ソードアート・オンラインーツインズー
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SAO編-白百合の刃-
SAO12-もう一人の副団長
昨日に引き続き、ドウセツ家で泊まることになった。そして、一緒のシングルベッドでドウセツと共に眠りについた翌日のこと、個人的に事件が起こってしまった。
「やっぱり、載っている……」
私は新聞に書かれているだろう記事を読む。案の定、思った通りのことを記事にされた私は、何もかも投げ出すように、新聞を手に届く範囲でそこらへんに置いた。
新聞には、昨日の事件で持ちきりだった。フロア攻略、新しい街へのゲート開通だけでも、アインクラッドは充分な話題になるにも関わらず、今回に関しては私も兄もいろいろやらかしてしまった。内容はと言うと、『軍の大部隊を全滅させた悪魔を、二刀流使いと薙刀使いの活躍によって攻略成功』と一面を飾っていて、更に私に関しては、『白い格好の薙刀使いは、かつて難易度が最高の“ボーナスゲーム”を成功させた“白百合”ではないか?』と書かれていた。
「『ボーナスゲーム』かぁ……」
自分のことは書かれるだろうとは思ったけど、まさか“白百合”のことまで書かれていようなんて思いもしなかった。まさかのおすすめしない想定内が予想外に変わると、いろいろと面倒になってしまう。
『ボーナスゲーム』たまに凄腕のプレイヤーだけが招待され、攻略とは別に『裏層』と言う、特殊な層を攻略するイベントに挑戦出来る。普通の層とは違い、裏三十四層とか裏四十五層とか裏がつき、普通の層と違って、難易度が格段に上がる。
そしてなによりも内容もいろいろと特殊なのも特徴。
まずHNが二つ名またはあだ名に変わり、容姿も本来使うであろうアバター変化する。その裏層を攻略すると、ボーナスが貰えるようになっている。過去の例としては、普通の層にいるモンスターの防御力が半分になったり、自分のHPが二倍に上がったりと期限中のボーナスは様々用意されてあった。また、攻略が成功すると一般プレイヤーも裏層へ挑むことが出来る。裏層に出てくるモンスターは強く、レベル上げには良いし、落とすアイテムも普通の層では中々手に入らない物あるので、『ボーナスゲーム』に参加できなかったプレイヤーでもお得になるだろう。
ただし、『ボーナスゲーム』を一周間以内に攻略できなければ、五層分やり直されてしまう。当然、倒してきた五層分のボスもやり直すので、もう一度戦わなければならない。そのため、『ボーナスゲーム』に招待されたプレイヤーは何が何でも絶対に攻略しなければいけない。だけど、そんなことになってないので本当がどうか怪しいところではあるが、招待された時にルールのようなことを書かれているので本当にそうなるのだろう。
中でも、裏五十五層の『ボーナスゲーム』は、歴代最高の難易度と言われている。その『ボーナスゲームに』私は『白の剣士』の名で参加し、ドウセツも『漆黒』の名で参加した。
「なに、懐かしく浸っているのかしら? 貴女の思い出なんて、全てが黒歴史でしょ?」
「失礼な、昔は変態じゃないわよ」
「一言も変態とは言ってないわよ」
「今も昔も変態じゃない」
「どうかしらね」
まるで割り込むように黒いワンピースを着用したドウセツが、レモンティーらしき飲料を入れたカップを持ってきて隣に座ってきた。
「で、何を考えていたのかしら? 自分の記事が載ったから有名人になった感じで調子上がったのかしら?」
「私は有名人なんかなりたくないわよ。そうじゃなくて、一番難易度が高かった『ボーナスゲーム』のことを思い出していたんだよ」
「そう」
聞いてきたのに、無表情で素っ気ない返事。
もう慣れたし、言う必要もないけどね。
「でも、思い出してみると、さ……あの時はすごかったね、『ユニークスキル』を持っている人が……“六人”も集まるなんて」
「そうね」
「あの……ドウセツさん? 聞いてきたのですから、会話しましょうよ。新聞読みながら飲んでないでさ」
「返事をしているだけでもありがたいと思いなさい」
「えー……そうなるの……」
ドウセツって、合コンとか絶対にいちゃ駄目な人そうだね。絶対空気を壊す発言ばっかするんだろうな……。
「あ、そうだ。あの四人の中に隠れボスがいるって考えたことないの?」
「考えたことはあるわ」
カップを小さなテーブルに置き、ようやく会話に参加してくれるようでよかった。
「けど、わからないじゃない。二つ名しかわかっていないんだから」
「確かに……短剣使いの『狙撃者』や、槍使いの『鋼の騎士』に『赤の戦士』………そして」
「貴女のお兄さんと同じ、“二刀流”だけど剣と斧を使う『剛姫』」
私達を含めたユニークスキルを持つ六人。その中でも、『剛姫』が一番優れていた。
