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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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四章 幕間劇
  事後処理×人間の選択×道

「色々とお世話になりました。結菜様」

久遠の屋敷の玄関で、詩乃はぺこりと頭を下げた。

「気にしないで。私も久しぶりに美濃の話ができて楽しかったから」

美濃が陥ちてから数日が経った。俺が清州に戻ってきたのは、城への使いと結菜の元に預けていた詩乃を引き取るためだった。さすがに前まで味方だった美濃との戦に、詩乃を連れていけないと判断した俺は久遠の屋敷にいる結菜に預けたのであった。

「急で悪かったな、詩乃を預けてもらって」

あの時、俺は黒鮫隊の指示とかで忙しかったからな。一人で待つのも寂しいだろうと思っての事。

「久遠が急なのはいつもの事だしね。それに出陣の時は何となく予想はしてたわ」

「感謝する。だが、詩乃を連れて行ったらしばらくは戻れないな」

「確かにね。詩乃が行くと清州も少し寂しくなるけど、美濃が陥ちるまでって事だったし。それに詩乃はこれからたくさん仕事あるんでしょ。別に今生の別れって訳じゃないんだから」

「そうか。結菜も来るか?」

「私はまだ清州にいるわ。そのうち落ち着いたら久遠が呼んでくれるでしょう」

まあ美濃は結菜の故郷でもあるからな。国譲り状もあったし、結菜も承知の上での話だろうけど。それに結菜の姪にあたる龍興も俺が討ち取ってしまった。微妙なんだろうけどさ、まあ結菜も落ち着くまでの事だろう。

「いきなり行って驚かせるって手もあるだろうけど・・・・向こうもまだバタバタしてるだろうしね」

「そうだなー」

実際、久遠も稲葉山城を陥としたばかりで、まだまだ落ち着くような気配ではない。まあ野郎共らは、久々にやりきった感があったのか、ストレス解消したからもう落ち着いたと。こっちの判断で結菜を連れて行ったら、久遠に迷惑がかかる。

「むしろ奇襲を掛ける位の方が、久遠様もお喜びになるのでは?」

「・・・・やめてよ詩乃。行きたいの、・・・・本当は結構我慢しているんだから」

「失礼致しました」

「ああ。でも今なら、久遠の屋敷を追い出されたら一真の家に行けば良いのか・・・・」

「まあそういう手もあるけど、妻はいるから部屋は別だよ?」

久遠も結菜もまだ恋人って言う枠だけだし、奏もそうだが、拠点D×Dにいる桃香達も妻だしな。アグニやオーフィスやミーガン達も結婚したから桃香達と同等の扱いにしている。それに、結菜が近くにいると結菜の母親を思い出すからな。

「そうね。私は久遠と同じあなたの愛妾だけど、まだ恋人だけだからそこまで段階は踏めないか」

「いずれは一緒に寝る事になるけど、・・・・今はまだだな」

「あ、そうだ。忙しくてロクな物食べてないだろうから、その辺り注意しといて。久遠、そういうのは全然気にしないから」

「了解した。壬月や麦穂にもよく言っておく」

「頼むわね一真、詩乃」

「承知致しました、結菜様」

「そうそう、こっちに来たら必ず来るから。ここも俺の家だしな」

「当たり前。寝床もご飯も用意しておくからね」

と言って詩乃を連れて、清州の街から出た。しばらく歩いてから、空間からバイクを取り出してから乗せた。俺と詩乃はヘルメットを被って、今は美濃に続く街道を走っている。いつもよりかはゆっくりだが、それでも20~30は出てる。ヘルメットには互いに話せるようにしてあるから、俺が前を向いていても話せる。

「結奈の家はどうだった?」

「結菜様はとても良くして下さいました。お魚も美味しかったです。ですが、一発屋の焼き魚もしばらくはお預けですね。美濃に平穏を取り戻せたのは僥倖ですが、それだけが心残りですね。あと一真様の海の幸も・・・・」

「おいおい、国一つと魚一匹を秤にかけるなよ」

「美濃は本当に海の魚が食べられませんし。・・・・何より海を手に入れる事は、全ての山国の悲願ですから」

「皆そんなに魚が食べたいのか?」

「魚もですが・・・・塩と湊です」

あ、この時代の塩って海水から作るんだった。湊だって陸路よりも交易になりやすいけど、こちらは空輸が普通だったか。甲斐の武田信玄が上杉謙信と散々戦ったのも、海が欲しかったからだったな。

