になんかエールを送ってよ!」
「嫌」
「さいですか」

 即答中の即答だったよ、チクショー。でも、エールはもらえなかったけど見守るだけでもありがたいことだな。

「始めましょう、イリーナさん!」
「えぇ、始めましょう」

 デュエルメッセージを受諾。オプションは初撃決着モード設定してカウントダウンが始まった。
 十分な距離をとって私は構えずに薙刀を立たせるように地面に突き出す。
 弱点もなく癖もない強者に通用するのは、圧倒的な力か想定外の奇襲だと思う。想定外のことに対しては、どんな強者でも隙を作れるはずだ。
 作戦としては、一発目から『絶対回避』で硬直時間が少なく、かつ相手に確実に当てられるスキルで勝利する超速攻戦法で行ってみるか。
 カウントダウンの数字は3から2から1へと減っていき、0と同時に『DUEL』の文字が閃いた。

「…………」
「…………」

 …………。
 う~ん…………攻撃して来ないのね。参った。

「どうしたの、キリカ? もう始まっているわよ」
「そんなのわかっていますよ!」

 イリーナさんは片手剣を前に突き刺すように構えているだけ、まるで石像のようにびくとも動かない。見破られているかどうか知らないけど、まさか攻撃を仕掛けてこないせいで、こっちが想定外になってしまった。
 どちらも守りから入れば長引くだけかぁ…………仕方ないから、こっちが攻撃するのもありかな?
 先手を取る方法でも奇襲は用意出来る。スキルを使わずに薙刀で斬り、イリーナさんがスキルを使った瞬間に絶対回避を……。

「っ!」

 攻撃に移ろうと考え中だった思考を割り込むように、イリーナさんはこちらに接近してきて、攻撃を仕掛け始めた。
 私は瞬時に思考を切り替えて、守りでの奇襲を想定する。イリーナさんは左手に持つ剣を急に右手に持ち変える。持ち変えた意味は思考を鈍らせるノイズのようなものだと、想定する。イリーナさんは片手剣のスキルを使用すると推測した私は当初の作戦通りに仕掛けようと……と考えた。だが、行動にしては単純だと悟ってしまった。
 イリーナさんはスキルを使わず姿勢を変えずに後ろへ下がる。
 フェイントか。
 
「だと思った?」
「!?」

 イリーナさんの唇が吊り上げる。そして一気に加速して攻撃をしてきた。
 まずい、避け切れない!

「はあぁぁっ!」

 イリーナさんは右手の単発重撃攻撃の『ヴォーパル・ストライク』、ジェットエンジンめいた金属質のサウンドと供に、赤い光芒(こうぼう)を伴った突き技を繰り出した。

「ぐっ!」

 何とか薙刀の刃で受け止めるも、轟音と共に地面に引きづれながら後ろへ飛ばされてしまった。
 あぶなっ。
危うく『絶対回避』を使用する前にこちらが速攻でやられるところだった。HPバーは少し減ったけど、『絶対回避』も使わずに済めた。だからって、戦況が有利になるわけじゃないんだけどね。
 想像もしたくはないけど、イリ―ナさんは思わせぶりで、私の『絶対回避』を潰としているんじゃないかと思う。それか私がいろいろと考え過ぎなのかもしれない。それをイリーナさんは想定していると怖いわね。
 だったら、いろいろと考えずに、単純にわかりやすく力で示しょうかね。
 薙刀を構え直すと、イリーナさんの表情がニヤッと唇を吊り上げていた。
 
