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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第十七話

 
前書き
心からの叫び程心地よい言葉は無い。
それが私利に溺れた物だとしても。
byレイト 

 
第十七話 教授として

side レイト

ナギと褐色の男以外の赤き翼のメンバーに事の概要と敵意が無い事を示し今は赤き翼の拠点の一つに来ている。ナギと褐色の男(名前はジャック・ラカンらしい。さっぱり知らん)は大量の睡眠薬を穴の中に放り込んでから回収、今も眠りについている。

「これが噂の紅き翼の秘密基地か!どんなところかと思えば掘っ建て小屋ではないか!」

オレ達が助け出した女性と少女はウェスペルタティア王国第2王女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとヘラス帝国第三皇女、テオドラだったらしい。

「まったくだ。罠の一つも仕掛けておらんわ、見つかりにくい場所に建てている訳ではないわ、物資がある訳でもない。いくら何でも酷すぎるわ」

「エヴァ、赤き翼は今まで転戦続きで拠点らしき拠点が無くても仕方ないさ。二人で旅してた時は休める場所があるだけでも結構違うかっただろう」

キティの名は他人の前では呼んで欲しくないらしいのでエヴァと呼んでいる。
オレもそれには賛成だ。
そして迂闊にもキティと呼んで遊ぼうとしたアルビレオ・イマは一本一本丁寧に骨を全て折った上(内蔵には一切ダメージを負わせる事無く)でアーティファクトを燃やしてやった。オレとキティの半生を知ろうとしやがった酬いだ。

「それにしても『形なきもの』と『闇の福音』の教授達に出会えるとは思っても見なかったのう。そなた達の論文は勉強になったし世話にもなった。礼を言わせてもらうぞ」

テオドラが言う論文はオルザレク式招霊術に関する論文だった。帝国ではこのオルザレク式招霊術の正しい使われ方、愛する人への最期の言葉や相続問題の解決等に用いられ、戦闘での使用は固く禁じられているらしい。
ちなみに連合では死霊術として用いられているらしいが適正が高い者がほとんどおらずあまり使われてはいないらしい。

「いえ、お気遣い無く。これからも招霊術が正しく使われるのであればそれに優る喜びはありません」

キティの論文はともかく、オレの論文は他者の論文をオレの名前で出しただけの物である。これで褒美をくれるとか言われても素直には喜べない。
急に魔力の高まりを感じ素早く魔法障壁を展開する。
魔法障壁に当たったのは雷の暴風。
つまり

「覚悟しやがれ」

ナギがまたもや飛びかかろうとしていた。

「少し控えておれ」

それをアリカ王女がビンタで吹き飛ばしていた。
その際、手に今まで見た事も無い魔力と精霊を確認した。
オレはキティに秘匿回線の念話を送る。

(キティ、今のをどう思う)

(アレが噂にある王家の魔力と呼ばれている物だろう)

(王家の魔力?)

(なんでも魔法や気を無力化するらしい)

(それは確認した。ナギの魔法障壁が割れずに消えていた)

(ほう、一体どういう原理やら)

(そうだな、一瞬過ぎて分からなかったが魔力を拡散して、待てよ)

(どうした?)

(いや、ちょっと待ってくれ。つまり、アレはこうなってこっちはこうやって、するとこうなるだろう。結果として......うわぁぁ)

(不安になるだろうが)

(どっちから聞きたい?)

(結果からだ)

(このままだと魔法世界が滅びる)

(はあ?)

(あの王家の魔力だが魔力の拡散だと思うんだが、もしかしたら完全に消滅させているのかも知れん。それで元老院を殺し回ってる途中に完全なる世界とか言うのが何かをやろうとしているらしい情報もあったんだがその中にウェスペルタティアって単語があったんだ。これがたぶん王家の魔力に関係ある事だ仮定して、オレがこっちの世界に戻って来た時に違和感があったんだ。調べてみたら大気中の魔力量と精霊の数が減ってるんだよね。恐らくこの魔法世界を構成している魔力が王家の魔力で減ったからだと思うんだけど、魔力という事は儀式等で増幅も可能だから王家の魔力を一気に解放すると)

(大気中の精霊がいなくなれば魔法は使えなくなるな。しかしなぜ魔法世界が消滅するんだ?)

(え?気付いてないのか)

(何にだ)

(ここ箱庭なんだけど)

(箱庭?)

(具体的に説明するならダイオラマ魔法球があるだろ、アレの元になった技術だと思う。アレを球体の中に詰めずに何ていうか次元的位相をずらして人が住める様な環境を設定した世界なんだと思う。ゲートが決まった期間でしか開かない理由ってのが魔力が外に出るのを抑えるためだとすれば納得もできるでしょう)

(なるほど、理にはかなっている。だがそうするならここはどこだ)

(それに関しては旧世界の星の並びと魔法世界の星の並びから計算すると、旧世界で火星と呼ばれる星だな)

(そこに人は)

(もちろん住めないだろうな。元の世界の天文学に基づいて考えるならおそらく気温は−50℃。星の大きさから考えるならたぶん空気すら無いな)

二人とも少しの考え

((どうしよう?))