「昼飯は一発屋に寄ればよかった?」

「いえ、三日続けて行くのは食べ貯めするには十分かと」

「結菜と行ったのか?」

「結菜様、こんな美味しいお店を黙っていてズルいと大層お冠でしたが、やはり一真様の手料理の方がいいと言ってました」

まあ、そりゃ俺の方が絶品さ。米も味噌も違うからな。それに米は白米で、コシヒカリだし味噌も白味噌から赤味噌まで揃えてる。そういえば美濃は結菜の故郷でもあるしな、それに龍興の政治は酷かったって話だ。本人は気にしてない、って言ってるけど故郷を攻め落としたのは事実だ。いくら戦国の世の姫君として育てられた結菜だとしても、内心は色んな思いがあるはず。

「詩乃を結菜の所に預けて正解だった。その方が結菜のためでもあったと思う」

「私も同感ですし、久しぶりに美濃のお話が出来て楽しかったです」

「美濃の話か。先々代の利政さんの話とか?」

「古き良き、華やかなりし頃の昔話などもですが、美濃にいた結菜様のご友人の近況なども」

なるほどな。結菜も美濃で育ったからな。同郷の者だけで話せる会話だな。それに当時、美濃の内情も知っている詩乃の知識は、これからの美濃の立て直しにも必ず役に立つはず。で、しばらく話してると見えた見えた。稲葉山城下、井之口の街。

「・・・・・・・・・・・」

織田家ののぼりの翻る稲葉山城を、詩乃は静かに見上げる。ずっと斉藤家のモノだった稲葉山城だ。戦国の世の習いって皆が言うけど、その胸の内は穏やかではないだろう。俺達は井之口に着いた後、バイクを降りてヘルメットを脱いでから空間にしまった。

「稲葉山城・・・・いえ、今は岐阜城・・・・でしたか・・・・・」

この世界というより外史に来てほんの僅かだが、さすがに清州城が他の勢力の旗が立っていたら平情じゃないだろうな。詩乃は俺を呼ぶと、城に行く前に寄り道してもいいか?と聞かれたから俺は頷いて、井之口の街に行った。さすがに井之口にいた甲斐があってか、詩乃は迷う事もなく進んでいく。ただし歩行速度はゆっくりであった。焼き払ったのか、まだ原型を留めている家を見ていた。で、次は俺が一人で潜入してた時に、詩乃と初めて会った場所だった。

「城下に放っていた調査の者から、尾張からの間者らしき者がいるという報告がありましたので」

「あれでも忍んでいたんだけどな」

「私達には、珍しい服を着てるとの報告と田楽狭間で降り立った者の人相が似ていましたので、少々気になっていたのです」

「じゃああの時、俺がここに来なければ・・・・」

「私は一真様とお会い出来ていなかったでしょうね・・・・」

「そうなると・・・・俺が詩乃の事を知らなかったら今頃生きていなかっただろうな」

「そうですね。それよりここからだと城に近いのでそろそろ向かいましょう」

詩乃は充分井之口を見てから、城に向かった俺と詩乃。城に入ってから、詩乃の口数が少なくなる。無理もない、織田家の手に陥ちたって事を広く示すために、のぼりの数はあえて多くしている。それを見るのは、美濃の忠臣だった詩乃にとっては複雑な気分だろう。

「お、ここは三の丸か。今にしてみれば懐かしいな」

「どうされたのです?懐かしいとは・・・・?」

「いや、ここからあそこの城門を開けるために潜入したからな」

今見ると大した距離ではないな。でもあの時は暗闇だったし、暗視ゴーグルつけてたからある意味では闇討ちだな。

「・・・・どうやって?」

「稲葉山の裏から潜入した」

「・・・・手勢は?稲葉山の裏から忍び込むなど、不可能ではないにせよ、そう多くの手勢は使えないはずです。一真隊の数からすれば精々十か十五・・・」

「一真隊が五で、黒鮫隊からも五だったから、退路を確保したら八人だな」

「・・・・・・・・」

え、何その目は・・・・。呆れているな、まあ普通なら無茶だと言いたいのだろう。

「詩乃、忘れている事があるぞ。俺達の兵器だ。それに暗闇でも見える物もあったから、暗闇からの狙撃と闇討ち。それがなかったら無茶な作戦はたてまい」

「確かにそうですが・・・・。そうですね」

納得したようだが、俺だってさすがに八人だけで城は落とせない。いくら頸を討ち取ったとしても、兵が数十から数百人いたら逃げる。ただでは逃げないから、ガソリン撒いて火をつけてから逃げる事も考えるが、それをしたらこの城はなかったかもね。まあ俺が創造で創り直せばいいんだと思う。

