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久遠の神話

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第七十六話 富を求めるならその十

「貧しくはなかったけれどね」
「お金のことはですか」
「ここぞという時になかったんだ」 
 常にだ、そうだったというのだ。
「だからね」
「どうしても欲しいのですね」
「そう、充分過ぎるまでにね」
「それが百億ですか」
「店も持ちたい、何があっても一生家族が困らない」
 それだけのものがだ、百億あればだというのだ。
「大丈夫だからね」
「そうでしたか」
「幸せになる為にはそれだけのもとが必要だからね」
 この考えからだった、王の場合は。
「絶対に手に入れるよ」
「では今夜勝たれて下さい」
「そういうことでね。私が勝ったら」
 その時はだ、何をするかというと。
「貴方達にも。それに他の剣士の人達も呼んでね」
「宴をされますか」
「そう考えてるよ」
 まさにそれをだというのだ。
「私が降りた時はね」
「いいことですね。貴方の人生の新しい門出を祝って」
「それからはもう戦わないよ」
 剣士としてだけでなく他の戦いもだというのだ。
「勝負はするけれどね」
「勝負は、ですか」
「料理はいつも勝負だよ」
 それはするというのだ、そうした意味での勝負はだ。
「そちらはね」
「そうですか」
「食材と調味料、そして厨房も使って」
「そのうえでの勝負がお料理ですか」
「お客さんとね。そしてその際一切手を抜かない」  
 その料理でも真剣勝負だというのだ、これも王の持論なのだ。
 それでだ、こう言ったのである。
「私にとってはいつも真剣勝負だよ、料理はね」
「だからその勝負はですね」
「死ぬまで続けるよ、戦いはしないよ」
 こう話してそしてだった、王は三人に別れを告げて今はこの場を後にした。その帰り道を一人で戻っているとその途中に。
 権藤がいた、彼は自身の剣を手にしていた。その剣からは魔の力が漂っている。
 その剣を見てだ、王はこう権藤に言った。
「今終わったところだね」
「そうだ、怪物を倒したところだ」
 その通りだとだ、権藤の方も王に答える。
「今な」
「成程ね、やっぱりね」
「それでだ、会った縁だ」
「闘おうっていうのかな」
「どうする、一体」
 権藤はまだ剣は構えていない、しかし鋭い目で王に問うた。
「はじめるか」
「いや、実は今夜でね」
「今夜か」
「私は戦いを降りるからね」
 明るい声で笑いながらだった、王は権藤に対して答えた。
「もう戦わないよ」
「近頃戦いから降りた剣士も出ているそうだな」
「二人そうなったね」
「そして君もか」
「うん、だからもうね」
 戦わないとだ、また言う王だった。
「貴方とも闘わないよ」
「そうか」
「そうだよ、それは貴方にとってもいいことだね」
「私はこの国の宰相になることが望みだ」
 権力、それであると言う権藤だった。それはまさにその通りである。
「その為に戦っている」
「相手は少ない方がいいね」
「政治の世界、経営者の世界でもだが」
 表だけでなく裏も知ってそのうえでの言葉である。
「相手を倒すことも蹴落とすことも時としては必要だ」
「じゃあその相手は少ない方がいいね」
「その通りだ、常に正々堂々ともいかない」
 権藤は自分の嗜好もある程度話に出している、しかしそのことに意を介さずそのうえで話していくのだった。 
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