剛者を持った力強さと勢い、姫のような美しさと冷静さに加えたカリスマ。あの、クールで毒舌なドウセツも彼女に従い、口が悪い猛犬の『赤の戦士』や人をからかうのが大好きな『狙撃者』に内気でカミカミな『鋼の騎士』そして、グループ行動を避けていた同時の私でさえ、剛姫に慕っていた。そりゃ、多少の文句や言い分はあったけど、剛姫のことを嫌いになんて絶対になかったし、剛姫がいるから安心っていうのもあった。
「『赤の戦士』と『鋼の騎士』はもう知っているけど……あ、その二人が隠れボスっていうのは?」
「ないわね。特に“バカ”の方は絶対と言ってもいいでしょうね。もしもの可能性もない」
「なら……残りの二人? 『狙撃者』と『剛姫』に関しては全く知らないしなぁ……」
「貴女も私も有名になったのだから、会いに来るかもしれないわよ?」
「そうか? 私だってボーナスゲームクリアするまでは『白の剣士』だったんだよ?」
「でもゲームクリア時に『白百合』って二つ名を更新して発表されたでしょ。それを知っているなら、貴女のことを知っていてもおかしくはないし、会いに来ることもおかしくはないでしょ?」
「そうなるのもおかしくないけどさ……」
私達はなんとか『ボーナスゲーム』をクリアすることができた。その時、私だけ二つ名で参加していた『白の剣士』がボス討伐後に『白百合』に変わっていた。そういう使用なのかはわからないし、過去にあった『ボーナスゲーム』に参加していたプレイヤーの体験談も聞いたことないから自分自身もよくわかっていない。なんなら、しばらく放置してもいいかなとは思っていた。
「さて、隠れボスも『ボーナスゲーム』も置いといて……貴女は今日、どうするの?」
「……どうしよっか」
兄からメールが来た。内容は早朝から剣士やら情報屋が押しかけてきて、脱出するのに結晶を使うハメになったそうだ。そう思うと、ドウセツん家に泊まっといて良かった。そしてドウセツの家には剣士も情報屋も押しかけてこない。まさかドウセツん家に私がいるなんて思ってもみないかな?
「外出れば、サイン求められるわよ」
「サインと言うより、ギルド勧誘とかして来そうだなぁ……それは少々面倒だから、しばらくはドウセツの家でごろごろかな」
「自分の家でやってくれないかしら?」
ドウセツは見向きもせず、適当に流しながらウインドウを開いて操作していた。
「だってー。なんか一時期、ギルド勧誘が二十件ぐらい来たんだよ。断るのも粘り強くて大変なんだったたんだよ。しかも今回は私が薙刀スキルを使用したことが判明されたし、裏五十五層『ボーナスゲーム』に参加していた白百合って疑われているから、それ以上のギルド勧誘とかスキルの情報を貰い来るのは勘弁してほしいわ」
「あっそう」
「うわぁ、超人事……一言だけに」
「くだらない」
「そんなバッサリ切らなくても!」
ステータスウインドウの装備フィギュアを操作して、ドウセツはいつもの黒い和装に着替え、ウインドウを閉じつつ立ち上がった。
「あれ、ドウセツは出かけるの?」
「仕方ないけどね」
ドウセツがウインドウを操作している時、目付きが一瞬だけ鋭くなったような気がした。あんまり気にすることなかったけど、仕方ないという言い方にこれは厄介事が起こりそうな予感がした。
「……それって、結構重要?」
「割とね。今後の攻略に関わることだわ」
「え、マジ?」
「その原因が貴女よ。アスナから貴女を連れてくるようにと言われたわ」
「……マジ?」
「ほら、早く仕度しなさい」
「あ、りょ、了解……」
うむを言わずに私も同行されるのね。
今後の攻略に関わることに選択が絞られてくる。確実なのは厄介事になるってことだな。そしてなんだかんだで優しいけど、拒んだりするドウセツが普通に素直に応じていることになると……これは簡単に話がつくような内容じゃないわね。
それもアスナから来ると……予測で決定づけるのが恐いので、ここらへんで考えるのはやめよう。どうせ逃げることはできない。
私も装備フィギュアでいつも白ずくめの服装を着用した。
「で、ドウセツさん。場所はどこ?」
「五十五層、グランザムよ」
「あー……やっぱりそうなのね」
実は想定外だったなんていう安い期待っていうのは、悪い予感では頼りにならないらしいね。
●
グランザムは街を形作る無数の巨大な尖搭、それら全て黒光りする鋼鉄で作られているから別名『鉄の都』と言われている。そのイメージからにして、街路樹の類はまったく存在せず、鍛冶や彫金が盛んと言うこともあってプレイヤーは多いようだ。
そんなグランザムに私達は、集合場所のゲート広場を横切った人が少ない店の前で兄達が来るまで待機していた。
「ねぇ……五十五層から本部引っ越したと言うことは」
「ない」
「ですよねー」
引っ越していたら、五十五層に来るわけないか。
昔、三十九層の田舎町から五十五層へ引っ越したギルドが話題になったことを少なからず覚えていた。
そう、五十五層にはアスナが所属している最強ギルド、血聖騎士団のギルド本部が置いてあるのだ。
プレイヤーが増えたのが考えられる理由だから、増えすぎてもっと広い土地がる街へ引っ越さないかなー……って、小さな希望を抱いていた。でも、よく考えたら例え引っ越したとしても、そこのギルドに用があるのなら、どこの層に引っ越しても変わりはないのね。