「・・・・やはり、私も同行すればよかった。ですが、あの手で斉藤家の主君を刎ねたのは、一真様だからこそ出来た業ですね」

「そうだろうな。それに稲葉山城なくてとも、他だと別の手も考えていたさ。安全かつ確実に落とせる策くらいはな」

と言いながらも一緒に城内を歩いていると、やがて壬月達と話している久遠の姿が見えてきた。

「おーい、久遠」

「一真か。・・・・随分早かったな」

「清州までの使い、ご苦労様」

「お帰りなさいませ一真様」

「俺も用事あったからな、こっちが清州からの報告書だ」

「詩乃、結菜の側にいてくれたこと助かる。夫として礼を言う」

とか言ってたけどな。本当は、寿命が縮まるから次からは策を任せると言いたいところだろうが。俺は軍人であり、部下に指示を出して部下を率いて行動を共にする。

「ところで、俺がいない間に何かあった?」

「今のところは何もないな。しばらくはこのまま状況が続くだろう」

「東は静かですか?」

「平穏とは言わんが、中心がないからな。今の内に何とかする。そちらに何か策があるなら、我が早死にせんものを頼むぞ」

「お任せを」

「とはいえ、今日は疲れていよう。もう休め」

「・・・・(コクッ)」

「じゃあ、詩乃を長屋に送るが何か手伝う事はない?」

「大丈夫だ。今日は一真も休め」

「ホンのの些細な事でいいから何かあるか?」

「ならば、市井から上がってきた陳情の山があるのだ。吟味を任せて良いか?」

「いいだろう。ちょうど事務職やりたい気分だったのでな」

「ならやってくれ」

「了解。あと結菜からの伝言だが、久遠は忙しいとご飯抜きにする事があるから、ちゃんとご飯を食えとの事だ」

分かっている、とは言っているがあれは分かっていない顔だ。なので俺は壬月と麦穂に頼んでおいたけど、食わなかったらハリセン一発なと釘を刺しておいた。その後事務職をしていたが、詩乃も見てくれていたから助かった。でもこういう仕事も上司の役目だと思うので、一枚ずつ陳情書を吟味していったのか、山だったのがあっという間に終わったのは、さすがの詩乃でも驚いていた。仕事が終わったので俺は詩乃を連れて行った。行きたい所があるそうなので、俺はボディガードという訳だ。

「そういえば、西美濃三人衆はどうなりましたか?」

「ああ、あいつら?あいつらは久遠の元に下ってあの龍興派を説得してるはずさ。俺が討ち取ったけどな。気になるか?」

やっぱり気になるかと言ったら別にそうではないらしい。詩乃の性格でもあるが、あの三人も龍興を何とかしたいと思う気持ちは一緒だったが、それほど仲がいいって訳ではないそうだ。それと見ている先も違ったそうだ、詩乃が稲葉山城を落とした頃に久遠が城を売れと言った事があったが、詩乃は斉藤家の臣であったがために断ったがあの三人は違った。

