迷子の果てに何を見る
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第二十四話
前書き
やっぱり娘は可愛いな。
可愛いは正義って言葉は真理だな。
つまり可愛いものを貶す者はこの世から消し去ってくれるわ。
byレイト
第二十四話 新しい家族
side レイト
「少し落ち着いたらどうなんだ詠春」
「分かってはいますよ。分かっているんですが」
先程から詠春が落ち着き無くうろついている。
いい加減目障りになって来たので意識を奪おうとも思ったが、昔の自分と比べると何も言えないのでやめておく。だがしかしこれだけは言っておかねばならない。
「詠春、まじめな話をするから座れ」
「えっ、はあ」
詠春が座ったのと同時にゆっくりと言い聞かせる様に説明する。
「今までオレもキティもリーネの面倒を見ていたせいで気付かなかったが」
5年掛かったが2ヶ月程前にとうとうオレとキティの間に子供が産まれた。瞳の色はオレと同じ黒で後はキティに似ている女の子だ。名前はリーネ・M・テンリュウ。先に行っておくがオレはこの子で8人目になるから詠春みたいに焦ったりはしていないぞ。
「お前の子供はおそらく今のナギと同じ位の魔力を持っている。これがどういう意味か分かるな」
「今の......ナギと同じ位............では......木乃葉は」
魔力を持つ女性にとって一番危険な時期は出産時だ。産まれてくる子供はその身に宿る魔力を一度全て放出するまで魔力のコントロールが出来ずに母体を苦しめる。それがナギと同等の魔力を持っている。嫌な予感が詠春の頭をよぎったのだろう。今にも倒れそうになる。
「落ち着け詠春。その為にオレがここに居る。命は大丈夫だ」
「そ、そうでしたね。あなたが急に出産に立ち会いたいと言った時は何故と思いましたがこの為でしたか」
「そうだ、エヴァからも頼まれているからな。さっきから割と本気で頑張ってるからあんまりうろちょろするな。手元が狂うと不味い事になるぞ」
「わかりました」
「それでここからが重要。ナギと同等の魔力がある子供を育てる方針だ」
これが重要。できるだけ詠春達の要望に応えてやりたいが、オレとしては魔法の英才教育を施して帝王学も学ばせておきたい。ハッキリ言って関西呪術協会は一枚岩ではない。現在は3つの派閥に分かれている。
1つは穏健派、詠春が筆頭で東側と仲良くやっていきたいと考えている派閥だ。
もう1つは融和派、木乃葉が筆頭でオレとキティもここに所属している。穏健派に近い考えだがけじめはきっちりとってもらいたい考えの派閥だ。大戦中、詠春がMM側についていたため東の麻帆良学園から援軍要請があり、渋々ながらも要請に従い部隊を派遣したのだが、役割は捨て駒。グレート=ブリッジ奪還戦においてオレの兵器を運び、詳細を知らされずに起爆され巻き込まれている。そこら辺の資料を見た木乃葉は本当に良い笑顔だったとここに明記しておく。まあ、戦争だから仕方ないにしても謝罪等も一切無い状態では仲良くやっていくのは無理というのが融和派だ。
最後、バカ派もとい強硬派。ただでさえ日本に魔法を持ち込みこちらの勢力を減らされ、日本最大の霊地である麻帆良を占拠されたことが気に喰わないと考えており、麻歩良に襲撃を加えている派閥だ。気持ちは分からないでも無いし、向こう側からも襲撃してくる事もあるので放置はしているが産まれてくる子供が莫大な魔力を持っているならそれを利用して封印されている鬼やら妖怪を使役して攻め込むのは眼に見えている。
「......できれば、裏には関わって欲しくないとは考えてはいますが、無理だとは思います。けれど知られるまでは一人の少女として暮らして欲しい」
「なら、木乃葉を連れてどっか海外に逃げろ正直言って無理だ」
「分かってはいます。だからこそある程度成長したらあなたに、『教授』に魔法の教えていただきたいと考えています」
「......それは関西呪術協会で受け入れられている魔法で良いのか」
「はい、できればで結構ですので」
「分かった。それからな詠春」
「おぎゃあああああ」
隣の部屋から大きな泣き声が聞こえる。
「産まれたぞ」
詠春が駆け出し部屋から出て行く。
それを見送り、庭に出る。
「まあ、これ位はタダでしてやっても良いだろう」
こちらに向かってくるバカ派の者達を結界に捕らえる。
「さて、お仕置きと行こうか」
自らも結界に飛び込みお仕置きを開始する。
3年後
オレとキティの子であるリーネと詠春達の子であるこのかが庭で遊んでいるのを眺めていると詠春がやって来た。
「どうした詠春。めずらしく儀礼用の服装なんてして」
「いえ、これからちょっと烏族の里に行く用事がありましてね。このかに挨拶だけして行こうかと」
「烏族の?なんでまた」
「いえ、それがその、ちょっと来て欲しいと」
詠春が急に吃りだした。オレに何かを知られたくないのだろう。いつもなら無視する所だが、なぜか付いて行かなければならない様な気がした。
「詠春、オレも付いて行くぞ」
「ええっ!いやその」
「礼服ならある。問題は無い。それになぜか行かないといけない様な気がしてな」
「......分かりました」
「すまんな」
「いえ、いいですよ。このか、ちょっとおいで」
「リーネもだ」
ボールで遊んでいた二人はすぐに駆け寄って来て胸に飛び込んで来た。
子供は元気が一番だな。
「どうしたん父様」
「これから私とレイトは出かけてくるから二人とも賢く待ってるんだよ」
「「はぁ〜い」」
「良い子で待ってたら明日は久しぶりにお菓子を作ってやるからな」
「「わぁ〜い」」
「じゃあ行ってくるからな」
「「いってらしゃい、(お)父様」」
娘に見送られてオレと詠春は本山を出て烏族の里に向かった。
「そういえば詠春。何で烏族の里に行くんだ」
「......ある子供を引き取りにいくんですよ。...........あなたが全力でキレる事が理由で」
嫌々ながらも詠春は答えてくれた。
オレが全力でキレる事?
