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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第四部
  第一話

 
前書き
現在小説リニューアルを行っており、ここから先はリニューアル後の書き方となっております。前のページとすごいさがあるとは思いますが、なにとぞご了承のほどよろしくおねがいします。 

 
 翌日目を覚ました俊司は朝食を取った後、縁側に座りながら一人のんびりとすごしていた。最近戦闘続きだったこともあって、永遠亭から中庭を通して見る竹林に心が癒される。
「よお、こんなところで何してんだ?」
 のほほんとする彼に声をかけてきたのは妹紅だった。声をかけるなり俊司の隣に座ると、二人揃ってのんびりとし始める。
「最近戦闘ばっかで……なんか久々にゆっくりできたよ」
「太陽の畑に地霊殿か……まああまり休めてなかったみたいだからな」
 対話いない会話をしながら貴重な時間を過ごす二人。そんな中俊司はあることを思い出し、思い切って妹紅に問いかけることにした。
「なあ妹紅……前々から聞こうと思ってたんだけどさ」
「ん?」
「霧の湖にあった基地に行った時、牧野博士と戦ったんだっけ? その時に妹紅が死を覚悟したように見えたって鈴仙が言ってたんだが……蓬莱の薬なら死ぬなんてことないだろ? なんでそう思ったんだ?」
 俊司がそう言うと、妹紅は少しキョトンとしてからなぜか懐かしそうに空を見上げた。
 彼の言うとおり妹紅は霧の湖で襲撃を行った際、牧野博士という革命軍の研究者と戦闘を行っている。その際牧野博士は『不老不死は頭を切り落とせば殺せる』という噂を基に、妹紅の首を切り裂こうとする攻撃を何度も行った。その攻撃中一度だけ危なかった部分があったのだが、妹紅はその時なぜか死を覚悟していたらしい。
 妹紅は月でも禁止にされている不老不死の薬『蓬莱の薬』を飲んでおり、そのせいで体が死ぬことも老いることもない状態と化している。それにこの薬を飲んだ不老不死は魂を主軸とした存在となるため、肉体がどんな状態になろうとも生き返ることができる。ようするに体がなくても生きている状態になるということだ。それを彼女は知っているはずだが、それならなぜ死を覚悟したのだろうか。
「ああそうだったな……」
 そう言った彼女はなぜか手を震わせていた。それをみた俊司はなにか悪いことを言ったのかと思い話題を変えようとする。しかし妹紅は「別にいい」といって話を戻すと、少し笑いながら話を続けた。
「確かに蓬莱の薬を飲んだ私が、あんな攻撃で死なないなんて知ってるよ。でもさ……首を切り落とされる時だけ……怖いんだよ」
 怖いと言った瞬間妹紅の顔が少し曇っていた。
「怖い……?」
「ああ。何となくじゃなくってさ、きちんと理由もあるんだよ」
そう言うと妹紅はある昔話を始めた。