「そうやって笑っていられるのも、今のうちだけだよ!」
「フフッ。それは逆に笑っちゃうかな」

 薙刀スキル『刹牙』隙の少ない重撃を右からなぎ払う。

「このっ……」
「危ない危ない……」

 危機一髪、イリーナさんは瞬時に片手剣で受け止めて、休む暇もなく受け流しながら接近してくる。
 リーチの長さなら、圧倒的に薙刀を持つ私の方が有利。有利になるだけで勝つとはイコールしない。私がスキルを使っても、イリーナさんが上手く受け止められてしまう。だから、私は接近しすぎないように射程範囲を保ちながら攻撃すれば、私がダメージを与えずに、防いで小ダメージを受けているイリーナさんは長く戦えば勝てる。
 相手のHPバーがじりじり削れているとはいえ、強ダメージを受けてしまえば負けるから、絶対に気を緩めたら全てが終わってしまう。イリーナさんが何もしないで終わるわけがない。
 私は何度も隙の少ない『刹牙』のラッシュで距離を取り、回避で攻撃を避けることを繰り返して十回ぐらい超えた頃だった。

「そう何度も……」

『刹牙』が喰うタイミングピッタリに後ろ下がって、一気に加速して突き刺そうと仕掛けてきた。

「通用しないわ!」

 突き刺すと見せかけて通り過ぎ、私の後ろに回って水平に斬りつける『ホリゾンタル』を繰り出してきた。
 対処として、力いっぱいに体を回しながら薙刀で彼女の片手剣を斬りつけるように振ると、お互いに弾かれ、一旦後ろに引いた。

「流石ね。久しぶりに必死になったわ」

 必死と言いながら涼しいそうですね。まだまだやれますって顔している。あー……さっきの動作で弾かずに絶対回避を使えばよかったかぁ…………イリ―ナさんの涼しそうな表情を見ると焦りが生んでしまいそうで嫌だな。リーチも長くHPのバーも私の方が有利なのに、なんか逆に私が追い込まれている気分だ。
 全然安心出来ない。むしろ不安が増してくる。イカンイカン。

「それはありがたいですね。でも、勝つのは私です!」

 思考を切り替えて一歩目を踏み出した時だった。

「これでは、負けてしまうから…………本気の本気を出すわ」
「え?」

 本気の、本気……だと?
 透きとおり過ぎるくらいの声音は耳に届いて、体中に響き渡り足を止めてしまう。その言葉の意味を私は、イリーナさんの行動によって驚かされてしまった。

「そんな……」

 冷静なドウセツも目を見開き声が漏れてしまった。

「じゃあ、“改めて”自己紹介するわね」

 イリーナさんは片手剣を左手に持ちかえ、右手には片手斧を装備していた。そうそれは、私達が知る『二刀流で、剣と斧を使う』人物でもあった。

「お久しぶり、『白の剣士』いや……『白百合』そして『漆黒』」

 間違いない。間違えるはずがない、装備。

「わたしが剛姫よ」

 剣と斧の二刀流使い。
 剛姫。
 かつて、私達と共に『ボーナスゲーム』を攻略する一人で、実力も含めて全てが一番だったプレイヤーの二つ名。その人が今、血聖騎士団の副団長として、私の前に立ち塞がっている。

「イリーナさん、貴女が……剛姫だったの?」

 私の問いにイリーナさん、剛姫が微笑んだ。

「それは、この二刀流を見ればわかることでしょ」
 
 確かにそうだ。剣と斧の二刀流を使うプレイヤーが剛姫しかいない。だから、イリーナさんは正真正銘の剛姫で間違いないんだ。
 私は彼女の強さを知っているから、剛姫ことイリ―ナさんの恐ろしさを知っている。だから、本気でまずいと思った。
 実は一度だけ、剛姫と戦ったことがある。といっても、それは本人ではない。
 『ボーナスゲーム』の最終期間時、剛姫がなにかしらのトラブルがあって、誤って敵のボスに捕まってしまい、能力をコピーされたボスモンスターとして私達は戦い、なんとか剛姫抜きでも勝利し、『ボーナスゲーム』はクリアでき、剛姫も無事だった。
 剛姫の強さをコピーしたボスが強かったのは確かだ。それでも、本人と比べればHPバーが増えた劣化に過ぎないと思う。だから本物は強さも本物なんだ。剛姫の強さを持ったボスモンスターを倒したからって、剛姫に勝てる可能性は確実ではない。しかも、一対一のタイマン。『ボーナスゲーム』とは違って、私を守ったり戦ったりする仲間はいない。一人でボスよりも強い人と戦うことは、どれだけ無理ゲーな話になるだろう。

