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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜

作者:カエサル
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天使炎上篇
  11.波乱の訪れ

 

 朝のモノレール。混み合っているというだけで嫌気がさすのに吸血鬼の天敵である朝陽が強く差し込む。
 いつものように緒河彩斗は、“第四真祖”の少年と“剣巫”の少女とともに私立彩海学園へと登校していた。

「先輩。大丈夫ですか。顔色もよくないですよ」

「仕方ねーだろ。吸血鬼の体質にこの時間の登校はきついんだって。マジで」

「本当にそれな……」

 彩海学園までの徒歩で愚痴をもらしながら常夏の人工島に降り注ぐ太陽を睨みつける。

「それにここ最近ずっと寝不足だったからな」

「寝不足、ですか」

「どうせ、エロいことでも考えてんだろ。お前ぇは」

「なんでそうなるんだ。話をややこしくするからお前は黙ってろ」

 大きなあくびをする彩斗を黙らせて改まって古城が説明する。

「煌坂のやつが夜中に電話なんかかけてくるから」

「電話? 紗矢華さんが先輩に?」

 紗矢華といえば、獅子王機関の“舞威媛”で、確か男嫌いという話だったような気がする。しかし彩斗の脳は眠気でほとんど機能をしていなかった。

「こないだから、たまにあるんだよ。その日の姫柊の様子を訊かれたりとか、あと、なんか知らんが延々と説教されたりとか。たいした用事もないくせに、なにを考えてんだか」

 雪菜は独り言のようにぼそりと言った。

「……紗矢華さんって昔から電話嫌いで、少し問題になったことがあるんです。獅子王機関の上司が相手でも、耳元で男の人の声がするのに耐えられないって、着信を拒否したりして」

「ああ……そういや、あいつ男嫌いだもんな」

 彩海学園高等部の屋上で会ったときにいきなり“煌華麟”と呼ばれる獅子王機関の兵器を彩斗へと向けていたことを思い出す。さらにその剣で古城へと紗矢華は斬りかかっただったっけ。

「それなのに、わざわざ俺に電話してくるくらいだから、よっぽど姫柊のことを気にしてるんだな。相変わらず友達想いというか、過保護というか……」

「先輩……」

 古城へと雪菜が責めるような視線を向ける。

「姫柊?」

「いえ、なんでもありません。そうですね」

 どこか拗ねた態度の後に、無表情になった彼女は、こちらへと会釈をする。

「それでは、ここで失礼します。わたしは中等部の校舎に行きますから」

「あ、ああ」

 遠ざかっていく雪菜を見送りながら、古城は首を傾げた。

「なんなんだ、いったい?」

「さぁ……なんだろうな」

 もう一度、大きなあくびをして彩斗と古城も高等部の校舎へと向かっていく。




 同時刻。
 絃神港に本土から一隻の小型船が停泊していた。

「ありがとね、おじさん」

 長い黒髪をなびかせながら小型船から軽快なステップで飛び降りる。
 彼女は、黒色の大きなギターケースを背負っているにもかかわらずその重さがまるでないようだ。

 自分を送ってくれた小型船の運転手が再びエンジンをかけて絃神港から去っていくのを見えなくなるまで見送って、改まったような声を出す。

「久しぶりに会えるんだ」

 十月。本土が秋だというのに対して絃神島は、常夏の人工島というだけあってかなり暑い。

「……緒河彩斗」

 彼女はどこか懐かしむような表情を浮かべて絃神港から離れていく。
 彼女がこの島に訪れたことで新たな波乱が巻き起こることになることをまだ二人の吸血鬼と獅子王機関の少女は知る由もなかった。




 放課後の夕陽がカーテン越しに照らす美術室に彩斗は訪れた。美術室には、真っ白のスケッチブックを前に置き、右手にデッサン用の鉛筆を握った浅葱が一足先に待っていた。

「遅いわよ、一分遅刻!」

「一分なんて誤差の範囲だろうが」

 制服の上にエプロンを羽織った浅葱に屁理屈を言う彩斗に、彼女は呆れたようにため息を吐く。

 なぜ、彩斗が美術室に呼び出されたかというと美術の授業の作品に、“友達の肖像画”というなんともめんどくさいものが出されたのだが、浅葱はこの間の黒死皇派の事件の人質の事情聴取でその授業を欠席した為、さらには提出が月曜日だからと彩斗を呼び止めた。
 本来なら築島倫や矢瀬基樹などに頼むはずが二人とも用事があり、さらにはついさっきまで約束していたはずの古城は廊下の窓から外を見てたと思ったらどこかに行ってしまった。
 それで代役となったのが帰ろうとしていた彩斗だった。断ろうともした。
 どうせ暇でしょ、と言われて仕方なく引き受けたという経緯なのだ。