待つこと数分、遠くから駆けつけて来るアスナと、後ろからマイペースに歩いてくる兄が視界に捉えた。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「別にいいわよ、アスナには何も期待していないもの」
「なによそれ!」
「で、そんなことより、なんで私達を呼んだ?」
「そんなことって……それが、大変なことになっちゃったの」
兄がようやく追いついたところで、私達は用がある場所に向かいながらアスナの話を聞いた。
なんでも、アスナは昨日、本部に帰ってあったことを全部団長に報告してギルド活動をお休みしたいと申し出した。だけど、その団長は一時脱退を認めるには兄こと、キリトとデュエルしなければならなくなり現在に至る。
「認めるには兄とデュエルって……アスナの団長って、そんな人だっけ?」
「ううん、団長は普段ギルド活動どころか、フロア攻略の作成とかもわたし達に任して全然命令とかしないの」
アスナを含めた血盟騎士団の団長を務める名はヒースクリフ。
直接話したことないが、最強の男、生きる伝説、聖騎士などなど、様々な二つ名を与えられ、この世界において誰もが知る有名人。己のギルドどころか攻略組ほぼ全員の心を掴むカリスマ性。そして何よりも初のユニークスキル『神聖剣』は十字を象徴した一対の剣と盾を使い、攻防自在の剣技を操るその防御力は圧倒的で、一度もHPバーがイエローゾーンになったことはないと言われている。
そんな人がアスナの脱退を認めないのはなんとなくわかるが、何故条件が兄とデュエルなんだろうか。
「実は、最強が兄になる可能性があるから、その嫉妬で倒そうとかは?」
「そんな人じゃないから、あの人は。無駄な頭を使うのをやめなさい。冗談だとしたら普通につまんないわ」
「す、すみません……」
わかっていたけどもね! ドウセツの冷たいお言葉も頂くこともさ!
「キリカ」
「ん?」
「お前……本当はわかっているんだろ?」
「何が?」
「俺がヒースクリフに呼ばれた理由」
「…………」
兄って鈍いのか鋭いのかどっちなんだろうね。ある意味起用でただの不器用なのか、どっちなんだろうね。
「なんで、兄はそう思ったのさ」
「双子故の勘だ」
ようは勘でしょうよ。根拠も確信もないあてずっぽう。そんなんで当てられる側にとっちゃたまんないわね。
兄の言うとおり、ヒースクリフが脱退を申し出したアスナではなく、何故兄とデュエルすることが条件なのは、なんとなくだけど察しがつく。
「なんとなくだけど……私より直接聞いたほうがいいわよ」
「なんだよ、もったいぶって」
「当たっているかどうかわからないの。どうせ、遅かれ早かれ決めるのは兄なんだから。それよりも、問題は私だよ。アスナ、なんで私も呼ばれているの?」
「そうね、誰に呼ばれたのか私も知りたいわ。と言っても、大体は検討つくけど……」
「え、そうなの?」
ドウセツはどうやら検討がついているらしい。私はさっぱりわからないとなると、単に推理力が強いだけじゃないってことなんだろう。
「ドウセツはわかっているのね。検討通りよ、キリカちゃんを呼んだ人は」
「やっぱり……」
検討通りだとわかると、ドウセツは片手を頭に当て、ため息をついた。
ドウセツとアスナの会話からして、ヒースクリフじゃないことは確かだ。そして、並大抵の相手じゃない人かもしれない。今回は緊急用件で私とドウセツは訪れているんだから。
「着いたわよ」
歩いて行くと私達は目的地へたどり着いた。
目の前に一際高い搭、巨大な扉の上部から何本も突き出す銀の槍には、白地に赤の十字を染め抜いた旗が垂れ下がって寒風にはためいている。
「ここがギルド血盟騎士団の本部か……」
流石、最強のギルド。街の雰囲気もあってか、寒々しく威圧感がある。入るだけでも躊躇してしまいそうだ。
そんなギルドの前で、何を思ったのか、兄はこんな発言をした。
「さっさと用を済ませて、なんか暖かいものでも食いに行こうぜ」
「もう、君は食べることばっかり」
アスナは笑っているが、私とドウセツは兄の発言に呆れてしまった。でも、受け身に回るような姿勢じゃないのはちょっと見習いたいところではあるわね。
「食べ過ぎて二等身になればいいのにな、いっそのこと……」
「縮むわけないだろ! ……前から思っていたけどさ、キリカは言葉にトゲがあるけど気のせいか?」
「えぇ」
「あるのかよ!」
いいか、兄。この世には食事という幸福があるのだけど、それだけじゃないってことを私が見本を見せてやるから、ちゃんと悟って今後の勉強に励みなさい。
「じゃあ、私は終わったらドウセツとデ」
「行きましょう」
「ちょっと! なんでスルー!?」
兄もアスナはクスクス笑い、先へ進んで行った。
「もう……素直じゃないんだから」
「…………」
…………。
う、うん。
わかっている。そんな対応でスルーしたんじゃないってことくらいね!