 その話は今から何百年も前の事らしい。当時の妹紅は妖怪を見つけては殺すという通り魔のような生活を送っており、それで自分の存在を保とうとしていたとのことだ。
 その日もいつも通り妖怪を探しては殺し・やられるといった生活を過ごしていた。
「ちっ……雑魚か」
 妹紅は足元に転がった妖怪だったものを見てそう呟くと、思いっきり蹴り飛ばし木にぶつけた。人間を避けるために森の中をさまよいながら何時間がたっただろうか。今日ですでに五体くらいの妖怪は手にかけている。
 妹紅は軽く一息ついた後、また妖怪を探しにその場を後にしようとする。
「もっと強いやつはいねぇのか……ん?」
 二・三歩ほど歩いた瞬間、背後で茂みをガサガサと鳴らす音が聞こえた。風が吹いて鳴るにしては不自然だし、それ以前に他の木々が葉をならすような音をだしていない。
「おい誰かいるのか! でてこねぇならそいつごと燃やすぞ!」
 妹紅は右手に炎を作り出すと、茂みを睨みつけながら威嚇を始める。するとそんな彼女に怯えながら一人の少女が姿を現した。
「すっ……すいません! きっ危害を加えるわけじゃないんで……その……」
 少女はいたってどこにでもいるような人間だった。髪は茶髪で肩ほどまで伸びており、特別長いわけではない。浴衣を着ているので体型はきちんとわからないが、心身ともにまだ発達しかけと言ったところだろうか。特に変わったと思える部分は見当たらなかった。
 てっきり妖怪が隠れて不意打ちでもしようかと考えていた妹紅は、彼女の姿を見るなり残念そうに溜息をつくと、右手に付けていた炎を消して歩き始めた。
「あっあの!」
 少女はなぜか怯えながらも妹紅を引き留めようとする。妹紅はめんどくさそうにしながら振り返ると、目でものすごい威圧を彼女にかけながら返事を返した。
「なに?」
「ひっ……」
 あまりの威圧に気弱な少女は何も言うことができず、縮こまるようにして黙り込んでしまった。
「用がないなら話しかけるな。あんたみたいな人間がここにいるべきじゃねぇ」
 妹紅はそう言い放ってまた歩き始める。そんな彼女を少女はただ見つめるしかなった。