「で、俺はなにをすればいいんだ?」

「とりあえず、これに着替えてちょうだい」

 浅葱が渡してきたのは、執事が着るような黒色のスーツ。演劇用の衣装のようだ。

「浅葱、一応訊いてやるが美術の肖像画だよな?」

 そうよ、と当たり前のように浅葱は言う。

「なぜ、美術の肖像画にコスプレが必要なんだ」

「こっちの方が創作意欲がわくのよね。それにちゃんとした服着ればあんたのその無気力な表情も少しはマシになるんじゃないかと」

「悪いがこの顔は、生まれつきだ」

 彩斗が無気力なのは、元からであって、ただそれが吸血鬼の体質によってより一層強まっただけである。

「まあ、いいじゃない。なんならあたしも着るからさ」

 浅葱の言葉に彩斗は、戸惑う。

「あたしも着替えればあんたも着るのよね?」

「ま、まぁ、それならまだいいか」

「それなら着替えるから、あっち向いててよ。絶対こっち見ないでよ」

 浅葱が制服のネクタイを解きだした。彩斗は慌てて彼女に背を向けた。
 浅葱の行動に激しく動揺する彩斗。そのなかも放課後の静かな美術室に、浅葱の着替える衣擦れの音が響く。

 もういいわよ、と浅葱に肩を叩かれ、振り返る。

「ほら、これで文句ないでしょ」

 ファミレスの店員の制服のような衣装を着た浅葱が彩斗に見せびらかすようにくるりと回る。胸の膨らみを強調した衣装のフリフリのエプロンに、不自然なほど短いスカートとニーハイソックス。

「……なぜ、ウェイトレス?」

「あんたこういうの好きでしょ?」

「どこソースだよ、その情報」

「だって、あんたと古城、いっつもファミレスの店員さん、ガン見してるし」

「してねぇよ!」

 こんな会話するのにも疲れてきた彩斗は、浅葱から渡された執事服へと渋々着替える。

「へぇ〜、予想以上に似合ってるわね、彩斗」

「まったく嬉しくない」

 鏡で見た自分の姿は、まるで古き時代の吸血鬼を連想させるような衣装に再び、ため息が漏れる。

 ──カシャ!
 突如、響いた乾いた音に彩斗は嫌な予感がする。

「あ、浅葱、なにしてんだ?」

「ん? 作画参考資料?」

「今すぐ消すんだ」

 彩斗の言葉が聞こえてないように浅葱は、連写機能をフルで使用してシャッター音を連発させる。

「だって、彩斗のこんなレアシーン滅多に見られないでしょ。それにあんたその格好の方が普通にかっこいいわよ」

「んなことしらねぇよ! とりあえず消せ!」

 それでも撮り続ける浅葱に彩斗も対抗手段に出る。自らのスマートフォンを取り出し、浅葱のウェイトレス姿を撮りかえす。

「ちょ……なんであんたまで撮るわけ!?」

「等価交換のためにな。お前のこの写真をばら撒かれたくなかったら俺の写真を今すぐ消すんだ」

 スマートフォンの液晶につい先ほど撮った浅葱の写真を見せつけながら言う。

「別にいいわよ」

 即答された予想外の回答に三度彩斗は戸惑う。

「あんたがその写真をばら撒いたところでなんでこんな写真を持ってるんだって、騒がれて困るのは、彩斗の方でしょう」

「そ、それは……」

 正論を言われてなにも反論ができない彩斗に悪戯をするような笑みを浮かべて、いきなり彩斗の隣に立ち、浅葱が自らの腕を搦めてきた。そのまま全身を密着させて、ふたりのツーショットを撮影する。

「これでチャラでいいでしょ?」

「……なんのことだ?」

「……そ、その、あんたが……」

 ほとんど聞き取れないくらいの小さな声で、浅葱がぼそりと呟く。
 その直後、校舎内に長いチャイムが鳴り始めた。下校時刻のチャイムだ。チャイムに遮られ、結局聞くことができなかった。

「で、それどうすんだ?」

 真っ白なスケッチブックを指差しながら言う。

「あたし、明日は用事があるのよね」

 浅葱がめずらしく本気で困ったように、浅葱がうめく。
 結局のところ、浅葱が課題を居残りしてるのは、彩斗と古城が原因とも言えなくもない。

「……それなら週末にうちでやろうぜ」

「いいの?」

「ああ。うちは俺以外いねぇし、なにかあったら隣の古城にまかせればいいからさ」

 最悪、古城に任せて彩斗はエスケープすればいいからと古城を巻き込む気満々の彩斗だった。
 浅葱は、満面の笑みを浮かべて、土曜日にね、と言って着替えと荷物を持って美術室を後にした。




 翌日の放課後。授業が終わるとすぐに、古城は昨日の廊下で見せたように脱兎のごとくどこかへと消え去った。

「……あのバカは、昨日からなにやってんだか」

 少々の疑問を持ったが、この暑い中労働するほどの興味のなかった彩斗は、特に用事もないので帰路につく。
 だが、ふと思い出しその足を学校の裏手へと向けた。
 学校の裏手の丘の上。緑の木々に覆われた小さな公園の奥。廃墟となった修道院へと足を運んだ。
 木製の傷んだ扉を開ける。