兄達の後を追って、幅広い階段を登る。登った所は大扉が左右に開け放たれていたが、その両脇には恐ろしく長い槍を装備した重装甲の兵が控えていた。
アスナがブーツの鋲を鳴らしながら近づいていくと、兵たちはガチャリと槍を捧げて敬礼した。
「任務ご苦労」
敬礼といい格好といい、軍のイメージが強いのは私だけなのかな? そう思いながらアスナの後に続いて、兵の脇を通り抜け、搭に足を踏み入れる。
搭の一階は大きな吹き抜けのロビーになっていていた。
「アスナ、あとは私とキリカだけでいいから」
「え、でも……わかったわ」
元血聖騎士団のドウセツをアスナは信じることにした。この時点で、ヒースクリフは私を呼んだのではないと確定した。
「じゃね、兄。失礼なことしないでよ」
「お別れの挨拶をするだけだ」
いきなり入ってお別れの挨拶する気か? それ十分に失礼なことだよね。
「そっか。頑張ってね」
「おう」
でも、兄らしいから好きだね。
兄とアスナはヒースクリフが待つ場所へ移動したのを見守っていると、ドウセツは一人のメガネをかけた男性に声をかけた。
ドウセツが知っている人物かと思えば私も知っている。容姿と名前が似合わない男、ストロングスだった。
「お、お前は……っ! 裏切り者と悪口やろう! 貴様らが何しに来たんだ!?」
「悪口やろうって……」
それ、私のことなんだろうな。失礼しちゃうわよ、私だって女の子なんだからやろうってつけないでほしいわ。
そんな気に食わない表情をするストロングスではあったが、ドウセツは冷静に対処した。
「“イリーナ”副団長および指導者から呼ばれたのよ。私、新しいギルド本部の内装わからないから、どこにいるか教えてもらえるかしら?」
ドウセツがストロングス用件を伝えると、途端に表情が変わり始めた。憎しみと苛立ちを向けていたのが抑えだした。そして渋々承諾を受け入れたように、方向を指し始めた。
「イリーナ副団長なら、そこを真っ直ぐ行ったところにある、一番奥くにいる。わかったら、さっさと行け」
「わかったわ。行きましょう」
「え、うん」
ストロングスに用がなくなったドウセツはさっさと奥くへと進んだ。それでもストロングスはドウセツに対して、苛立ちを吐くことなかった。
「……で、ドウセツ。イリーナって誰なの?」
私は気になったことをドウセツに訊ねた。
「聞いたでしょ? 副団長及び指導者って」
「詳しく説明してよ。つか、副団長はアスナじゃなかったの?」
「前にアスナが言ってきたこと言わなかった?」
「……言っていたっけ?」
「アスナが副団長って言ったこと覚えている?」
「あー……あ」
そう言えば、一昨日『ラグーラビットの肉』を使う食事会をするために、アスナの家に向かう時、アスナとドウセツがそんなことを話したような気がした。
いや、まさかもう一人副団長がいるとは思わなかったな。
「で、そのイリ―ナさんのこと教えてよ」
「仕方ないわね。ヒースクリフさんが血聖騎士団でナンバー1なら、イリーナさんはナンバー2よ」
「あ、そこはアスナじゃないんだ」
「アスナはイリ―ナさんと同じ副団長だけど、二人を比べたらアスナは比べるほどじゃないくらい、イリ―ナさんの方が上だわ。むしろ、ヒヒースクリフさんが血聖騎士団の盾ならばイリーナさんは血盟騎士団の矛と例えられるわ」
「え、そんなに強いの!?」
「強いだけじゃない。『ヒースクリフの妻』って言う……どうでもいい例えられているけども、血盟騎士団にとっては彼女がいなければ成り立たない存在だわ。むしろヒースクリフさんよりも慕われている。母のような存在」
「なんでそんな人が前線に出ないの……?」
そうだ。話を訊いてみて、ドウセツが嘘でもなく、大げさに言っていることではなくそのままの気持ちで話しているのはわかった。だから、イリーナという人物はアインクラッドの世界で最強のプレイヤーと同格なんて、頼れる分恐ろしいものを感じた。だって、私はそんなことちっとも知らなかったんだから。
「イリ―ナさんが前線に出ないのは私も疑問に思ってみたが、そこはアスナにまかせてあるから本人はまだ大丈夫だと思っていと思うわ」
「ドウセツでもよくわからない感じ?」
「そうね。それでもイリーナさんがやっていることは間違ってはないわ」
「そうなの?」
「貴女は、どうして血聖騎士団が最強とも呼ばれるようになったか知っている?」
「えっと……ヒースクリフとアスナがいるおかげ?」
血聖騎士団はどうやら、ヒースクリフ直々に声をかけて勧誘するのを聞いたことあった。だから見込みがありそうなプレイヤーを勧誘するのはヒースクリフ。入団したら、アスナの指示で強くなっていき最強とも呼ばれる所以なんだろうとは思った。