「驚いているかな?」
「驚きますって」
「それもそうか。でも……」

 戦況と空気が一転した。

「再会とかけまして、デュエルの再開でもしましょうね!」
「!」

 一瞬でイリーナさんは懐に入らせてしまった。
 急いでイリ―ナさんの背後に回って、薙刀で攻撃するも振り返られて片手斧で力づくに地面へ押しつけるように捉え、もう片方の剣の突きで攻撃してくる。

「そんなのあり!?」
「ありよ!」

 片手剣の攻撃を避けても、すぐにイリーナさんは休む手も与えず攻撃を仕掛けてくる。それに対し、私は避けたり防ぎ流したりしながら防御するのが精一杯、ここから反撃しようと考えないと押し切られそうになって負けてしまう。でも、本当にイリーナさんが振るう剣と斧の二刀流は凄まじく速さと力に加えた正確さが、反撃の手を許してくれない。
 イリーナさんの攻撃を例えるなら、一人無双騎士団。一人で何人もの攻撃を振る舞っている。一対一の戦いでありながら、複数の相手の攻撃を防ぐ気分でいた。
 かなり状況は不味いことになってはいるが、それでも私は負ける気はない。

「とあっ!」

 一瞬、反撃できるタイミングを掴んだ私は、下から薙刀を振り払った。その隙に深追いはせず、後ろに下がって距離を取った。

「やるじゃない。でも、そろそろキリカに止めを刺そうかな!」

 イリーナさんは一気に距離を縮めてくるが、今度は私も仕掛けることにした。まず、『刹牙』でイリーナさんに攻めるが問答無用に片手斧で薙刀が地面に叩き落とされ、流れるように片手剣で突こうとする。

「そうですね……」

 避けようとするとフェイントをかけて再度突いてくる。なんとか避けるけど、すかさず片方の斧が下ろされるのを防ぐ。そしたらまたイリーナさんが振るう二刀流に防ぐのに精一杯になってしまった。
 だけど、これでいい。 

「私もそろそろ、止めを刺しましょうか!」

 私はここで『絶対回避』を使用する。
 イリーナさんの致命傷は、私に反撃をろくに与えず、攻撃し過ぎた流れをつくったからだ。一定のリズムが崩れればどんな相手も隙を作ってしまうだろう。
 自然に流れるような攻防戦に乱入が入ると一転する。そのような感じで私は回避をした。
 『絶対回避』を仕様すれば、流れは一気にこちらのもの。
 イリーナさんの突きを右に避けから、『刹牙』でとどめを刺す…………はずだった。
 
 その刹那、

 急に悪感が体を走った。

 その正体は、察知される前にすぐに訪れてしまった。

「なっ……」

 イリーナさんが片手剣を突こうと空振った瞬間に体を回し、右に移った。
 まるで……“絶対回避の回避場所を知っていた”ように移ったのだ。
 絶対回避中は避けることも攻撃も出来ない使用になっている。つまり今の私は隙だらけの丸越し状態と同じ、『絶対回避』と同じように動きだしたイリーナさんにとっては絶好のチャンス。

「ごめんね、キリカ」

 戦って、刃を交えて解りきってしまう。
 イリ―ナさんは、私が回避することも見ていたのだ。
 そして私の敗北が決まった。
 体を回しながら翡翠色に光る片手斧の斜め斬り与えられ、私はその場で立ち尽くすように敗れてしまった。