「それ以上は言うな。辛いんだろう?」

言いながら、詩乃の手を握る。冷たい手であったが、拒む事もなく握った。

「別に辛くはありません。あの時の言葉の端々からも三人の気持ちは感じ取れました。龍興に城を返した時など、龍興の表情も西美濃の三人も・・・・本当に見物でした」

「まあそうだろうな、それに城を返したとしてもこの先の事は変わらなかっただろう」

「はい。行きたい所があるのですがいいですか?」

と言ってきたので俺は頷いてから、歩き出した。そして少し山道になったところ所で止まった。

「ここは、・・・・龍興の追っ手から逃げた時の道か」

「はい。城を返した後、龍興がどう動くかは予想していましたが、あれほど早く飛騨を差し向けるとは思っていませんでした」

「そうだな。もう少し遅かったらどうなっていたか・・・・」

「一真様は一度清州に戻ったのでしょう?なぜ、あそこまで早く美濃まで?」

「予想はしていたさ、ああいう小物は妙な所に気合を入れるからな。あの龍興の腰巾着だったから」

「全くです。あと少し一真様が辿り着くのが遅かったら、私はここで命運尽き果てていたでしょう」

まあその通りなんだが、死んだとしても死者蘇生で蘇らせる事ができる。近くまで寄ったら、まだあの時の跡が残っていた。血痕はさすがにないが、俺の銃の痕跡はあった。

「そういえばあの鉄砲はなぜあのような方法で倒したのです?」

「鉄砲を持つ者より鉄砲を暴発した方がいいと判断したまでだ。それにあちらの銃口とこちらの弾の大きさがちょうど良い大きさだった」

「その判断はよかったと思います。その知識があったこそ、私は助かったのではないかと思います」

詩乃の手を握ってると強くなってきた。まるで悲しんでるような気がして。

「詩乃、泣いていいんだぞ。人は泣いた後は強くなれるんだと俺は思う。今は誰も見ていないから」

「私は・・・・ひっく・・・・泣いてなど、怖がってもいません」

「今のは独り言だと思えばいい」

「私が稲葉山城を落とした時点で、時勢が動き出すのは分かっていたのです。城を返しても、龍興は何も理解しないだろう事も・・・・不興を買っただけの私が龍興に討たれるだろう事も。そして・・・・それらの動きを見て、織田が国譲り状を盾に、動き出すだろう事も。それは全て分かっていた・・・・覚悟していたのに。私は死ぬどころか、一真様の臣下になって、こうして生き延びて・・・・挙げ句、斉藤家三代を終わらせてしまった・・・・。竹中家は利政様にも、義龍様にもたくさんのご恩があったのに。私のした事は、選んだ道は正しかったのかと・・・・そう思ったら・・・・急に怖く・・・・」

「なあ詩乃」

「何ですか?」

「竹中半兵衛はここで死にたかったのか?」

「死にたくなど・・・・ありませんでした。生き延びて、出来る事なら天下に竹中ありと、持てる才を知らしめたかった。だから・・・・こうしておめおめと生き延びて」

「なあ詩乃。詩乃がした事については、俺や久遠にも分からない事だ。人は選択をする日が来る、そして選択した方にこの先の未来がある。俺は神ではあるが、この先の未来は俺でも分からない。だが、斎藤家の選択はむしろ滅亡へと進む道だった。それも竹中半兵衛が乗っ取ったとしてもいずれは滅んでいたであろう」

「では私のした事には・・・・意味がなかったと?」

「そこまでは言っていない。その行動をしたお蔭で、詩乃とは戦わずに済んだ。そして久遠の夢に一歩近づいた。人間は悩む事はたくさんあるし、無論俺だって悩む事だってあるだろう。だが解決の道は周辺にいる部下達や仲間、友達、上司、ここでは主君か。正しき道に案内できるんだと俺は思っている」

「一真様さえ、悩むのですね。私だけかと思いました」

「美濃には一人だったんだろう?」

「・・・・一人でした。周りには、私の考えを理解する者はいませんでしたから」

「これからは俺らがいる。ひよやころもきっと詩乃を助けてくれる。それでも悩むんだったら、俺が聞いて支えてやる。それが上司ってもんだ」

「一真様が・・・・」

「そうだ。これからは同じ道を辿るんだ。そして一緒に歩いて行こう」

「同じ道を・・・・。・・・・そう、ですね」

「そうだ。俺は詩乃が生きていてよかったと思っている。同時に嬉しくもあり、助けた事については胸を張れる」

「・・・・ぐすっ。・・・・ひっく・・・・。・・・・・一真様ぁ・・・・」

胸元にしがみつき、泣きじゃくり始めた小さな背中をそっと撫でながら、俺も詩乃を優しく抱き返してやった。そして、背中をポンポンと優しく叩きながら、悲しい事は全部吐き出すように泣いた詩乃。泣き止んだところで、空間から蒸しタオルを出して顔を拭いたけど。拭かないと、さっきまで泣いていたという事になり、俺がいじめたと勘違いされるのが嫌だから。俺と詩乃は、長屋に向かったらひよところが迎えてくれた。

「あ、一真様ー!」

「ただいまー」

「お帰りなさい!でも二人してどこに行ってたんですか?」

「そうですよ。お城に行ったら随分前に出たって言うし、心配してたんですよー!」

「悪い悪い、ちょっと詩乃と散歩してた」

「詩乃ちゃんもお帰りなさい!お部屋の用意してあるよ」

「ありがとうございます。その・・・・」

「ん?」

「た・・・・ただいま」

「お帰りなさい!」

「詩乃ちゃんの歓迎会するって聞いてたから、準備もして待ってたんですよ」

ああ、そういうのあったな。忘れてたぜ、事務職の仕事してたからな。

「でも詩乃ちゃんが来てくれて嬉しいよ!」

「これからはまた三人で一真隊だね!」

詩乃は驚いた顔をしていたが、俺がさっき言った同じ道を歩くって事を言うと首を縦に三回頷いた。さてと、これから歓迎会だからと言って長屋に入って行き、詩乃は先程より元気になってよかったと思ったのであった。 
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