『誇り』を穢される事、ではないな。
家族に手を出される事、でもないな。
後は、
「ふ〜〜〜、さて夜になるのを待つか」
「いや、待ってください」
オレがキレる最後の一つ。
化け物ではない者に化け物扱いする事。
「ああ、そうだな」
「よかっ」
「今使ったらその子まで殺してしまうな」
「お願いですから殺すのだけは勘弁してください」
詠春がその場で土下座して30分程説得してくるので化け物扱いされている子供の状況次第だと伝える。
そして烏族の里に付くとすぐに長の家に案内される。
「この度は我らの勝手な願いを聞いていただきありがとうございます」
「いえ、こちらも日頃お世話になっているのでこれ位の事なら」
「そう言って貰えると幸いです。おい、お待たせしてどうする。早く連れて来い」
「いっ、いえ時間はありますからそう急かさなくとも」
オレの殺気を感じ取ったのか詠春が冷や汗をかいている。
「まったく、ただでさえ半妖だというのに忌み子とは、まったく厄介なもんを残して行きよって」
「............」
詠春の冷や汗の量が半端ではない量になっている。それに対して烏族の長はオレの殺気にまったく気付いていない。面白いなこれ。
そんな事を考えていると鎖とそれを繋いでいるものを引きずる様な音が聞こえて来た。
「失礼します」
「おお、やっと来たか」
戸が開けられ入って来たのは鎖を持った烏族の男と鎖でグルグル巻きにされ、引きずられている髪も羽も白く、衰弱しきった一人の少女だった。
ブチッ
「その子が話にあった子ですね。じゃあこちらで預からせてもらいますね」
「えっ!?」
オレが敬語で対応した事に詠春が驚いているが今は無視する。
「ええ、そうです。それではよろしくお願いします。おい、鎖を解け」
長の命令ですぐに鎖が解かれたのですぐにその子を抱きかかえて身体の状態を調べる。
気を失っており、完全に栄養失調で虐待の痕もある。筋肉もほとんど付いてない事からほとんど拘束され続けていたのがすぐに分かる。
「それではこれで失礼します。長、帰りましょう」
「えっ、ええそうですね」
里を出ると同時にゲートを使い本山まで戻る。
「詠春、この子はオレが引き取る。あと、烏族の里が一つ滅びるだろうが反論は聞かん」
「......分かりました。ですが、その正体だけは」
「分かっている。関西呪術協会には迷惑はかけない」
「キティ、戻ったぞ」
「おかえ、むっ、その娘はなんだ」
「引き取った烏族の子供だ。それより見てくれ」
子供をキティに渡すとオレと同じ様に色々と調べる。
「ここまでされる理由は何だ」
「普通の烏族は羽が黒いだろう。だが稀にだが羽が白い者も産まれる。そして霊格から言えば白い方が高いんだが、逆にそれが恐ろしく忌み子として扱われるらしい。......ようするに化け物扱いだ」
「潰すぞ」
「もちろんだが、その前にこの子の治療が先だ」
「ああ、分かっておる」
キティが魔法薬を取りに倉庫に向かう間にオレは布団を敷き、虐待の痕だけでも先に治しておこうと回復魔法を使う。しばらくすると少女が眼を覚ます。その瞳は紅く綺麗なものだった
「......だ............れ」
喋る事すらも許されていなかったのだろう。声がまともに発声されていない。
「オレかい、オレは君の新しいお父さんだよ」
出来るだけ優しい声で答えてやる。
「と......と、さ......ま?」
「ああ、そうだ。お母さんももうすぐ来るし、お姉さんも居るぞ」
「ほん......と」
「本当さ。疲れてるだろう、明日になったら会おうな」
「う......ん」
「名前はあるかい」
「......せ............つな」
「せつな、か。なら今日からは天流・M・刹那だ」
「う......ん」
「さあ、お休み。眠りの霧」
眠りの霧を唱え寝かせてやる。
眠りにつくと同時にキティが魔法薬を持って来た。
「聞いていたのか」
「ああ、私も賛成だ。この子には私の様に幸せになる権利がある」
「そうだな。まあ、今は治療と」
「バカどもの駆逐だな」
次の日、一つの烏族の里は滅んだ。生き残りは誰もおらず犯人は一切分からなかった。
そしてオレたちに新しい家族が出来た。
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