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久遠の神話

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第八十三話 権力者その三

「必ず首相になれます」
「そう見ているのだな、貴方は」
「はい、しかしです」
「その三つがあろうとも適わない時は適わない」
 ここでだ、権藤はこう言うのだった。
「まだな」
「そうですね、その三つがあろうとも」
「まだだ」
 それはというのだ。
「まだ足りないのだ」
「それが現実ですね」
「その者にどれだけ資質があろうともな」
「運がなければ」
 権藤もこのことがわかっていた、これまでの人生でそのことを痛感することもなかった訳ではないからだ。 
 それでだ、彼はこう言うのだ。
「私は今の妻に会っていない」
「奥様にも」
「いい妻だ」
 非常にだというのだ、とはいっても表情を顔に出してはいないが。
「そしていい息子だ」
「よき家庭を持つこともですね」
「運が関わる、巡り会いもあれば」 
 それに加えてだった。
「外からの要素もある」
「幸福は自分達の努力では得られない部分もありますね」
「運だ、私は運良くよき妻に巡り会い息子も成長してくれている」
「そうですか」
「そうだ、妻も左足が生まれつき悪いが」 
 所謂身体障害者になるのだろうか、だがそれでもだというのだ。
「心根は非常にいい、素晴らしい妻だ」
「そして息子さんも」
「いい子だ、それに妻と子もいい人に巡り会えている」」
 非常にだというのだ。
「私の家庭は幸福だ」
「幸福になる為には運もですね」
「必要だな」
「そうですね、そして首相になりその任を全うする為にも」
「運が必要だ」
 それにおいてもだというのだ。
「特に政治の世界ではな」
「運ですね」
「政治家に運は必須だ」
 他の世界以上にというのだ。
「運がなければどれだけ能力があっても駄目だ」
「首相になれず」
「首相になれても志を果たせない」
 そうなるというのだ。
「だからだ」
「運ですね」
「私に必要なものは運だ」 
 まさにそれだというのだ。
「後はそれだけだ」
「では」
「その運を授けてくれるのだな」
「そうなれば戦いから降りられますね」
「私は戦うことを目的とはしていない」
 そこが加藤と違うというのだ、あくまで戦うことに喜びを見出してそのうえで戦いを続ける彼とはというのだ。
「戦うことは手に入れる為の手段だ」
「では他の手段があれば」
「それを選ぶ」
 それも躊躇なくとだ、権藤は言葉の外にこの言葉も入れた。
「そうさせてもらう」
「そうですか」
「そうだ、戦いはリスクがある」
 剣士の戦いでもだ、このことは。
「命を賭けるからな」
「リスクは大きいですね」
「ハイリスクハイリターンだ」
 まさにそれだというのだ。 
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