「イリ―ナさんを知らない人から言えば、それであっているけど、血盟騎士団が最強と呼ばれるのはイリ―ナさんの指導によってよ」
「そう言えば、指導者って言っていたよね……じゃあ、前線には出ずに、ギルドメンバーを鍛えているってことなの?」
「答えが出たわね。その通りよ。学校で例えるなら、ヒースクリフは校長、アスナは生徒会長、その他の人達が生徒なら、イリーナさんは先生。血聖騎士団にいた私も、今のアスナもイリーナさんの教えによって力をつけられたわ。ストロングスも、バカな短気な人で貴女には簡単にやられたけど、あれでも攻略組の中では上位に入るわ。無論、他の人もよ」
仮にも二つ名をつけた『閃光』のアスナも『漆黒』のドウセツも攻略組の中ではトップクラスだ。しかも、ドウセツは血聖騎士団の副団長であるアスナとイリ―ナと比べれば、アスナは比べるほどではないと称賛していた。アスナと一度デュエルしたことあるけど、その剣筋は凄まじく、視認さえ困難になる、高速の剣技に驚かされた。そんなアスナも比べられない程の強さで、メンバーを鍛えている人って、どんな化物染みた人物だよ……。
その人の恐ろしさを強さを感じられていると、目的地の一歩前にたどり着く。ドアの先には先ほど恐ろしいと思ってしまったイリ―ナが待ち受けている。そう思うと、初めてフロアボスの対面する前の緊張感を湧き上がってしまう。
「行くわよ」
「ちょっ……」
深呼吸する暇も与えずに、ドウセツはノックして答えを待たずに開け中に入った。
「し、失礼します!」
ドウセツのせいで、一人でドアの前にいることなんてできなくなってしまい、腹を括って部屋に入った。部屋の中は、血聖騎士団のギルド本部の外見が鉄で覆われた寒々しい雰囲気とは違い、壁や家具、椅子などは秋色に統一されていた。だからか、不思議と心が落ち着く。今さっき、緊張していたのが嘘のようだ。
「あら、失礼しますは言わなくてもいいのに……」
中央に半四角形のウッドテーブルが置かれて、その向こうに椅子に腰掛けて彼女は微笑んでいた。
「始めまして、キリカ」
彼女が……。
「わたしはイリーナ。アスナと同じ副団長で指導者もやっています」
ナンバー2、もう一人の副団長、血聖騎士団を最強まで言わせた指導者、血盟騎士団の矛、イリーナ。
外見は二十代の前半だろか、空色のセミロングヘアに、意外としっかり気味の体系で真紅と純白を合わせたローブに包んだ姿は勇者っぽい気がする感じでもあれば、OLの美人と言う感じで意外と派手すぎとは言わないけど地味な感じでもなかった。
つまり、簡潔に言うと、勇者っぽい美人さんだ。だけど、あんまりラスボスそうとか強そうには見えない。というか、戦闘なんかしなさそうだ、勇者っぽいのに。
「始めまして、イリ―ナさん。アスナを含めた血聖騎士団の人達にはボス攻略時、助かっています」
「そう。でも、それはキリカもよくやっているんじゃなくて?」
「いえ、私一人では無理なので……」
「そっか……そんなことよりも、今朝新聞を読んだわ。すごい活躍だったみたいじゃない」
「あ、いえ……私よりも断然にキリトって言うソロプレイヤーが活躍していましたから、私なんかまだまだです」
「そう? わたしは全然そうは思わないわよ」
なんか思っていたよりも穏やかな人だ。もっと、先生っぽい人なんかじゃないかと思っていたけど、イリ―ナさんを会話していると、なんか保健室の先生のようだ。みんなに慕われていて、なおかつ良き相談とかしてもらいたい感じがする。
でも、本当に血聖騎士団を最強ギルドまでに育てた人なんだろうかと疑ってしまいそうだ。
「それにしてもドウセツは本当に久しぶりね。いつ以来かしら?」
「私が脱退した時以来です」
フフッとイリーナさんは微笑むと、私とドウセツを見比べてまた微笑む。
「昔はアスナとドウセツは姉妹みたいで仲良くやっていたのが懐かしいわね」
「え、仲良くやっていたの?」
「作り話やめてもらえませんか? この人バカなので、未だにツチノコがいると信じているんです」
「それこそ作り話でしょうが!」
自慢じゃないが、サンタの正体は小学一年生の時から知っていたんだからな。
……ツチノコが実際に存在することは信じていたのは中学までだったことは秘密にしとこう。
「けど、アスナとはいつも一緒にいたのは作り話じゃないよ? 本当の姉妹のように……実はやっぱり姉妹じゃないの?」
「だから、私に姉はいませんから」
「デレちゃって」
「デレてないです。デレなんかありませんから」
「そっか」
終始、イリーナさんは微笑で対応する。それが気に食わないのか、ドウセツはうんざり気味にため息をついた。
珍しいな、ドウセツが振り回されるなんて……それにイリ―ナさんと会話する時、なんだか緊張? みたいな感じがするのは気のせいかな?