「みんな元気にしてたか?」

 無人の修道院。そこには、小さな猫が数十匹が彩斗の元へと殺到してくる。

「って、夏音のやつまた拾ってきたな」

 呆れたようなため息をつく。
 だが、彼女はしっかりとここの猫の世話をしているところを見てると責める気には慣れない。
 夏音は、優しい少女なのだから……

 すると、後方の建物の扉が軋む音とともに開かれた。
 面白がってきた侵入者が来たと思い勢い良く振り返る。
 制服の上にパーカーを着た吸血鬼の少年とといつも通りの黒いギターケースを持った剣巫の少女だった。

「……古城に姫柊。どうしてここに?」

「おまえこそどうして?」

「彩斗さんもこの子たちのお世話をしてくれているんです」

 古城の後ろから柔らかな声がした。
 綺麗な銀髪の中等部の制服の少女が現れた。
 叶瀬夏音だ。
 古城の言葉に答える前に夏音が一礼しながら説明する。

「猫! 猫です! 猫ですよ、先輩!」

「あ、ああ。それは見ればわかるが……」

 雪菜らしからぬテンションが高い。
 雪菜は彩斗の周りに群がっている子猫たちを抱き上げて、幸せそうに笑う。

「ふわあ……可愛い……よしよし、よしよし……」

 獅子王機関の“剣巫”といえども普通の中学生。年相応の無邪気な感情を露わにするのが普通だ。
 そんな雪菜の姿を見て、少し安堵の表情を見せる彩斗だった。




 地下十六階。絃神島人工島の中枢、キーストーンゲート内に人工島管理公社保安部。

「へーい、那月ちゃん、こっちこっち!」

「吸血鬼コンビといい、おまえといい、……担任教師をちゃん付けで呼ぶなといつも言っているだろう」

 南宮那月はそう言って、ヘッドフォンを首にぶら下げる少年、矢瀬基樹を睨みつける。

「公社直々に呼び出しというからなにかと思えば……おまえか、矢瀬」

「すんませんね。理事会も人材不足なもんで」

 病院の手術室に似た部屋に那月は案内された。医療機器に囲まれたベッドの上に、十代とおぼしき少女が眠っている。大きな傷をおっているらしく、全身を包帯で包まれている。

「──こいつが五人目か。昨夜は、ずいぶん派手にやらかしてくれたみたいだな」

 一昨日の深夜、絃神島西区──アイランド・ウエストで事件があった。
 高い戦闘力を持つ二つの未登録の魔族が、市街地の上空で長時間にわたって交戦。その戦闘に巻きこまれて、周囲の建物は多大な被害を受けた。

「とりあえず命に別状はないって話っす。内臓の欠損は、体細胞からクローン再生するんで」

「……内臓の欠損?」

「横隔膜と腎臓の周辺……いわゆるマニプーラ・チャクラのあたりっすね」

「喰われたのか……」

 那月が吐き捨てるように呟く。
 その直後、彼女の背後から無邪気な声が聞こえる。

「──フム、なるほど。奪われたのは内臓そのものではなく、彼女の霊的中枢……いや、霊体そのものというわけか……なかなか興味深いねェ」

「貴様か、ディミトリエ・ヴァトラー……」

 通路から顔を出したのは、金髪碧眼の美しき男。
 第一真祖の血族、”戦王領域”の貴族。

「なぜ余所者のコウモリがここにいる?」

「つれないなァ。きみたちの国の組織に頼まれて、わざわざ見舞いに来たというのに」

「へぇ〜、ここが絃神島の中枢か」

 予想外の気の抜けた声にその場にいた全員が息を飲んだ。
 ヴァトラーのあとから通路に少女が現れたのだ。矢瀬の過適応体質(ハイパーアダプター)の音響の結界、那月のような優れた攻魔管やヴァトラーのような“旧き世代”の吸血鬼から気配を消してその少女が現れたのだ。
 背中の半分くらいはいっているであろう長い黒髪、まだ幼さが残る顔立ちの少女。どこかの見たことのない制服を着ており、大きな黒色のギターケースを背負っている。どこか獅子王機関の“剣巫”の少女を思わせる。

「何者だ、おまえ」

 警戒心をより一層高め、那月が訊く。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、那月さん。ボクは最初にあなたに挨拶したほうがいいかなって思ったから来ただけだから」

 少女は、無邪気な笑みを浮かべて那月を見る。その表情には、ヴァトラーのような愉しんでいるようではないようだ。
 少女は、背負われているギターケースを床に置き、改まったように那月と矢瀬、ヴァトラーを見て深く一礼する。

「初めまして、“空隙の魔女”南宮那月、矢瀬基樹、“戦王領域”の貴族、ディミトリエ・ヴァトラー。ボクは、この度、獅子王機関より“神意の暁(オリスブラッド)”の監視役としてこの島を訪れた、“剣帝”逢崎 友妃(あいさき ゆき)です。よろしくお願いします」

 その言葉に那月と矢瀬は息を再び飲んだ。ヴァトラーは、先ほどよりも愉しそうな表情を浮かべる。
 逢崎友妃と名乗った少女は、再び深々と頭を下げたのだった。 
 

 
後書き
結局のところオリキャラを登場させることにしました。

作品に対する質問や不明な点、誤字脱字、意見などがありましたら感想やメッセージでお伝えください。
 
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