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久遠の神話

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第八十七話 スフィンクスの問い掛けその三

「お金を出していたんだ」
「日本人を拉致していた工作員にな」
「お金を出していたのよ」
「酷い話だね」
「普通はないな」
「お金を貰っていた話はあっても」
 それ自体も許せないことであるがだ、自国民を拉致していた人間から金を貰うこと自体も。しかしそれでもなのだ。
「出すことは流石にないな」
「ううん、信じられないけれど」
「そんな連中だ。誰が投票するものか」
「テレビはそういうことを知っていても隠している場合もあるのよ」
「だからな、テレビの言うことはそうそう信じるな」
「何でもよく調べて考えるのよ」
 そうあるべきだというのだ。
「テレビ以外のこともそう言えるがな」
「人が言っていることはよく調べることよ」
「そして言っている人間も見るんだ」
「信じられるかどうかをね」
「そうなんだね」
 深く考える顔でだ、上城は両親の言葉に頷いた。そのうえでだった。
 両親にだ、こう言ったのだった。
「上手な話には裏がある、そしてだね」
「言っている人間をよく見てな」
「その言っていることを見極めるのよ」
「政治でも何でもな」
「そうしていくのよ」
「そうなんだね。それにしてもどうなるのかな」
 上城はテレビの画面を観た、その落選した候補者が無念の顔で画面に出ている。上城はその彼を観て言うのだ。
「この人は」
「もう事務所も庇いきれないだろう」
「刑事告訴の話も出ているわよ」
「だからもうな」
「これで消えるわ」
「そうなるんだ」
 上城は両親の言葉を聞いて納得した。
「芸能界からも」
「力はあったけれど嫌われていたみたいだからな」
「後輩やスタッフの人から嫌われていたみたいだし」
「もうこうなったらかばう人間もいない」
「後は落ちるだけよ」
 両親はその候補を見つつ冷たく言う。
「権力を手に入れて好き放題しているとな」
「ああなるのよ」
「芸能界も権力とかあるからな」
「そこにいて好き勝手しているといざという時はね」
「ヤクザとの付き合いとかが出たら終わりだ」
「その芸能界から追い出されるのよ」
「怖いね、それって」
 上城は両親の自業自得という言葉を聞いてこう言った。
「あっさり見捨てられるっていうか」
「嫌われていたからな、この男は」
「前から評判悪かったでしょ」
「そのやりたい放題のツケがきただけだ」
「当然の結果なのよ」
「自分がやったことは何時か自分に返ってくるってことかな」
 上城は考える顔でこうも言った。
「つまりは」
「そういうことだ、例え売れっ子になっても天狗になんかなったら駄目だ」
「やりたい放題なんてもっての他よ」
「そんなことをしたら絶対に返って来るんだ」
「それも一番返ってきて欲しくない時にね」
 因果応報というこの世の摂理は不思議なものだ、悪事はどういうことか必ず己にしかもここぞという時に返って来るものだ。
 上城の両親もそのことがわかっている、それで我が子に言うのだ。
「いいな、だからな」
「気をつけなさいね、大ちゃんも」
「うん、ただ大ちゃんっていうと」
 その名前の呼ばれ方についてはだ、上城は困った顔で母に返した。 
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