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久遠の神話

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第九十一話 戦いでも得られないものその六

「だからね」
「そうした人を止めることは」
「言葉ではね」
 最初に思いつくそれはだった。
「ちょっとね」
「難しいわよね」
「あの人は聞いてくれないよ」
 別に人の話を聞かないのではない、戦いを好む者ただそれだけを求める者が戦いから降りる筈がないというのだ。
「仕事や勉強を好きな人に仕事や勉強を止める様に言っても聞かないよね」
「ええ、そうした人はね」
「だからね、あの人もね」
「戦いからはそう簡単には」
「降りないよ。けれどね」
 コズイレフの話に戻る、彼はだった。
「コズイレフさんは違うから」
「あの人は戦いを好きではないから」
「そう、どうしても選んだ人だから」
 降りる時もだというのだ、そうした人間だからこそ。
「これからはね」
「ご家族と幸せに過ごされるのね」
「そうだよ」
 そうするというのだ、これからのコズイレフは。
「次の戦いでね」
「そうなるわね、じゃあコズイレフさんの後は」
「中田さんかな」
「あの人は話のわかる人だから」
 樹里の声はここで楽観したものになった、彼女も中田のことは知っている、それで明るくこう言えたのだ。
「大丈夫よね」
「そう思うよ、銀月さん達も動いていてくれているから」
「それじゃあ中田さんも」
「降りてくれるよ」
 戦い、これからだというのだ。
「戦いは終わりに近付いているよ」
「そのことは間違いないわよね」
「うん、じゃあね」
 それならとだ、明るい声で言う上城だった。
「今度はコズイレフさんだよ」
「そのことは間違いないわね」
「立会い人は大石さんがするらしいよ」
「あの人の最後の戦いの」
「僕も行こうかなって思ったけれど」
 だがそれはというのだ。
「多分その時にまたね」
「スフィンクスさんからよね」
「うん、怪物との戦いが用意されているから」
 だからだというのだ。
「立ち会えないと思うよ」
「そうなのね」
「今度の相手はラドンだよ」
 百の頭を持つその巨竜だというのだ。
「それとの戦いになるよ」
「物凄く強いわよね」
「そう聞いているよ。けれどね」
 それでもだとだ。上城は樹里に確かな声で言った。
「僕は戦ってそして」
「勝つのね」
「そうするから」
 ラドンとの闘いもだというのだ。
「ケルベロス、オルトロスにも勝ったから」
「ラドンと闘う力もあるのね」
「もうね。そう思うから」
 だからこそだというのだ、自信があるからだというのだ。
「ラドンと闘って勝って」
「その力も手に入れて」
「もっと強くなってその力で闘いを終わらせるから」
「あくまで闘いを終わらせる為の力なのね」
「それ以外の何でもないよ」
 上城は自分が持っている、手に入れていく力に大きなものを見ていなかった。それはこの剣士の戦いだけのことだというのだ。 
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