| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十六話 運という実力その一

                 久遠の神話
             第八十六話  運という実力
 権藤は社長としての仕事が終わるとすぐにある場所に向かった、そこは料亭だった。
 奥ゆかしい日本の趣のその店の奥の部屋に入るとだ、そこにいたのは。
 与党の幹事長である浜崎大樹だった、人のよさそうな顔立ちのやや薄くなった白髪頭の老人だ。与党の長老の一人であり巧みな調整能力と事務能力で知られている人物だ。人柄もよくそれを買われて幹事長になったと言われている。
 その浜崎がだ、奥座敷の部屋に来た権藤に笑顔でこう言って来た。
「ようこそ」
「はい」
「では座って下さい」
 温厚そのものの声で権藤に話すのだった。
「今から」
「では」
「はい」
 すぐに料理が運ばれて来る、鱧や若布、それに季節の野菜を使った和食だ。その懐石料理を見てからだった。
 浜崎は料理を運んで来た店の者にだ、微笑んでこう告げた。
「席を外してくれますか」
「わかりました」
 店の者も微笑んで応える、そうしてだった。
 二人で同じ懐石料理を食べてだ、浜崎が語った。
「ニュースは聞いていますね」
「はい、私の対立候補ですね」
「最初から胡散臭い人物でした」
「事務所の後輩やスタッフへの暴行に恐喝、そして暴力団関係者との交際ですね」
「犯罪行為も噂されていました」
 所謂ブラックな人間だという評価だったというのだ、最初から。
「しかしです」
「それがここで出て来ることは」
「私達も情報は掴んでいました」
 与党の上層部でもだというのだ。
「それは貴方もですね」
「何時出そうかと考えていました」
「私もです、今日はそのお話をしようと思っていましたが」
「それがですね」
「ここで出てきました」
 そのことをだ、ここで言う浜崎だった。懐石料理の中の酢のものを食べつつ話す。箸使いも穏やかでしかも濡れているのは先だけだ。
「意外なことに」
「事務所からの密告があった様ですね」
「実際に暴行を受けていた人からですね」
「自業自得ですね」
 権藤もまた箸を動かしつつ応える。
「まさに」
「そうですね、ですが」
「それは、ですね」
「僥倖です」 
 浜崎は微笑んでこう言った。
「私達にとって」
「これで私の当選はですね」
「決まったも同然です、おめでとうございます」
「有り難うございます、ですが」
「議員になられてもですか」
「はじまりです」
 それに過ぎないとだ、権藤は自身の考えを浜崎与党の幹事長でもある彼にも話した。
「ですから」
「お祝いはですか」
「しません」
 それはだというのだ。
「それはまだです」
「勝って兜の、ですね」
「そうなります」
 まさにだというのだ。
「ですから」
「左様ですか」
「はい、今もです」
 祝うには及ばないというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