「そろそろ本題に入ってください」
「ドウセツはそうしてもらいたい?」
「はい」
「そうね……って、言いたいけど、前置きが必要なのね」
「前置きってなんですか? 結論言えばいいじゃないですか」
「それもそうね」
イリ―ナさんは悩んでいたっぽいけど、案外簡単に決断して、机の上で両手を組み合わせて結論を伝えた。
「結論からいうと、キリカとわたしで勝負しない?」
「え!?」
確かに前置きは必要だったかもしれない。急にわたしとイリ―ナさんと勝負するって結論を出されるとどうやって反応すればいいのやらと混乱してしまう。そもそも勝負って、なんの勝負なんだ?
「え、えっと、それは……デュエルで、いいんでしょうか?」
「えぇ」
イリーナさんは爽やかな笑みで頷いた。
いや、ちょっと待ってよ。なんで面識ないのに私と決闘する必要があるのか? 知っていても私と決闘したいものなのか?
わからないから私はイリ―ナさんに訊ねる。
「その、ただの勝負じゃないですよね?」
「ただ戦いたい……って言えたら、ちょっと笑える話じゃない? でも、ちゃんと理由があるのよね」
「その理由とは?」
「血聖騎士団に入ってほしいのよ」
「えぇ!?」
まさかのスカウト!? しかも、相手は血聖騎士団で副団長直々に!? こんなことって、滅多にないことだろう。
驚いたけど、私の中で答えは決まっている。私は血聖騎士団に入る気はない。理由はいろいろあるが、何よりも今はドウセツと一緒の方がやりやすくていいからが一番の理由だろう。
だけど、イリーナさんは断ることを知っているに違いない。だから、私に決闘で……剣で、私を入れようとするんだ。そうじゃなきゃ、結論は血聖騎士団に入れって言えばいいことになるんだから。
「……おかしいわね」
「ドウセツ?」
話を聞くだけで、黙っていたドウセツが口を挟んできた。対してイリーナさんはそれも計算のうちかのように、落ち着いた様子だった。
「わたしになにか言いたいのね。どうぞ」
「わかっているなら、答えてくださいね」
「でも、ドウセツの言葉を聞いてからにするわ」
「では、単刀直入に言います…………何を企んでいるんですか?」
「フフッ、探偵ドウセツから事情聴取か。キリカのためかしらね」
イリーナさんは茶化しつつ、返答する。
「企みってほど、悪いことじゃないんだけど……実はね、昨日アスナがしばらくギルドを休むって申してきたの」
「それはアスナから聞きました」
「あら、そう。なら早い話、わたし達としては、アスナがギルドにいないと戦力が落ちるし、士気も下がるような気がするわけ。ほら、基本的にアスナがみんなを引っ張るような人でしょ。そんなお姫様がいないといろいろと気が下がるだけでしょ?」
「イリーナさんが攻略に参加すればいいでしょ?」
「わたしは部下の育成に専念したいから遠慮しとく」
ドウセツはそんなイリ―ナさんの言葉に軽くため息をつく。もうそれは諦めているように見えた。
「で、よくよく考えたの。急にアスナが抜けるから、誰の影響かなーって本人に訊ねたら、キリトとペアを組むって言うじゃない。だから、わたし、良いこと思いついてヒースクリフにお願いしたの」
「それって……まさか」
「あら、キリカは察しが良い方なのね。予想通りだと思うけど、ヒースクリフにキリトとデュエルして、勝ったらギルドに入れさせてねって」
やっぱり、そんなことだろうとは思っていたが、まさかギルド勧誘じゃなくて、実力行使で勧誘させるとはね。戦力である副団長のアスナの引き抜きを阻止すると同時に兄を自分達のギルドに入れさせる。わ何度も説得するよりもわかりやすい分、それに負けたら有無を言わずして従うだけなのは、ありなのかなしなのかな。
とにもかく、イリ―ナさんの知恵のおかげで兄は厄介なことに巻き込まれたのは、無事を祈るしかないか。
「で、イリ―ナさんは私とのデュエルに何の関係があるんですか?」
「関係あるけど…………これ言うと、嫌味に聞こえちゃうんだよね」
「い、嫌味?」
意図がわからない。それにイリ―ナさんは嫌味言う人じゃないから、あんまりピンとこなかった。
「……なるほど、そういうことですか」
「ドウセツ?」
ドウセツはイリ―ナさんの考えがわかったようだ。でも、理解したとはいえど、あんまり良い表情ではなかった。
「あら、ドウセツわかっちゃった? それは残念だなー、ドウセツも驚いてほしかったんだけど」
「キリカと一緒にしないでください」
何気に傷つくことをサラッと言わないでよ。
それでもお構いなしに、ドウセツはイリ―ナさんが考えていることを言葉にした。
「どうせ貴女のことだから、ヒースクリフさんが勝つから、キリカにチャンスを与えつつ、キリカも入れさせようという悪巧みですね
