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久遠の神話

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第八十五話 消える闇その七

「今でか」
「あの人を瞬間移動させたんですね」
「ええ、この駅の外にね」
 そうしたとだ、智子も二人に答える。
「そうしたわ」
「そうか、ではあの人はだ」
「もうこれで何の憂いもないんだね」
「彼には全て備わったわ」
 運、それまでだというのだ。
「彼は望むものを手に入れるわ」
「そうなるか」
「あの人は剣士から政治家になるんだね」
「そうよ」
 その通りだとだ、智子も二人に答える。
「彼はね」
「それではか」
「後残る剣士は」
「三人よ」
 戦いを選んでいる剣士、彼等はというのだ。
「いよいよそれだけになってきたわね」
「終わりは近いか」
「近いわ、けれどね」
 それでもだというのだ。
「終わりまで気を抜いてはいけないわ」
「それはだな」
「決してだね」
「そうよ、何があってもね」
 最後の最後まで気を抜いてはならないというのだ、慎重な智子らしい言葉であり考えであると言えた。二人もそう思った。
「気を抜かないわ」
「勝って兜の緒を締めろとも言うな」
「日本の諺ね」
 智子は工藤の今の言葉に顔を抜けて問い返した。
「そうだったわね」
「そうだ、確か言ったのはだ」
 それは誰だったかもだ、工藤は智子に話す。
「東郷平八郎元帥だ」
「日本の名将だったわね」
「海上自衛隊では伝説になっている」
 海軍からの伝統はこのことについても受け継がれているのだ、工藤は江田島においてこのことを学んだのである。
「神格化さえされている」
「確か神にもなっていましたね」
 聡美は工藤にこのことを尋ねた。
「神社に祀られて」
「東郷神社だな」
「そう聞いていますが」
「その通りだ」
 まさにそうだとだ、工藤も答える。
「名将、日露戦争の勝利を決定付けた英雄としてな」
「神にもなっていますね」
「日本は神が多い」
 八百万とも言われる程だ、人も神になるし森羅万象に神が備わっているのが日本という国の考えなのだ。
「だから東郷元帥もだ」
「神になりましたね」
「そうだ、そのことを考えると貴女達と同じか」
「神だからですね」
「そうなるだろうか」
「そうですね、神ならば」
 同じだとだ、聡美も答える。
「そう思います」
「そうなるな」
「それで勝ってもなのね」
 智子はその話に戻した、東郷自身の言葉から彼が遺した言葉にだ。「
「油断するなというのね」
「戦いは勝って終わりではない」
「それで全てが終わりではないから」
「だからだ、戦いに勝ってもだ」
 まだ世界は続く、一つの勝利に驕り油断してはその次の戦いに勝つことは適わないという意味の言葉である。
「油断してはならない」
「厳しい言葉ね」
「そうだな、しかしだ」
「この戦いにおいてもね」
「勝ってもだ」
 智子達がというのだ。
「それで終わりではないのかも知れないな」
「彼を戦いから降ろして」
「残る三人の剣士を降ろしてもな」
「終わりではないというのね」
「そうかも知れない」
 工藤は考える顔で智子に話した。 
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