 変な少女と出会ってから数分後、妹紅はなぜかイライラしながら森の中を歩いていた。別に妖怪にコテンパンにやられたわけでもないし、食料が見当たらずおなかをすかしているわけでもない。たださっきから背後がすごく気になっていたのだ。
「おい!」
 我慢の限界を超えた妹紅は、ついに背後を振り返ってそう言い放つ。そこには木に隠れているつもりなのか、さっき出会った浴衣の少女がこっちを見ていた。
 しかし少女はばれてないと思っているのか、なかなか木の陰から出てこようとはしない。妹紅のイライラはさらにつのっていくばかりだった。
「お前だよお前! さっきからこそこそ着いてきてる」
 妹紅がそう言ったところでやっと自分の事だと理解したのか、少女はまた怯えながら木の陰から出てきた。
「だからなんなんだよ! 用があるならさっさと言え!」
「いっいえ! 別に大したわけではなくて……その……」
 少女はまた怖くなって口を閉ざしてしまった。いいかげんさっさと終わらせて一人になりたかった妹紅は、イライラしながらも少女に近寄って話をきこうとする。
 しかし妹紅はなぜか少女まであと二・三歩と言ったところで足をとめてしまった。よく見れば少女の背後に木陰で黒くなった物体が立っている。少女はそれに気付いている様子はなく、こっちを見ながらキョトンとしていた。
 一瞬罠かと思ったがその可能性はどうも薄い。微かにその物体から殺気のようなものを感じ取っていた。
「おいそこどけろ!!」
 妹紅は手をのばし少女を無理やりこっちへ引き寄せようとする。だがさっき足を止めてしまったせいで確実に出遅れいてた。
 謎の物体は右手を思いっきり振りかぶると、手を突き出そうとしている。標的は確実に目の前の女の子だ。
「えっ……!?」
 女の子が訳も分からず聞き返そうとした瞬間、肉体が裂ける生々しい音が辺りに響いた。少女の胸には赤く染まった大きな手が突き出ており、そこから赤い液体が吹き出るように出ている。コースからして完全に心臓狙い。最悪なことに寸分足りとも外れておらず、心臓はもう機能していないだろう。
 少女は変なうめき声を数秒間出し続けると、がくがくと体中を震わせてその場に倒れた。足元には彼女の血液が生々しくひろがってる。もう……動くことはないだろう。
「へへっ……おいしそうな人間の少女が二人……」
 背後に立っていた物体は木陰から出てきてその姿を現した。その容姿はさっき丸焦げにした妖怪とほとんど同じで、特徴的にかわっているわけでもなさそうだ。しかしあきらかに妹紅を獲物として見ており、殺気を抑えるつもりはなさそうだった。
「まってなお嬢ちゃん……すぐに友達のもとに連れて行ってやるからなぁ?」
 妖怪はさっきと同じように右手を振りかぶると、妹紅の胴体めがけて突き出そうとする。しかし妹紅は攻撃を避けようとはせず、足元に倒れていた動かない少女をただじっと見つめていた。
 数秒後さっきと同じように肉体が裂ける音が響き渡り、妹紅の胸が手で貫かれた。さっきと同様心臓狙いで外れてはいない。そして彼女もピクリとも動かなくなってその場に倒れた。
「へへっ人間の子どもなんてちょろいもんだぜ。さてと……」
 妖怪はまず足元に倒れていた浴衣の少女をつかみあげると、マジマジと見つめながら顔をにやけさせていた。
「どうやって調理させてやろうかなぁ? この前は生で食ったし、今回は焼いて食ったって――」
「おい」
「……へっ?」
 妖怪は声のした方を見た瞬間、全身から力が抜けていく感覚に襲われた。あまりに衝撃的だったのか、掴んでいた少女を思わず手放して目を丸くしている。
 そこにいたのはさっき心臓を貫いて殺したはずの妹紅の姿だった。
「お前……なんで……!!」
 妹紅の胸を貫いた際にできた空洞は、まるで何もなかったかのようにきれいさっぱりなくなっていた。さっき体を貫いた感覚はしっかりあったし、どう考えても幻覚を見せられていたわけではないはずだ。
 目の前の少女はまっすぐこちらを睨みつけている。その視線に妖怪は動けなくなっていた。
「あれごときで殺せるとでも思ったか? 馬鹿だなお前は」
「ひっ!」
 恐怖に負けた妖怪は逃げだそうと後ろを振り返り駆けだそうとする。しかし急に背後から重い何かがのしかかったかと思うと、妖怪はその場に倒れ身動きができなくなってしまった。
「おいおいさっきの威勢はどうした!」
 妹紅は怖い笑みを浮かべてそう怒鳴りつけると、右手に炎を作り出しちらつかせる。それが何を物語っていたかは、思考が恐怖に呑まれていた妖怪にもわかるようだった。
「ばっ……ばけも――」
「化け物はお互いさまだろ」
 声のトーンを下げてそう言った瞬間、妹紅は妖怪から距離をとりながら相手の体を大きな炎で包みあげる。高音の炎は見る見る妖怪の衣服や皮膚を焦がし、やがて大きな火だるまを作り上げた。
 妖怪はそこらじゅうをのたうちまわりながら、なんとか火を消そうとする。だが妹紅の炎がそう簡単に消えるわけもなく、やがて痛みと遠のく意識に体を奪われ動かなくなってしまった。
「ちっ……やっぱり雑魚だな。ちょっと油断させただけでこうなる」
 妹紅はまた黒焦げになった物体を蹴り飛ばしイライラをはらそうとする。その後いつもならすぐにその場を離れようとする妹紅だが、悲しそうな顔をしながらある人物のもとにむかった。
「……ちっ」
 ピクリとも動かなくなった少女を見て妹紅は軽く舌打ちをした。もう少し早く気付いていれば、彼女を引き寄せて攻撃を避けることができた。だが今考えても仕方がない。妹紅はこのままにしておくのもあれだと考え、彼女の遺体を人のいる里まで持っていこうとする。
 だが彼女の体に手をかけようとした瞬間、妹紅はなぜか手をのばすのをやめてしまった。
「えっ……?」
 妹紅はなぜか彼女の体が一瞬動いたような気がしていた。死後硬直が始まったからだろうか、それともただの錯覚なのかはわからないが、心臓が機能していないことには動くなんてありえないはずだ。
 だが今度は指がはっきりと動き始めていた。もちろん錯覚でも幻覚でもない。完全に意志を持って動かしている。それによく見ると胸にぽっかりと開いていた空洞は、少しずつ肉体を増やし埋まり始めていた。
「……んっ」
ついには彼女の口から声までもが漏れ始めていた。
 
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