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久遠の神話

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第八十九話 六人目への介入その三

「脆いわ」
「だからこそギリシアにおいても様々な不幸がありましたね」
 ギリシア悲劇だ、ギリシア神話はそれ自体が悲劇集と言っていい。英雄達もその結末は大抵悲しいものとなっている。
「他の国でも」
「シェークスピアもね」
 智子はイギリスの偉大な戯曲家の名前も出した。
「そうだったわね」
「あの劇も」
「欲望や嫉妬、憎悪、疑惑、憤怒により滅びていく者達」
 オセローもリア王、マクベス達はそうした心により滅びていく。皆実に脆い。
「本当に愚かで脆いわね」
「確かに」
「けれどね」
 だが、というのだ。ここで。
「人はそうした感情だけではないわ」
「脆くもありですね」
「強いわ」
 そうでもあるというのだ。
「非常にね」
「これ以上なく脆くもあり」
「強くもあるわ」
 それが人間だというのだ。
「人の心がそうだから」
「表裏一体ですね」
「そうよ」
 それが故にだというのだ。
「彼の家族はね」
「大丈夫なのですね」
「大切なことはね」
 それはだ、何かというと。
「信頼よ」
「信頼があるとですね」
「それで」
「信頼もまたね」
 それもまた然りだとだ、智子は深い智恵を輝かせている目で二人に話した。
「脆いけれど」
「それでもですね」
「脆くもありながら」
「強いものだから」
 だからだというのだ。
「そしてこの場合はね」
「あの人の家族は」
「強いですね」
「あれだけ確かなら」
 それならというのだ。
「大丈夫よ」
「戦いによりそれを手に入れなくともですね」
「既にね」 
 それだけの絆は手に入れているというのだ、彼は。
「後はそれに気付かせるだけよ」
「そうすればですね」
「ええ、絶対にね」
 必ずだというのだ。智子は強い声で聡美に話した。
「それで降りてもらえるわ」
「では」
「ただ、そろそろね」
 そろそろだとだ、智子はここでその目を一瞬だが左にやった。
 そのうえでだ、二人にこう言った。
「セレネー姉様も焦っておられるから」
「これ以上の剣士の離脱はですか」
「逃されないと」
「そうしてくるかも知れないわ」
 警戒する目での言葉だった。
「あの方も」
「それではですね」
「私達も」
 聡美と豊香もだ、智子の言葉に応えて言った。 
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