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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode22:蠢き



(ふぅ…今日は疲れたなぁ、ほんとに明日から学校が休みでよかったよ)

十字の道化師(クロスズ・ピエロ)が根城としていた研究所を後にした隼人は、電動二輪のタンデムシートに硬化魔法で固定した雫を乗せたまま帰路についていた。
今日は金曜日の為、明日から学校は二日間の休みとなる。そのことに感謝しながら、これからの計画を立てようとする。

(取り敢えず、雫を家まで送り届けなくちゃね。今は、0時過ぎか…あー、そういえば俺、雫の家分からないや)

これからすぐに雫を家まで送るとしても、隼人が場所を知らなきゃ意味がない。かといって、眠っている雫を起こすわけにもいかない。

(いいや、一旦俺の家まで行こう。父さんなら、なんか知ってそうだし)

結局、隼人は一度自宅に戻って、櫂に指示を仰ぐことにした。

(あ、ヤバイやばい眠い眠い!しっかりしろ俺!なんかに集中しろ…ってか、微妙に雫の胸が当たってるし、あー、なんか今度は緊張してきたー!)

睡魔と羞恥が同時に襲ってきて、軽くパニックになる隼人であった。






















バイクを走らせること約一時間。深夜の一時を回ったところでやっと俺は自宅に辿り着いた。溜息をついてヘルメットを脱ぎ、家の脇にバイクを止める。チラリと家の中を見ると、まだ明かりがついていた。

「そういえば俺、母さんのこと振り切って出てきちゃったんだよなぁ…」

そう思うと気が重い。沙織さんを通して父さんに事の顛末を伝えてるとはいえ、絶対怒られるよなぁ。

「はぁ…まあ仕方ないか。よっ、と」

タンデムシートに乗せていた雫を抱き起こす。相当疲れてるみたいで、まだ起きる様子はなかった。

「…それにしても、あの時の雫はちょっと様子がおかしかったよな」

ふと思い出したのは、研究所から脱出している時の雫の様子。抱き締めている雫の体が震えているのがしっかりと伝わった。あの時は、ただ今回の事件に対して恐怖を感じているかと思ったけど、なんか違う気がする。

「まあ、いくら考えても分かるはずないか」

こればっかりは本人に直接聞いてみないと分からないよね。取り敢えずまずは雫を無事に返すことが最優先だ。
何故か震え出す手足を叱咤して、俺は扉を開けた。

「お帰りなさい、隼人」

開いたドアの向こうには、凄い笑顔で俺を迎える母さんの姿があった。

「い、行ってきまーす」

隼人 は 逃げ出した !

「待ちなさい」

しかし 回り込まれて しまった !

「いや、ほんとすいませんでした。ほんの出来心っていうか、魔が差したっていうか…」

「貴方は万引き犯か!」

俺にツッコミを入れて、溜息をつく我が母。あれ、そんなに怒っていらっしゃらない?

「え、母さん怒ってない?俺、母さんの指示無視したんだよ?冷蔵庫に入ってるプリン食っちゃったんだよ?」

「…無事に帰ってきたんだから、私を無視したことは別に怒ってないわ。プリンは別として。だからそんなに怯えないで。プリンは別として」

ああ、めっちゃ怒ってる!主にプリンに対してだけど!

「あら、その子は…?」

俺に抱えられている雫の姿を見て、母さんの怒りがふっと消えた。まったく、感情の起伏が激しいんだから。まるでほのかみたいだ。いや、ほのかが母さんに似てるのか?どちらにせよ、やめてほしい。