 流石、とイリーナさんに褒めるべきでしょうけど……まさか、イリ―ナさんが剛姫として『ボーナスゲーム』に参加していたとは思いもしなかった。ただ、思い返せば剛姫がイリーナさんだと一致するところは見うけられたはずだ。でも、私もキリカも誰もが剛姫がイリーナさんだと見抜けなかったのは、気づかないだけじゃ済まされない。イリーナさんが上手く見抜けないように振る舞っていたんだ。

「やられたわね……」

 過去の出来事だけじゃなく、今も私とキリカはイリーナさんにやられてしまった。
 イリーナさんは無双のような剣と斧の捌きにキリカは上手く避けたり弾いたりして攻防戦を繰り広げていたが確実に圧されていた。イリ―ナさんが緩むことなく攻撃を繰り返せばキリカは確実に崩れる。そんな流れにキリカは上手く『絶対回避』を使用し、流れを一気に変えさせた。それで勝利が決まったと思いきや、イリーナさんは『絶好回避』をまるで“知っていた”かのように体を回転させ、合わせ鏡のように足を動かし、そして隙だらけになったキリカに決め手を与えた。
 それはデュエル終了を告げる一撃。システムメッセージが浮かび上がり、キリカの敗北が決定した。

「…………キリカ、貴女負けたわよ」
「知っているよ! 慰めの言葉とかないの!?」
「ない」
「ドウセツが冷たすぎるよ!」
「私、そんな暖かくないので」
「そんなこと言わないで、さ……良くやった、えらいえらいからの撫で撫ではないの?」
「ない」
「むぅ……」

 なんで私が慰めの言葉を……気持ち悪い。相手の悪口や皮肉を言うほうがスッキリする。
 心配して損したわ。案外立ち直っているみたいだし、いつものバカっぽいキリカだって言うことがわかるわ。

「いや~……完敗です、イリーナさん」
「そんなことないよ、避けを読んでいなかったら危なかったわ」
「私もまだまだ甘かったんですよ。だから、負けたのを気に血聖騎士団で力をつけたいと思っています」
「そっか……最初ギルドに慣れないど、頑張ってね」
「はい!」

 …………昨日言ったことが台無しになってしまったね。負けるつもりはないと言うも負けてしまった。キリカは大丈夫だと言ったけど……本当に大丈夫かしらね。大人数のギルドで行動することに対して大丈夫だと言うことに対して、キリカは答えなかった。
 今も負けたのにも関わらず、切り替えて明るく振る舞い笑顔になっているが……本当に切り替えているのかしらね。
 はぁ……なんでこうなるのかしらね。もっと冷酷かつ外道な悪人が羨ましいね。
 なんで私は、悪に染められないのかしら。

「……イリーナさん、お願いがあります」
「何かしら?」

 母性を表す優しい眼差しかつ全てを悟る瞳。私の言うことがわかっているから彼女も苦手だ。

「私が勝ったら、キリカを脱退させてください」
「ど、ドウセツ?」

 キリカは私がイリーナさんにお願いしたことに驚いていた。それは当然の反応だった。でも、イリ―ナさんは私が言うことを知っているかのように、驚きはせずに知ったつもりで対応してきた。

「いいわよ。だけど負けたらドウセツは再入団、それでもやる?」
「わかりました」

 デュエルメッセージが出現し受諾をする。先ほど同じ初撃決着モードで終わらせる。

「ドウセツ? なんで!?」

 キリカは私がこんなことするのが意外だと思っているだろう。私も普段こんなことはしない。
 でも、そんなの意外に簡単なものである。

「勝てば丸く収まるでしょ?」
「いや、そうだけどさ……その……いいの?」
「いいから離れなさい。みじん切りになりたいなら別だけど」
「いや、巻き沿いで私を野菜みたいに切るなよ!」

 キリカは文句を言いつつも、離れてデュエルを観戦する位置に移動した。
 私の場合、居合いで速攻に仕留めるのが得策ね。キリカみたいに『絶対回避』は出来ないしデュエルに『赤い糸』は使えない。