「あら、わかっちゃったか」
あぁ、なるほど。兄がヒースクリフに負けるから私にチャンスを与えようと……いやいやいやいや。
「ちょっと待った!」
「うん、当然の反応ね」
そんな予測した反応を当て、落ち着いて微笑んでいるイリ―ナさんに私は問い詰めた。
「どういうことですか!」
「ドウセツが言った通りよ。なんなら、改めて言い直す?」
「いえ、いいです。なんであ……キリトが負けるって決め付けているんですか!」
「決まっているわ。ヒースクリフが絶対に勝つからよ」
「なっ!?」
この人……本気で言っているの? 本気で兄が絶対にヒースクリフに勝てないって思っているの? いや、口にするだけならタダだ。絶対というものは存在しない。
「絶対にヒースクリフさんが勝つとは限らないですよ」
「それじゃあ、キリカはお兄さんが絶対に勝つと思っているの?」
「いえ、絶対には……って、なんで私とキリトが兄妹だと知っているんですか?」
「ん? 昔、二人が兄妹みたいな会話を思い出したからよ」
まぁ、最初の頃は普通に兄って呼んでいたから、それを知っていてもおかしくはないか。なら、もう隠す必要はないか。
「絶対なんてありませんが、兄が簡単に負けるとは思いません」
「残念だけど、勝つのはヒースクリフよ。絶対に負けることなんかないわ」
「……何故、ヒースクリフが負けないって言い切るんですか? 根拠があるんですか?」
「根拠なんてないわ」
自信満々にイリーナさんは強い眼差しで言い放った。
「わたしはヒースクリフを信じているから、負けることなんて考えてない」
穏やかな人であったイリーナさんの発言には秘めた暑さと絶対なる自信を感じられた。口にするだけならタダになる。だけど、イリ―ナさんの挑発とか虚勢なんかじゃない。信じる気持ちがまるで事実になるように発言している。
それはヒースクリフのことを絶対なる信頼がイリーナさんにあるからだ。単に夢見過ぎているだけなら、良かったんだけど、イリーナさんはそんな人じゃない。根拠なんてないけど、そんな気がする。
「で、話は戻しますが。私とイリーナさんのデュエル。私が勝ったらどうするんですか?」
ここで兄とヒースクリフがどっちが勝つかの予想を繰り広げても、結果はわからない。少なくとも明日以降知ることになる。
私はそんなことをするためにイリーナさんから呼ばれたわけじゃないわ。
「キリカが勝ったら、お兄ちゃんであるキリトの脱退。もちろん、キリカが負けたら入団ね」
兄が負ける前提なのは釈然とはしないけど……。
「わかりました。でも、兄が勝つと思いますから、一つだけなんでも言うことを聞けるってことでいいでしょうか?」
兄が勝つことを信じて、私は敢えてイリーナさんとのデュエルを受ける。当然、私も負ける気なんてない。
「そうね、それでいいわ。」
イリーナさんは微笑んで受け入れてくれた。
「じゃあ、場所はドウセツが好んでいる五十二層で」
「わかりました」
「なんでそこなのかしら? 私、関係ないけど?」
ドウセツは不服そうだったけど、結局はイリーナさんが強引に決められてしまった。
●
「ほっとけばいいのに」
「何が?」
イリーナさんと別れた、私達は寄り道せず、ドウセツの家へと帰宅。帰宅中にドウセツに話しかけられた。
「貴女のお兄さんが負けても、貴女になんのメリットもないわよ」
確かにそうだ。結果的には自分のためよりかは兄のためになるんだから。
「別になくてもいいよ。血聖騎士団を最強ギルドと呼ばれるように育てた人と手合わせできるなんて、中々ないのよね」
「バカな結論ね」
「バカ言うな。つか、兄が負ける前提で言ってない?」
「貴女はバカだから教えてあげるわ。イリーナさんが言っていることは、ムカつくけど確かになるわ」
ムカつくって、ドウセツでもそんな風に思っているのね。なんかなー、ドウセツはイリーナさんの強さをわかっているから、兄が負ける前提で話すのがなんか嫌だなー……兄だって、すごいんだからね。
そこは兄を信じるしかない。私は私で頑張らないと、負けたら血聖騎士団に入団されてしまう。
「じゃあ、イリーナさんの特徴とか教えて」
「過去のことなど無意味よ。知っていたところで、どうにかなる相手じゃない」
「ある程度ぐらいは聞いて起きたいの」
情報ない強者と戦えば私が負ける可能の方が大きいし、絶対回避は一度しか使えないから、無闇に使用できない。
ドウセツはイリーナさんの対策をしたところで実戦するのと違うから無意味だと思っているのか、ドウセツが知るイリーナさんの特徴を教えたところで、勝てる見込みはないとでも思っているかな?