「なにか失礼なこと考えてる?」

「イエ、マッタク」

いや、ほんと鋭いね。この鋭さを父さんに分けてあげなよ。

「隼人、なにか失礼なことを考えてないか?」

「なんで父さんはこっちには鋭いんだよ」

「ほんとよね」

「え?オレなんかした?」

来て早々に責められる父さん可哀想。俺のせいだけど。

「この子は北山雫だよ、今回の被害者。俺が送り届けることになったんだけど、家がわからなくてね」

「ああ、潮さんの娘さんか。隼人、雫ちゃんをスバルの部屋に寝かせてきてくれ。それで、事の顛末を教えてくれ」

「え、でも雫を家まで送らなきゃ」

「潮さんには一日ウチで預かるって言っておくから大丈夫だよ」

やっぱり、父さんと雫の父親は知り合いだったようだ。

「おーけー、任せて」

「リビングにいるからね」

頷いて、俺は階段を上がった。

















「よしっと…」

スバルの部屋に入って、隼人は予想外に整頓されているのに驚きつつ雫を起こさないようにゆっくりとベッドへ寝かせた。寒くならないように毛布をかけて、隼人は息を吐き出す。

「ごめんね」

素早く救助できなかったことに謝罪し、雫の頬を撫でた。くすぐったそうに身じろぎするのに隼人は思わず笑みを零す。

「…おやすみ」

最後にそう呟いて、隼人はスバルの部屋を後にした。
パタン、と静かに扉が閉められて、

「……隼人さんのバカ」

顔を赤く染めた雫が、恨めしげに呟いていた。


















「さて、疲れてるところ悪いけど色々聞かせてもらうよ」

姉さんが魔法大学の研修中で家を空けているから、リビングに集まったのは三人。俺が席についたところで、父さんが口を開いた。

「うん。まずは、事の経緯だね。どうやら、十字の道化師(クロスズ・ピエロ)に今回誘拐された雫ともう一人、光井ほのかは下校時を襲われたようだ。大方、放課後遊んでたところを狙われたって感じかな?郊外に連れ去られた二人は、雫は建物の中に捕らえられて、ほのかは外に置き去りにされた。そしてほのかは、自分の端末で俺に助けを求めたんだ」

そこまで言って、俺はテーブルに置かれたホットミルクティーに口をつけた。うえ、予想外に熱い。軽く舌火傷した。

「それで、そのメールに気づいた俺は現場に急行。ほのかを安全そうな場所に隠して、四階建てのビルに侵入。敵は、恐らく十字の道化師(クロスズ・ピエロ)と、俺が壊滅させたブランシュの補助部隊の生き残りの小隊だったよ。対人ライフルで武装してたけど、そうでもなかったかな。雫がいたのは屋上で、敵は五人。順調に倒したけど、そこで十字の道化師のヘリが到着して、逃げられた」

あの時の悔しさが滲んできて、テーブルの上に置いていた両手を強く握る。もう一口ミルクティーを飲んで、俺は続けた。

「ヘリで逃げられて、下に行ったらほのかまで攫われてた。完全に嵌められてたようだね。脚を怪我してた俺は取り敢えず、沙織さんの店が近かったから情報を貰いに行ったんだ」

「ああ、急にアイツから連絡が来たときはビックリしたよ。久しぶりだったからな」

懐かしそうに話す父さんに、俺は笑みを浮かべた。
父さんと母さんと沙織さん。この三人はどうやら軍に所属していたときチームを組んでいたようだ。父さんと母さんが現役を引退したのと同時に、沙織さんも軍を辞めたと聞いたことがある。

「沙織さんに十字の道化師のアジトの場所を聞いた俺は電動二輪を借りて現場に向かった。で、そこで俺は二人の友人に会ったんだ。多分、十字の道化師の誰かがほのかの端末を操作して二人を呼んだんだろうね」

「友人って?」

「名前は、司波達也と司波深雪。どちらも、魔法科高校の一年生で共通の友人だ」

「…その二人は無事だったのかい?」

「無事も無事。二人とも無傷だったよ」

呆れたように両手を上げて言うと、父さんと母さんは揃って獰猛な笑みを浮かべた。うわ怖い。これ見たら流石の達也のポーカーフェイスも崩れるんじゃないかな。

「隼人にここまで言わしめるなんて、相当な魔法師なのね、その二人は」

「将来有望だなぁ」

ここで達也は二科生だよ、と言ったら更に怖いものを見そうな気がしたから、言うのはやめておこう。

「それで、俺たちは協力してアジトを潰すことにしたんだ。俺の眼で見た時は雫とほのかが囚われていたのは二階の最奥の部屋だったから、俺が屋上からヘリごと天井を破壊して奇襲。その騒ぎに乗じて二人が一階から侵入。順々に制圧して、俺が先に部屋に乗り込んだんだけど、そこにはほのかの姿しかなかった。雫とこの事件の黒幕を追って地下施設に潜入したんだ」