「ドウセツの居合いってゴエモンみたいに剣閃がすごいんだったわね。だから、最初から本気の本気でやらしてもらうね」
「どうぞお好きにしてください」
「そうね。お互いに見守る恋人がいるから頑張りましょう」

 もうすぐ始まるのに、イリーナさんは私をからかう。私なんかにからかって何が楽しいんでしょうね。
 
「私に恋人はいませんし、イリーナさんもいないですよね」
「比喩表現よ」
「こんな時でも戯言やめてください」
「戯言はいいすぎよ。あ、もしかして照れてる?」
「面倒くさいので速攻で決めます」
「それじゃあ、わたしも速攻でドウセツを入団させることにしましょうか」

『DUEL』の文字が浮かび上がると同時にお互いが距離を詰め武器が交じり合った。そこから私とイリーナさんはインファイトを繰り広げる結果となってしまった。
 それでも勝てば問題はない。



「ねぇねぇ、似合っている?」

 私は巨大な真紅の十字模様が染めている純白と真紅のラインが入った、血聖騎士団のユニフォームを着てドウセツに見てもらった。

「そんなに変わらないでしょ」
「それはそうだけど、似合っているの?」
「はいはい、似合っている、似合っているわ」

 似合っているなら、ちゃんとこっちを見て、もうちょっと感情を込めて言ってよ。ラインが黒から赤に変わっただけでも違いとかあるにはあるんだよ。
 
「ハァ……私もあれを着るのね」
「あれ、ドウセツは所属していた頃はずっと着ていたじゃない」
「着ていたのと、もう一度着るとでは違うのよ」

 あれかな? 高校を卒業した青年が制服を着るのに抵抗があるような感じかな? わからないけど、ドウセツはもう一度血聖騎士団のユニフォームを着たくはないらしい。でも、仕方ないことだから割り切っているところもあるだろう。
「こんなことなら、挑まなければよかった」
「そんな今さら……」
「あなたが負けたからこうなったのよ」
「すみません……」

 ドウセツはベッドの上で体育座りをして嘆息する。
 私が勝っていれば全て丸く収まるはずたったのに、負けたことでドウセツも巻き込んでしまったのは申し訳ないと思った。ドウセツが決めたこととはいえど、私が勝っていればこんなことにはならなかった。
 結局、ドウセツもイリーナさんに挑むも負けてしまった。
 超接近戦のインファイトはドウセツの居合いスキルによる剣閃でイリーナさんを押していたが、刀を抜くさいに片手斧で(つか)を当てられて、抜きを邪魔した隙に片手剣の一撃を与えられてしまった。
 おまけにイリーナさんの勝負だけではなくて、兄もヒースクリフさんに負けてしまい血聖騎士団に入団したそうだ。なにもかもイリーナさんの思惑通りになってしまった。
 私達が敗北した日から二日間の準備期間が与えられ、明日から私達はギルド本部の指示に従って七十五層、迷宮区の攻略を始めることになるだろう。
 ギルドかぁ……。
 まさか、ギルドに所属することになったのは最強ギルド、血聖騎士団になるとは考えもしなかったなぁ……。
 正直、自分の心配より兄が心配。兄は今もなお濃い“後悔の念”が溜まっている。
 それは私も言えないことだけど、自分はいいんだ。
 “あの日”から私は決断したことだ。でも、兄はどうなんだろう……。アスナが救ってくれると兄としても、私としても助かる。

「ふざけているわね……」
「何が?」

 視線をドウセツに向けるとベッドの上で本を読んでいる。

「あ、それって……」

 もしかしなくてもタイトルでわかった。『白百合×黒百合』と言う表紙に私とドウセツが花畑で寝そべる写真が確認出来たのだから。そしてドウセツが呟く内容もなんとなく察知できた。

