東方攻勢録
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第九話
再開してからどのくらい経っただろう。二人はゆっくりと永遠亭への帰路をたどっていた。
「ですが……どうしてまたあんなことを?」
「あんなこと? ああ、さっきのことか」
「はい。あんなことをせずとも、普通に出てきていただければよかったのに……」
「ごめんごめん。ちょっと勇気がなくってさ……」
「こちらにとってはすごく心臓に悪かったですよ。ほんとに死を覚悟したんですから」
「あはは……ちょっとやりすぎたか」
俊司はそういいながらも笑っていた。
「そういえば、さっき紫様から戻ってくるようにいわれていたんですが……」
「紫が? まあ、さっきのことだろうな」
「もうお会いしたのですか?」
「ああ、博麗神社に行った時にね。あの時はあの時で結構危なかったんだけどさ……」
「そうなんですか? つまり話の内容はそれについてですかね」
「あと俺達が行動していたときの分を含めて、今後の対策を考えるんじゃないかな? 戦力も集まってきたし、そろそろ決着をつけるときかもしれないからな」
「そうですね……あ、着きましたよ」
たわいない会話をしていたら、竹林の合間から一軒の建物が現れる。
その建物の玄関には、なにやら作業をしているうさ耳をつけた少女と、壁にもたれる赤いもんぺをはいた少女が話をしていた。
「……あの時とまったく同じ状況だな」
俊司はそういって少し笑っていた。
「で、映姫様がおっしゃるには、地霊殿にあった拠点を陥落させたとのことでした。旧都も現在は復興作業で忙しいみたいです」
玄関に立っていた二人の少女は、さっきここを訪れた映姫達から聞いたことを話していた。
「ふーん。つまり残っているのは、天界にある拠点だけってことか。終わりが見えてきたな……」
「そうですね……一時はどうなるかと」
「そうだな。ところで鈴仙、さっきもう一人仲間が来るって話をしていたはずだけど」
「そういえばいらっしゃいませんね」
「ただいま戻りました。鈴仙さん、妹紅さん」
そういって声をかけてきたのは、半霊を引き連れた白髪の少女だった。その背後には、フードをかぶった例の人物も立っている。
「おかえりなさい妖夢さん。今日はお早いんですね?」
「はい。まあいろいろありまして」
「で、その後ろにいるのは誰だ?」
「ああ、この人は――」
妖夢が説明をしようとした瞬間、例の人物はなぜかナイフを取り出すと、さっきと同じように殺気を周囲に撒き散らした。あまりに急な出来事に鈴仙と妹紅は一瞬ひるんでしまうが、なんとかもちなおし臨戦態勢をとる。
妖夢はそんな状況をみながらあきれていた。
「おいなんなんだよいったい!」
「まさか敵ですか……? ということは妖夢さんも……」
「もう……ふざけないでください」
妖夢があきれながらそういうと、例の人物は放出していた殺気を引っ込めて、さっきと別人のような態度をとっていた。
「あれ? だめか?」
「あたりまえですよ。変な誤解を招いてるじゃないですか」
「ごめんごめん」
「……?」
状況が飲み込めず呆気にとられている二人。初めてあったときも、これに似たようなやり取りをしていただろうか。そんなことを思いながら、例の人物はクスクスと笑っていた。
「おいおいなんだよさっきから……敵意むき出しにしたかと思ったら、変にわらいやがって……」
「はぁ……早く姿をさらしたらどうですか? 俊司さん」
「……え?」
「そうだな」
俊司はそういうと、かぶっていたフードをおろし素顔をさらした。
素顔を見た二人は、何も言わずただ口を開いたまま唖然としていた。目の前にいるのはどう見ても彼自身だ。だが、彼は死んだはずだ。
しかし、よくよく考えればここは幻想郷。革命軍との戦争中であろうとも、現実にとらわれていけないことにはかわりない。死んだ人間がいるなんてざらである。
最初に状況を飲み込みきったのは紅妹だった。
「……ぷっ……あははっ。なんだよお前、生きてたんじゃねぇか!」
妹紅は目に涙をためながらそういうと、何度か俊司の体を軽く殴った。
「いたっ!」
「ばっきゃろー。ほんとに人騒がせなことしやがって」
「わかった。わかったから殴るのをやめてくれ!」
「うるせぇ。自業自得だ」
「そうですよ。自業自得です」
こんなやり取りを見ていた鈴仙も、やっと状況を飲み込めたのか自然を笑みをこぼしながらないていた。
「ところで、映姫さん達はもう着いてるのか?」
「ええ……先ほど到着しました」
「もしかして……もう一人の仲間ってお前か?」
「ああ。たぶんそうだろうな……ん?」
軽く会話をしていると、不自然な風が辺りを静かに通り抜ける。すると、風が吹いてきた方向にさっきまでいなかったはずの少女が立っていた。
「……さすが新聞記者、スクープを嗅ぎつけるのは早いな」
俊司がそう言うと同時に、シャッターを切る音が静かに響き渡った。カメラを構えていた少女はゆっくりと下ろした後、ほほ笑みながら口を開いた。
「死んだと思われていた外来人、亡霊となって新たに登場! まあ見出しは後で変えるとして……お久しぶりです俊司さん」
「ああ。久しぶり……文。よく気付いたな」
「気付いたのは椛です。急に目を点にして止まるものですから、何があったのかと聞くと……というわけですよ」
「文さん! ですから私のみまち……が……」
文とそんな話をしていると、離れたところで俊司に気付いていた張本人が、玄関から飛び出してきた。
「椛、どうやら見間違いではなさそうですよ」
「……うそ」
椛はそう呟くと、まるで手から離れた人形のようにぐったりとその場に座り込んでしまった。
「……思うんだけど、幻想郷の住人って幽霊とか亡霊とかもいるけどさ……死んだ人間が出てくると、やっぱり驚くもんなんだな」
「何をあたりまえなことを言ってるんですか」
「そうですよ。死んだ人間が亡霊になって帰ってくるなんて、そうあることじゃないですから」
「そうだよな」
俊司はそう言いながら軽く笑う。一同もそれにつられてくすくすと笑っていた。
その後、騒ぎを聞きつけた人達が集まり続け、彼を見た瞬間驚く・泣く・意味もなく笑うといったループが続いた。少しばかりではあるが、周囲は歓喜にあふれ、懐かしき仲間との再開を果たしていた。
「まったく、あなたも変なことを考えるのね?」
紫は玄関近くの壁に隠れながら、そばにいた緑髪の少女にそう言っていた。
「私は彼を利用しただけです。彼を死者として次の命を授けるのではなく、亡霊として舞い戻ってもらい、私も着いて行くといった考えだったのですから」
「そんなこと言って……頑固なあなたがそう考えるかしらね?」
「私は頑固ではありませんが?」
「そこが頑固なのよ」
紫がそう言うと、二人は軽く鼻で笑った。
「ところで八雲紫、あなたがなぜ彼を選んだのかわかりますか?」
「さあ? ただの勘じゃない?」
「……嘘ですね。あなたは彼の名前を聞いたときにわかっていたはずでしょう?」
「……」
映姫がそう言うと、紫はなぜか真剣な表情をしたまま黙り込んでしまった。
「言いたいことはわかりますが、ここまできた以上もとには戻れません」
「……わかってるわ。あの二人との約束を守れなかったのは残念だけど……やるべきことはするつもりよ」
「……そうですね」
紫はそっと物陰から俊司を見ると、軽く溜息をついて永遠亭の中に入っていく。そんな彼女の拳は、なぜか悔しさを感じさせるように強く握られていた。
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