「…地下施設、ということはなにかの研究所だったのか?」

僅かに表情が曇っている父さんの質問に頷く。なぜか、父さんと母さんはこういった研究所に対して敏感だ。その理由はまったく分からないけど。

「現れた黒幕の名前は、『緑川佐奈』カラーズ計画、とかいう実験から生まれた魔法師だって言ってたかな?」

カラン、と銀製のスプーンが床に落ちた。疑問に思いつつ拾うと、受け取った母さんの顔色は悪かった。

「どうかしたの?」

「あ、あぁ。ううん、なんでもないの。ちょっと疲れたのかしら?」

そう言って、苦笑いする。母さんの様子がおかしいのは明白だが、俺はこれ以上問い詰めないことにした。もしかしたら、本当に母さんの言うとおり疲れているだけなのかもしれない。

「それで?」

それに、父さんの様子が変わらなかったということも俺が追求をやめた一つの理由になっていた。

「それで、なぜか十字の道化師に勧誘されたけど断って、その後に戦闘。不意をついて氷漬けにしたけど、あの砂鉄操作は厄介だったなぁ。敵がいなくなったのを確認してから、達也たちと合流して人質の二人を保護、したんだけど…どこからか急に現れた少年に、緑川佐奈を奪われた。あの子…俺の世界の心眼(ユニバース・アイズ)でも捉えることはできなかったな。それで、あとは研究所から脱出、俺が雫を、達也たちがほのかを保護してそのまま別れたよ」

一通り説明し終わると、奇妙な沈黙がリビングを包んだ。いつも通りとは言い切れない二人の様子に首を傾げていると、コーヒーを一口飲んだ父さんが微笑んだ。

「そうか、お疲れ様。うん、状況は大体分かったよ。潮さんにはオレから伝えておくから、隼人は風呂に入って寝なさい」

「…うん、わかったよ」

色々腑に落ちない部分があるけど、ここは父さんの指示に従っておこうか。
残ったミルクティーを飲み干して、俺は席を立った。

「じゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ隼人」

「おやすみなさい」

のしかかってくる疲労感と戦いながら、俺はリビングを出て行くのだった。



















隼人がリビングから出て行ってしばらく。櫂とセラは無言で座り込んでいた。正確に言えば、驚愕とショックで、動くことができない。
冷めたコーヒーが入ったカップを両手で包んで、櫂が小さく溜息をついた。

「…遂に、動き出したのか…」

「そう、みたいね…緑川……確か、四人目の成功者だったかしら?」

「ああ。緑川佐奈は、オレが把握している成功体では最後の被験体だ…けど、多分、もっと増えている」

沈鬱な顔で会話を続ける櫂とセラ。後悔と怒り、二つの感情が綯い交ぜになって、櫂は舌打ちを漏らした。

「…くそ、あの時オレが、アイツを殺していれば…!」

テーブルの上で強く強く拳を握る。爪が喰い込んで、血が滴るほどに。そんな櫂の様子を見ていられなくなって、セラは櫂の手を両手で包み込んだ。

「今、それを言っても仕方ないわ。重要なのは、どうやって隼人に真実を悟らせないか、でしょう?」

諭すような声でそう言われて、櫂は握り締めていた力を緩めた。息を吸い込んで、思い切り吐き出す。

「そうだな…絶対に、隼人に知られてはならない。隼人が、自分でいられなくなってしまうからな」



次の日の朝、櫂とセラは隼人に置き手紙だけを残して、家から去った。

























「…どうしてさ…」

朝、起きたら両親が再び旅に出ていました。リビングのテーブルの上に一枚の置き手紙を残して。

「なになに…重要な任務が入った為、しばらく家を空ける。スバルには既に連絡しておいた。保護している北山嬢は、潮さんに話は通してあるから本人の意向に従ってくれ……くれぐれも、襲わないようにな、って……襲うかッ!!」

怒りのままに置き手紙をゴミ箱へ叩き込む。これ最後絶対母さんが書いただろ、父さんはシャイだからこんなこと書けるわけないし。

「はー…そういえば、雫を預かってたんだったな…」

テーブルに手をついて、考える。
てか、あれ?今、俺って雫と二人きり?