「センリさんが撮影したもの、もう出来たんだ……」
「すでにボロ(もう)けって、あの人はほざいていたわ」
「ほざいているって……それほど私達に魅力を感じて買ってくれたことじゃないかな?」

 と言いつつも、買った人がどんな人なのかは知らないし想像したくはないけど。だってこの世界の女性って少ないから……ねぇ……。

「……キリカ」
「ん?」

 一枚一枚、写真集を見つつめくりながら発しようと口を開くが言葉が続かない。

「ドウセツ?」

 何か言いたそうみたいだった。こちら側から名前を呼ぶとすぐさま反応した。

「……なんでもない」

 写真集を閉じ、ベッドの上に軽く投げた。

「変なドウセツ」

 何を言いたかったのかわからない。問い詰めても言ってくれそうにはないし、もしかしたらドウセツが何かを躊躇(ためら)って発しなかったかもしれない。

「さて、ドウセツに初お披露目したところで、今日は帰るね」
「そのためだけに来たの?」
「いや、だって最初はドウセツに見てもらいたいし……」
「私は貴女の妻じゃないのよ」
「いや~私を妻って言ってくれると照れるな~。なんなら、行ってきますの言葉でも……ドウセツさん? なんで、ゴミクズを見るような細めで冷却の瞳は?」
「別に、なんでもないわ」
「ごめんなさい、冗談だから視線をこちらに向けないでください」
「嫌」
「なんでこう言う時だけ、私を見るの!?」

 ……冗談はさて置いて、本当に帰りましょうか。

「じゃあ、そんな私はさっさと退場……」
「待って」

 別れの挨拶をしてから帰ろうとした時、ドウセツに呼び止められた。

「最近は泊めて泊めてって、うざいくらいに迫ってきたのに、最近は訪れないし、今日は何も言わずに自分から家に帰るなんて……どうかしちゃったの? 大丈夫?」
「そこまで私非常識な人じゃないよ? あと、そこで心配しないでほしいんだけど」
「嘘」
「嘘って、なんだよ! ほんとだよ!」

 センリさんの撮影が終えたあの日から今日まで私は自宅で睡眠をとっていた。ドウセツの家に行かなかったのは特に理由はない。泊りに行き続けるのも悪い気はした。
 といっても、本当はちょっと考え事をしていたのもあるんだけどね。

「つか、ドウセツこそどうしたの? 最近はいつもより優しいし、体育座りなんか初めて見た」
「体育座り関係ないでしょ?」
「なんか新鮮だなって」
「うるさい」
「すみません」

 そもそも私が帰る時に呼び止められたのが変なんだよね。ドウセツが実は優しいことは知っているけど……今のドウセツには何かが消えているように見える。
 すると突然ドウセツ顔を膝に埋め込むように俯いた。

「ドウセツ?」
「黙って聞いて」

 表情は見えない、声音は変わってない。だけどドウセツを見てどこか怯えている姿勢が、“過去の自分”と重なって見えてしまった。

「何を思っているのか自由にして、でも口には出さないで、それを含めて今日は…………泊まってほしい」
「ドウセツ……」
「お願い……」

 性格も外見も全然違うけど、ドウセツを見て“あの日の出来事”が浮かび上がった。

「……うん」

 私はそんなドウセツに理由を訊かず、言われた通りに承知した。例えドウセツが聞かないでと言わなくても、私は何も訊かずに頷いていたと思う。
 今のドウセツには理由よりも傍にいたほうが良いから。



 その後のドウセツはと言うと、いつも通りよりも、毒舌が増していたような気がする。それでも元気は取り戻したようだった。夕食を頂いて、二人で写真集を見たりして、くだらない会話に時間を使った。気がつけばもう眠る時間まで経ち、私達は明日の血聖騎士団の活動に備えて、眠りにつこうとした。
 けど…………眠れなかった。