同じ結論に至ってしまった。

「重ね重ね申し訳ない『形なきもの』殿『闇の福音』殿」

ナギへの折檻が終わったのかアリカ王女が頭を下げにきた。

「お気になさらずにこちらにも非はあるので。それで私たちをここに連れて来た理由を話していただけますか」

ちなみに先程からキティが黙っている理由は口論になるのが眼に見えているからと交渉を任せられているからだ。

「その理由はオレから話そう」

「あなたは?」

「ガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグ。連合の元捜査官だ」

「元?」

「ああ、色々な捜査をしているうちにこの戦争の裏を知ってしまったが為に連合から抜け出した」

「それで」

「こいつを見てくれ」

ガトウから渡されれた資料をキティとともに見る。
内容は完全なる世界の分かっている拠点、目的、構成員等であるが現時点でこちらが手に入れている情報とあまり変わらないといった所だ。
ちなみにオレは前から、キティは後ろから読んでいる。

「めぼしい情報は無いな」

「こっちもだ」

その言葉にガトウは絶句する。
必死に集めた情報を相手も普通に持っている事に。

「......どうやってその情報を」

「最近元老院が大量に殺されただろう。オレの誇りを穢した代償として奴らには死んでもらった。その時に命乞いで勝手に情報をぺらぺら喋ってね」

もちろんそいつは命だけは助かっている。幽霊に怯える毎日になっているが。

「それで単刀直入にどうして欲しいんだ」

「完全なる世界の打倒に協力して貰いたい」

「却下」

資料を投げ返しその場を去ろうとする。

「待ってくれ」

「オレとエヴァは悪の魔法使いだ。最近は教授として行動していたが基本はお前達とは真逆なんだよ。これがどういう意味か分かるか」

「......対価を寄越せと」

「当たり前だ。オレたちは慈善家ではないからな。教授をしていた時だってオレたちに取っての利がそこにあったからだ」

「何を望むんだ」

「それはお前達が考えることだ。答えなんていくらでもあるだろうが、それを気に入ったのなら協力してやらん事も無い」

実際は協力する気はまったくない。ただでさえ赤き翼の連中(特にアルビレオ・イマ)は気に食わないのだから。それでも二つ、正解は用意してある。エヴァにも確認を取ったがそれならば良いと許可もある。果たして正解に辿り着けるかな。

「一日だけ待ってやる。それでだめなら諦め「妾をくれてやる」......アリカ王女」

予想外の所から声がかかる。

「アリカ王女、それはそう言う意味ですか」

「言葉のままじゃ。妾の血肉、髪の一本に至るまで全てをくれてやると言っておるのだ」

「アリカ王じっ!?」

ガトウが口を挟みそうになるのでグレート=ブリッジのときの様に影で口まで拘束する。

「なぜそこまでしようとするんです」

「無辜の国民を救うために」

「一つだけ言っておきます。悪の魔法使いを動かしたいなら本音を語る事です」

「......」

言い辛そうにするが辛抱強く待つ。

「......妹の、アスナの為に『教授』として力を貸して欲しい」

「......その言葉を待っていた」

『教授』
オレの二つ名は多く存在する。その中でオレが誇りを持って語れる唯一の二つ名。
それが『教授』だ。
『教授』として協力を要請されたら、キティはともかくオレは協力する。
もちろん『教授』として対価も貰うが。
早い話が授業だ。
赤き翼のメンバーは確かに強い。だがオレやキティには届かない。素質はあるのだが鍛えた時間が圧倒的に違う。鍛え方も分かっていないのだろう。ならばそれを教授する。それが『教授』としての誇りだ。


オレの動かす為の正解だが、『教授』として協力を要請する他にもう一つだけある。
『家族』のために力を貸して欲しいと言われたとき。
こちらは対価が無くても助ける。家族を失う辛さをよく知っているから。
そしてアリカ王女は二つの正解を当ててしまった。
二つ目はともかく一つ目はあらかじめ用意しておかなければ正解に辿り着く事は無い。
なんせオレは『形なきもの』を嫌っているから。
態度に表したりはしないが『形なきもの』として接触してくる人物には一切気を許すつもりは無い。
噂のレベルだがオレの事は400年近くたっても存在するようでその中に

「レイト・テンリュウ個人としてあうか、教授と生徒として会えば大概は協力してくれる」

と言うのがあるらしい。
閑話休題





「アリカ王女、対価は要りません。妹を救う為の力を貴女方に授けましょう」

「直接は協力してはくれんのだな」

「それが『教授』ですから」

「かまわん、妾がそう望んだのだから」

ガトウの影を解放し、赤き翼を集合させる。

「貴様らに最強になる為の道を提示してやる。どうするかは自分で決めろ」



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