「いやいや変なこと考えるな俺。冷静に、そう努めて冷静に振舞おう」

数回深呼吸を繰り返して妙にドキドキする鼓動を鎮める。ええい、女の子と一つ屋根の下なんてエイミィと何回もあったじゃないか!

「あ、すごい、落ち着いてきた。エイミィすごいな」

なぜか急に全くドキドキしなくなった。エイミィよくわかんないけどすごい。

「まあ現実逃避はここら辺までにしておいて…どうしようか…」

現在の時刻は朝の七時過ぎ。学校がある日は準備の最中だろうが、喜ばしいことに今日は休日。ゆっくりできる。

「うん、朝飯作って、雫を起こそう」

どうしようかなー、というか雫って普段なに食べてるんだろうか。一般的な家庭料理?それとも家が裕福と言っていたから豪華なモノなのだろうか。

「んーー…分からないな。まあいいや、いつも通り普通に作ろう」

まずは米を炊こう。それで、鮭焼いて、卵焼き作って、サラダ作って、あとは適当に納豆とかふりかけとか、あとヨーグルトを出せば完璧だろう。うちの卵焼きは凄い甘いんだけど、雫の口には合うだろうか。

























「…よしっと」

テーブルに並べられた朝食の数々を見て頷く。うん、我ながらうまくいった。てかいつも通りだ。緊張して調味料を間違えるとか古典的な間違えも犯していない。
時間を見ると八時少し前くらい。以外と時間かかったなー、とか思いつつ手を洗う。母さんが帰ってきてしばらく料理してなかったから腕が鈍ったのかな。

「それは置いといて、そろそろ雫を起こしに行こう………え、俺が?」

そうだった、今この家には俺と雫の二人しかいなかったんだ…。

「凄い抵抗があるけど、仕方ないもんね、俺は悪くないもんね!」

女の子が寝てる部屋に入るなどという罪深い行為を仕方ないで無理矢理納得させ、俺は二階へと上がった。




「……なんだこの扉の威圧感は」

いつも見慣れているはずの姉の部屋を前に、隼人は思わず尻込みをしていた。それもそうだろう、この扉の奥で寝ているのは、親しいとは言っても知り合ってまだ一ヶ月くらいしか経っていない女の子。恥ずかしがるのは、健全な男子高校生としては普通のことだった。

「はー…まあ、ここで悩んでても仕方ないし……色々仕方ないよねっ」

自分に暗示をかけるように仕方ないと繰り返し、隼人は意を決して扉を静かに開いた。

「雫ー、起きてー…」

開いて、半身だけ部屋に入れて雫を呼び起こそうとする。だが、相当熟睡しているのだろうか、雫が起きる気配はまるでない。

「うぅ…あー、もういいや!」

雫の穏やかな寝顔を見て、隼人は吹っ切れたように部屋に入り込んだ。そのまま回転椅子をベッドの近くに持ってきて腰を下ろす。

「雫ー、起きてー、朝だよー!」

こちら側に背を向けて寝息をたてる雫の肩を揺する。それでも、起きない。

「しーずーくー、起きてよー」

今度はもう少し強く揺すってみる。すると、雫は僅かに身じろぎした後、ゴロン、とこちらに寝返りをうった。

「っ!」

気持ち良さそうに眠る雫のあどけない寝顔を間近で見て、隼人の顔がみるみる赤く染まった。
学校でならば逆に女子を赤面させることが多い隼人はよく女性の扱いに慣れていると思われがちだが、実際はとてもシャイボーイなのである。