 どうしても、明日のことを考えてしまう。明日になれば、ソロプレイヤーから血聖騎士団の一員として活動しなければならない。その時、私はいつも通りにやれることができるのだろか。
 本当はそんなこと考える必要はないと思う。でも、いつも通りにできるのか今の私にはわからない。
 …………もしも。
 もしも、なにかしらのトラブルがあった時、私は平気な顔をして行動をすることができるのかな?
 例えば、私のせいで全滅する危機が訪れたら……。

「っ……」

 ズキンと“あの日”のトラウマと、傷跡の衝撃が心を締め付け痛みが広がる、私は歯を食いしばり耐えようとした。そして思った。やっぱり、あの日のトラウマと傷跡は永遠に消えることがないんだと、改めて認識した。
 わかっている。
 あの日の出来事は絶対に忘れてはいけないことである。忘れない限り、深い傷は一生治ることはないんだと。
 だから私は一生後悔をする。
 忘れてはいけないことだから何度でも傷ついてしまう。
 でも、それは困ったことだ。
 もう一度、過ちを犯したら私は……。

「……眠れないの?」

 想像もできない最悪な予想を消すかのように、背を向けたままドウセツが声をかけてきた。

「もうすぐ寝る……と言いたいけど、全然眠れない」
「そう……」
「ごめん」
「謝らなくていい。私も寝てはないわ」
「うん……」

 痛みが抑えてきた。やっぱり、一人よりも誰かが傍にいてくれたり、声をかけたりしてくれると安心する。
 それともドウセツだからなのかな?
 わかんないけど……そうだな。今の私なら、ドウセツに話しても大丈夫かな?

「ドウセツがまだ起きているならさ…………ちょっと話がしたいんだけどいいかな?」

 返答はない。もう一度聞き直そうとして名前を呼ぼうとすると、

「……いいわよ」

 優しい声で受け止めてくれた。

「ありがとう……」
「例はいらない」
「そっか……ごめん」
「謝りもいらない」
「うん」

 不器用で優しい一言が背中を押すように私は深い傷を(えぐ)る覚悟で、私の過去のことを話した。



 翌日、私はドウセツが来る前にイリーナさんのところへ訪れた。今日から血聖騎士団の一員としての活動が始まる前に話したいことがあった。
 イリ―ナさんがいる部屋の前に立ち、ドアに二回ノックして返答と同時に中に入る。

「失礼します」

 イリーナさんは机に肘を置き爽やかで暖かい笑みを浮かべていた。

「おはようございます。イリーナさん」
「おはよう、キリカ。あら、制服……前と変わらないわね」
「基本的にカラーは変わりませんので……」
「そうだったわね」

 挨拶を交わして、さっそく本題に入ろうとすると、イリーナさんは見覚えのある写真集を取り出し見せつけた。

「見たわよ、写真集。二人の意外な一面が満載だったわ」
「それはカメラマンの腕なので……つか、副団長でも見るんですね」
「部下達のはね。あと、からかいのネタになるかと思ってね。そしたら、ドウセツが慣れない姿を見て新鮮だったわ」
「からかいのネタって……」
「いけない?」
「やりすぎは、多分いけないと、ドウセツがキレたら怖そうですし」
「大丈夫よ、そこまでドウセツをからかったりはしないわ」

 イリ―ナさんと接しているとわかるけど、ユーモア満載ですね。でも慣れない姿の新鮮は当たっているな、振り返れば毒舌はより多かったけど、ちゃんと優しいところはある。
 さて、特にどうってことのない世間話はここまでにしといて、話を切り替えて今度こそ本題に入ろうとした……時だった。

「あら、来ちゃったわね」
「来ちゃった?」

 二回強めのドアを叩く音が耳に入ってきた。その発言は誰なのか検討ついているみたい。

「入っていいよ」
「失礼します!」

 正体は案外意外な人物で、イリーナさんと同じ副団長のアスナだった。

「どう言うことですか!」

 明らかに腹が立ち不機嫌丸出しでズカズカとイリーナさんに近寄って、机をバンッと両手で叩いた。対してイリーナさんは通常通りに冷静に微笑で対応する。

「どうしたの? 今日からキリトもギルドの一員になったのだから、一緒の行動できるのよ。怒ってないで、もっと喜んだら?」
「だったら、どうして今日キリト君とは別行動で、私とキリカちゃんの二人だけで特訓しなければならないのですか!」

 再びバンッ、と、叩き鳴る。若干半ギレでもおかしくはない。
 と言うかその話、初耳なんですけど?