そう思っていたら、失礼だよ。
「とにかく、なんでもいいから教えてよ」
「……イリーナさんは基本的に盾なしの片手斧を使用してくる。でも、片手槍も剣も使っているから、これはどうでもいいことよ」
「どうでもいいことなのか?」
「あんまり重要なことじゃないのよ。重要なのは、イリーナさんは自分の癖などがないってことよ」
「癖がない? それほんと?」
「あったとしても上手く隠している。あえて偽りの癖を使ってカウンターする手もあったわ」
癖がないってことか。つまり確定した技がなく、あらゆることに対応できるオールラウンダータイプってことなのかな? ドウセツの話を聞いていると自分の癖がないってことはわかっているから、結構起用でもあるのか。
うわぁ……ボスよりも厄介だ。ちょっとデュエルを申し込んだことを後悔する……。
「じゃ、弱点とかは?」
「ない」
「ない!?」
「イリーナさんにスタイルは存在しない、それはあらゆるスタイルに簡単にも変えることが出来る。そして、ヒースクリフさんと同様にHPバーがイエローになったことなんて一度もない。それでも、力が劣るなんていうことは決してない。逆に、血聖騎士団の中では、ヒースクリフさんを凌ぐほどよ」
そう言えば、イリーナさんのことを血聖騎士団の矛って呼んでいたっけか。癖もなく、あらゆるスタイルに変えることができる起用さに加えてヒースクリフさんよりも凌ぐ力を持っている。き、聞けば聞くほど、私に勝てる可能性があるのだろうか?
いや、弱気になったちゃ駄目だ。どんな相手でも絶対に負けることはないし、弱気になっていたら勝つことも難しい。
「貴女はそんな相手に勝てるのかしら?」
「勝てるさ」
ドウセツの瞳がちょっと揺れたような気がした。内心驚いてくれたら、なんか嬉しいけどなー……なんてね。
「イリーナさんが強そうなのはわかった。聞いた通りだと私に勝てる可能性あるのかなって、弱気になっちゃったけど、私にだって勝てる可能性はあるよ。イリーナさんとの駆け引きで勝って、上手く『絶対回避』を使えば勝てる」
「イリーナさんは何度か私とアスナで戦ったし、アスナと組んで戦ったことあるけど、一分も持たなかったわ」
「え!?」
ちょっと、自信持って勝利宣言を伝えたのに、士気を下げるようなことを今言うのか!?
「だから、『絶対回避』を決めないと……負けるわよ」
「わ、わかっている」
多分、ドウセツが言ったことは血聖騎士団に所属していた頃のことだろう。それでも、攻略組の上位に入る二人が一分も持たない。そして、ドウセツとアスナのことだ、連携技も使っているだろう。それでも勝てないってことは、複数相手でも対応できる何かを持っているってことになる。
私が勝てる可能性、とりあえず『絶対回避』を使用せざるを得ないだろう。だけど、ただ使用するだけじゃ駄目だ。『絶対回避』はイリーナさんの隙を作るために使用すること、それがイリーナさんに勝てる一つの方法。
今はそれしか思いつかないから、あとは実戦で学ぶしかない。それができるといいんだけど。
「そう言えば……」
ドウセツが何を言いかけたが、珍しく躊躇するも、すぐに平常心に戻して発言した。
「貴女、前に大人数は苦手なこと言ってきたけど、大丈夫なの?」
「それって負けた場合でしょ? ……もしかして、心配してくれているの?」
「いいから答えなさい」
否定するかも思ったら無視ですか……否定しないってことは、本当に心配しているのかな? 負ければ私はギルドに入ることになってしまう。ソロではなくなってしまう。
「こうやって心配してくれる人がいるんだから、負ける気なんてないし、ドウセツが一緒にいてくれるおかげで大丈夫だよ」
おかえしにドウセツの前に立って、笑顔で言い放ってやった。
すると瞬時にドウセツは私を抜き、早足になって進んでいく。
「あれ? ドウセツ……もしかして」
「照れてない」
「いや、まだ何も言ってない」
「思い込みもいいところだわ。変態化させるようなゲームのやり過ぎよ。少しは川の水に頭を入れ続けたらどうなの? 永久に」
「溺れろって言う意味!?」
「そうよ」
「そうなのかよ!」
後ろ姿で表情は伺えないけど、なんとなくドウセツの別の一面が見られた気がする。
「この際、負けて人間恐怖症地獄でも味わえばいいのよ」
どんな地獄かよ、と思いつつ。
「嫌だね」
笑顔かつ全力で否定してやった。
後書き
SAOツインズ追加
裏層
おそらくこの作品しかない。オリジナルのダンジョン。作中で書かれた通り、選ばれた五人のプレイヤーが一週間以内でクリアすれば、ボーナス特典が与えられ、クリアできなければペナルティが与えられる仕組みになっている。ギルド勧誘防止なのかは未だに不明だが、裏層攻略時は二つ名みたいな名前に変更され、アバターも本来使うはずだったアバターに変化している。作中で明確に判明しているのはキリカとドウセツと四人のユニークスキルの使い手が挑んで成功している。
イリーナ
血聖騎士団のアスナと同じ副団長を務めているだけではなく、血聖騎士団のメンバーの指導もしている。生徒会のノリで副会長が二人いるなら、オリジナルとしてもう一人副団長をつけたのがイリーナです。アスナとは違って、イリーナは裏方で活躍をしている。
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