鬼灯の冷徹―地獄で内定いただきました。―
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参_冷徹上司
四話
鬼灯はまず、地獄についての大体のことを説明してくれた。地獄には大きく分けて八大地獄と八寒地獄があり、その中でもさらに細かく分かれているらしい。
八大地獄は等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻地獄があり、後の地獄になるほど罪が重い亡者が落とされ、拷問も酷くなる。
大寒地獄は頞部陀、刺部陀、頞听陀、臛臛婆、虎々婆、嗢鉢羅、鉢特摩、摩訶鉢特摩地獄とあり、こちらは主に雪山での拷問とのこと。
「漢字が難しい。覚えられへん」
「まあ、聞き慣れないのは当然でしょうね」
鬼灯とのマンツーマン地獄講座だ。
ミヤコはさっき渡された地獄表一覧に頭を抱えていた。
「272個もあって、そりゃあ人手も足りなくなるわな」
「厳密に言うと、拷問を担当しているのは鬼だけではありません」
鬼灯はそう言うと、懐中時計で時間を見る。
「ちょっと見学にでも行きましょうか」
案内された場所は、不喜処地獄という場所だった。
等活地獄の中にあり、動物を虐めて殺した者が落ちる地獄である。
そこでは犬や鳥などの獣に、肉や骨の髄まで食われるそうだ。
聞いていると恐ろしくなって、ミヤコは不安になった。
どんな悲惨な光景が広がっているのだろう。
「あっ、鬼灯様!」
そう声のした方を鬼灯が見る。ミヤコも一緒になって目を向けた。
そこには白い日本犬がいた。
まさか、この犬がしゃべったというのか。
「シロさん、調子はどうですか」
「うん!今日も頑張ってる。あれ?その人は?」
「何やこの犬!しゃべるやん!!」
ミヤコはびっくり仰天して後ずさった。
足元に何か当たったので下を見ると、人間の頭蓋骨とも思える骨で、さらに腰が抜けそうな思いだった。
「ええ。シロさんは、あの有名な桃太郎と一緒に、鬼を退治した一員なんです。今はこの不喜処地獄で立派に働いてもらっています」
「桃太郎?鬼退治?」
「鬼灯様、この人、大丈夫?」
シロ、という名前の犬が鼻をクンクンさせながらミヤコに駆け寄った。
鬼灯が平然と言う。
「実はこの方、つい昨日ここに来られたので、まだ状況がよくわかっていないんです。大目に見てあげてください」
「うん、わかった!」
犬に大目に見ていただく機会が来るとは、誰が予想していただろう。
ミヤコは目をぱちくりさせていた。
しかし、かわいいことは認める。白くて丸くてふわふわだ。
逆にこのかわいい犬が、亡者の骨の髄まで食い尽くすのかと思うと、悪寒がした。
「このように、不喜処地獄での拷問は主に動物たちが行っています」
「そんな淡々と説明されても・・・・・・」
「彼と一緒に鬼退治をした猿の柿助さん、キジのルリオさんもここで働いていますよ」
地獄って何でもありなんやな。ミヤコはそう思った。
「ちなみにねー、柿助はさるかに合戦でカニにまだ青い柿をぶつけた猿なんだ」
「こらっ、シロさん。他人の過去を本人のいないところでベラベラと」
まさかの同一人物。ミヤコはどうにも理解が追い付かなかったが、それも今に始まったことではない。
その柿助という猿は、カニを痛め付けた後に自分も痛み付けられ、そして改心して鬼たちをこらしめに行ったという訳か。
「おや、もうこんな時間。そろそろ戻らないと、閻魔大王がまたサボっているに違いありません」
「えー、鬼灯様、もう行っちゃうの?」
「ええ。柿助さんとルリオさんにも、よろしくお伝えください」
二人は不喜処地獄を後にした。
こんな具合で、変わった地獄がまだまだたくさんあるのだろう。
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