「あの、私とアスナの特訓って……?」
「あ、キリカちゃんもいたの?」
「いましたよ」

 私に今気がついたの? 回りが見えないほど何をやらかしたんですかイリーナさんは……。そんで、イリーナさんはなんでこの状況から笑っていられるんですか? バカなの?
 ちなみにアスナは私とドウセツが入団したことはデュエル敗北時に告げているので知っている。

「なるほど、事情はだいたいわかった。でも、言いたいことがあるならゴドフリーに聞いたら? 今日のパーティーを決めたのはゴドフリーなのよ。それで、わたしは残ったアスナとキリカに戦闘訓練を与えただけ」
「ゴドフリーですか……わかりました、ありがとうございます!」

 アスナは少々納得いかず早足で早速と立ち去った。

「イリーナさん、こうなること知っていたんですね……」
「どうかしら?」

 フフッと笑う姿は無邪気そうだけど、とぼけている感じはした。両方とも取れる仕草をするあたり、イリーナさんって、いろいろと敵わないなって思ってしまいそうだ。

「キリカちゃんも行ったら? ゴドフリーが組んでいる相手はキリトにドウセツも入っているのよ」
「残った意味って、そう言うことですか……」

 なんか話したいことが逃がされた気分だ。とりあえず本題は今、話さなくても大丈夫かな? 聞いたところで上手く丸め込むような気がするし。うん、そう言うことにしよう。

「わかりました、失礼します」
「行ってらっしゃい」

 ここから立ち去り、私も早足で早速とドウセツも所へ向かった。



「うわぁっ、似合わねぇ~……」
「うるせっ! 俺だって自覚はしているさ!」

 私はドウセツ、アスナ、兄達と合流した。なんでも、もじゃもじゃ頭のゴドフリーを含む団員六人のパーティーを組んで、五十五層の迷宮区を突破して五十六層にたどり着く訓練をするそうだ。そのうちの二名が兄とドウセツが含まれる。
 出発まで多少の時間があるみたいなので、血聖騎士団のユニフォームを着ている兄の感想をぶつけていた。

「その点、兄と比べてドウセツは似合っているよ」
「比べる対象間が違っている」

 兄がなんか言ってきたが空耳だ。幻聴に過ぎない。

「私達が行っている間、アスナを慰めなさいよ。後々面倒だから」
「その点大丈夫じゃない? じゃなきゃ困る」

 アスナが不機嫌な理由は簡単だ。兄と一緒に行動出来ないからである。気持ちはわからなくはないけど……機嫌は直してほしいわね。

「それじゃあ、行くから」
「あ、もう行くのね。行ってらっしゃい。ドウセツ」
「変態の妹のお兄さん。行くわよ」
「俺まで変態みたいだからやめてくれ……」
「違うの?」
「違う」

 私のことフォローしろよ!とか思いつつ、寂しそうなアスナに手を振る兄は、ドウセツと共にギルド本部を出た。
 私は無事に帰ることを祈って、ドウセツが視界から消えるまで見守りつづけた。 
 

 
後書き
SAOツインズ追加
イリーナの二刀流。
キリトと同じく、ユニークスキルで二刀流にすることができる。ただし、キリトと違ってイリーナは剣以外にも装備できる。ちなみに作中に出て来た剛姫とイリーナは同一人物であり、そのことを知っている人は誰もいなかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