「う……仕方ない、もう少し寝かせておこう」

結局、雫の寝顔をまともに見れなくなった隼人は一人で朝食をとることにしたのだった。




























薄暗く、生活感のまったくない部屋。隼人によって昏倒させられていた緑川佐奈は、その見慣れた空間で目を覚ました。
意識がハッキリとしない内にも、彼女は自分の身になにがあったのかを思い出す。あの、迫り来る氷剣の恐怖を。
寒気を感じて、佐奈は自らの体を守るようにかき抱いた。
九十九隼人の戦闘能力は、彼女が予想していた程度を軽く上回っていた。砂鉄操作が破られたとしても、圧力操作と合わせれば負けることはないと思っていたが、実際に戦ってみた九十九隼人は、自分では到底敵うはずのない敵だった。
じわり、と悔しさが込み上げてくる。どうしようもなく血が疼く。

「…殺したい……」

譫言のような呟きを零して、佐奈はベッドから抜け出すとそのまま闇に消えていった。
























「……」

隼人が雫を起こすのを諦めたのと同時刻、魔法大学の研修で京都まで来ていた九十九スバルは大学より貸し与えられたホテルの一室で頭を抱えていた。
原因は、彼女の父親である櫂からの報告だ。
『隼人がカラーズと邂逅、戦闘を行った』。この報告が一体どれだけの意味を持つのかは、スバルとその両親、そして情報屋として付き合いが長い黒条沙織しか分からない。

「…私が隼人から離れている時に限って……まさか、狙われた?」

そう呟いて、スバルは力任せに拳を壁に叩きつけた。荒くなった呼吸を整えて、壁に体を預ける。

「いいわ。カラーズ…アンタちちの好きにはさせない」

口には獰猛な笑みを。瞳が写すのはたった一人を守るために生きている世界。

「隼人は、私が護る」

世界で一番愛しい一人を護るべく、スバルは最初の一手を打つことに決めた。
























「なに、佐奈が消えた?」

「はい」

真っ暗な中に、静かに光を灯す蝋燭が部屋の四隅から照らす。十の座席が立ち並ぶ中で、その最奥の席に座した老年の男は自身の眼前に跪いた女の報告に眉を上げた。
昨夜、九十九隼人と戦闘を行った緑川佐奈。彼女の戦闘を遠隔透視していて、九十九隼人の底知れぬ戦闘力にただただ畏れを抱いたのは記憶に新しい。

「恐らくは、例の衝動が出たのかと」

「厄介な…今はまだ主らを世に晒すわけにはいかん。(ヘイ)よ、もう一度佐奈を連れ戻してきてくれ」

顔を伏せたままの女の報告に顔を歪ませる男は、自分から見て左下手の席に深々と座って脚を組む少年に命令を下した。

「ええ~、またオレ様なのぉ?」

だが少年はそれに不満気に唇を尖らせた。自らの主人に向かって文句を言う少年の言葉に、周囲の雰囲気が鋭いものになった。
明らかに自分を咎めているその空気に少年は溜息をつくと、気怠そうに立ち上がった。

「まぁいーけど?でもオレ様に任せるってことは犠牲者の一人か二人は覚悟しといてねー」

凄惨な笑みを浮かべた少年に周りは呆れたようだが、それを向けられた男は変わらずの無表情で頷いた。

「構わん。主と佐奈が誰にも気づかれずに戻ってくるならば、文句は言わん」

「くくっ、おーけー。じゃあ行ってくるよ」

歪な笑い声をあげて、少年の姿が、気配が薄れて闇に消えた。

「…まだ時ではない。だが、その時は確実に近づいてきておる。それまで待て、時が来たとき、世に我らの存在意義を問おうではないか」

男の声は奇妙に空間を満たして行った。まるで麻薬のような中毒性のある声音に、周囲の人間たちは、侵された目で頷いた。
闇が世を覆わんと荒れ狂う日は、近い。
















ーーto be continuedーー 
 

 
後書き
スバルにブラコンの気配が…!? 
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